第3話:母国はユピテル共和国
モスコミュールです。よろしくお願いします。
今回は主人公の生まれた国の歴史についての説明です。小難しいし長ったらしいのに内容がない。
国とか、大陸とかはまたあとがきで纏めます。地図でみないとわからないだろうなあ…。
3歳にもなると、ようやく歩くのにも慣れ、行動範囲がうんと拡大されていた。
もっとも、行動範囲と言っても、外を遊びまわるというよりは家の中で本を読むと言うことが多かった。
このバリアシオン家は、一応貴族に属するため、屋敷は大きく、たくさんの部屋がある。
その部屋の一つに、書斎――というか読書部屋のようなものがあり、壁一面の棚を埋める程度には蔵書が存在した。
俺は動けるようになると、1日の大半を本を読むのに費やした。
勿論、最初はこの世界の字が分からなかったので、よく母アティアや、奴隷のチータに手伝ってもらった。
本が読みたいというと、母もチータも喜んで文字を教えてくれるのだ。
どうやら、俺より先に生まれたチータの子供――つまりはリュデの姉だが――は本などには全く興味が無かったようで、今でも読み書きできるか怪しいレベルらしい。
奴隷なので、最悪読み書きが出来なくても良いみたいだが、貴族は読み書きが出来ないと他の貴族家から馬鹿にされるという。
そのため、一応バリアシオン家の長男である俺が読み書きを出来るようになることは喜ばしいことであるとか。
最初は子供用の簡単な絵本から始めて、半年ほど経つころには完全に読み書きをマスターしていた。
家族は俺の覚えの速さに驚愕していたが、流石に生前は超難関といわれる大学を出ているし、今使っている脳は生前と比べてはるかにフレッシュだ。
枕草子を読むよりは楽な作業だった。
さて、本が読めるようになるとこの世界のことについてはだいぶ理解できるようになった。
初めに、地理に関してだが、この世界では大きく分けて3つの大陸が確認されている。
まず、北方に横長に広がるもっとも巨大な『クレスタ大陸』
次に、南西に広がる『ヒットリア大陸』
最後に、南東に位置する『大魔境』と言われる大陸である。
不穏なネーミングをしている大魔境というのは、存在は確認されているのだが、殆ど実態が分かっていない大陸のようだ。
大魔境は他の大陸と大きく離れており、航海が難しく、上陸して帰った者はほとんどいないらしい。
一説によると大魔境は魔族が支配していて、辿り着いた航海者を襲っているそうだ。なんともロマンあふれる大陸である。
クレスタ大陸とヒットリア大陸は、比較的位置が近く、大牙海という海域を挟んで存在している。ほんの一部陸続きの場所もあるようだ。
この二つの大陸は人の生存圏であり、様々な国が並立している。
まず、俺が生まれた『ユピテル共和国』。
この国の領土は広大で、クレスタ大陸の中央南西部から、大牙海を挟んでヒットリア大陸の沿岸部までを治めている。
俺が生まれ住んでいるのは首都のヤヌスだ。
また、クレスタ大陸北部には、ユピテル共和国から、広大なブレア大森林と北方山脈を越えたところに、『ユースティテイア王国』という巨大な王国があり、周辺の小国を従えているようだ。
ユピテル共和国からは遠いからか、詳しい記述は載っていなかったが、クレスタ大陸東部には、豊かな資源を利用した商業都市国家が多数存在し、『パルトラ同盟』という国家群を形成しているらしい。
パルトラ同盟は、その豊かな土地を狙ってユースティティア王国から度々侵略されることがあり、小規模な戦争を繰り返している。
また、ヒットリア大陸のユピテル共和国以南には、広大な砂漠と未開地が広がっている。
ここは大魔境と違って人が立ち入れないわけではないが、誰も砂漠に魅力を感じないのかあまり開拓がなされないようだ。
後から父アピウスに聞いた話なのだが、ユピテル共和国が大牙海を制してヒットリア大陸に進出し、今の領土を得たのは割と最近の話であり、今は内部を治めるのに四苦八苦しているそうだ。
とはいえ、こう聞くとユピテル共和国は発展途上国に思えるが、実は歴史は長い。
ユピテル共和国はもともと、大牙海中央部に面した『ユピテル』と言う名の都市国家の一つだった。
都市国家とはその名の通り、1つの都市の規模の国家という意味だ。
都市国家として成立したのは約1500年ほど前であり、当時は土木と農耕、建築に精を出す真面目な民族だったようだ。
しかし、約1200年ほど前、クレスタ大陸東部に『イオニア帝国』が起こり、周辺国家への侵略を開始した。
イオニア帝国は瞬く間に大陸中央部を制圧し、さらに南下をすすめた。
当然、イオニア帝国は大牙海の水産物に目をつけ、沿岸部へ進軍し、圧倒的軍事力で、大牙海沿岸部を征服。
ユピテルは抵抗も虚しく、従属都市とされ、長い間、帝国の圧政や重税に苦しめられた。
現在のユピテル共和国民は王政を嫌う傾向にあるのだが、それはこのイオニア帝国の植民市時代の苦い記憶からだと考えられる。
イオニア帝国による圧政は長く続いたが、その終わりはあっけないものだった。
約700年ほど前、ユピテルの若者の一人、『オルフェウス』は他に7人の同士と共にクーデターの決起をする。
イオニア帝国はクーデター鎮圧のため1万の軍勢を差し向けるが、オルフェウスらはたった8人でこれを撃破。
破竹の勢いでイオニア帝国の首都を陥落させ、帝国を滅亡させると、ユピテルにて、民主共和制の樹立を宣言。周辺都市国家を併合し、ユピテル共和国を成立させる。
たった8人で大部隊を撃破する―――というのは、にわかには信じがたい話だが、驚くべきことに、この世界ではありえないとも言い切れない。
――――なぜなら実はこの世界には《魔法》が存在するからだ。
この世界では魔法は学べば誰でも使うことが出来る、らしい。
もっとも、本人の努力や、生まれ持っての魔力量の才能もあるので、誰もが巨大な火の玉を飛ばしたりできるわけではない。というかそんなのはほんの一握りだとか。
ただ、古来より、魔法を使った兵士と言うのは存在していて、戦場では昔から重宝されてたようだ。
イオニア帝国を倒したオルフェウスら8人は、『八傑』と呼ばれ、一人一人が逸話を持つほど有名であり、なかでもユピテル共和国の父と言われる『オルフェウス』と、現在のユースティティア王国の開祖となる、『セントライト』は赤子でも知っている程だ。
話は逸れたが、そのような経緯があってユピテル共和国は成立した。
ユピテル共和国の周辺都市国家は融和的であるユピテル共和国を歓迎し、併合を進んで受け入れた。
時には王政による小国家との戦争をしながら、ユピテル共和国は勢力を拡大していった。
ちなみに共和国の発展の背景には、八傑の後継者達による強大な軍事力も関係しているのではないかと言われている。
もっとも現在の八傑は、2名は行方不明で、3名はユースティティア王国に渡っており、ユピテル共和国には残り3名の八傑がいるのみだとされる。
まあ御伽噺みたいな話だしな。
本当にいるなら、俺もいつかあってみたいものだ。
約70年程前に、共和国は大牙海のクレスタ大陸側沿岸部を制したが、それによって、大牙海をめぐり、ヒットリア大陸で最も巨大な商業国家キュベレーとの戦争が始まってしまう。
30年にも及ぶ戦争は苛烈を極め、共和国、キュベレー共に多大な犠牲を出した。
八傑を擁する共和国は何度か敗北を喫し、追い詰められながらも、ギリギリのところで『軍神』と呼ばれる男によって大きく戦況は巻き返され、一気に戦争はユピテル優位となる。
キュベレーは最後まで徹底抗戦の姿勢を変えず、ついには完全に滅んでしまったが、キュベレーを倒したことにより、大牙海周辺全てを治める、巨大な国家が誕生することになった。
しかし、領土が広大になってしまったために、共和国は領土の防衛や、併合した都市国家の謀反などに手を焼くようになり、せっかく制した領土の開発などやっている暇などなく、現在に至るまで、共和国の領土はほとんど変化していない。
結局、統治下にある領土のうちいくつか――特に首都から遠い地方は《属州》として、ある程度独立した自治に任せるしかないのが現状だとか。
俺は前世では、本と言えば参考書か、流行りの直木賞受賞作などしか読まなかったが、歴史書もなかなか面白いものである。
この家の読書室には歴史についての本は大量にあり、おかげで、この世界の歴史はおおむね把握できたと言っていいだろう。
しかし、気になるのはユピテル都市国家成立以前、つまり1500年前よりも過去の歴史書がほとんど存在しない事だ。
紙がまだ発明されていなかったから文献に残せなかったのか、歴史の研究が進んでいないのか。
様々な事が考えられているらしいが、数少ない記述によると、人間による都市国家の成立以前は、この世界は《神族》による統治をされていたらしい。
また、何か詳しい文献を見つけたら紹介することにしよう。
それにしても、魔法が使える世界とは男心をくすぐるものだ。
どこかで学ぶ機会があればいいのだが。
《ユピテル共和国》
通称共和国。クレスタ大陸南方と大牙海を挟んでヒットリア大陸北方。
共和制を重んじる世界最大級の国家。イオニア帝国のせいで専制政治が嫌い。
主人公の生まれたのは首都のヤヌス。大都会。
《ユースティティア王国》
通称王国。クレスタ大陸北方の多くを占める。
周辺の小国を概ね傘下にしている超軍事国家。ユピテルとは山脈と森林を挟んでいるので交流しにくい。
《パルトラ同盟》
クレスタ大陸東部の国家群による同盟。肥沃な土地柄から割と国力はあるが、王国にビビりまくっている。
他は基本的に小国や都市国家などか、国を形成していない蛮族とかです。
大魔境は作中に出てこないんじゃないかな?