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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第三章 学校へ行こう・出会い編
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第25話:失踪

 俺がミスワキを吹っ飛ばしたという話は学年中に広まっていた。


 というのも、廊下ですれ違う生徒がみんなこちらをみてはヒソヒソ話をしてくるのだ。

 噂が広まっていると見るべきだろう。

 やはり気絶させたのはまずかったか?


「バリアシオン、私の名前出さなかったでしょ」


 席に着くなりヒナは俺に話しかけてきた。


「まあ俺の問題だからな。あくまで名前を言わなかっただけで、ミスワキがゲロっちまえば意味のない気遣いだが・・・・」


「うちにはなんの連絡もなかったわ」


「そうか、それはよかった」


「よくないわよ! そうやって1人で責任とって・・・・それに、今広まってる噂聞いた?」


「噂?」


「アルトリウス・ウイン・バリアシオンが、エドモン党の勧誘に来た副長を一方的にボコって宣戦布告したって噂」


 宣戦布告って・・・・。


「合っているようで合っていないな」


「そうなのよ、それでさっき、気になってエドモンの教室に行ったら・・・・ものすごい数の人が集まっていたわ」


「仰々しいな」


「そうね、でももしかしたら何か仕掛けて来るかもしれないわ。気をつけておいて」


 仕掛けるって何だ?

 人数にかまけて襲うってことか?

 そんなことをする意味が俺にはよくわからない。 


「まあ、一応気をつけるよ。ありがとう」


「べ、別にお礼なんて言われる事してないわよ!」


 ヒナはプイッと顔を背けて言った。


 彼女は最近は毎日のように俺のあげた髪留めをつけて来てくれている。

 気に入ってくれたなら幸いだ。


● ● ● ●


 俺はしばらくの間、帰り道や、1人でいるときなどは気を張っていたのだが、特になにも変わったことは起こらなかった。


 そりゃあそうだ。

 大人数で寄ってたかって俺に襲い掛かってボコボコにしたところで、後から困るのは喧嘩を吹っ掛けた彼らのほうだ。

 子供とは言え、そこまでして傷害罪が適用されないとも思えない。

 その程度の事、いくら10歳でもわからないことはないだろう。


 そもそも、宣戦布告したとかいうけど、俺は実際のところ何もしていないし、勧誘を断っただけだ。

 ミスワキの件にしても、学校を通して家同士で話は済んでいる。


 いったい何が目的なんだ?


 言いようのない疑念だけが、俺の頭をよぎる。


 周りに迷惑をかけるわけにはいかないので、ここのところ俺は基本的には1人で行動することにした。


 もしも、本当に奴らが寄ってたかって襲ってきたとしても、10人程度ならば追い返す自信もある。

 学校の生徒のレベルなんてそんなものだ。

 流石にヒナと同等の奴が束になってかかってきたらきついが、まあ逃げ延びることくらいならできるだろう。


 ヒナは別れ際、いつも心配そうな顔をしていたが、それほど心配することではない。

 所詮は子供が相手なのだから。


 正直にいうと、このころの俺は完全に自分の能力を信頼していた。


 上級魔法をいくつも覚え、身体能力も高く、剣術では同世代屈指の実力を持つカインにも匹敵する。

 今すぐ魔法使いとして社会に出されても、そこそこやっていける自信もあった。


 むしろ、エドモンという少年が、いったい人を集めて何をしようとしていたのか、俺は興味すら持っていた。


 だからその日、そのことを聞いたとき、俺はなぜもっと早く対処しなかったのか―――あるいは、なぜもっと深く考えなかったのか―――数日前までの自分を呪うことになる。


「――――エトナちゃんが帰らないらしいの」


 アティアが俺にそう告げた。



 ● ● エドモン視点 ● ●


 エドモン・ダンス・インザダークは大貴族だ。


 ユピテル共和国の貴族には12の氏族が存在するが、その中でも4大氏族と言われる系譜が存在する。


 血統と伝統を重んじるカレン氏


 武力と実力を誇るクロイツ氏


 技能と才能を見出すファリド氏


 富と財を司るダンス氏


 エドモンはこのダンス氏の盟主インザダーク家の長男だ。


 名門中の名門。

 貴族中の貴族。

 

 祖父は執政官の経験もある、敏腕の元老院議員だ。

 父もいずれは大きな職を得るだろうポストについている。支持者も多い。


 つまりエドモンも、将来は元老院議員は約束されたようなもので、間違いなく重役は堅い。


 彼は外見もよく、勉学も運動も剣術も魔法もすべて優秀に収めた。

 このことも相まってエドモンは若くして将来の執政官候補、などとも言われていた。

 エドモンは満更でもなかった。


 ――――自分は選ばれた人間だ。

 

 とそう思った。


 何もしなくても周りは自分を重視し、敬い、クラスの生徒はもちろん、教師だって自分に一目置いていた。

 学校では皆が、エドモンと懇意にしたがった。

 女子は、将来結婚して、約束された裕福な未来を得るために。

 男子は、いずれ、どこかで良い職を斡旋してもらうために。


 当然だ。

 自分は選ばれた人間なのだ。



 入学してもうすぐ1年というころ、エドモンは一目惚れをした。


 図書室で日差しに照らされながら1人本を読んでいる少女。


 その黒髪は艶が見え、とても美しかった。


 今までにも何度か女子に惚れたことはあった。

 その彼女達はエドモンが言い寄るとすぐに頰を赤く染め、エドモンの物になった。


 今回のこの少女もそうなるに違いない、とそう思っていた。


「そこの女、気に入ったぞ、僕のものになれ」


 意気揚々と彼は少女に話しかける。


 少女は黒髪をなびかせてこちらを向いた。

 やはり上玉だ、とエドモンは思う。


「あなた誰?」


 怪訝そうな表情で少女が放った言葉は、エドモンの望んだものではなかった。


 しかしエドモンは焦らない。

 無知は罪ではない。


 これから自分のことを知ってもらえれば、必ずこの少女も自分のものになろう。


「これは失礼、僕はエドモン・ダンス・インザダーク。インザダーク家の長男にして、この学校で最も優秀な男さ。君に興味が湧いたので話しかけたのだよ」


 インザダークの名前は貴族でなくとも、誰でも知っているはずだ。何も問題はない。


「へー、あのインザダークの」


「ああ、将来は間違いなく元老院議員さ」


 ここまで言えば、どれほど鈍い者でも気づく。

 ああ、彼とは懇意にしていた方がいい、と。


 しかし、黒髪の少女は特に表情を変えずに、言い放った。


「悪いけど、私、他に好きな人いるから。ごめんなさい」


 そう言って、彼女は席を立つ。まるで、エドモンに、欠片の興味もないように。


「ま、待て! まさかこのエドモン・ダンス・インザダークを振るのかい? この学校で、最も優秀な僕を・・・・っ」 


 そういうと、彼女は動きを止めた。

 ああ、よかった、やっぱり皆、僕には逆らえないんだ―――。

 そう思い、安堵の表情をするエドモンだったが、対面する少女の顔は少し怒気が包まれている気がした。


「この学校で、最も優秀な人は、あなたじゃない」


 ぴしゃりと、彼女は言い放った。


「あ――――え?」


 言葉が出なかった。


 あり得ない。

 ダンス氏だぞ?

 インザダーク家だぞ?


 誰よりも優秀で――誰よりも上に立つ男だぞ?


「いったい、誰が・・・・・」

 

 ショックの中、エドモンが言葉を振り絞ったとき、少女は既に、出口へと向かっていた。

 こちらには一瞥もくれない。 


 その後ろ姿を見ながら、エドモンは愕然としていた。



 それから暫くして、学年最優秀賞の発表があった。


 壇上にいるのは、エドモンではない。

 見慣れぬ焦げ茶髪の少年だった。


 アルトリウス・ウイン・バリアシオン。


「―――ああ、あれがヤヌス校始まって以来の神童か」


「―――無詠唱で魔法が使えるらしいわ」


「―――下級貴族の生まれなのに、すごいなあ」


「―――私、初めて見たかも! すごく凛々しい顔・・・ファンクラブ入っちゃおうかな」


「―――あいつ、剣術も半端ないらしいぞ」


 周りから、次々と聞こえてくる言葉は、エドモンにとって苦痛以外の何物でもなかった。

 

 ――――――屈辱だ・・・・・っ! 


 エドモンは許せなかった。

 自分をコケにした少女も、自分を差し置いてもてはやされるアルトリウスも。


 エドモンは彼を敬う友人に、色々と調べさせた。


 あの時、エドモンを否定した黒髪の少女の名はエトナ。

 そして、こいつはいつもアルトリウスの傍にいるらしい。


 どちらも下級貴族、ウイン氏の人間だ。

 

 エドモンは怒りに震えていた。

 下級貴族ごときに、最上級貴族たる自分が無下に扱われたのだ。


 ――――思い知らせなければならない。


 同じ貴族でも上級と下級では人間としての格が違うのだ。


 確かに学校では子供は平等に扱われることが原則だ。

 だが卒業後、社会に出た時、付いて回るのは学校の成績ではなく、家の身分だ。


 現に、元老院議員も多くは4大氏族から出ているし、官職も軒並み同じだ。


 社会に出るために通う学校で、身分の差を教えないというのは愚の骨頂ではないか。


 エドモンは行動を開始した。



● ● ● ●


 エドモンは学年中から優秀な家の出の人間を仲間に集めた。


 目的は、蔑ろにされつつある上級貴族の威厳を取り戻すこと。


 学校に通うほとんどの上級貴族子弟がエドモンの傘下に入った。


 剣術に長けるローエングリン家のドラ息子や、才女と噂されるミロティック家の次女などには断られたものの、優秀な生徒が揃った。

 現在の学校の状況に、不満を持っていた者は多かったのだ。

 

 あとは、下級貴族の分際で最優秀生徒に選ばれた小生意気なアルトリウスを吊るし上げ、忠誠を誓わせ、こき使い、他の下級貴族や平民どもへの見せしめにするのだ。


 そうすればエトナも、奴を見限って自分にひれ伏すに決まっている。


「エドモンさん、呼び出しに言った副長のミスワキさんが気絶させられたそうです」


「あのバカ、呼び出すときは丁重にって言ったろうが・・・・・」


 警戒されていないうちに呼び出して、1人でいるところを不意打ちで倒し、首を垂れさせようと考えていたがミスワキに任せたのが失敗だったか。


 しかし、このことが逆にエドモンを冷静にさせた。

 

 そもそも、多人数で襲い掛かり、危害を加えることが許されるはずがない。

 子供とはいえ、罪に問われないことはないのだ。


 そんなことをしてしまっては、今後の自分に犯罪経歴がついてしまう。

 高潔な自分の経歴に傷がつくのはまずい――――。


 しかし、既に拳は振り上げてしまっている。

 上級貴族の子弟を煽り、運動の主犯となっているのはエドモンだ。

 今更引き返すことができるのか・・・・?


 いったいどうすれば――――。


 振り上げた拳を下ろす場所を、エドモンは模索していた。 


● ● ● ●


 その日エドモンは夢を見た。


『やあ、だいぶお困りのようだね』


 何もない真っ白な世界で、真っ青なローブを着た、水色の髪の少年が笑顔で話しかけてきた。


 ―――なんだこいつは? ここはどこだ?


 エドモンは突然のことに戸惑う。夢の割には意識がはっきりとしていた。


『ハハッ。僕はラトニー。まあ一種の神みたいなものさ。そしてここは君の深層心理。夢の中で出てきた方がそれっぽいから割り込ませてもらったよ』


 ―――なんで思考が⁉︎


『ハハッ。当たり前じゃないか。そもそもここでは君は喋ることができないのだから』


 ―――くそっ、意味がわからない。悪夢の一種か。


『まあそう捉えてもらっても構わないけど・・・・・それにしても随分と悩んでいるみたいじゃないか。しかも高尚な悩みじゃないね。欲望に基づく悩みだ。相手を屈服させたい、だけど、自分が汚れるのは嫌だ。そう思っているんだろう?』


 ―――うるさいな。お前には関係ないだろう。


『ハハッ。やけに冷たいじゃないか。せっかく人が助けてあげようというのに』


 ―――たかが夢の一種であるお前に何が出来るっていうんだ。


『なんでも出来るさ・・・そうだね。望むなら君に、挑む勇気と、考える知恵と、倒す力を授けよう』


 ―――ふん! 誰だか知らないが、そんなことできるものならやってみせるんだな!


『ハハッ。契約完了だね。ガキは乗せやすくて楽だよ』


 ―――何がだ?


『いや、なんでもないよ。じゃあまた明日』


 そういうと青ローブの少年ラトニーは消えた。


 それと同時に、エドモンは目を覚ました。


「悪い夢を見てしまったな」


 体は汗ばみ、全体的にだるい気もする。

 今日は学校を休もう、と思っていた矢先。


「いや、今日は学校に行った方がいいよ。アルトリウスとエトナが別行動みたいだ」


 目の前に、夢に出た青ローブの少年が現れた。


 彼の口元は、気持ち悪いくらいに歪んでいた。


 読んでくださり、ありがとうございました。

 


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