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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第七章 少年期・カルティア弟子入り編
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第58話:段階


「いやあ、まさか・・・馬に乗れないとは・・・」


 パカラッパカラッと小気味よい音に揺られながら、俺とシルヴァディは会話をしていた。

 この程度の速度ならば、俺にも会話をするくらいの余裕はある。


「仕方がないじゃないですか。首都(ヤヌス)の学校では乗馬はカリキュラム外ですし、従軍に関しての講習は2日しか受けていません。本格的なのはカルティアについてからだと教えられたので・・・」


「坊主は2日で乗れるようになったじゃないか」


「おかげで何度か転げ落ちて死にそうになりましたけどね」


 そう、『蠍』の小屋を発って2日、俺はおおよそ荒療治といえる方法で乗馬を身に着けた。

 

 まず、馬に跨る――というよりは、無理やり乗せられる。

 そして、前への進み方と、方向転換の仕方だけを口頭で説明され―――、


「よし、じゃあ出発」


 と横から声が聞こえたと思ったら、シルヴァディの馬が駆けだした。

 

「え?」


 ――ヤバい、置いて行かれる。


 そう思って前進の指示を出したところ、俺の馬は勢いよく走りだした。

 しかし、それが失敗だった。

 

 わき目も振らずに駆けだしたのはよかったが、俺は停止――いや、減速の仕方すら知らない。

 そして俺の馬は、長く縄に繋がれていることに鬱憤が溜まっていたのか、それを晴らすかのように速度を上げ続ける。

 揺れる馬上で俺はバランスを保つことすら精一杯。

 気づくと先行していたシルヴァディの馬を抜き去るほどの猛スピードが出ていた。

 しかし、道はいつまでも直進なわけではない。

 進めばカーブやら分かれ道などもある。

 案の定、すぐ目の前には右への急カーブ。

 あまりの揺れに吐きそうになりながらも、何とか右折の指示を出したが―――。


「あれ?」


 気づくと俺は宙に浮いていた。

 馬はきちんと指示に従って右折した。

 問題は、その遠心力で、俺が勢いよく吹き飛ばされていたところだろう。


「うおああぁぁぁああああっ!」


 情けない声を出しながら、俺はおもいきり地面とキスをした。


 と、まあそんな工程を何セットも繰り返せば、流石に死なないために必死で乗り方を覚えた。

 本当に必死で。

 俺と同じ手段で乗馬を学ぼうという人がいたら、防御魔法と無詠唱の治癒魔法が使えるかは聞いておいた方が良い。

 そうでなければ2日で乗馬をマスターするどころか、1時間で徒歩も出来ない体になるだろう。


 そんな俺の苦労を知ってか知らずか、俺をそうさせた張本人は、飄々と口元に笑みを浮かべている。


「だが、なかなか様になっているじゃねぇか。馬も従順だし、バランス感覚もいい。騎馬隊に入ってもやっていけるだろう」


「――騎馬隊なんて時代遅れですよ」


 俺の馬は、初めのうちは文字通りとんだじゃじゃ馬だったのだが、目の前で巨大なクマを丸焼きにしたら従順になった。

 熊肉はまずかったが、結果としては良かっただろう。


「ははっ! 確かにな。馬に魔力障壁は纏えねぇからな」


 この世界の戦争で、騎兵の役割は低い。

 確かに機動力は高いが、馬は、相手の魔法士の遠距離魔法にビビってすぐにダメになる。

 さらに、自慢の機動力にしても、身体強化した魔剣士隊の方が、瞬間的な速度が速い。

 よって、もっぱら馬とは、長距離移動用の運搬手段として捉えられている。


「だが、カルティアには面白れぇのがいたぞ」


「面白い?」


「ああ、魔力障壁かは知らねえが、属性魔法を防ぎながら移動することができる騎馬隊がいたんだ。その名も『魔導騎兵隊』。俺らも随分てこずったよ。まあ数が少なかったから何とかなったが」

 

「そんなものが・・・」


 シルヴァディの事だから、見間違いということはないだろう。

 魔道具か何かを馬鎧にして魔法を無効化させていたのだろうか?

 しかしそれならば、戦争に使われるような属性魔法をレジストできるような魔法を付与(エンチャント)しなければならない。

 付与(エンチャント)は下級魔法でないと、魔鋼の耐久力が持たないはずだが・・・。

 もしかすると『白魔鋼』を使っているのかもしれないな。

 

 ちなみに、ここ数週間――俺を苦しめていた『魔封じの枷』は、稀に採掘される希少な『白魔鋼』をベースに作られた、これまた希少な魔道具らしい。

 どういう原理かは知らないが、とにかく、魔力が体外に出る瞬間、その魔力を()()()()()魔法が付与(エンチャント)してあるのだとか。


 大規模な奴隷商人などが、魔法使いを奴隷として扱う場合によく利用される魔道具で、超高級品ではあるが、多少は出回っているとのこと。

 効果は折り紙付きで、一度取り付けられてしまえば、『白魔鋼』内に魔力がある限り、シルヴァディでも打つ手がなくなるらしい。


「作った奴は大方誰か予想がつくけどな・・・あのババアが好きそうな道具だ」


 シルヴァディは苦い顔をしながら言っていた。

 魔力を発散させる属性魔法なんて、魔法書には載ってなかったし、誰か名のある魔法士のオリジナルなのだろう。


 しかし、そんな強力な魔道具をどうしてあんな辺境の下っ端田舎蛮族が持っていたのか・・・と思ったが、


「下っ端っつっても、『修羅兄弟』といえばエメルド川中流域でならそれなりに恐れられてる奴らだからなぁ。大本のボスが、『ギレオン』ということも踏まえるとそれくらいの魔道具は持っていてもおかしくはない」


 『修羅兄弟(ゲイツとゲイル)』はやはりそれなりに名のある奴らだったのだろう。

 まあ二つ名持ちって例外なく強い気がするからなぁ。

 俺が生き残れたのは運が良かったのかもしれない。


 ・・・まさか俺が既に二つ名がつくレベルに強いなんてことはないよね? いや、あるのか?




● ● ● ●




 さて、そんな感じで会話をしつつ、俺とシルヴァディは北――北方山脈へ向かっていた。

 目的は『ギレオン』という貴族と、『鷲』の確保だ。


 《蠍》の小屋を発ってから、一週間ほど、北に向かって馬を走らせた。

 朝から夕方までは、休憩をはさみつつ移動に時間を使い、夕方になると野営の場所を探し、可能なら魚やイノシシなどを狩って食料を確保する。

 食料を大量に持ち歩くよりは、現地調達がシルヴァディの趣向に合っているようだ。

 もちろん味付けは特になく、内臓を抜いて適当に炙るだけなので、なんとも味気はない。

 

 食事のあとは、深夜まで「稽古」の時間だ。

 名ばかりの弟子入りではなかったらしい。


「よし、じゃあとりあえずかかってこいや」


 初日、シルヴァディは「稽古の時間だ」と宣言した途端、剣を構えだした。

 もちろん実剣だ。木剣なんてものはこの場にない。  

 

「あの・・・実剣ですけど・・・」


「俺は寸止めできるから大丈夫だ」


「僕はそんな技術ありませんけど・・・」

 

「問題ない。どうせ坊主の攻撃は、一発も当たらん」


 獰猛な笑みでシルヴァディが言い放つ。


「大した自信ですね・・・」


「事実だ。もしも当てれたら、『天剣』の称号を譲ってやるよ」


「へえ・・・」


 シルヴァディと俺の実力に大きく差があることは知っている。

 だが、今は魔力も充分にあるし、過去には条件付きとはいえイリティアに一発入れたこともある。

 あの頃よりは魔力量も増えているし、剣技も磨いてきた。一発くらいなら当てれるんじゃないか・・・?


 ―――そう思っていた時期が僕にもありました。


 意気揚々と加速して、突っ込んだ10分後、俺は夜空を見上げて地面に仰向けになっていた。

 魔力も枯渇し、筋肉が悲鳴を上げている。


 渾身の風刃(ウインドカッター)も、オリジナル魔法の爆炎(エクスプロージョン)も、シルヴァディの魔力障壁の前にはビクともせず、全力の身体能力強化をかけた剣撃は、それ以上の速さの剣撃で吹き飛ばされた。

 というか、多分剣撃で吹き飛ばされたような気がしただけで、実際に何をされて俺が吹き飛ばされたのかはよく分からなかった。


 ―――この人、マジで強い。


 わかっていたことだが、そんな感想を抱かずにはいられなかった。

 しかも、シルヴァディは実力の1%も出していないように思える。

 彼としては、俺の攻撃なんて、そこら辺を飛んでいる蚊に刺されたのと大して変わらないのだろう。

 何をしても、どれだけ隙を突こうとも、通用する気がまるでしない。


 これが、『八傑』・・・。

 

 強さという点において、この世界の頂点の一角を担うというのは、流石に伊達ではないらしい。

 もしも、今度八傑を名乗る人間と戦う羽目になったら、全力で逃げよう。


 そんな地獄のような挑戦は3日ほど続いた。

 

「・・・なるほどな」


 3日目、前日と同じように息を切らして仰向けに倒れている俺をしげしげと眺めながら、シルヴァディが話し出した。


「・・・イリティアの言っていた通り、坊主は魔法士としては一人前の域にいるな。魔力量も申し分ないし、魔法の選択もいい。隙の大きい上級魔法ではなく、取り回しのいい中級魔法を主軸にしている点は評価に値する。威力も発生スピードも中々だ。オリジナル魔法も考えているようだし、正直、教えることはほとんどない」


 属性魔法に関して、俺に教えることはないらしい。

 まあ、これは首都(ヤヌス)を発つ前からなんとなくわかっていた。

 これ以上は自分との闘い、とでもいうべき事柄だ。 


「あえていうなら――属性魔法の防御に属性魔法で返す癖があるな。無属性魔法の《魔力障壁》を使った方が良いだろう。常に纏うようにしておけ」

  

「はい。そうします」


 属性魔法に属性魔法で返す癖、というのは、例えば炎属性の『炎槍(フレイムランス)』に対して、水属性の『水壁(ウォーターウォール)』で防御してしまうという癖だろう。

 俺はなまじ使える魔法の種類が多いせいで、択が多いのだ。

 確かに無属性の防御魔法ならば、相手の属性を気にする必要もなく、全属性に対応できる。

 おいおい直していこう。


「剣術は―――少し時間がかかるかもな」


「時間・・・ですか?」


「ああ」


 ふむ、やはりいつも剣術が足を引っ張るな・・・。 

 もしかしたら才能がないのかもしれない。


 ・・・いや、この思考はよくないな。

 イリティア先生が言っていたじゃないか、『剣術はその努力量に実力が左右されます』って。

 きっと俺の努力が足りていないんだ。


「お前は・・・少々『段階』を飛び越えているんだ」


「段階?」


「そうだ」


 シルヴァディが説明を始めた。


 なんでも、剣の道はいくつかの成長段階があり、それに沿って地道に努力をしていくものであるらしい。


 シルヴァディ曰く、全部で段階は4つ。


 第一段階。

 剣の型と技を覚える段階。


 第二段階。

 覚えた型と技を鍛え、身につける段階。


 第三段階。

 身につけた型や技の、意味を考え、理解する段階。


 第四段階。

 自分の動きの全てを理解したうえで、それらを昇華し、越える段階。


「坊主は、第二段階――剣術を鍛え、身につける段階が充分でない状態で、第三段階――思考や、読みを行っている」


「・・・悪い状態でしょうか?」


 確かに俺は、なにかと考えながら行動することが多い。

 剣術もその1つだ。


「悪い状態というか・・・このまま行くとお前の強さはそこで打ち止めだ」


 打ち止め。

 つまり、強さに限界が来るということだろうか。


「例えばだ。俺が上段からの振り降ろしをすると《読んだ》ところで、坊主にそれが防げるか?」


「無理でしょうね」


 シルヴァディの剣は分かっていても俺には止められない。

 まず多分本気の彼の剣は見えない。 

 

「そういう事だ。元々の地力がねえと、いくら考え、読み勝ったところで、勝てるのはせいぜい自分より少し上の奴だけだ。ある程度離れちまえば読みなんてもんは意味がない」


 自分より少し上。

 つまりはカインや、修羅兄弟(ゲイツとゲイル)のような者のことだろう。


 そして、それよりももっと上、イリティアやシルヴァディ相手では、確かにどれほど読み勝ったところで対応することはできない。

 根本的な速さと重さが違うのだ。


 シルヴァディは続ける。


「普通、剣術っていうのは技と型を鍛えて身につける――第二段階の突破に最も多くの時間を使うんだ。あらゆる技を身につけ、それに見合う体を作り、そいつだけの剣を完成させる。そのうえで更なる強さを求めた奴が、考える――第三段階に入る。最近の剣士の黄金ルートは聞いたことがあるだろう?」


「はい」


 黄金ルート。

 最近の剣士を志す人間が、どのように剣を学んでいくかという鉄板のルートだ。

 確か、甲剣流と神撃流を学んだあとに、水燕流の達人の話を聞きに行く、というものだったはず。

 なるほど、甲剣流と神撃流を学び、地力をつけるのが第二段階で、さらに強くなるために水燕流の達人の話を聞くのが第三段階ということか。

 あながち正しいルートであるらしい。

 流石は鉄板といったところか。


 とにかく、「思考」というのは、地力―――ある程度の体と速さ、技と型を身につけた状態になって初めて行うものなのだろう。


 つまりは・・・


「僕の場合は、第二段階で神撃流しか学んでいない中途半端な状態で第三段階に入ろうとしているため、このまま行くと地力の低い剣士になる、ということですか?」


「ああ、まあそういうこった。・・・真面目に神撃流に取り組み、強くなるために色々と試してきたであろう坊主の努力を否定する気はないが―――まあ、ちゃんと教えなかったイリティアを恨むんだな」


 別にイリティアを恨む気はない。

 彼女には他にも様々なことを教えて貰った。

 それに、思考もせず、神撃流すら使えなかったら、俺はゲイツ達に勝てずに既に死んでいただろう。


「・・・でも、師匠の言い方だと、時間はかかるけど取返しはつくんですよね?」


「ああ、簡単だ。考えるのをやめればいい」


「考えるのをやめる・・・」


「そうだ。細かいことをいちいち考えずに、まずは剣を振り、お前の剣を完成させるんだ」


 剣を完成させる。

 つまりは、今の俺の神撃流と、今後学ぶ神速流を合わせた剣術―――俺の剣術を、きちんと身につけてから、思考しろということだろうか。


「深く考えるのは、お前の長所なんだろうが、短所でもある。・・・ときに思考は剣を鈍らせるからな」


「・・・はい」


 まあ短所であるというのは、否定できまい。

 実際、考えすぎたせいでゲイツを斬るのを躊躇した節もある。


「ま、これから神速流を学ぶにあたって、剣を初めて学んだ時の初心に帰れってことだ」


「・・・なるほど」


 どこかその言い回しは、心にすとんと来るものがあった。


 しかし、それはいいが、少し気になることがあるな。

 まるで、第三段階で終わり、という言い方をされている気がするのだ。

 

 だが、彼は最初に、第四段階まであると説明したんだ。

 えっと確か、自分の動きの全てを理解したうえで、昇華する、だっけか?

 意味がわからない。


「――第三段階までも道筋は分かりましたけど、第四段階にはどうやってなるんですか?」

 

 気になったので聞いてみると、シルヴァディは難しい顔をする。


「・・・一応、全てを理解したうえで、それを越える、と銘打ってはいるが、実際第四段階については俺も言葉にするのは難しい。まあ、そんなことを言ったら、ここまでの『段階』の話は全て俺が勝手に言ってることだが・・・」


「えぇ・・・」


 なんだここまでこの人が勝手に作った話かよ。 

 全世界共通だと思ってたよ・・・。


「第四段階は、努力だけでも、才能だけでも辿り着けない領域だ。普通の剣士が目指したところでなれるものでもない。・・・だが、1つだけ言えるのは、達人―――真の強者と言われる者は、誰しもがその域に達しているってことだ。剣に限らずな」


「・・・師匠は達しているんですか?」


「当たり前だ」


 おお、かっこいいな・・・。

 流石は『八傑』といったところか。

 

「まあ第四段階は目指してなれるもんじゃない―――超一流の域だが、目指さないと絶対になれない。坊主がどれほどの強さを目指しているかは知らないが、そのつもりで励め」


「・・・はい!」


 こうして、自称真の強者による神速流の稽古が始まった。





 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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