第34話:学校生活3年目
少し短いです。
休みが明けて暫くの間、俺は少し慌ただしく過ごした。
3年生から始まった新たな学校生活は、今までとは全く違っていて、生活パターンを変えざるを得なかったのだ。
俺が選択した授業は、法学や経済学、政治学といった去年より高度な内容のものだ。
もちろん、数学や言語学、歴史学などの基礎的な分野も去年から引き続き選択できたのだが、去年のレベルを見るに、俺が知らないようなことなどは教えないと思われたので今回は見送ることにした。
来年も履修は可能なので、もし必要だと思ったらその時に取ることにする。
さて、高度な内容の授業を取ったと言っても、授業数自体は去年とそう変わらない。
それどころかむしろ数自体は減っているので、授業自体をこなすのに問題はない。
俺を忙しくさせているのはゼミ活動だ。
この世界におけるゼミとは、ほとんど俺の前世でのゼミとは変わらず、何かしらのテーマについて研究し、成果を上げることで、単位を取得できる、文化系部活の延長線上に位置するようなものだ。
俺はそんなゼミに、3つ所属している。
一つは、前々から参加したいと思っていた魔法研究ゼミ。
所属人数はとても多く、100人近くだろうか。
活動内容としては、大きく二つ。
一つ目は、毎週指定された魔法のテーマについて個人でのレポートの提出。
これは教師が提出の前の週にそのテーマについての講義を行ってくれるので、それに沿ってレポートを作成して提出するだけでいい。
二つ目は、好きなようにペアやチームを組んで何かしらの魔法についての研究をし、中間期・学期末の二回、研究内容の結果についてのレポートを発表する。
一見普通の真面目なゼミだが、この二つ目の内容である「ペアやチームを組む」というのが俺に取っては鬼門だった。
別に誰にも誘われなかったというわけではない。
むしろ初回などは
「2年連続、学年優秀賞のアルトリウス君だよね⁉︎ 私と組まない⁉︎」
「いや、バリアシオン君は僕と組むんだよ!」
「バリアシオン、同じクラスだっただろ!組もうぜ!」
「いや、あなたたちではアルトリウス君と組むには実力不足だわ!!」
「バリアシオン!! さあ僕と!」
「バリアシオン君!! 私と!」
「いや私が!」
などと大量に誘いを受けてしまった。
しかし、そのときの俺は面倒くさかったので全て断ってしまった。
よって俺は個人での発表をするハメになったのだ。
一応担当教師に聞いたところ、1人でも問題はないが、評価基準はチームのものと同様にするため、励むように、と言われた。
まあもともと1人でやるつもりだったので問題は無いだろうが・・・・。
ヒナがいなくなった途端、俺の友人不足が顕著に出てしまうようになった気がする。
彼女のありがたみを思い知る一件だっただろう。
二つ目のゼミは神話研究ゼミだ。
これはそこそこマイナーなゼミであるため、所属する人が少ない。
もちろんグループワークなどは存在しない。
「その曜日なら空いてるよ!」
と言ってエトナも登録してくれたため、ぼっちになる心配もなさそうだ。
ユピテル共和国において、都市国家ユピテルの成立以前の文献、というのは極端に少ない。
この世界の人類史は2000年ほど前に成立した都市国家郡が起源であり、それ以前の歴史については、神代の時代と言われ、神話の世界の話となっている。
神話の世界の話はきちんとした歴史書が記されておらず、民話や童話、伝承などから成り立つ。
神話研究ゼミの活動内容とは、その神話の世界の話から、史実を予測し、照らし合わせてユピテル都市国家成立以前の歴史を紐解く、というものだ。
このゼミを選んだ理由だが、これは以前エドモンの一件で遭遇することになったラトニーという人物に関係する。
ラトニーは俺と変わらない少年にしか見えなかったが、俺の放った魔法を無詠唱で無効化し、さらには《服従魔法》を使用した。
思い出すと恐ろしい話であるが、俺は彼について独自に様々な文献を漁って調べているうちに、図書館にある神話についての解説本で、気になる記述を見つけたのだ。
『・・・・人間が文明を作るより昔、この世界に存在してた神族は、今代では《失伝魔法》と呼ばれる魔法を無詠唱で使用した・・・』
《失伝魔法》を無詠唱で使用した、という部分が神話に出てくる神族とラトニーとで共通する。
そもそも《失伝魔法》とは、かつては使える人間が存在したが、その効果が強すぎる、もしくは非人道的であるとして、詠唱文の書いてある魔法書などがどんどん処分されていった上に、習得も困難であるため失われてしまった一部の《属性魔法》であるらしい。
《服従魔法》とかに、属性があるのか、とか思うが、まあどうせ闇属性だろう。あの属性は意味わからない効果の魔法ばかりだ。俺も、完全版魔法書のうち闇属性だけはあまり習得が進んでいない。
《隠蔽魔法》とか、少し憧れがあったんだけどね。
《失伝魔法》に話を戻そう。
《失伝魔法》の特徴としては、まず人智を超越した効果を生み出すことがあげられる。
有名なのが《召喚魔法》や《服従魔法》だ。
《召喚魔法》は、この世界に限界しない、あらゆるものを召喚する魔法だ。
それは霊であったり、悪魔であったり、魔物であったり、様々なものであるらしい。
《服従魔法》は、その名の通り、魔法をかけた相手を自分の意のままに操ることができる非人道的な魔法だ。
他にも、消滅魔法や、転移魔法、空間魔法など、禁止され、失われてしまった魔法は多岐にわたる。
全てにおいて、特徴的なのは、いくら《魔力神経》があっても、《失伝魔法》を無詠唱した人間はいないということだ。《失伝魔法》を無詠唱で使えるのは神族だけであるらしい。理由は知らないが、どの文献にもそう書いてあり、手紙でイリティアからも太鼓判を押された。
それが、単なる属性魔法とは区別される点なのだとか。
まあ《失伝魔法》については詳しくはわからない。そのうち魔法研究ゼミで何かしら調べてみたいとは思っているが、あまり期待はしていない。
神話研究ゼミの話に戻ると、つまり、無詠唱で《失伝魔法》を使用したラトニーは、神話に登場する神族だったのではないか、という仮説を立てた。
そのため、神話について詳しく研究することのできる神話研究ゼミに入ることにしたのだ。
今の所、めぼしい成果はないが・・・・神話について学ぶいい機会ではあっただろう。
三つ目のゼミは兵法研究ゼミだ。
兵法研究ゼミはかなりメジャーなゼミであり、専用の大講義室において行われる。
兵法は従軍する可能性のある全ユピテル国民にとっては必須と言ってもいいテーマだ。
近いうちにゼミではなく、正式な授業として必須科目に入るらしい。
この世界での戦争とは、基本的には軍隊によって行われる。少なくともユピテル共和国ではそうだ。
軍隊は、戦争勃発当時の元老院によって、執政官が司令官として任命される。
司令官はユピテル国民と、常備軍から軍団を編成し、1万人の兵士を1軍団という基本単位で扱う。
1軍団は10の千人隊に分けられ、また千人隊は10の百人隊に分けられる。
また、これとは別に魔法使いによる部隊も編成される。
魔法使いは戦場において大きな力を発揮するが、絶対数が少ないため有効に活用することが求められる。
例えば、強力な遠距離狙撃魔法を扱える魔法士は、軍の攻撃の要だ。彼らを落とされると、軍団の火力は一気に落ちる。
魔剣士は、逆に相手の軍の魔法士を倒すために必要な機動戦力だ。俺の前世で言う、騎兵の役割を彼らが担っている。
そのため、この世界では騎兵はそれほど重要視されていない。
もっぱら長距離用の移動手段と言ったところか。俺も馬の乗り方は知らない。
魔法使いは、概ね1軍団につき1000人程度が配属される。そしてこの1000人はそれぞれ100人ずつ千人隊に配属される事になる。
まあ実際の数などは割とガバガバらしいが、基本的な軍の成り立ちはそういうものらしい。
ともかく、近代兵法では、この魔法使い部隊をどのように有機的に使用できるかが、勝敗を分ける重要な要素であり、未来の指揮官を育てるヤヌス校では兵法研究ゼミは重要視されているのだ。
そのようにゼミを三つも掛け持ちしてしまったため、この春の俺の生活はとても忙しいものになってしまった。
アイファやアランに割ける時間も少なくなり、申し訳なく思う。
まあ忙しいということは充実している、ということでもあり、生前にはあまり感じられなかった幸福感も、僅かながら感じる。
エトナとの関係もなんとか良好になり(もはや本人は完全に恋人のつもりだが)、俺の新世界での生活も10年も立てば流石に慣れてきたものだ。
前世を思い出すことも久しい。
そんなとき、俺は一人の人物と新たに出会う事になる。
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