第十四話 可能性
ハァ、ハァ、仮面の男性は強かった。魔法を使わずに肉弾戦をしてくるタイプだった。仮面の女性の方もだけど、馬車を襲った時は魔法の性能を持った小道具? を使って戦闘していた。今は圧倒され地面に大の字に寝ている。
「冷静になったか? ほら、お水」
「何で放っておいてくれないんだよ」
ぱしっとその容器に入った水を受け取りながら聞く。
「仲間……家族と言ったか? 心配なのはわかる。だからといって死ににいくような子どもを見捨てることを出来るはずがない。それと、そうゆうことなら」
「私たちもいくわ」
仮面の男性に続いて仮面の女性がそう言う。
「本当に!?」
「ああ、本当だ。……ただし」
「ただし?」
「出発は明後日だ。」
「どうして!」
「……理由はいくつかある。君には辛い話かもしれないが、聞けるか?」
思わず唾を飲み、こくりと頷く。仮面の男性の言ったことは二つ。
まず、セネカはすでに捕まっているであろうということ。なるべく信じないようにはしていたが、はっきり言ってこれはその通りだろう。セネカは特に魔法に優れたわけでもないため、おそらくあの縛りを解けない。加えてあのローブ無し男がセネカを見逃すとは思えないからだ。それと奴らの目的は不明だが、人体実験なども行っているという噂があるらしい。もし助けに行ったとしても手遅れである可能性があるということを理解ってほしいとのことだ。だが、こちらは関係ない。もし無事の可能性が僅かでもあるなら必ず助けに行く、そう決めているからだ。
そして次に、ローブ無し男についだ。あの男の名はν。年齢、魔道具など、性別以外一切不明。だが、見聞きした魔法を瞬時に真似できる天性の魔法師らしい。そして、あの男にはこの仮面の二人組が同時に掛かっても勝てる見込みはゼロだという。
ならどうするか、唯一可能性があるとすればそれはおれだけだというのだ。
「先程の炎を見てこちら側にもほんの少し勝機が生まれた。だけど今の君のままでは万に一つも勝ち得ることは無い。君には超えてもらわなければならない」
「超える?」
一体何を?
「あなた! それはあまりにも危険では! そんなことしなくても――」
「勝てると言うのかい?」
「それは……」
仮面の女性が口を挟むが、勝てるのかという問いに口を噤んでしまう。
「君は……どんな危険を冒してでも家族を、彼女を助けたいと思う覚悟はあるか?」
覚悟、覚悟か……。正直怖い。あの男、νには何をしても勝てないんじゃないんかって思ってしまっている自分も確かにいる。けど、今はそんなことより、おれはなにより
「またセネカの笑顔が見たい」
「良い答えだ」
◇◇◇
ずずっ。
「美味しい」
「それは良かったわ」
気付けば夕方になっていた。今日はもう遅くおれの体もボロボロのため、「半日かけて休養に努めろ」と言われた。今日で体を休め、明日に修練、明後日に出発するとのことだ。あの後、再度回復魔法を施してもらい、今は仮面の女性から夕ご飯を頂いているところだ。
「他にも子どもが居たんだね」
自分の他にも五人の子どもが走り回っている。年齢はまばらだがおれより幼い子もいる。
「ええ、あの子たちは集団に捕まっていた子ども達よ。この広大な森に入って奴らを最初に目撃したのが約半年前。それからは三度ほど奴らとやり合って子ども達を救出した。でも、私たちが明後日向かう本拠地にはきっとまだ多くの子ども達が取り残されているはず。νの存在を知ったのも今回のように奴らから子ども達を救出したときの情報なの。」
「νから子ども達を救出したの?」
「いいえ、あの男と対峙したのは今日が初めて。おそらくだけど、νはどうやら物事に無頓着、というかめんどくさがりみたいね。こちらが挑発しても姿を現すことは決してなかった。今回は何があったのかは分からないけど、想像よりも遥かに強かったわ」
「この子達はどうするの?」
「私たちが責任をもって送り届ける。たとえ親が居なくても安全な土地に。どれだけ時間が掛かろうとも、必ず」
今はお互いすべきことがある……か。
「ありがとう。明後日は必ず成功させよう。今日はもう寝るよ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
待っていてセネカ、すぐに助けに行くから。




