九官鳥
一家で月を見ながら、皆が思い思いのことを考えていた、ある晩のことです。一羽の九官鳥が、庭先に迷い込んできました。一人娘の少女は、一目見て、その九官鳥に惹かれました。とりあえず、飼い主が分かるまで、この家で預かろう、ということになり、少女の部屋に鳥かごが置かれ、そこで飼われることになりました。
さて、少女には好きな人がいましたが、その人が少女の友人を好きだということも、知っていました。少女にとっては二人とも大切な友達だったので、その想いは行き場をなくしていたのでした。そこで、九官鳥にはことばを教えることができる、と聞いて、早速試してみたくなりました。
「アナタヲ愛シテイマス。愛シテイマス。」
本当にことばを覚えることができた、と少女は感動しました。そして、ことあるごとに、九官鳥にこのことばを言わせ、それを恋する人に言われるところを夢想して、うっとりとしていました。それでいて、少女は時折、この機械的に思われるやりとりに、絶望を感じることがありました。
しかしながら、九官鳥は、実際に少女のことを愛していたのです。そして、自分が発することばが、別人のことばとして、すり替えられていることも、理解していましたから、ことばを発するたびに、つらい思いをしていました。ただ、少女の気持ちも知っていたので、望まれるままに、そのことばを発していました。
それから、九官鳥の飼い主は見つからないまま、年月が流れました。少女はそれからも、ずっと一人の人を愛していました。ところが、その人が自分の友人と結婚する、ということを聞いて、激しい嫉妬と、深い悲しみに襲われました。九官鳥は、娘のことを誰よりも、何よりも心配していました。娘のことをずっと見ていましたから、その苦しみは良く分かっていました。とはいえ、たった一言でしか声を掛けることができません。
「アナタヲ愛シテイマス。愛シテイマス。」
それは、九官鳥の本心でした。しかしながら、娘はそんなことに気づくはずもなく、ただの無意味な、鳥の独り言として、片づけられました。ときには、九官鳥の心からのことばに苛立ちを隠せず、八つ当たりに、鳥かごを足で蹴りつけることさえありました。娘はどんどん錯乱していき、ついには、自分が何をしているのかも分からないまま、命を絶ってしまいました。
九官鳥には、何もできませんでした。娘が生き返るなら、たとえ再び鳥かごを蹴られることになっても良い、とさえ思いましたが、それは叶うことのない願いでした。九官鳥はただ、同じことしか言うことができません。最初に娘が教えてくれた、たった一言しか、言うことができません。ぽつんと部屋に残された鳥かごの中、今頃は埋葬されているであろう、娘のことを想って、九官鳥が言いました。
「アナタヲ愛シテイマス。愛シテイマス……。」




