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4話 竜殺しの一族

 光弥は何故先程、森に消えた少女がここに居るのか分からなかった。彼女も驚いているようで、光弥を見て目を丸くした。


「あなたさっきの───」

「ガァァア!!!」


 どこからともなく洞窟の中で響いてきた雄叫びに自身の声が打ち消されて、彼女は震えた。


「何!?」

「火竜だ」


 光弥の言葉に少女は目を見開く。


「嘘っ、この辺りには竜は住んでいないはずよ。それに火竜はもっと東の地域が生息地でしょ」


 光弥は珍しげに片眉を上げた。目の前の少女がこの辺りの竜の分布に詳しいのが意外だったのだ。


「近くの火口に偶然一匹居たのが、命からがらここへ逃げて来たんだ」

「逃げて来たって、一体何から?」

「俺だ」


 途端背後に大きな気配がして、光弥は振り返って腕に持っていたクロスボウを構える。


「ギェェエエ!!」


 予想通り、五メートルほどの竜が現れた。所々の鱗が剥げて血塗れになっていて、光弥に報復する機を見計らっていたのだろう。


(図体の大きい獲物ほど狙いやすい)


 光弥は特製のクロスボウで太い鉄の矢を竜の鱗の剥げた部分を狙って撃ち込んだ。


「ガガガァァァア!!!」

「キャァァ!」

「逃げろ!ここに居たら巻き込まれるぞ!」

「そんな、逃げるってどこに!」


 少女は呆然とする。一体何を悩む必要があるのか。


「この洞窟から出たらどこにでも行けるだろう!」

「無理よ、だって私ここから出られないの!」

「何っ」


 彼女の言っている意味を理解出来なくて眉をひそめる。いつもならここですかさずもう一発竜に矢を撃ち込むのだが、後ろの少女の存在に気を取られて上手く動けなかった。痛みで暴れる竜の羽根に当たらないように少女の腕を引いて誘導する。


「とにかく逃げるぞ!」

「そっちは()()()()()危険な熱さだわ!マグマが流れる川があるの!」


 しかし後ろから火竜が追いかけて来たのでその方向に進むしかない。さらに火竜の方向が出口の方向で、退路を阻まれている状況だ。弱っているので動きはノロマになっている、今の内に他の脱出路を探すしかない。

 段々熱気が増してきて、光弥は汗が滝のように流れ出てきた。それは少女も同じはずなのに、何故か彼女は平気そうにしている。


 そして彼女の言葉通りマグマがドロドロと流れる川に行き当たる。この洞窟の地理に明るくない光弥は他の道を聞こうとして彼女を見やった時、思わず瞠目した。

 オレンジ色だった彼女の目はマグマの光に当てられて真っ赤な炎の色に染めあがっている。


「その目・・・・・・!」

「え?」

「お前、炎の目の一族か!」


 光弥の言葉に少女は目をみるみる丸くして驚愕した。


「どうしてそれを・・・・・・そんなこと知ってるのはもうこの世に()()()()ぐらいしか・・・・・・まさか───!?」


 光弥は一つ頷いた。


「俺は竜殺しだ」





 桔花は彼の言葉に心の中の何かタカが外れるのを感じた。怒りと恨みが全身を覆い尽くして、彼の胸元を胸ぐらを掴んだ。


「お前が私に呪いをかけた竜殺しの一族か!!!」


 桔花の先祖は昔、竜殺しの一族に従えられていた。一族同士の争いで負けたのが始まりだという。


 暴れ回る竜を取り押さえ、排除し、そして竜を殺すことで利益を得ていた竜殺しの一族は、桔花の先祖にある呪いをかけた。それは竜が呪いのかかった者を見ると怒りで興奮して、そちらに意識がれるというものだった。


 だから呪いを受けた者は竜から激しく嫌悪され、執拗に追いかけられるのだ。更に長い時間火竜の住む環境に耐えられるように熱耐性が施される。そうして呪われた者が襲われている間に、竜殺しの一族は竜を仕留めるのだ。


 その時偶然、火竜の吐いた炎に呪いで目が反応して赤く染ったのが見えたらしい。道具のように扱われてきた先祖は、その目すらも『炎に輝く宝石 』と揶揄やゆされてきたという。

 だから桔花の一族は呪いから解放された今でも、竜殺しの一族を恨み続けている。


 その怒りは桔花にも受け継がれていた。


(コイツの一族さえ居なければっ!!!)


 よくもぬけぬけと呪われた一族などと言ってくれたものだ。呪いをかけてきたのはこの男の先祖だというのに。


 彼は胸ぐらを掴まれて何を言うのかと思えば、


「今は時間が無い、話はあいつを仕留めてからだ」

「きゃあっ!」


 桔花は突然肩を引っ張られたと思うと、後ろから火竜が飛び込んで来ていた。火竜はドボンッとマグマの中に落っこちた。しかし相手は火竜、マグマなどものともせず、マグマの中から這い上がって来る。


「奴はお前を狙ってるんだ!」

「私はここから出られない、出たらすぐに別の竜に殺されるわ!ただでさえ必要最低限でしか外には出ないのに、そもそも不用意に外に出れば他の誰かを巻き込んで襲われるかもしれな───」

「───人の心配をしている場合かっ!とにかくここから逃げろ、でなければ今死ぬぞ!」


 桔花は青年の声にビクリと震える。


「だ、から、ここから出たらまた狙われるわ」

「少なくとも他の場所から竜が来るまでに時間はある!ここで今死ぬよりずっといい!」

「でも死ぬことに変わりはないわ!」

「こいつを仕留めたらすぐに俺が助けに行くから!外に出てろ!」

「え・・・・・・」


 思わず耳を疑った。彼は今何を言ったのか。


(私を助ける?呪った一族の末裔が?)


 まだ動けずにいる桔花に彼はクロスボウを構えながら、


「っ、走れっ!!!」


 その声に背を押されるように桔花は咄嗟に走った。


(何、なんなのよ!)


 怒りが止まらない、憎しみが募っていく。何故守るだなんて言ったのか、何か裏があるに違いない。今までの優しさも全て見せかけだったのだ。危うく優しさにほだされるところだった。


(きっと火竜もアイツが連れて来たんだわ!)


 許さない。あの男は微かな安寧さえも奪うのか。


「絶対に復讐してやる!!!」



 ***

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