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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第六章 少年期・カルティア遭難編
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第49話:旅路の始まり

 新章です。

 ようやくアルトリウス視点に戻ってきました。



 ヤヌスを発って数時間ほど、俺たちは馬車に揺られ続けた。

 この世界の旅というのは基本的には徒歩か馬車で行う。


 今回は身分のある貴族の使節という事なので、もちろん移動手段は馬車だ。

 その速度について来れるように、護衛の兵士も全員が騎馬隊だ。

 ヤヌスを守る常備軍から選ばれた精鋭たち、と銘打ってはいるが、元老院によって選出された門閥派の者たちが多数を占めていることだろう。


 使節の代表はオスカーであるのは間違いないが、実際の旅の行程を決めるのは全て護衛の彼らだ。


 いくらカルティア方面軍司令官ラーゼンの息子であり、大貴族ファリド氏の盟主プロスペクター家の跡取りとはいえ、オスカーはまだ成人していない子供だ。

 護衛含め60名ほどある大人の集団の指揮をすることは難しいだろう。


 俺はといえば、そんなオスカーのさらに副官なので、護衛隊長とオスカーの相談に口を挟むことはしない。


「―――では行定はそのようになります。もう少ししたら出発しますので、ご準備下さい」


 そういって壮年の男、護衛隊の隊長を任されたバルビッツが俺たちの馬車から去っていった。


 バルビッツは中肉中背の寡黙な男で、一見何を考えているかは分からない。 


 俺はバルビッツが充分に離れるのを待ってからオスカーに声をかけた。


「それで? 護衛隊長殿はなんて言っていたんだ?」


「ああ」


 オスカーは馬車の座席に腰掛け、疲れた顔をしながら答えた。


「この『トラン』では止まらず、すぐに出発するそうだ。どうやら『トラン』は大人数をすぐに受け入れられるような施設が開いてなかったようだ」


 現在、俺たち使節はヤヌスからカルティアに向かう途中にある都市、『トラン』に来ている。

 とはいっても、都市の中心部には入らず、一時の休憩をしているだけだ。


「だから、もしかしたら一度野営をするかもしれないって」


「なるほどね」


 野営はまだ経験したことがない。それどころか俺は転生してから自分のベッド以外で眠った記憶がないな。

 なんか随分甘く育てられてきた気がする。

 現代日本人の感覚としては当たり前なんだけどな・・・。


「まあ、都市の外は野盗とか、もしかしたら『蛮族』とかもいるかもしれないけど、そのための護衛だからね。大丈夫だよ」


 俺の気持ちを察してか、オスカーがにこやかに笑いながら言う。


「オスカーは野営の経験があるのか?」


「まさか? 僕は温室育ちだからね。運動も嫌いだったし、幼少期は親に連れていかれたパーティ以外、一歩も外に出たことがないよ」


 そうか、オスカーは大貴族の子供だし、野営してなにかがあったら問題だもんな。


「しかし、護衛隊長がバルビッツでよかったよ」


 唐突にオスカーが言った。


「そうなのか? 門閥派の人間じゃないのか?」 


 隊長のバルビッツや、そのほかの護衛兵も元老院および門閥派の人間だ。

 民衆派の筆頭、ラーゼン・ファリド・プロスペクターの息子であるオスカーが、こうも無防備な状態で手の内にあるとわかれば、何かしらの危害を加えてくるような気もする。


 俺がそういう内容を嘯くと、オスカーは目を細めながらかぶりを振った。


「それほど心配することはないと思うけどね」


「そうか? 蛮族に襲われて死んだ、とでもすればあちらとしても色々と都合がいいと思うが。 なにせヤヌスどころかユピテルの外だ。実際に何があったかなんてわかりはしない」


 なんたって、旗印になるのを恐れて首都(ヤヌス)から追い出したくらいだ。

 オスカーの母親も襲われているし、それくらい警戒したほうがいい。


 しかしオスカーは自信満々に答える。


「大丈夫だよ、多分裏切りもないし、たとえ蛮族に襲われたとして、少なくとも何の護衛もなく見捨てられるなんてことはないと思う」


「へえ? どうしてだ?」


「バルビッツ隊長は、確かに門閥派の人間だけど、まだ成人もしていない子供を、政争のネタに襲おうなんて事をする人ではないよ。れっきとした誇り高きユピテル軍人だ。もしも彼がそういうよこしまな人間だったら、流石の民衆派も押し黙ったりはしなかったさ」


 なるほど。

 そういう意味で、バルビッツが護衛隊長で良かったと言ったのか。

 バルビッツ隊長の人柄は俺の知るところではなかったからな。


「それに、公式使節として送り出しておいて、息子が死にました、なんてことになったら、父にとって格好の攻める大義名分さ。むしろ、カルティア遠征をいったん中止してでも元老院を倒すために戻ってくるだろう。だから、どちらの陣営もが、大義名分を探している今、下手なことはできないはずだよ」


 どちらも大義名分を相手方に与えたくはないから、オスカーに危害を加えるようなマネはしないと。

 そう考えると、(ライラ)の死を伝えるのに、こんなに畏まった使節を送る理由も頷ける。 


「それに」


オスカーが続けた。


「もしも襲われても、きっと君が守ってくれるだろう?」


 期待を込めたような眼差しがこちらに向けられる。

 

 俺がカルティアについていくと回答してから、オスカーは急に元気になった。

 どれだけ俺の事を過大評価しているんだこいつは。


「―――確かにその辺の盗賊や、剣しか使えないような兵士なら、遅れはとらないつもりだけど」


 しかし、俺には彼らと比べて圧倒的なディスアドバンテージがある。

 それはいくら魔力があろうと、剣術が達者だろうと埋められないもの。


 ()()の差だ。


 俺はきちんと訓練された軍人でもなければ、毎日生きるために戦いに明け暮れる蛮族でもない。

 俺はヤヌスの外へ出た事などないガキなのだ。


 別にこれまで自身の能力を高めることに手を抜いたことはないが―――それでも、もしもきちんと訓練をした兵士数名が一斉に襲い掛かってきたら、オスカーを守るどころか、1人逃げることすらできない自信がある。


「まあいざとなったらミランダもいるしね。僕の守りは彼女に任せて、バリアシオン君は悠々と暴れてくれればいいさ」


 俺の心の逡巡をよそに、オスカーは直ぐ隣で眠る長身の少女、ミランダを見やる。


 スー、スー、と寝息をたてて眠る様はなんとも無防備だ。


 同年代の、しかもなかなか発育のいい女子の寝姿が正面にあるというのは少々目に毒だ。


 オスカーはなんともわかりやすく彼女の胸をよくガン見しているが、チラ見とかいう姑息な手段に出ないところが彼らしいといえる。


 それにしても。


「よかったのか? ミランダまで連れてきてしまって」


 俺は、この旅が始まって以来疑問に思っていた事を聞いた。


 オスカーは、2人の副官に、俺とミランダを選んだのだ。


「いいのさ。そもそも彼女が自分からついて行くと言ったんだ。仕方がないだろう? 僕についてこようが、ヤヌスに残ろうが危険なものは危険だからね」


 なるほど。

 オスカーがミランダのことを少なからず大切に思っていることは知っている。


 危険な旅への同行を求めたとは考えにくかったが、ミランダの方から申し出たのなら話はわかる。


 数年一緒に過ごしてわかったのだが、なんとなく彼女からは、オスカーを守るという使命感のようなものが感じられていたからな。


 魔法も剣もからっきしであるオスカーと違って、ミランダはどちらも世代だと屈指だ。俺としても心強い。


「まあ、今から色々と心配したところで仕方ないさ。たとえ護衛が裏切らなくても、強力な『蛮族』の大群なんかに出くわしたら、そもそも命はないわけだし、ヤヌスから出る以上、不安要素なんていくらでもあるよ」


 眼鏡をクイっと上げながら、オスカーが苦笑した。


 まあ、だからこそ――不安要素が多いからこそオスカーは俺に同行を頼んだのだ。  


「そうだな、カルティアについてからが――本番だからな」


「うん」


 オスカーが頷いた。

 

 そう、俺たちは、カルティアについてから従軍する。

 使節としてオスカーの父にライラの死を伝えれば、すぐにそのまましかるべきところで戦うことになるだろう。


 正直、怖い。

 戦争なんて、俺の知らないところの話だと思っていた。


 首都(ヤヌス)を発ったことに、後悔はない。

 家族のことはアピウスに任せたのだ。

 エトナも、何かあったらカインが助けてくれるだろう。


 だが、やはり今から自分が行く場所が戦地だと思うと、いいようのない不安が頭をよぎる。


 旅が始まってからも、実は緊張しっぱなしだ。

 オスカーは全幅の信頼を置いてくれているかもしれないけど、俺だってヤヌスの外に出るなんて初めてだし、外には俺の手に負えないものなんていくらでもあるだろう。

 学生時代でさえ魔法ではラトニーに負け、剣術ではカインに負けた。


 まあラトニーは少しイレギュラーかも知れないが、とにかく、俺だって万能じゃない。

 

 逆に、ある意味では、強くなるためにカルティアに行くのだ。

 ルシウスが言っていたことを鵜呑みにするわけではないが、できれば、『天剣』と『迅王』には会いたい。

 戦争中にまったりと師事できるかはわからないが、まあ何か盗めることはあるだろう。


「そういえばバリアシオン君、ヤヌスを発つ前にちゃんと済ませてきたかい?」


 そんなことを考えていると、オスカーがニヤニヤしながら話しかけてきた。


「済ませてきたってなにをだ?」


「いや、アレだよアレ。ドミトリウス君と致して来たのか心配でね。ミランダがいたからここまでずっと聞けなかったんだよ」


 何を言うかと思えば。

 この場合はドミトリウス――つまりはエトナと、ヤってきたのかということか。


「いや、するわけないだろ? まだ成人してないし、抜け駆けを推奨するわけにもいかないからな」


 抜け駆けはともかく、俺もエトナもまだ12歳だ。生前の常識から考えればいくら何でも早すぎるだろう。

 こっちの世界は戦国時代顔負けのマセガキ共ばかりだから、前世の常識なんてまるで通用しないのはわかってはいるが、俺にも譲れない部分はある。


 エトナもエトナで、『その、抜け駆けになっちゃうから―――ごめんね?』みたいなこと言っていたし、もっとゆっくりでいいのだ。


「そうか・・・。バリアシオン君は変なところで真面目だからなあ。確かにバリアシオン君の家は下級貴族といえど、法務官を輩出しているし、跡取り息子はきちんと『卒業式』が行われる可能性が高いね」


「おい、なんだその『卒業式』って・・・」


 不穏な単語が出てきたので俺はおもわず聞き返した。まさか学校の卒業式のことではあるまい。


「ああ、意外とバリアシオン君はこういう情報に疎いんだったね。『卒業式』は、息子が成人する際、どこに出しても恥ずかしくないよう童貞を捨てさせる風習のことだよ。中流以上の貴族では当たり前の話さ」


 少し驚いた。

 というか童貞は成人としては恥ずかしいことなのか。


「童貞を捨てさせるっていうけど、無理矢理か? そもそもそれこそ既に卒業していた場合はどうするんだ?」


 先程も言った通り、この世界の子供はマセガキばっかりだからな。

 特に貴族の男子なんて15を待たずに初体験なんていくらでもあるだろう。


「あー、僕ももちろんまだよくは知らないんだけど、多分寝込みを高級娼婦かなにかに襲わせるんじゃないかな。エロティックなお姉さんが突然露わもない姿で襲ってきたら経験の浅い童貞なんてイチコロだろう。

 既に卒業していた場合は父親と事前に話し合うとかなんとか。まあ僕は成人までに卒業できる予定はないし、知ったことではないけどね、ははは!」


 妙に開き直ったようなオスカーは小声で笑みをこぼしながら、再び口を開く。


「いやあでも願わくば、こう・・・大きい人がいいね。顔全体を埋められるくらい柔らかく、大きいおわんが理想だろう。この際先っぽの色形は問わないさ。重要なのは大きさと・・・ああ、バリアシオン君はバランス型だったかな」


「あ、ああ、そうだな」


 ちょっと気を抜いた瞬間、オスカーのおっぱい講義がまた始まってしまった。

 こういう事を黙っていれば、眼鏡の似合う知的な銀髪イケメンで通していけると思うんだが・・・。

 ―――いやそれより・・・。


「いやしかし、僕は未だに触った経験はないんだが、あの女性の神秘のおわんはどうしてこうも男の下半身を刺激するのだろうね。いや、お尻派や秘部派もいるかもしれないが、僕は断然おわん派だよ。確かに普段隠れている秘部に興味がないことはないが、やはり一番興奮を掻き立てられるのは二つのおわんの織りなす圧倒的なボリュームと破壊力だ。これらは他の追随を許さないだろう」


「おい、オスカー・・・」


「――それにしても昨今の女子生徒の成長は著しいと思うね。これは非常に喜ばしいことだよ。近年はユピテル国民全体での食生活が大きく改善されたことによるのが大きいのか、それとも女性の意識改革が起こったのか、甚だ気になるところだね。僕の友人の話によると、今では、大きく見せるだけではなく、長くつけていれば形も良くする下着なんかが販売されているらしいよ。やはり女性としても大きいものというのには一抹の憧れがあるのかもしれないな・・・。僕も今度入手して研究でも―――おや、どうしたんだいバリアシオン君、そんな青ざめた顔をして」


 話に夢中になっていたオスカーが、ようやく正面の俺の顔が青ざめていることに気づいた。


「いや、オスカー、隣・・・」


 長々と語っていたオスカーは気づかなかったが、オスカーの隣にいる少女が既に起きていることに、俺は気づいていたのだ。


「隣・・・・・・っ!?」


 そこには、冷ややかな眼差しをしたミランダの姿があった。


「や、やあミランダ、おは―――」


「オスカー、きもい」


 ミランダは高く振り上げた右手を勢いよく振り下ろした。


 ―――バシン!


 ミランダのチョップがオスカーの頭にめり込んだ。


「―――痛い!!!  チョップはやめてくれ! ミランダ、君のせいで僕の頭の形はおそらく便器のように真ん中が凹むいびつな形に・・・」


 ――バシン!!


「痛い!!!」


 オスカーの弁明も虚しく2撃目のチョップが炸裂する。

 もはや見慣れた光景ではあるが、ヤヌスを出た先でもこのような光景が見れたことに俺は少し安堵した。


 まだ不安はあるが、俺の緊張も少しはほぐれた気がする。


「よっしゃ、坊ちゃんたち! 出発するよ!」


 馬車の前方の窓が開いて、御者がそう声をかけた。


 次なる街に向けて、俺たちは出発した。





 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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