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7話 光弥の覚悟




「怪我は無いか」

「・・・・・・別に」

「そうか。無事ならよかった」


 桔花は洞窟の中で適当な場所に座り込んで膝を抱える。怪我は彼自身が左腕に負っていた。深手ではないが、あの子竜に傷付けられたのだろう。


 彼は桔花を洞窟の中に連れて来てから焚き火を起こして、桔花の斜め前に座った。桔花はしばらく黙って焚き火を眺めていた。単に疲れていたのだ。今日だけで四度襲われて、気力体力共にかなり消耗している。


「名を言い忘れたな。俺は光弥こうやだ」


 光弥は名乗ったが、桔花は自分の名を言わず、話を変えることにした。


「・・・・・・どうして私の呪いを使わなかったのよ。私を囮にしたら、もっと容易に倒せたはずよ」

「言っただろう。俺はお前を救う為に探していた」


 焚き火がパチッと小さく弾ける。


「償いがしたいんだ」

「償い?」

「竜殺しの一族は俺で最後だ」

「あなたまさか自分の一族を殺したの?」

「いいや、皆竜に殺されて死んだ」


 それはおかしな話だった。何故竜殺しの一族が竜に殺されて滅びるのか。


「もう俺以外、竜を殺せる力を持った人間は生まれないんだ」

「どうして」

「それは分からない。ただ竜殺し以外に生業を見つけられない俺達は衰退の一途をたどった。でも思ったんだ、これは罰なんだと。お前のような生け贄を作って己を弱体化させた罪。そしてこれはきっと、もう竜を殺すことが出来ないようにする《《呪い》》なんだ」


 桔花は光弥の横顔をチラリと見やると、彼も疲れた顔をしていた。


「あなたは一体何がしたいの?」

「お前を救って償いたい。それだけだ」


 その言葉に桔花はまたふつふつと怒気が蘇ってきた。


「罪なんて償っても、死んだお兄ちゃんは戻って来ない。お前は私に償いをして、自分の呪いを解いて一族の再興する為に私を利用しようとしているんじゃないのか!?」

「違う。俺はお前の一族にしてきたことを恥じているだけだ。今もなお苦しむお前を救ってその因果を断ち切り、終止符を打って終わりたい。竜すらも飼い慣らし始めたこの時代に、もう竜殺しの一族は必要無い」

「それを証明出来るか?」


 すると光弥は怒りでキツく握り締める桔花の手を取った。


「手を開け」

「え?」


 反射的に手を開くとナイフを握らされる。


「信じられないなら俺の男根を切り落とせばいい」


 そしてナイフを握っている桔花の手を、光弥は自分の股間に無理矢理押し付ける。


「ヒィッ!」


 桔花は思わず仰け反り、ナイフを離した。ズボンの上からとはいえ、股間に触れる感触が気持ち悪くて手を引き抜こうとしたのに、恐ろしく強い力で固定される。桔花は鳥肌が立って手がガクガク震える。


「そうすれば子種は無くなり、一族の再興など考えられまい。さあこのナイフで切れ!」

「いやっ、いやだ!!!気持ち悪いっ!!!離して!!!」


 すると光弥は手を離す。桔花は涙目になって立ち上がって距離を取って睨み付ける。


「あなた頭おかしいわ!!!」

「言っただろ、終止符を打って終わらせたいだけだと。俺は単に身辺整理に来たんだ」

「し、死ぬ気なの?」

「少なくとも所帯を持つ気は無い。俺は罪を犯した一族の末裔なんだから」

「・・・・・・・・・・・・」


 桔花は考えていた。


(自分の股間にナイフを近付けるくらいなのだから、その覚悟は分かった。頭はおかしいけど、この男は本当にやると言ったらやるんだわ。でも近寄りたくないな・・・・・・)


 今でもさっきの感触を思い出すとブルッと震える。鳥肌が戻ってきた。


「だから一度でいい、信じてくれ。俺は呪いを解く手段を知っている」


 彼の目を見つめ、しばらくしてから桔花は覚悟を決めた。


「・・・・・・桔花よ、私の名前」

「ありがとう、桔花」

「いい?もし次変な真似したら、あなたの関節全部真逆に曲げて、その股間にあるモノ今度こそ千切りにするから」



 ***

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