表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十章 少年期・カルティア初陣編
81/250

第81話:初陣へ

 フランツ君視点です。


 私の名前はフランツ・ツェペリ。


 この度、ユピテル共和国カルティア方面軍第1独立特務部隊隊長アルトリウス・ウイン・バリアシオンという人の副官を務めることになった。


 独立特務部隊というのは、既存のあらゆる部隊とは違い、100名と少しの魔法使いのみによって構成される新しい部隊のようだ。


 特徴的なのは、全員が何かしらの魔法を使うということと、平均年齢が若いということだ。

 まだ22歳である私ですら、この部隊の中だと年長者の部類に入る。

 中には成人してまもない隊員もおり、大半が未だ戦場を体験していない新兵だ。


 とはいえ、新兵だからと言って弱いわけではない、たしかに経験値は少ないかもしれないが、代わりに豊かな才能を持っている。


 例えば、いまだ17歳ながら、我流の剣術で大の男を倒したという天才少女エイドリアナ。


 キリアの学校で年間最優秀賞を取ったと呼ばれる19歳の青年魔法士サム。


 さらには、あの、天剣シルヴァディの娘にして、迅王ゼノンからの教えを受けているという15歳の少女シンシア。


 ちらほら聞いたことがあるような期待の新人が、こぞってこの部隊に配属されている。


 私も剣と属性魔法をそれなりに納め、故郷では負け知らずの腕を持っていたはずだが、この集団の中ではよくて器用貧乏であると実感する。


 そんな部隊の隊長となったのは、驚くべきことに未だ13歳の少年だ。


 焦げ茶色の髪に、焦げ茶色の瞳を持つ、年齢の割には凛々しい顔をした少年だったが、一目見たとき、只者ではないと実感した。


 その目だ。

 目が違うのだ。


 普通の13歳の少年がするような目ではない。

 彼の目は・・・例えば以前見かけた天剣シルヴァディ殿、あるいは迅王ゼノン殿、はたまた将軍バロン殿のような・・・何度も死線を越えてきた歴戦の猛者がする目つきとどこかしら似ていたのだ。


 その予想は当たっていた。

 隊では誰も勝てなかったシンシア殿を圧倒するほどの剣術に加え、半日で小屋を建造できるほどの魔法など、まさに神童と呼ぶにふさわしい人物だった。


 最初は見た目で舐めていた隊員達も、そんな実力を見せつけられてすぐに態度を改めた。

 年下の彼に敬語を使い、進んで敬礼をする姿は、まるでどこか畏怖しているようにも思える。


 かといって、話してみれば、彼は親しみにくいということもない。

 積極的に駐屯地を歩いて周り、時には食事の席を共にしたりと、なかなかに気さくな一面も見せてくれた。


 ジャンやバクスターなどは調子に乗って、色々と質問していたが、嫌がるそぶりも見せずにさまざまな武勇伝を語ってくれた。

 本人は謙遜していたが、『浮雲』のセンリといえば、水燕流の名手として名を馳せる達人だ。

 わずか13歳で彼と相対するなど、私にはとてもではないができない。


 ジャンやバクスターは、「シンシア殿が隊長だったときよりはよっぽどやりやすいぜ」などといっていたが、私からすれば彼ら2人が不真面目過ぎるだけである。

 夕飯の盗み食いなど、バレたらアルトリウス隊長でも怒るだろう。


 シンシア副隊長とアルトリウス隊長は最初のうちはギクシャクしていたようだ。

 アルトリウス隊長の師匠である天剣シルヴァディ殿と、シンシア副隊長の間は不仲と聞いたこともある。

 それに関連してあまり上手くいっていなかったのかと思っていたが、数日ほど経つと2人でいるところをよく見かけるようになった。

 深夜に秘密の特訓のようなものをやっているようで、たまに木剣の音が聞こえてくる。


 女性の隊員の中でピンク色の噂が流れたのは言うまでもないが・・・何でもかんでも色恋沙汰に結び付けるのはどうかとも思う。

 この隊は女性の割合が多く、さらには若い世代が集まっているので仕方のないことかもしれないが・・・。


 しかし、感服すべきは、アルトリウス隊長の人柄だろうか。

 いがみ合っていた相手とすら色恋沙汰の噂が立つなど、いったいどのような魔法を使ったのか・・・もしかしたら彼は13歳にして相当なプレイボーイなのかもしれない。


 一度聞いてみたところ、「まさか」と苦笑された。

 しかし、詳しくは聞いていないが、将来を約束した人はいるらしい。

 13歳で婚約者とは、やはり貴族は色々と違うのだろう。


 とはいえ、シンシア副隊長はともかく、他の女性は言わずもがな、男性隊員からも尊敬や親愛の念を抱かれているので、彼自身が不思議と人を惹きつける性分なのだろう。



 そんなアルトリウス隊長の提示した訓練内容は、過酷なものだった。


 まず、行軍速度の厳密な設定。

 班ごとの移動速度を合わせるのはもちろん、高速、中速、低速、の3段階に速度を分け、瞬時に切り替えられるように体に染み込ませられた。

 1週間は行軍の演習に時間を費やした気がする。


 次に、連絡系統の確認。

 隊長から他の班――128人全員に指示を行き届かせるための連絡網の形成だ。

 各班に1人、伝令係が任命された。


 他にも、迅速な陣地作成の訓練や、会戦の戦闘演習なども行なったが、なによりも辛かったのはゲリラ戦の演習だ。


 林の中に入り、敵軍に扮した隊長を相手に、林の突破を試みるという訓練だが、アルトリウス隊長1人を相手に、我々は数度壊滅しかけてしまった。

 思いもよらないところから不意を突かれ、いつのまにか木剣で打ち抜かれているのだ。

 所々には罠もしかけられており、索敵を少しでも怠ると罠によって位置がばれ、矢のように飛んできた隊長の餌食になってしまう。


 おまけに治癒魔法までかけてもらっている始末では世話はない。


 全ての班が林を突破した頃には、隊員の誰もがボロボロだったが、アルトリウス隊長はそこそこピンピンしており、改めてこの少年の凄さを痛感した。

 味方であってよかったと思う。



 また、アルトリウス隊長は、班単位での戦闘を重要視した。

 曰く、


「この隊は一個軍団並みの戦果は期待されているが、実際に正面きっての会戦で1万の軍隊を128人で相手取ることは不可能だ」


 班長を集めて、アルトリウス隊長は、この部隊の役割について説いた。


「つまり、俺たちは正面きっての会戦などしない。陽動か、奇襲、それにともなう乱戦、混戦が主な戦場だ。その中で生き残るには、乱戦の中でいかにこちらが秩序を保って行動できるかが重要だ」


 基本的には8人単位の班で、お互いのフォローをし合うことが義務付けられた。

 前衛の魔剣士が負傷したら、中衛と交代し、その間に後衛の魔法師の治癒を受ける、といったスムーズな役割変更の練習をした。


 どうやら彼は、勝つことよりも生き残ることを優先視しているらしい。


「俺たちの隊は、1人の死が他の軍団でいう100人の損失に匹敵する。生きて帰ることを重要視するのは当然だろう?」


 聞くと、そんな返事が返ってきたが、それは建前だろうとなんとなくわかった。

 きっと本心では、単に死なせなくないのだろう。


 訓練が本番を限りなく想定したものであるのも、現場で生き残る確率を上げるためにしていることなのだ。

 言葉にせずとも、誰もが、アルトリウス隊長のそんな気持ちには答えたいと思っただろう。

 気づくと、私を含め、全ての隊員が本気で訓練に望んでいた。



 さて、そんな訓練を経て、今までひよっこだった部隊もなかなか様になる顔つきをするようになった。

 誰もが、特務部隊としての役割と誇りを身に付けたような、そんな雰囲気だ。


 そして、いよいよ、我々の部隊にとっての初陣が始まる。


 作戦実行当日、ここは既に駐屯地ではなく・・・自陣の内側ギリギリ、2時間ほど進めばすぐに敵の領地という場所だ。


 我々の隊だけでなく、本軍も少し離れた場所で整列している。


 我々は本軍からは少し後ろ目の位置で、隊長に整列を命じられた。

 本軍とは途中から別動隊として動くのだ。


 16列の隊列は、もはや慣れた並び方だ。

 ユピテル軍であることを示す赤いマントが、鮮やかに風に吹かれている。


「さて、諸君。いよいよこれまでの訓練の成果を出す時が来た。作戦は伝えた通りで、我々の戦果はそのまま勝敗に直結する重要な役割である・・・まさにデビュー戦に相応しい舞台だ」


 隊長が大声で呼びかける。

 端の方まで聞こえるような大声だ。


 あらかじめ班長を通して、全員に作戦は伝えられており、我々の部隊の重要性は誰もが理解している。


 流石に私も緊張しているし、隣で並ぶ副隊長も顔を強張らせて・・・いや、どこか上機嫌だ。

 なにかいいことでもあったのだろうか。


 そんな副隊長を知ってか知らずか、隊長は続ける。


「この隊の半分以上は、初めての戦争に浮き足立っていることだろう。それは当然のことであるし、副隊長ですら顔がニヤけている。もはや勝った気でいるようだ」


「ちょっと! 違いますよ! なにをいっているんですか!」


 どうやらシンシア副隊長がニヤついていたことには隊長も気づいていたようで、程のいい緊張ほぐしに使われたようだ。

 いつの間に軽口が言えるほど仲良くなったのやら。


 顔を真っ赤にして憤慨したシンシア副隊長の姿に、心なしか隊全体から笑いが起きる。


「・・・しかし、残りの半数は知っている通り、戦場とは判断を迷った人間から死んでいく場所だ。気を抜けばどんな人間でもすぐに死に、死ねば戻っては来れない。敵も全員がこちらを殺す気で挑んでくるだろう。それが戦場だ。我々はピクニックに行くわけではない」


 笑いが収まった頃、やけに静かだが通る声で、隊長の言葉が響いた。

 半数、とは、戦場を既に経験したことのある年長者のことだろう。


 彼のいう通り、戦場は笑って乗り切れるようなものではない。


 流石のシンシア副隊長も既に真面目な顔だ。


「だから、私はこの隊を預かる隊長として、諸君らには言わねばならない」


 アルトリウス隊長は空気を吸い込み、そして・・・


「迷うな! 生き残れ! 目の前に敵がいるなら打ち倒し、血反吐を吐いても、地を這いずり回っても生き残れ! 生きて故郷に帰ることを考えろ!」


「―――っ!」


 怒号にも似た鬼気迫る声に、隊の誰もが息を呑む。


「―――そして、128名全員で勝利の美酒と洒落込もうじゃないか。もちろん参謀部の奢りだ」


 力強い言葉が聞こえた。


「さあ、そろそろ時間だ。総員、高速行軍用意。目標はマラドーア!」


「はっ!」


 掛け声とともに、全員の勇ましい敬礼の音が響く。

 士気は高い。

 誰もが、これまでの訓練と、この13歳の少年のことを信じているのだ。



 こうして、ユピテル軍第1独立特務部隊・・・後に「アルトリウス隊」と呼ばれることになる我々の初陣が始まった。



 初陣は相手視点でさっさと終わらせます。


 総合300Pと100ブクマ達成しました! 大感謝!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ