10話 リリアンの急なお出かけ
いつもより早く起こされたリリアンは普段より念入りに支度が整えられていくのに身を任せていた。
侯爵家のお茶会に行くのはまだ先だと思っていたけれど?
タウンハウスに来た翌日に仕立て屋さんを呼んでドレスの採寸をした。あの時は確か出来上がりに10日かかると言われて、お母様は間に合うからそれで良いと応えていたと思う。
昨日、お部屋で巨大なインコのぬいぐるみのオコタン(領地から持って来た子供用の抱き枕なんだけどね)とおままごとをして遊んでいたら遠くでお母様が「ドレスが無いぃ!」と叫んでいるのが聞こえた。お茶会の予定が早くなったのか、日にちを勘違いしていたのかもしれない。
それでプレタポルテのお店にとにかく急いで可愛いのをといくつか持って来させてた。
いつもは動きやすいワンピースを着ているのでこんなドレスはおじい様のお誕生日パーティーの時に着たことがあるだけだと思う。
10着ある中から選んだのは黄色のドレスだった。白いレースも使ってあってふわふわしていてお母様も私も一目見て気に入ったわ。オコタンとお揃いの黄色と白だしね。
他にはどうですかって聞かれてこれからは沢山贈られてくるだろうから、とりあえず今は一枚あれば良いわとおっしゃっていたけれど、一枚買ったらオマケで後からサービスで何枚かくれるのかな?
昨日、料理長のジェフがクッキーを焼いているのを見ていたら1枚味見させてくれて、美味しいわって言ったらうれしいですって喜んであと2枚くれたのと一緒のサービスね!とジェフのサービスを思い出してにっこりした。
「よくお似合いですよ、リリィ様」侍女のエマもにっこりしてくれた。顔を上げると「髪をアップにしてティアラを着けますか」とブラシで優しくときながらエマが聞いてくれた。私はティアラが大好き。だってお姫様みたいでしょう?
「子供はあまりいじらない方が可愛いのよ。そのままでいいわ」
とエマに言い、隣で髪をアップにしていたお母様は突然鼻息荒く
「テーマはイノセントなの!作り込み過ぎると小賢しさが出るでしょ、そういうのマイナスだから!手をかけているにも関わらず自然に見せるのよ」とおっしゃっていた。
イノセントとか小賢しいとか難し過ぎて意味が分からなかったけれど、私の髪は真っ直ぐ下ろしたままにするらしい。
せっかくのドレスだからやっぱりお姫様みたいにしたいなって言おうとチラッと見たけど「背伸びダメ絶対」とか「6歳は正義」とか「売り込まずに売り込む」と何か呪文みたいなのをブツブツと唱えていたし、お母様がエマにすぐ片付けさせてしまったから叶わなかった。
ちなみにお母様は元々作ってあった茶色に金と緑の糸で刺繍がしてあるドレスを着た。お母様の髪は茶色で瞳は緑だから木の精か山の精ようだ。髪飾りも金に赤と翠の丸い石がついている。
きっとお母様のテーマのイノセントってこういう感じのことだと思うの。
大自然との一体感ってことだと思うわ。だってあの赤い石の瑞々しさは今にも美味しい実と間違えて小鳥がついばみに来そうだもの。お母様さすがだわ、一体になってる。
母から見て学び、尊敬の眼差しを向けている内に馬車のお迎えが来ましたというのでお父様とお母様と一緒に外に出てビックリ。
白馬2頭立ての真っ白で金色の装飾がしてある豪華な馬車に立派な身なりをした御者さん。そしてやはり白馬に跨った立派な騎士が4人前と後に付いている。
「まあ!」と両手を口に当てて驚きの声をあげたもののそれ以上何も言えなかった。
あまりにも素敵で!まるで素敵な王子様がお姫様を迎えにきたみたいじゃない?
お父様は「伯爵家にこれはちょっとやり過ぎじゃないか。たった20分の道のりだぞ」とため息をついてらしたけどお母様は「これ位は当然です。それにそこからが長いのよ」とごきげんだった。
ああ、本当にお姫様のよう。
侯爵様って凄いのね。
お父様とお母様に挟まれて座っていたのだけれど、途中でお父様が「リリィ、あそこに見えてきたのはお城だよ」とお膝に乗せてくれたので窓から見ることが出来た。
お城はすごく大きくて高く、綺麗で見たことがないほどの豪華さだった。
それからしばらくして騎士さんがたくさん立っているところで止まった後、両方に林みたいなのがある丘をのぼって行き、広くて綺麗な庭園を見ながら進んだら背の高い大きな建物がずっと遠くまで続いているのが見えた。途中から窓にしがみつくようにして見ていたらお母様がお行儀良く座りましょうと言ったのでお父様がお膝から下ろして元のように座らせてくれた。
ようやく馬車が止まりドアが開かれた。
「リリィ、よく来たね」とフィル兄様が顔を覗けて手を差し出してきた。
キラキラ笑顔は今日もきらきら。あれ?
「ええ!?フィル兄様?今日はどうしてここに?え?ここはどこ?」
「あはは、リリィはドッキリに合ったの?ここは王宮。お城だよ?僕はリリィを迎えに来たんだ、一緒に王様に会うためにね」
どうやら今日は侯爵家のお茶会に来たのでは無かったらしい。
「お城?王様?フィル兄様は殿下でしょう?殿下と王様に会うの?私、何を話せばいいのかしら」
「ああ、ごめん。本当に混乱させたね。王様に会う前に僕が説明するから一緒に来てくれる?」
「リリアンはまだ勉強始めたばかりで知らなかったわね。殿下は私たちが王族の方々に対して使う呼び方でこの方は『フィリップ王太子殿下』リリアンのよく知ってる呼び方で言うと『この国の王子様』よ」
「!!」
「あら、リリアンってば驚愕で目を見開いたまま固まっちゃったわ。おーい、おーい、戻ってきてー」
「抱いて連れて行っていいかな」と言ってフィリップはリリアンを抱き上げると右腕に座らせるように抱えてクレマン伯爵と夫人が降りるのを待った。
「王太子殿下にはご機嫌麗しく、またお会いできて光栄です。リリアンがこんなに驚くとは思わず、失礼しました申し訳ありません」
「いいよ。ご機嫌麗しいから。リリィを抱いて歩けるなんて役得だ。どんなリリィも可愛い」
国王リュシアンは事前にクレマン伯爵とお互いの思うところを確認して打ち合わせがしたいらしい。
まずは父上とクレマンが謁見の間で、他の者はサロンで待機だ。
2人の話がまとまったらフィリップとリリアンが王の元へ行き、話が終わったら皆が王妃達の元へ合流して話をすることになっていた。
ジョゼフィーヌは王妃パトリシアが待つ庭園に続くテラスのあるサロンに向かう。
フィリップはリリアンとそのテラスのパラソル付きのテーブルと椅子でお話しするつもりなので一緒に向かう。
パトリシアとジョゼフィーヌはしばらく放し飼いだ、と父上が言っていた。人目につかないサロンに入れておくと。
再会した途端駆け寄り「久しぶり過ぎー」などと手を合わせキャーキャー言ってる。
いくら嬉しくてもピョンピョン飛び跳ねては淑女としてダメだと思うよ。
ほら、リリィもそれを見て笑っているだろう?
手乗りインコならぬ腕乗りリリアン
王宮でそれ、やっちゃいましたか
昨日、リュシアンに「それやっちゃダメ」って言われてたんですけどね〜
どうやら浮かれて聞いてませんでしたね?
_φ( ̄▽ ̄ )
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