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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第七章 少年期・カルティア弟子入り編
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第59話:北上


 それから2週間ほど、俺たちは北上を続けた。

 平坦な道は少なく、山を越えたり、迂回したり、田舎道のような光景がひたすらに続く。

 北に行くにつれ寒くなり、厚手のローブを持ってきて良かったと思う。


 神速流の稽古は、今のところ順調だ。

 特に壁にぶち当たることもない。


 とりあえずシルヴァディに言われた通り、あまり深く考えずに剣を振っている。

 覚えること自体は得意だ。


 やはり新しいことを学ぶというのはそれだけでわくわくするものだ。

 ここのところは、あまり目新しいことを身につける機会はなかったからな・・・。


 神速流は、剣を速く振ることに最適化された型が多い。

 最短距離で、最速で、動きを止めずに。

 何度も剣を振り、その速さを上げていく。


 《加速魔法》と《身体強化魔法》の使い方も細かく教えられた。


 例えば、ただのステップでも、地面を蹴る瞬間にだけ強化をかけることによって、効率のいい魔力運用をする方法だ。これをマスターするだけで劇的に戦闘継続時間の延長につながる。

 

 また、神速流に型は少ない。

 速く動くための最短ルートの剣筋。

 最低限の動きで、最大限速く。


 それが神速流の型であり、技だ。


 ある程度それを体に叩き込んだら、今度はシルヴァディとの打ち合いだ。


 神撃流を使わず、神速流のみで戦う。 


 まあ打ち合いと言っても、案の定俺の剣がシルヴァディに届くことはない。

 これで意味があるのかとも思ったが、


「自分が速くなるだけではなく、相手の速さに対応できないと意味がないだろ?」


 と言われた。

 つまりは、目と反射神経をより速い動きに慣らせていく訓練の一環であるらしい。


 二週間、ほとんど毎日シルヴァディの動きを見続けたが成果があるのかは微妙なところだ。


 心なしか少しは手元が追えるようになった・・・気がする。 



「そういえば、坊主は水燕流は学ばないのか?」


 ある時、いつも通り筋肉と魔力の限界まで稽古をつけてもらい、仰向けに倒れていると、シルヴァディが言った。


「え? あー、どうなんでしょう。神撃流と神速流を学び終わったら僕も水燕流の達人でも訪ねたほうがいいんでしょうか?」


 俺はあまり水燕流とは縁がない。

 イリティアからは、神速流が向いているとしか聞いてないし、一応軽い対策のレクチャーは受けたが、そのくらいか。

 あとはカインが少し使っていた程度だが・・・。


「いや、水燕流の《奥義》はなかなか役に立つからな。その気があるなら教えてやろうと思ってな」


 《奥義》。

 一般的には、剣術の型や技を、必殺と呼べるレベルまで昇華させたものだ。

 とはいえ、別に特許もないし、誰がどんな技を《奥義》と自称するかは自由だ。


 神撃流なんかは、奥義に対しては相当無頓着だ。

 まあ決め技みたいなのもないし、1つの技を極めるより、より多くの技を覚えることに主眼を置いている。

 よく言えば万能だが、逆に器用貧乏と呼ばれることもあるのはそのためだ。

 

 逆に、水燕流は、《奥義》にこだわりがある。

 特に基本となる6つの《奥義》をどれだけ身につけれるか、そしてどれだけ深くまで極めれるかという点に美学があるらしい。


 というか・・・。


「師匠、水燕流も使えるんですか?」


「ああ。四大流派は全て使える」


「ええ・・・」


 どうやらシルヴァディは水燕流どころか、全ての流派を使えるらしい。

 四大流派全て使えるということは―――つまり、甲剣流の硬さと、神撃流の対応力と、水燕流の技と、神速流の速さ、それらを全て身につけているということだろうか。


 確かに、イリティアはシルヴァディを、『神速流の使い手』と言っていたが、他の流派を使えないとは言っていないからなぁ・・・。

 まあ、使えるだけで、練度はそれほどでもないって可能性もあるけど・・・怒られそうなので言わない。


「それで、どうする? イリティアは取り合わせは悪いと言ったみたいだが、甲剣流でもいいぞ。要点を絞れば取り入れたほうがいい部分もある」


 はあ、甲剣流もですか。

 魅力的な申し出ではあるが・・・。


「・・・いえ、とりあえずは先に神速流を身につけてからにします」


 と答えた。

 中途半端は良くない。

 初志貫徹だ。

 1つ1つ丁寧に覚えていくんだ。


 そう答えると、シルヴァディはどこか神妙な顔で、

  

「・・・そうか。そうだな」


 と頷いた。


 その後、シルヴァディが他の流派を教えることはなかった。 




● ● ● ●




 旅の途中、誰とも遭遇しなかったわけではない。

 山に入る度、野盗と思しき集団には何度か遭遇した。


 多くが、修羅兄弟(ゲイツとゲイル)のような蛮族風の人種だ。


 夜が更けると、こちらが2人なのをみて、大人数で襲ってくるのだ。


 俺としては気が気じゃなかったが、シルヴァディは対照的に、


「お、いい実地訓練だ!」


 とか言って暴れまくっていた。

 とても嬉しそうだ。


 シルヴァディは襲われるたび、必ず数人は俺に相手をさせる。

 本当は彼一人でも余裕で処理できるが、俺に実戦を経験させるためにわざと残しているのだ。


 そのたびに俺はヒイヒイ言いながら、剣を振った。


 振ることに迷いはない。

 殺さなければ、殺される。

 一瞬の迷いが、また後悔を生むことになるのだ。


 なぜヒイヒイ言っているのかというと、シルヴァディの稽古のせいで魔力がすっからかんなことが多いからだ。

 


 もちろん、別に野盗ばかりと遭遇していたわけではない。

 中には平和そうに暮らす集落もあった。

 

 そういう集落では、いくつか頼まれごとをする代わりに、寝床や食料を提供して貰った。

 頼まれごと、というのは、例えば、荒れた畑を土魔法で再び肥やしたり、土魔法と水魔法で用水路を作ったり、これまた土魔法で獣が入ってこないように堀を作ったりすることだ。

 なにせこういった集落に貨幣はない。

 俺たちの持っているD(デナリウス)金貨など何の価値もないのだ。

 交易方法としては物々交換が主流だが、もちろん俺もシルヴァディも交換できるような物を持っていないので、そういった慈善事業を対価として払ったのだ。


 シルヴァディは元魔法士というだけはあり、なかなかに精巧な魔力操作を披露してくれた。

 簡素ながらも石造りの小屋を建てていたときは、思わずやり方を聞いてしまった。


「・・・属性魔法は自分で学べ」


 すると、割と冷たくそう言われた。

 ちょっとは打ち解けてきたと思っていたので、少し悲しかった。


 まあ、属性魔法は自分で研鑽すると決めたし、いいんだけどね。

 

 そんな感じで、俺たちはいくつかの集落に立ち寄った。


 3つめの集落で試しに見よう見まねで石小屋を建ててみた。

 シルヴァディの物ほど精密ではなかったが、まあ初めてにしては上出来だろう。


 小屋をみたシルヴァディは、「ふん、まだまだだな」と、どこか上から目線の評価を下した。

 その通りだと思うが、彼の足が震えていたのは何故だろう。


 どこの集落も訛りは酷かったが、言葉は一応通じた。

 全世界で言語が共通化されているというのはなんとも助かることだ。

 もしかすると、今の人類は元は全員同じ場所に住んでいたのかもしれないな。 




● ● ● ●



 

 『蠍』の小屋を発ってから1か月程度経っただろうか。

 俺たちはついにエメルド川上流―――北方山脈のふもとに辿りついた。


 神速流の稽古はまずまずだ。

 やはり神速流に難しい技や型はないからかな。

 あえて言うなら、とにかく「速く動く」ということが永遠の命題といったところだろうか。

 

「神速流の速さに、限界とか完成はねえ。坊主からしたら俺は相当な速さかも知れねえが、世界にはもっと速い奴も腐るほどいる。死ぬまで速さの限界を超え続けるのが神速流だ」


 シルヴァディはそう言った。

 とはいえ、俺が神速流を学び始めてどれくらい速くなっているかなど、いまいちわからない。

 シルヴァディに聞いても、「まあ前よりは速いんじゃね?」みたいなアバウトな答えだし、そこら辺の野盗よりは元々俺の方が速かった。

 修練の結果が出ているかどうかが分からないというのは、なんともむずかゆい気分だ。


 とにかく、この旅の最中はなるべく神撃流や、「読み」は使わないようにしている。

 神速流がある程度身に着くまでは第三段階に入るべきではないだろう。


 シルヴァディの速さにはまだまだ対応できていないが、なんとなく見えるようにはなった気はする。

 手元がブレていたのが、次第に鮮明に見えるようになっている気がするのだ。

 あくまで気がするだけだが。


 まあ、シルヴァディの言う通り、あまり深いことは考えずに稽古はしている。

 信じて努力するだけだ。

 


 さて、そんなこんなで現在は北方山脈のふもとなわけだが、ここまで来る少し前に、『カルス大橋』を通りかかった。

 シルヴァディが、どんな状況か確かめておきたいと言ったからだ。


 『カルス大橋』は、無残に崩れ落ちていた。

 岸に近いいくつかの石がこびりついているだけで、それはもう元が橋だったとは欠片も思えない。


「・・・改めてみると、すごいですね」


 あれほど巨大な橋が、雷の魔法で破壊されるなんて、信じがたい光景だ。

 俺が落ちたときは、あまり余裕がなかったので覚えていないが、これはもう修復は不可能なレベルだろう。


「・・・これは、俺には無理だな」


 その光景を見て、シルヴァディは眉をひそめながら、ぽつりとそう言った。

 橋を修復する話か橋を破壊する話かは知らないが、自信家のシルヴァディにしては珍しい発言である。

 いや、単に今までも事実を言ってきただけか。


「この規模の破壊は・・・あるいは軍神ジェミニなら可能だろうが、奴が雷魔法を使うとは聞いたことがねえな」


 しげしげと橋の残骸を眺めるシルヴァディ。

 暗に軍神ジェミニは自分よりも強いと言っているようにも思える。同じ『八傑』の中でもやはり優劣の違いがあるのだろうか。


 しかし、シルヴァディでも無理となると・・・。


「・・・師匠、『ラトニー』という水色の髪の少年についてなにか聞いたことはありませんか?」


 思い切ってラトニーの事を聞いてみた。

 俺の命を狙い、強力な魔法を使うとなると、ラトニーくらいしか心当たりはない。


「・・・いや、知らねえが・・・この橋を落とした奴の名前か?」


 どうやらシルヴァディも知らないようだ。


「いえ・・・以前そう名乗る悪霊に殺されかけたことがありまして」


「へえ、悪霊ねえ」


 しばしシルヴァディは考えていたが、


「関わっている可能性はあるが、おそらく直接的に橋を壊した奴ではないんじゃねえか? 悪霊は、人にとりつくことはあるが、自ら害を及ぼすことはできないだろ」


 悪霊は直接は手を出せない。

 確か、夢の中のルシウスも似たようなことを言っていた気がする。

 一般的にもそう言う認識なのだろうか。


「まぁ、魔法でこの橋を造る奴がいたんだ。悪霊じゃなくとも、壊せる奴がいてもおかしくはねえ。世の中には表に出てこない実力者なんていくらでもいるからな」


「・・・そうですね」


 正直、シルヴァディが唸るほどの実力者が虎視眈々と狙ってくるなんてことは考えたくもないが・・・調べる方法も対策もないからなぁ。


「さあ、行くぞ。橋を渡れないことは分かった。奴らは間違いなく北だ」


「はい」


 疑問は解消されないまま、俺たちは先へと進んだ。


 北方山脈のふもとでは、情報収集を行った。

 といっても、近くの集落を探して回ったり、襲ってきた野盗を生け捕りにして話を聞いたりしただけだ。

 集落の人間はあまり有益な情報を出さなかったが、野盗たちは案外情報通なようで、求めていた情報を提供してくれた。


 まず、だいぶ前に、大量に護衛兵を引き連れた一団が、ゆっくりとこの辺りを通り過ぎ、カルティア方面へ進んでいったらしい。

 橋が落ちてすぐという事なのでおそらくオスカーの一行だろう。

 

 そして、入れ違いとなる様に、カルティア方面から少人数の旅団がやってきたとか。

 彼らは橋が落ちていることを知ると、北方山脈を越えるべく、『案内人』を探しはじめたらしい。


「・・・怪しいな」


 野盗を尋問しながら、シルヴァディが言った。


「それで、そいつらはその後どうしたんだ?」


 シルヴァデイが凄みを出して、目の前の男に尋ねた。

 もちろん、男の首元には剣が突きつけられている。


「へ、へえ。その後、『案内人』を探すのに手間取ってたみたいで、ようやく1週間ほど前に『山脈の悪魔』の手下とどこかへ消えていきましたわ」


「ちっ。やはりな」


 シルヴァディが歯噛みしたように言った。


「な、なあもういいだろ? 知っていることはこれで全部だ。アンタらを襲ったことは悪かったから―――」


 言い終わる前に、男の首は刎ねられた。

 シルヴァディが音もなく剣を振るったのだ。


 この男は俺たちを襲った野盗の一味だ。

 情報を寄越せば生かしておいてやると言って、あらかた必要な情報を吐かせた。


 騙したみたいで後味は悪い。


 すると、


「そんな顔をするな。仮にも命を狙われたんだ。殺す道理はあっても生かす道理はねえ」


 俺の顔がどこか不満げだったのか、シルヴァディがたしなめた。


「・・・わかってます」


 俺はもう迷わない。

 彼を逃がせば、彼はまた誰かを襲う。

 それは俺かも知れないし、もしかしたら俺の大切な人かもしれない。

 それで後悔するくらいなら、ここで心を殺したほうがよっぽどマシだ。

 彼も殺すつもりだった以上、殺される覚悟はあっただろう。



  

● ● ● ●


 

「それにしても、ギレオンはもう『案内人』と渡りをつけたっぽいですね」


 確か『山脈の悪魔』だったか。

 手下、ということは、集団の名前っぽいな。

 やけに物騒な名前である。


「ああ、だが―――1週間前ならば、ギレオンはまだ山脈にいる可能性が高い。ユピテル国内に入ってまで追いかけるのは流石にめんどくせえし、ここで追い付けたのはでかいな」


 ギレオンは『案内人』を探すのに時間をかけ過ぎたらしい。

 シルヴァディとしては嬉しい話であったはずだが、どこか浮かない顔をしている。


「なにかまずいことでも?」


「・・・いや」


 シルヴァディは少し迷うようなそぶりをみせ、話し出した。


「ある程度予想はしていたが・・・『山脈の悪魔』は少々厄介だ」


「厄介、というと?」


「まず、奴らは規模がでけえ。構成員も多い。北方山脈を牛耳っていると言っても過言ではない」


 聞いた感じ、名前通りの物騒な集団なようだ。


「まぁ、それはいいんだ。いくら有象無象がいたところで大した問題にはならねえ。だが・・・何人か強い奴がいる」


「・・・それは、師匠がてこずるほどの奴ってことですか?」


 ここで「師匠よりも強い奴ですか?」と聞いてはいけない。

 真の強者の弟子は、自らの師匠が最強だと疑ってはいけないのだ。

 まあ実際、シルヴァディよりも強い奴なんて多くても世界に7人くらいなわけだし、そうポンポンいても困る。


 俺の疑問に。シルヴァディは頷いた。


「ああ、といっても、せいぜい3人程度だ」


「3人・・・ですか?」


 正直、シルヴァディをてこずらせる猛者が3人もいると聞くと、むしろ相当多く思える。

 

 そして、次のシルヴァディの言葉で、俺の心臓はドクンと跳ねる。


「その中でも、注意すべきは『山脈の悪魔』の頭領《北虎のグズリー》。こいつは()()()()()()()()()()


「―――!?」

 

 ―――イリティアよりもやる・・・つまり強いってことか!?

 

 思わず声を失くした。

 俺の中でイリティアというのは、シルヴァディの次に強い人というカテゴライズがされている。

 俺からすると、2人にどれくらい差があるかは分からないが、少なくとも俺よりもはるか高みの強さであることは間違いない。


「他の2人は、《白蛇のターシャ》に《浮雲のセンリ》。どちらもまあ・・・前に見たときは坊主に毛が生えた程度だったな」


 いや、簡単に言うけど、俺に毛が生えた程度って、つまり俺より強いってことじゃないですかね。


「それで、なんというか、どうするんですか?」


 正直、なんとなくこの後の展開は予想できたが、恐る恐る俺は尋ねた。


 シルヴァディはケロッとした顔で答えた。


「――まぁ、カチコミにいくかなぁ」


 ・・・やっぱり。

 この人結構嬉々として剣を振るからね。

 昨日も野盗を殺しながらヒャッハーとか言いそうなぐらい笑ってた。


 俺はため息を吐きながら言った。

 

「はあ・・・それ、僕も行かなきゃだめですか?」

 

 正直、イリティアよりも強いやつと、俺よりも強いやつが2人いるところに、俺がいても仕方がない気はする。

 怪獣大決戦は怪獣同士でやってもらわないと。


「はっはっは、そんな不安げな顔をするなよ。普通に訪ねて、ギレオンの引き渡しをお願いするだけだ」


「そんな簡単に渡してくれますかね?」


「いや、渡さないだろうが」


 即答。お願いする意味ないじゃないか。


 しかし、わからないな。

 向こうだって、天剣シルヴァディの強さは分かっているはずだが・・・。


「・・・なぜでしょう? 向こうからすれば師匠を敵に回すことの意味はわかっているのでは?」


 俺なら、《八傑》の人が直々に脅して来たら、小便漏らしながら土下座して引き渡す自信がある。

 流石にギレオンじゃなくて、家族とか大切な人ならわからないけど、『山脈の悪魔』にとっては、ギレオンなんてたかが取引相手じゃないのか?


「メンツだよ」


「メンツ?」


 シルヴァディが答えた。


「ああ。グズリーはそういう男だ。『山脈の悪魔』は一度受けた仕事はどんな悪事でも完遂する。仕事に誇りを持っているんだ。そして、そのトップであるグズリーも、責任という言葉を絵にかいたような人物だ。『山脈の悪魔』というブランドのためなら、奴は命だって懸けるだろう」


 なるほど、仕事に命を懸けている人種か。 

 同意はできないが、とりあえずは納得する。


「しかし、それでギレオンの引き渡しを拒否されたら、どうするんですか?」


()()()で連れて帰る。前も一度似たようなことがあったが、そのときもそうした」


「・・・やっぱり僕、ここで待っていていいですか?」


 どうやら本当に怪獣大決戦になりそうだ。

 

 しかし、シルヴァディは少し真顔になる。


「―――ダメだ。お前にも来てもらう」


 有無を言わさぬその口調に、俺も少し真顔になって答える。 


「・・・でも、話を聞いた限りでは、僕だと足手纏いでは?」


 別に行きたくないとか言う気持ちもなくはないが、それ以上に俺がいても足手纏いになると思ったのだ。

 グズリーは言わずもがな、残りの2人も、俺より強いということは、間違いなく魔力障壁を使えるのだろう。

 となると、剣による戦闘になる可能性が高いが、今の俺の剣の実力はそれほど高いわけでもない。


 しかし、シルヴァディは真顔のまま言い放つ。


「いや、もし戦闘になった場合、《白蛇》か《浮雲》のどちらかは坊主に任せる」


 ――いや任せるって・・・。


「―――あの、僕よりも強いって言ってませんでした?」


「大丈夫だ。対策は教えるから死にはしねえ。俺がグズリーをやるまで足止めをしてくれればいい」


 足止め。

 やはり、北虎のグズリーとはそれほど警戒すべき相手という事だろうか。 


「その・・・3人同時に相手にするのは、師匠でも厳しいということでいいですか?」


 言葉を選びながら、俺は尋ねた。


 シルヴァディは即答する。


「そうだ」


 シルヴァディは事実しか言わない。


 つまりは、たとえ彼からしたら味噌っかす程度であるはずの俺の力でも必要としているということだろうか。 


「逆に、僕が、その《白蛇》か《浮雲》を足止めできれば、勝算があるということでいいんですよね?」


 その言葉に、シルヴァディは獰猛に笑った。

 いつもの恐ろしいほど頼りになる笑みだ。


「それならば、絶対に勝てる」


「―――わかりました」


 俺はそれ以上何も言わずに頷いた。


 前は3人相手に勝ったんじゃないですか? とか、そんなことは言わない。

 

 ここで拒否したら、このシルヴァディという男の弟子としてはやっていけない。


 もしかしたら、命を救ってくれた恩を返す時が来たのかもしれない。


 そう思った。







 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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