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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第四章 学校へ行こう・三角関係編
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第32話:ヒナの想い

 今回のために学校編が存在したと言っても過言ではありません。

 


「おはようございます」


 その日の朝、俺はいつも通り学校に行く時間に起きてきた。

 アランやアイファは起きておらず、リビングにはアティアがいるのみだ。


「あら、アル、おはよう。今日は学校休みじゃなかった?」


「いやちょっとヒナと出掛けてきます」


「え、デート⁉︎」


 ん? デート?

 確かにデートと言われればそうかもしれない。1日付き合って街を回るんだからな。


「まあ・・・・・デートみたいなものですね」


「きゃー!! ついに我が息子は往年の三角関係に終止符を打つべく伴侶を選ぶ時が来たのね!」


 アティアは1人で盛り上がっているが、しかし、デートと言われると多少恥ずかしいな。


「母上、僕、見た目大丈夫ですか?」


 俺はアティアに自分の服装が変じゃないか尋ねる。


「―――大丈夫。アルは相当なイケメンよ! さすが、我が息子!」


 顔は聞いてないんだが・・・・。まあ服装でどこかおかしいところがあれば言ってくれるか。


 今回の学年末テスト。

 俺は一点差で初めてヒナに敗北を喫した。


 ヒナは俺に、なんで全然悔しがらないんだ、と言っていたが、別に負けたことが悔しくなかったわけではない。


 ただ、負けた悔しさよりも、彼女が努力して俺に勝ったという事実が、この2年間彼女を見てきた者として嬉しかったのだ。


 それにしてもヒナは学年末テストの勝者の願い、『なんでも言うことを聞かせる権利』をこんな事に使ってよかったのだろうか。


 彼女のことだから、俺にダイナミック土下座をさせて「今まで優秀で申し訳ありませんんんん!!!」とか言わせるとか思っていたが・・・・まあいいか。

 深くは考えないようにしよう。


 朝食を取り、身支度を整え、俺は待ち合わせ場所に向かう。


 ● ● ● ●


 待ち合わせ場所は、学校の正門。


 今日は卒業式なので、4年生が登校してくる姿がちょくちょくみられる。


「卒業か・・・」


 彼らは4年間、この学校で色々なことを学んで、今日社会へと巣立って行く。

 と言っても、就職のめどのついていない者は就活を始めなければならない。


 以前は学校に通っていたというだけで就職先はいくらでもあったが、近年では卒業者数が多くなりすぎ、学校卒業という経歴は特に重要でもないようだ。


 実際、道行く卒業生をみると、学生というよりは就活生や浪人生の類に見えてくる。


 俺も就職先は考えなければならない。


 順当に行けば下級貴族の長男らしく、下級の官職に着くのが順当だが・・・・せっかく魔法や剣を学んだのだから何かこれを生かせる仕事がしたいな。一応の目標は魔導士だ。何をするかはいまいちわからないが。


「あら、はやいのね」


 そんなことを考えていると、ヒナが到着したようだ。


「いや、今来たところだよ」


 まるで少女漫画の待ち合わせだな、と思いつつヒナに向き直る。


「・・・・・・・」


「なによ、ひょ、ひょっとして何か変?」


 ヒナは普段、白いTシャツに短パンなど、簡素な服装をしてくることが多い。


 しかしこの日は珍しく、薄いピンクの可愛らしいワンピースを着て来ていた。


 髪型も、いつもはそのまま流しているのだが、今日はまさにカジュアルアレンジと言った感じで、ところどころ巻きつつ、上手くまとめてサイドテールにされている。

 そして前髪には俺のあげた髪留めが紅く光っていた。


「いや、どこからどうみても大貴族のご令嬢だよ」


「なによ、それ、褒めてるの?」


「ああ、もちろんだ。よく似合っている」


「あ、ありがと」


 そう言いつつヒナは顔を赤らめ、慌てて顔を背ける。


「じ、じゃあ、行くわよ。今日は一日付き合ってもらうんだから!」


「はいはい、なんなりと」


 俺とヒナは歩き出した。


 最初に入ったのは本屋だ。

 なんでもヒナは『軍神ジェミニの英雄譚』に始まる歴代八傑シリーズにハマってしまったようだ。


「もともとはリュデに2巻を借りたのがきっかけよ。正直、歴史小説なんてって思ってなめてたけど・・・・読み出したらハマっちゃったわ」


「ああ、『八傑英雄譚』シリーズは、荒唐無稽な話のはずなのに、妙にリアリティがあるんだ。俺のオススメは『消えたオルフェウスとウオッカ』かな、何故かサスペンス要素が盛り込まれていて、面白く読ませてもらった」


「へえー、やっぱりあなたは色んな本読んでるのね」


「そうだな、ここの本屋の本もほとんど読み終えてしまったからな・・・・新刊が待ち遠しいさ」


「ほとんどって全部買ったの?」


「いや流石に役に立ちそうにないものは読んでないさ、娯楽雑誌とかね」


「・・・・・確かにアルトリウスは流行とかには疎そうね」


「・・・それはお互い様だろう?」


「そうね」


 本屋では以前読んだことある本や、好きなシリーズ物の話で盛り上がった。


 そして、そのまま俺たちは商店街に向かう。


 今日は学校は休みだが、別に休日ではない。

 いつも通り商店街は賑わっていた。


 歩いていると、ヒナが立ち止まり、右のほうをジィーっと見ていることに気づいた。


 視線の先には、可愛らしいぬいぐるみやキーホルダーなどが売っている雑貨屋がある。

 若い女の子向けの小物店だ。


「入るか?」


「・・・・・」


 ヒナは数秒悩んで、


「入る」


 そう言って雑貨屋さんに足を踏み入れた。


「私、あんまりこういうところに来たことなかったから、勝手がわからないわ」


 可愛らしいぬいぐるみを眺めながら、ヒナは言う。

 今日の格好でそんなことを言うと完全に世間知らずのお嬢様って感じだな。

 いや、実際お嬢様ではあるんだろうが、普段の彼女との軽口のたたき合いをしていると、なかなかそうは思えない。

 リュデとも仲がいいみたいだし、上級貴族にありがちな身分差別の偏見がないところもその一因かもしれない。まあ俺にとっては、接しやすくて助かるが。


「いや、勝手もなにも、本屋と一緒だよ。気に入った物があったらレジまで持って行ってお会計するだけさ」


「いや、それくらいはわかるわよ。その、どういうのが可愛いのかとか、そういうことよ」


「ああ、そういうことか、それは人それぞれだからなぁ。ヒナが可愛いと思った物がいいんじゃないか?」


「・・・・・やっぱり柄じゃないわね」


 ヒナは一言呟く。


 いやヒナは折角可愛らしい顔をしてるんだから、可愛いぬいぐるみとかすごく似合うと思うんだが。


「シシリーが、可愛いキーホルダーとか持ってて、私に似合うって言ってこの店の事教えてくれたのよ」


「いやまずシシリーって誰だよ・・・・」


「友達よ。同じクラスじゃない」


 言われて該当人物を探すが・・・・ダメだな、うちの学校は1クラス100人もいるので、関わりがない人は覚えられないものだ。


 クラスの行事でもあれば別なんだがな。


「ていうか、ヒナに俺以外に友達がいたとは・・・・」


「失礼ね、あなたにだけは言われたくないわ」


「・・・・・・・・・・」


 確かに、言われてみれば俺はクラスだとほとんどヒナとしか喋っていないな。


 いや、言い訳をさせて貰うと、そもそも昼休憩くらいしかクラスメイトと話すような時間はないのに、その時間はエトナが押しかけてくるんだ。


 ・・・・・じゃあなんでエトナには友達がいるんだって話は受け付けない。


 その後、俺たちは近場のカフェで食事を取る。


 割と子供でも気軽に入れる感じのカフェで、俺の前世の世界でいうとミ〇タードーナツとか、マ〇ドナルドとか、そういったものに近い気がする。ス〇バほどお洒落ではない。


「へえ、就職先ねえ」


 サンドイッチを摘みながらヒナと話す。


「上級貴族の能無しお坊っちゃんならともかく、貴方くらい優秀なら、勤める先なんていくらでもあると思うけど」


「できれば成人前から働けるところがいいんだが・・・・」


「・・・・理由は聞いても大丈夫?」


「ああ、知っての通り我が家は俺の為に『二つ名』を家庭教師に呼んでしまってね。両親は問題ないと言っているが、妹弟の学校の入学金を考えると、計算通りなら俺の卒業とほぼ同時期に我が家の貯金が底をつくんだ」


 アピウスの給料は高いし、エドモンからの賠償金も残っている。今まで通り暮らしてはいけるが、余裕はないだろう。


「数年後の家の貯金を考える10歳って・・・・」


「なんだよ?」


「いえ、頭が回りすぎるのも苦労するのね。私は家の貯金なんて、今まで1度も考えた事がなかったわ」


「ヒナの家は大貴族だから問題ないだろう?」


「関係ない話じゃないもの。でも、卒業後すぐって12歳よ? 研修ならまだしも正式に雇ってくれるところなんて聞いたことないけど・・・・」


「まあ官職だと正規雇用はあり得ないな」


「軍とかなら実力主義だからもしかしたら入れるかもしれないわね。警備隊の人もアルトリウスを絶賛してたじゃない」


「・・・軍って言っても、もうカルティア併合の軍は出発しちゃったしな。――――ヒナは将来どうするつもりなんだ? 女性といえど、君ほどの家柄と才覚があれば国の重要なポストにつくことも可能だと思うが」


「買いかぶり過ぎよ。多分私はカレン一門の伝統に従って、そこそこの貴族の家に嫁がされるんじゃないかしら」


「―――政略結婚か。もう昔の習わしかと思っていたが、やはり四大氏族ともなれば未だに存在するのだな」


「そうね、何かと政敵が多いものだから、結婚が同盟代わりになるのよ」


「そうか・・・・」


 ヒナは頭がいい。

 とても聡明な子だ。


 だから自分がこの先どうなるかも分かってしまうのだろう。

 自分が政争の道具にされるというのは、どういう気分なのだろうか。


「―――ごめんなさい。辛気臭い話になっちゃったわね。そろそろ行きましょうか」


 しかし、案外、気にも留めていないと言う感じでヒナは言う。


「あ、ああ」


 カフェをあとにすると、俺たちは残りの商店街の店を見て回る。


 八百屋を見ては、最近の野菜の値段は高いだとか、魔道具屋に入っては、首都のくせに大した品揃えがないだとか、ペットショップを見ては、流石に魔物や魔獣はいないなと言ったり。


 他愛も無い会話をしながら街を練り歩く。


「ヒナ、そろそろいい時間だ、家まで送ろう」


 気づくと夜は更け、あたりは暗くなっていた。


 商店街もポツポツと灯りが消え始め、店仕舞いが始まっている。


「そう、ね」


 ヒナはもうそんな時間か、と目を見開きながら頷く。


 俺たちはヒナの家へと向かう。



 ● ● ヒナ視点 ● ●


 今日は朝早くから起きて、ひたすらおめかしに時間を費やした。


 このために買っておいた新しいワンピースを着て、香水をつける。


 大嫌いな姉に頼み込んで髪をセットしてもらう。


 姉は急な願いでも、割と進んで手伝ってくれた。


 なんとなく、ここのところ姉との仲が良くなった気がする。アルトリウスと出会ってからだろうか。


 帰ったら何かお礼をしなければ。


 ――――それにしても楽しかった。


 ヒナは思う。


 『なんでも言うことを聞かせる権利』で無理矢理1日付き合ってもらったが、アルトリウスは嫌な顔一つせず私に従ってくれた。


 そして、やっぱり話してみるとわかる。


 アルトリウスは博識だ。

 多分、ヒナの読んだ事のある本など、彼は幼少期に全て読み終えているんだろう。


 アルトリウスは聡明だ。

 八百屋の野菜の値段から、今の国の景気を予想できる。

 1を知れば10を知るとはまさに彼のための言葉じゃないだろうか。


 アルトリウスは謙虚だ。

 優秀な事を決して鼻にかけない。

 絶対に他人を馬鹿にしたりしない。


 アルトリウスは義理難い。

 両親に受けた恩。

 妹弟に受けた恩。

 友達に受けた恩。

 彼は絶対に忘れずに返すであろう。


 アルトリウスは凄い。

 学年末テスト。

 自分の全てをかけて挑んでようやく分かった。

 この人より凄い人なんていない。

 自分なんてちっぽけな存在だ。


 ヒナは思う。


 自分はアルトリウスが好きだ。


 尊敬もしてる。

 憧れもしてる。


 でも好きだ。


 ヒナは明日、首都を発つ。


 今日、気持ちを伝えて、そのまま一方的に去るつもりだった。


 ―――――でもダメだ。


 明日も、明後日も、その次も、彼と話したい。

 彼と一緒にいたい。


 もう会えないなんて絶対に嫌だ!!


 だからヒナは決意を固めた。

 それは覚悟でもあり、試練でもあった。


 気づくともうミロティック家の屋敷についていた。


「ふう、ようやくついたな。以前来た時は馬車だったが」


「そうね・・・この髪留めをくれたときかしら」


 ヒナは左手で自分の額に触れる。


「そうだな、もう一年以上前の話だ。懐かしいな」


「時間の流れるのって早いわ。本当に」


「そうだな」


 しばし沈黙が流れる。


「・・・・・・・」


 ヒナは口を開く。


「アルトリウス」


「なんだ?」


 ぶっきらぼうに彼は返事をする。

 この2年で随分聞きなれた声だ。


「私は、来期――――正確には明日、転校する事になったわ。転校先はアウローラ」


 言った瞬間、アルトリウスの目が見開かれた。


「―――転校? やけに急だな・・・・しかし、そういうことか」


 アルトリウスは驚きつつも、合点がいったという表情をしている。


「何がよ」


「転校する前に、俺に勝っておきたかったんだろう?」


 やはりアルトリウスには敵わないな。


 一瞬でこちらの思惑なんてバレてしまう。


 まあいいか、今日は全てを曝け出そう。


「まあそうね、私の祖父がアウローラ総督なのは知ってるでしょ?」


「ああ、優秀な執政官だったな」


「祖父に家族全員が呼び出されちゃって、首都にいるミロティック家どころか、カレン一門も数家が同時に大移動よ」


「ほう・・・・・興味深い話だな」


「悪いけど、祖父が呼び出した理由は分からないわよ? 父も母も困惑してたし」


「ああ、別に構わない」


「それでね、転校に伴って、いくつか言っておくことがあるのよ」


「うん」


 肩を竦めながら、アルトリウスが頷く。

 少し寂し気な顔に見えた。自分との別れを、惜しんでくれているのだろうか。


「まず、リュデに、本貸してくれてありがとうってお礼を。最近はほら、テストで忙しくて会えなかったから。あと、あなたの家族にも、お世話になりましたって伝えてほしいわ」


「必ず伝えよう」


「あとは―――」


 ヒナはアルトリウスに向き直る。


 ――――伝えなきゃこの気持ちを――。


 空気が変わる。


「アルトリウス、好きよ」


「へ?」


 ヒナは、目を丸くしているアルトリウスの顎を左手でクイっと掴む。


 背伸びして自分より少し高い彼と目線を合わせる。


「―――んっ・・・」


 そして、静かに唇を重ねた。


 姉の言っていたテクニックをまさか使う日が来るとは思わなかった。


 心臓がバクバク言っている。


 顔はきっと炎のように真っ赤だろう。


 体も絶対震えていた。


「―――――」


 どれほど唇を当てていたのだろう。


 彼の薄い唇の感触は心地よく、想像通りで、いつまででもこうしていられる気がした。


「――――――ん」


 時が止まったように長い時間を経て、ヒナは唇を離す。


「――――ヒナ・・・・」


 アルトリウスは驚きと、恥ずかしさのせめぎ合うような顔でこちらをみている。


「下手だったかしら? ごめんなさい―――その、初めてだったから」


「いや、非常に素晴らしかったと思うが―――――そういう問題ではなく――――」


 アルトリウスは柄にもなく少し狼狽している。


「アルトリウス」


 ヒナはそんなアルトリウスの言葉を遮る。


「――――はい」


「成人までよ」


「はい?」


 呆けている彼に向かって、ヒナは堂々と言い放つ。


「成人するまでに、私は絶対に、貴方に見合うような女になって帰って来るわ」


 ヒナは息をつかずに続ける。


「ドミトリウスさんの事もあるし、何番目でもいいわ。別に籍を入れてくれなくたって構わない。カレン氏もミロティック家も、捨てる覚悟はあるわ」


 いや、何があっても捨てて見せる。

 政略結婚も、伝統も、家門も―――全てのしがらみを断ち切ってみせる。


 ――――言え、言うんだ。自分の覚悟を、想いを。


「だから、15になって再会した時、私を、貴方の側にいさせて欲しい。貴方と、一緒に生きさせて欲しい」


 言った。

 言ってしまった。


「・・・・・・・・」


 アルトリウスは黙っている。


 最初はポカーンと聞いていたが、ヒナの真剣な眼差しをみて、真面目に考え込んでいるようだ。


 数分経った頃だろうか。


「――――俺がエトナの気持ちに答えないのは、彼女が子供だからだ。いや別に俺が子供じゃないと言うつもりではないが、少なくとも精神年齢はそれなりに高いと自負している」


 唐突にアルトリウスは話し出した。


「子供に甲斐性はない。結婚も出来ないし、子供も産めない。交際している男女はいるみたいだが、俺にはどうしてもそこまで割り切れなくてね」


 アルトリウスは続ける。


「だが、時が来たら俺はエトナを受け入れるつもりでいる。もしも、その時まで彼女が俺のことを好きならだがね」


 アルトリウスはヒナに向き直った。

 真っ直ぐに、真剣に瞳を合わせてくる。

 焦げ茶色の瞳が、とても大きく見えた。


「ヒナ、君はとても聡明な女性だ。俺が人生で会った同世代の人間の中で、ここまで話せるのは後にも先にも君だけだろう」


「・・・・それはどうも」


「そんな君が、おそらく長く考え、悩み、出した先ほどの答え―――想いを、俺は子供だからと言って先延ばしにするつもりはない」


「はあ」


 ヒナはあまり頭が働いていない。

 体が火照って、あまり思考が追いついていないのだ。


「だから、先程のエトナの件を踏まえても、俺を好きだと、俺と一緒にいたいと、そう言ってくれるのか?」


 アルトリウスも真剣な眼差しでこちらを真っ直ぐにみる。


 唐突な質問返しに多少戸惑ったが、ヒナは力を振り絞って答える。


「―――さっきも言ったじゃない、何番目でもいいって。アルトリウスは凄い人だもの。私なんかが独占できるような器じゃないわ」


 これは本心だ。 


 ヒナは知っている。


 エトナがどれほど、愚直なまでにアルトリウスのことを想っているか。

 そもそも、ヒナに決心させたのはエトナの言葉だ。


「――――わかった。ならば誓おう」


 アルトリウスはそう言うと、大きく息を吸い込んだ。


 そして不意にヒナに手を伸ばし、ギュッと抱きしめた。


「―――⁉︎」


 ヒナは突然の抱擁に驚いて飛び上がりそうになったが、アルトリウスの暖かい胸はとても安心感がある。


 それに彼の心臓も、バクッバクッと激しく動いていた。

 彼も緊張しているのだ。と思い、多少心が安堵する。


 そしてアルトリウスは宣言した。


「天上の神ユピテルと、偉大なるわが故郷ヤヌスに誓う。アルトリウス・ウイン・バリアシオンは、ヒナ・カレン・ミロティックを愛し、生涯添い遂げると」


 ユピテルとヤヌスに誓う言葉は共和国では最も強い誓約の意味を持つ。


 アルトリウスは、ヒナの告白に対し、最も強い誓いで答えたのだ。


 気づくと、ヒナからは大粒の涙が出ていた。



 ● ● アルトリウス視点 ● ●


 正直に言うと薄々感づいてはいた。

 というのは転校するという話についてだ。


 ミロティック家が引越しの準備をしているという話はつい最近父から聞いた。

 そして最近のヒナの様子を見るに、もしかしたら転校するのかも、という予想は立てていた。


 正直俺は相当落胆した。


 ヒナは同世代では珍しく、俺と対等に話せる人間だ。

 俺のこの2年間の学校生活は、彼女のおかげで充実したものであったというのは過言ではない。


 そして今日、俺はそんな彼女に好きだと言われた。


 情熱的に初キスを献上された。


 家を捨ててでも俺と生きたいと言ってくれた。


 カレン一門は伝統的に婚姻を重要視する。そんな中でも、盟主と言われるミロティック家のご令嬢だ。

 下級貴族のウイン一門では、家格が釣り合わず、認められないからということだろう。

 

 そんな彼女を拒む術が俺にあるだろうか。


 そもそも彼女には二度も命を救われている。


 その恩を盾に自分と付き合えと、彼女にはそう言う事もできる。


 でもヒナは俺の意思を尊重した。


 おまけに、ヒナはエトナのことを考慮していた。


 俺は凄すぎるからヒナ1人で独占するには器が大き過ぎるらしい。なんたる過大評価。


 とにかくヒナがそこまで考えているのなら、俺に断る理由はない。


 むしろ俺はこの瞬間、彼女が愛おしくてたまらなかった。


 エトナには謝ろう。


 傷つけることになるかもしれないが、俺は自分に正直でありたいと思う。


 その日、ヒナは泣き止むと


「ありがとう、アルトリウス。もう大丈夫よ」


 そう言い、俺の胸から離れる。


 あ、結構いい感じだったのに残念、と思っていると、ヒナは俺の顎を左手でクイッと自分の方に向ける。

 再び濃厚なキスを浴びせてきた。


 いやこいつ本当に初めてか?


 明らかに慣れた動きなんだが。


「――――ん」


 いや舌はダメだって、まだ早いって、と思いながら俺も舌を入れてしまう。


 ヒナは体をビクッと震わせ、驚いて唇を離してしまった。


 やり過ぎたかな、と思ったが、


「・・・・やっぱりまだ恥ずかしいわ」


 そう言い、ヒナは頭を俺の胸にトンっと当てる。


「そうだな」


 可愛い仕草だな、と思いつつ、同時に10歳にキスする40歳ってやばくないか、とも考える。


 ヒナは精神年齢が異常に高いからどうしても他の子と同じ10歳には思えないんだよな・・・。


 ヒナはふぅっと一息ついて、3歩ほど俺と距離を取る。


「アルトリウス。私は絶対に貴方に見合う――――貴方の隣に立てるような女になって帰ってくるわ」


 あ、そういえばそんな条件あったな。


 というか普通、俺の方がカレン・ミロティック家に見合うような男になると宣言するべきではないだろうか?

 どう考えても過大評価だ。


「アルトリウスも、その、色々頑張って。私はアルトリウスがどんな職になってもついて行くわ」


 そして、きっと執政官か大元帥ね、と小声で付け足してくる。


 いや、ひょっとして暗にプレッシャーをかけているというわけか?

 最低でもそれくらいにはなれと・・・・。


「あ、ありがとうヒナ。君も頑張れ」


「うん。あ、ドミトリウスさんにも、よろしく」


 多少戦慄しながら答えると、エトナの名前が飛んできた。

 そうだな。

 まずは彼女と話をしないと。


「――――ああ、任せておけ」


 男の甲斐性の見せ所だろう。


 俺の最終兵器DOGEZAを使う時が来たようだ。


「じゃあ、またね」


 ヒナはそう言い、名残惜しそうに手を振る。


「ああ、短い時間だったが、世話になった」


 俺はペコっと頭を下げ、その場を後にする。


 振り返りはしない。


 次に会うのは5年後だ。ヒナがそれを望むなら、俺に言うことはない。


 再会した時、ヒナが落ち込まないような、立派な男になろう。


 俺はそう、固く決意をするのであった。




 アルトリウスは元々鈍いほうですが、前世で恋人に裏切されていることもあって、女性の気持ちには一歩引いた姿勢です。

 ですが、ヒナやエトナはぐいぐい来るので、守りあぐねています。また、彼女たちがまだ純粋な子供であるということも、アルトリウスが心を許した一因です。

 これが大人の女性だったら、これほど気を許し、簡単に気持ちを信じることはなかったでしょう。

 ・・・・別にロリコンではありません。


 さて、今回でヒナはアルトリウスの元から去っていきます。

 もちろん転校したあとの彼女の進捗もちょくちょく書くつもりです。多分主人公よりも主人公してます。

 

 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。



 


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