第31話:最後の勝負
今回もヒナ回です。
書いてる最中、パソコンが落ちて焦りました・・・。バックアップ機能って素晴らしい。
本日用事があるので、深夜の更新ができないと思います。
● ● ヒナ視点 ● ●
学年末テストは全部で8教科。
数学、歴史学、言語学、地理学、生物学、物理学、教養学、魔法学。
それぞれが100点満点。
合計800点だ。
ここのところテストはだんだんと難しくなり、さしものアルトリウスも満点を取ることは少なくなってきている。
もちろん点が悪くなるのはアルトリウスだけではなく、それはヒナにも言えることだった。
ちなみに、これまでの勝負でヒナは1科目だけ1点差でアルトリウスに勝利したことがある。
そのときは飛び上がるほど嬉しかったものだが、よく考えてみれば、総合点では15点以上の差が開いていた。
これで勝負に勝ったとは言い難い。
勝負を挑んだ以上、ヒナは今回戦略を持ってテストに臨むことにした。
来年から、ヒナはアウローラに転校する事になっている。
これはまだ誰にも言っておらず、アルトリウスはこれが最後の勝負になるとは夢にも思っていないだろう。
でも、ヒナにとっては彼に勝つ最後のチャンスだ。
アルトリウスに勝って、この気持ちは只の尊敬や憧れじゃないって、堂々と彼に気持ちを伝えて、そしてここを去ろう。
ヒナはそう考えていた。
今回、『負けた方が勝った方の言うことを聞く』、というルールを追加したのは、本気を出したアルトリウスに勝つためであり、そして自分を追い込むためでもある。
もっとも元からテストで手を抜くような人ではないが・・・なにせアルトリウスは今回が最後の勝負であることを知らない。
―――全力の彼に勝って、終わらせよう。
ヒナは心に決めていた。
今回のテスト勉強について、ヒナの行動は徹底していた。
授業中はもちろん、授業後も、登校中もテストの対策を考えた。
教科書を隅から隅まで読み込み、先生ごとの出題傾向や、今回の範囲で先生が言っていた教科書に載っていない話なども思い出し、ノートにまとめる。
図書館で専門書を借りては、家で寝る間も惜しんで知らない知識を詰め込む。
教科ごとの対策ノートはそれぞれ3冊は作ったかもしれない。
アルトリウスはおそらくほとんど800点に近い点数を取ってくるだろう。
彼の凄さは、難しい問題が解ける、と言うところもそうだが、それ以上に異常なほどのミスが少ない点が挙げられる。
人間、誰しも問題の読み違いや、マークの間違いなどは出てしまうものだ。
でも彼には全くといっていいほどそれがみられなかった。
ヒナはこれを経験の差だと考えた。
ヒナはテストまでの2週間、自分で模擬問題をつくり、毎日9教科の模擬問題を解く作業を開始した。
各教科100問。
一日800問。
自分で作った問題ではあるが、やはり、採点してみると何箇所かケアレスミスは出てくる。
ヒナはとにかくミスのないように問題を解く事に没頭した。
そして、テスト前日、ついに自身の模擬テストで800点満点を取る事に成功した。
――――死角はない。
できることは全てやっただろう。
今までの自分だったら、途中でくじけていたようなことや、無駄だと思ってやらなかったこともやった。
―――絶対に勝ってみせる!
鬼の形相でヒナはテストに臨んだ。
● ● アルトリウス視点 ● ●
7教科目のテストが返却された。
俺は自分の答案を確認する。
そこには『100』の文字とそれを囲む花丸。
「100点だ」
俺は隣の席に座る赤毛の少女に答案をみせる。
「残念だったわね、私もよ」
そう言いながら赤毛の少女―――ヒナは俺に答案をみせる。
答案には俺のものと同じように『100』の文字と花丸が書いてあった。
『負けた方が勝った方の言うことをきく』という追加ルールを自分で設けてきただけあって、今回のヒナは気合が違うようだ。
テスト勉強で疲れたのか、ここのところは授業中とても眠そうにしているが、返ってくるテストの答案は素晴らしい内容のものばかりだった。
今のところ、7教科が返却されて俺は合計点696点。ヒナは697点。
そう、俺は1点負け越していた。
正直、テストのレベルは過去に類を見ないほど難しいものだった。
今回は俺も本気で勉強をしなければ100点など取れなかっただろう。
そして驚くべきは同様に高得点を連発してくるヒナだ。
ここまで彼女が点数を伸ばしてくるとは思っていなかったが、彼女の目の下にはクマがあり、このテストのために修羅のような勉強をしてきたのだろうと思うと納得もする。
「いよいよ次が最後の教科ね」
ヒナは緊張の面持ちで俺に語りかける。
「ああそうだな・・・・教科は」
「魔法学よ」
そう、残された教科は魔法学だ。
俺のもっとも得意な教科である。
今回は魔法学も意味がわからないほど難しかったが、なんとか全ての問題を解く事ができた。
というかここの教師は俺に100点を取らせまいと躍起になってテストを難しくしているようだが、平均点が30点を切っていることを知っているのだろうか。
「それでは、答案の返却をはじめます」
魔法学のテスト返しが始まった。
● ● ヒナ視点 ● ●
ここまでは一点差で勝ち越しているが、最後の教科は魔法学。
魔法学はアルトリウスのもっとも得意な教科であり、彼は魔法学のテストだけは今まで100点を落としたことがない。
自分が100点ならばなんの問題もないというところであるが、ヒナは魔法学のテストで、一問だけわからない問題があった。
記号選択問題だったので一応4分の1で当たる可能性があるが、点数配分はおそらく2点。
つまり、それが間違っていれば、今回、合計点で負けてしまう可能性は高い。
「それでは、答案の返却をはじめます」
魔法学が返却された。
答案は男子から配られるので、当然アルトリウスが先にもらう。
答案をもらい、席に着くなり彼は答案用紙をこちらにみせる。
「――――流石ね」
『100』点。とそこには書いてある。
つまり自分はここで100点を取らなければ勝負に負ける事になるのだ。
大丈夫。
ケアレスミスはない。
あの4択問題だけ。
絶対合っている。
自分を信じよう。
ヒナの答案が返された。
「98」
答案にはそう書かれていた。
やはり例の四択は間違っていたようだ。
綺麗にバツがつけられている。
―――勝てなかった!!
またしても勝てなかった。
ここまでやったのに、勝てなかった。
これ以上何をすればよかったのだろうか。
ひょっとしたら神様は、自分に告白をさせる気はないのかもしれない。
神様とアルトリウスがグルになって、ヒナのわからない問題を作ったのだ。
そんなことを思いながら席に着く。
「アルトリウス、あなたの勝ちよ」
そう言ってヒナはうなだれながら答案を机に置く。
しかし、アルトリウスはなにやら答案と、模範解答の紙を見比べてブツブツと何かを言っている。
そして、あ、そうか、と呟くと、答案を持って教壇の先生のところまで歩いて行った。
そして帰ってくるなり、うなだれていたヒナに向かって言った。
「―――おめでとう。君の勝ちだよヒナ」
そう言って彼は私に自分の答案を見せる。
彼の答案の右上の100という字は赤いバツで消されていた 。
そして、その横には
『98』
そう書いあった。
「え、どういうこと?」
寝不足のせいか、あまり頭が働いていなかった。
「いや、訂正だよ。一問だけ間違ってたんだが丸が打たれていてね。まあ採点は人がするものだからミスが出るのは仕方ないが・・・・どうせ俺のは100点だろうって全部丸つけているんじゃないだろうな・・・」
アルトリウスは怪訝な顔で答案を眺めている。
―――訂正?
アルトリウスの魔法学のテストは100点ではなく98点だったのだ。
つまり合計点は――――、
ヒナが795点。
アルトリウスが794点。
一点差でヒナの勝利となる。
「―――勝った? 私が?」
「ああ、君の勝利だ。おめでとう」
アルトリウスは笑顔でヒナを祝福した。
―――でもなんで?
なにも言わなければ勝ってたのに。
採点ミスは教員のミスなので、点数が下がる場合申し出なくていい事になっている。
――――いったいどうして・・・。
初めて勝利したという嬉しさと、勝利を譲られたという悔しさが、ヒナの中でせめぎあった。
「――――ぐす・・・なんで? ・・・・そのままにしてたら・・・・勝ってたのに・・・・ぇぐ」
気づくと大粒の涙が流れていた。
「そんなこと言われてもな。真剣勝負だろ? 俺は運で君に勝っても嬉しくないからな」
「えぐ・・・なによもう・・・・負けたくせに・・・偉そうに・・・・ぐすん・・・悔しがりもしないで・・・」
「別に悔しくない訳ではないんだが・・・」
アルトリウスは困ったように言う。
「嘘よ・・・ぐすん・・・私いっつも悔しがって・・・ひっく・・・バカみたいじゃない・・・」
「おいおい大丈夫か? 嬉し泣きもいいが授業中だぞ?」
「わかってるわよばかあ!!!」
そうだ、授業中だ。
みんなこちらを見ている。恥ずかしい。
そう思いヒナはとにかく涙を必死にこらえようとしたが、涙は全く止まらない。
結局ヒナはその日の放課後まで泣きっぱなしだった。
● ● ● ●
やっぱりアルトリウスはすごい。
今回は自分が勝ったが、正直このレベルの勉強を毎回するのはキツい。
普段からこの点数を連発する彼はやはり普通ではないだろう。
それになにより、ヒナは思う。
彼は悔しがることもせず、素直に自分の敗北を認め、私の勝利をたたえた。
自分は今まで彼に負けるたび、物凄く悔しかった。
なんで勝てないんだ、どうしたらいいんだ。
周りに散々当たり散らしていた気もする。
アルトリウスはすごい。
尊敬じゃなくて、憧れでもないって、それを証明したくて頑張ったけど、勝った先で思うのはやはり彼に対する尊敬と憧れだ。
でも今なら言えそうだ。
尊敬でも憧れでもないもう1つの感情も。
「ようやく泣き止んだな」
「うるさいわよ」
放課後、ようやく泣き止んだヒナに、アルトリウスは話しかけてきた。
こうして放課後に2人で話すのも、残りわずかだろうか。
嬉しさと悔しさと、そして寂しさと。
色んなものが入り混じった涙を出し尽くしたのだ。
「それにしてもよく頑張ったな。俺も手を抜いたつもりは毛頭ないが、まさか魔法学で100点を落とすとはな・・・・」
「今回は、私の運がよかっただけよ。それにこんなレベルの勉強を毎回してたら体がもたないわ」
「おや、やけに殊勝じゃないか」
「うるさいわね! 運も実力のうちよ!」
「はは、そうだな」
彼は一呼吸置く。
「―――それで、ヒナ。俺にいったいなにをさせるつもりなんだい?」
そう、今回のテストの勝負は『負けた方が勝った方の言うことを1つ聞く』というものだ。
ヒナは最初から、勝ったときなにをさせるかは考えてあった。
「来週の月曜日。修了式の次の日ね。たしか4年生の卒業式の関係で、下級生は学校が休みよね」
「ああ、そうだな」
「その日、私に付き合ってもらうわ」
そう、その次の日、ヒナはアウローラに発つ。
そこで彼に気持ちを伝えるのだ。
読んでくださり、ありがとうございました。合掌。




