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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十一章 少年期・カルティア決戦編
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第96話:死線を越えて


 どれほどの時間が経っていたのかはわからない。


 魔力など、とうの昔に切れている。


 それは目の前の男―――『双刃乱舞』ギャンブランも同じだろう。

 

 鼻息は荒く、動きのキレも落ちている。


 それでも俺が勝ちきれないのは、同様に俺の動きも落ちているからだ。

 意識は朦朧とする。

 流石に傷口の痛みが、じんじんと脳を刺激してきた。


 ここまでは互角、と言いたいところだが、魔力が切れてからは、俺の方が押されている。

 スピードの差が縮まったのだ。


 むしろどうして俺がまだ動けているのか、そちらの方が疑問だ。



「―――はぁ・・・はぁ・・・てめえはいったい何なんだぁ・・・」


 不意に、少し距離を取ったギャンブランが言葉を発した。


「・・・俺は俺だ」


 掠れた声が喉を通る。

 叫び声を上げ過ぎたようだ。


「ちっ! 奴が忠告しただけはあったってことかぁ・・・」


「奴?」


「・・・こっちの話だぁ」


「・・・そうか」

 

 奴。

 誰かが俺について何かを吹き込んだのだろうか?

 もしかしたらそいつにシンシアを連れて来いとでも言われたのかもしれない。


「・・・1つ聞いていいか?」


「なんだぁ」


「シンシア――天剣の娘を攫ってどうするつもりだったんだ?」


「あぁ」


 ギャンブランは多少口元に笑みを浮かべる。

 

「簡単だぁ。そいつを盾に、シルヴァディの野郎をぶち殺そうってな」


 出会い頭に言っていたとおりの言葉だ。

 まぁ嘘かどうかなんて知ったことじゃないか。


「勝てないからって、人質か。お前、それでも武人かよ」


「はん、てめえに何がわかる。俺にはまだ手があんだぁ。シルヴァディもそれを使えば・・・」


「・・・いや、お前は勝てないね」


「あん?」


 そう、こいつじゃ・・・こんな奴じゃシルヴァディには・・・俺の師には勝てない。


「お前はシルヴァディを恐れているんだ。だから、シンシアを攫おうとしたし、さっきもすぐに逃げようとした。俺にトドメを刺すことなんてすぐに終わるのに、その時間すら惜しんで少しでも距離を取ろうとした。早く安全な場所で、シンシアを囲えるようにな。そんな――最初から逃げているような奴に―――そんなやつに・・・俺の師匠は負けない」


 俺が恐れていたように、こいつも格上を恐れているんだ。

 だから、勝てない。

 だから、越えられない。


「――てめえ・・・」


「・・・来いよ。その八傑の座から引きずり降ろしてやる」


「―――上等だぁ!」


 お互い、既に魔力は切れている。


 それでも、なお、ギャンブランの速度は速い。

 昨日――いや、さっきまでの俺には対応できない速度だろう。

 

 俺は半身で剣を構えた。


 ここまで、この相手に対して1度も出していない技を使うために。


 なぜ使わなかったのか。

 今まで1度も成功したことがなかったからだ。

 

『――あとは、お前次第だ』


 少し前、誰かにそう言われた気がする。

 

 できる。

 コイツを倒す。


 想像しろ。

 この男を斬る俺の姿を。


 俺ならできる。


 だから―――。


「ラアアァァアア―――ッ!」


 双刃の男が迫る。

 

 雨粒を掻き分けて、右へ左へと動きを読ませず、縦横無尽に駆けてくる。


 コイツは強い。

 俺が俺のままなら勝てないだろう。


 でも、ならなきゃいけないから。


 強くなれない常識も、勝てない道理も、救えない未来も―――全部まとめてぶち壊すような、そんな最強の存在に―――。


「―――『双刃』んんんっ!」


「―――『飛燕』!」


 剣が―――体が交差した。


 奥義『飛燕』。

 

 半身――微妙なその態勢から繰り出す、水燕流の返しの奥義。


 あと一寸でもタイミングがズレていれば――俺の体は真っ二つだっただろう。


 でも、そうはならなかった。


「―――ぐ――ぁがああぁぁあっ」


 剣を振り切った後ろで、嗚咽のような声が聞こえた。

 

 同時に、カラン、と剣が落ち、ぬかるんだ土に体が崩れ落ちるような音が響く。


 真っ二つになったのは、ギャンブランの体だ。


 寸断とまでは行かなかったが、確実に手ごたえはあった。


「・・・苦しい・・・苦しいよ・・・あに・・・き」


 そんな言葉を残して、間違いなくこれまでで最も強かった敵の体は、ピクリとも動かず雨に打たれるように崩れ落ちた。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 終わった。

 死んでいるかどうかは知らないが、確実に致命傷のはずだ。


 だが、しかし―――


 ・・・兄貴?


 やはり、誰かの指示で動いていたということだろうか。

 

「――つうっ!」


 俺の思考は途中で閉ざされる。


 ―――激痛。


 右の脇腹と、左の肩口の傷の痛みが、今になってようやく帰ってきたのだ。


 緊張が解かれたかのように、俺はその場に倒れこんだ。


「―――た、隊長!」


 聞きなれた声と、足音が聞こえた。


 薄目を開けると、心配そうに金髪の美少女―――シンシアが俺の顔を覗き込んでいる。

 

 いつの間にか目覚めていたらしい。


「――シン・・・シア」


「―――バカ! 隊長はバカです! こんな無茶して・・・死んじゃったらどうするんですか!」


「・・・泣いてるのか?」


「―――泣いてません! 雨です!」


 雨と誤魔化すには溜め過ぎた滴は、彼女の頬を伝って俺の顔に落ちる。


「・・・よかった。君は・・・ケガはないんだな」


「はい・・・その、隊長が頑張ってくれましたから」


「そうか・・・綺麗な顔に傷が残らなくて何よりだ」


「・・・本当・・・バカなんですから・・・」


 シンシアは泣きながら、自分の服の袖の肩あたりまでをちぎって、俺の傷口を縛ってくれた。

 彼女も一応治癒魔法は使えるが、魔力が尽きているのだろう。

 肩口が空いて少しセクシーな感じになったシンシアだが、まぁこれくらいの役得はあっても、今日は許して欲しい。

 

 ・・・俺も、シンシアも生きている。


 かつてないほどの強敵を前に、生きている。

 どうしてギャンブランが現れたのか。

 俺の体がいったいどうなっているのか。

 いくつか疑問は残る。


 だが、とにかく・・・越えた。

 越えてやった。

 何か一つでも違っていれば、勝てなかった。

 そんなギリギリの勝負を乗り越えた。


 これで隊員も生きていれば・・・。


 と、ここで部隊と作戦のことを思い出す。


「―――戻らないと」


 俺たちは完全に作戦範囲から離脱してしまっている。

 勝っているにしろ負けているにしろ早く戻らなければならない。


「え? でも」


「隊が心配だ。今回俺の隊は失敗した。早く戻って、指示をしないと・・・」


「わ! ちょっと! 肩貸しますから」


「・・・すまない」


 俺がもがくように立ち上がろうとしたので、シンシアが慌てて俺に肩を貸してくれた。

 俺もこの1年で多少背は伸びたが、シンシアとは同じくらいの背丈だ。

 まぁ2つも違うし、俺はもっと伸びる、はず。

 ・・・伸びるよな?


 肩を借りると、かつてない距離感と、お互い雨で濡れていることもあって、少し密着感が気恥ずかしかったが、緊急事態だし、仕方がないだろう。


 さて、俺たちはどちらから来ただろうか、周囲を見渡したところで――――。




 ――――全身を寒気が襲った。


「―――え?」


 悪寒。

 これは殺気だ。


 さっきまで間近で感じ続けていた、強者の殺気。


 隣を見ると、シンシアの顔も青ざめいる。


 慌てて視線を先ほど倒した男に向ける。

 手ごたえはあったが、確実に殺したかと言われれば、確かに不安ではある。


 しかし、死体はあった。


 赤紫色の髪に、青白い肌の体躯は雨に打たれ、血と雨が混じった水たまりができている。


 殺気の元とも思えない。


 じゃあ、どこから?


 答えはすぐに現れた。


「―――悲しいなぁ・・・悲しいよなぁ」


 おそらく、俺たちが来た方向とは、逆。

 ギャンブランが、シンシアを連れて去ろうとしていた方向。


 そちらから、1人の男が歩いてきた。


「―――なん・・・で?」


 シンシアが驚愕の声を上げた。

 無論、俺も驚愕していた。


 見えたのは、剣士の姿だ。


 赤紫色の髪に、青白い肌。

 大きすぎない体躯に、鍛え上げられてた四肢。

 そして、背中に見える、2本の剣。


 そこに転がっている死体と全く同じ姿。


 ――2人目の『双刃乱舞』ギャンブラン。

 

 先ほど殺したはずの男と同じ男が、尋常じゃない殺気を放って現れたのだ。


「・・・まじ・・・かよ」


 死の予感が、俺の脳裏を巡った。



 

 読んで下さり、ありがとうございました。

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