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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十七章 青少年期・王城決戦編
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第210話:運命の邂逅



「それにしても…無事に目覚めたようで何よりだよ―――セントライト」


 赤銅色の長髪に、銀色の三白眼。

 そして圧倒的な迫力を出してこの場を支配する――《棺》より目覚めた男。

 少年――リードはその男に気楽に話しかけた。


「――しかし、700年と言ったな。……随分長かったではないか」


 首をコキリと鳴らしながら、男――セントライトは答える。


「そう言うなよ……腐ってもあのオルフェウスの封印だ。それに――こっちにも順序ってものがある。君ら『初代八傑』のせいで、僕らの力は随分落ちてしまったんだからね」


「ふん、それにしては元気そうではないか」


「そりゃあ――今は……いい感じに絶望と混乱が王国を襲っているから―――多くの信仰を得れているんだよ」


「…なるほどな」


 納得したのかしていないのか――セントライトは目を細める。


「…とにかく、おめでとう。これで君は―――生身の身体を持ちながら、僕らと同じ『神族』の力を手にした唯一の存在だ。君の望んだ―――『不老不死』…この世の理を越えた、超常の力さ」


「……」


「しかも、君の能力はスロウの『絶望』――僕らの目的にぴったりだ」


 ニヤリと―――リードは笑う。


「…ふん、それはいい。だが――少々身体の動きが悪い。コイツの体ではそれほど()()()()ぞ」


 そう言いながらセントライトは肩を鳴らす。

 コイツの体――とは、もちろん、()()()()()()――という意味だが…。


「ああ、すまない。本当は―――君の血統をここに用意する計画だったのだけれど、色々と他に()()()()()()()ができてね。王族の血は――後から回収しに行くことになったんだ」


「―――!」


 リードの言葉に、セントライトの眉はピクリと動く。


「――ほう、余との()()以上に優先すべきこととは―――余程でないと…分かっているだろうな」


「ああ、分かってるさ。君を『神族』として完全体にするまでは…契約は履行しきったとは言えない。ただ…どうしても今日、この場で…君に始末して欲しい奴がいたんだ。場を整えるのに、色々といじる部分があってね」


「…ほう、余の手を使うほどか?」


「そうだ」


 リードは思い出すかのように頷く。 

 

「アレは純粋な神族では何ともならない《特異点》。どうしても――アレを先に始末しておかないと、今後の計画に支障が出る」


 そう、結局アレは―――「あの少年」は、大戦を生き残った。

 『世界最強』をぶつけても死なず、生き残り―――ユピテルの内乱はラーゼンの勝利に終わった。


 結果として――リード達の想定していた歴史は、大きく運命を変えてしまったのだ。


 《特異点》として――あの少年の存在は、どうしてもリード達にとっては邪魔だ。

 奴が関わるだけで、こちらの想定した未来がことごとく塗り替えられていく。

 この()を見据えたうえで――この少年を無力化することが、何よりも優先事項だ。



 ――前回の大戦は失敗だった。


 『軍神』は、リード達にとって味方というわけではない。

 気まぐれでこちらに利益となる行動をすることもあるが、反対に敵にもなり得る――奴もまた《特異点》なのだ。

 制御下にない人間で制御下にない人間を殺そうなど、流石に虫の良すぎる話だった。


 それに――あの少年にはいざというとき助けてくれる仲間がいた。

 単純に強者をぶつけても――勝てるわけではないということだ。

 

 それゆえに、わざわざ『読み手』の役割を女王からエトナに移し、少年をここまでおびき寄せた。

 そして、今度はある程度制御ができる「目的を共にする人間」で倒すために…大幅に計画を変更してまでこの状況を用意したのだ。


「―――《特異点》だと?」


 そんなリードの苦労を知ってか知らずか、セントライトは疑問を浮かべる。


「まぁ君に分かりやすく言うならば…今代の《オルフェウス》だよ」


「…なるほど。それは―――少し興味が出てきた」


 《オルフェウス》という名に、セントライトは目を見開く。

 昔のライバルの名に敏感なのは――700年経っても変わっていないようだ。


「で、それは――どいつだ? よもや、そこで足を震わせているヒヨッコや小娘、老人ではあるまいな」


 そこで、セントライトの視線は再び正面を向く。


 視線の先は、この塔の屋上へと続く入り口――そのあたりで、こちらを緊張した面持ちで眺める3人だ。


「あぁ、そこにいるのは『聖錬剣覇』の弟子トトス。別に警戒するほどの強さでもない。エトナも単なる()だし、ピュートンなんておまけもおまけさ」


「…『聖錬剣覇』?」


「あー、『剣聖』の系譜だよ。彼らは3代目から『聖錬剣覇』を名乗るようになったんだ」


「ほう、ジークの…」


 そうリードが教えると、セントライトは懐かしそうに目を細める。

 『剣聖』も、彼にとっては身近な名だ。


「しかし、だとするとその《特異点》とは誰だ? オルフェウスの名を出したからには…それなりの者でないと許さんぞ?」


「――安心しなよ。どうせ…『鴉』なんかじゃ止まらない。すぐにここに上がってくるさ」


「ふん…それは――――」


 そこで――一瞬だけ、セントライトの動きが止まる。


「――いや、どうやら…そのようだな」


 正面。


 猛スピードで下から迫る…この場では目立つプレッシャー。

 セントライトの時代でも、それほど目にできないレベルの存在感だろう。


「―――」


 ―――まるで静寂をぶち破るかのように、その少年は現れた。


 ダークブラウンの髪は少しその先が焼けたように焦げていただろうか。

 

 同じくダークブラウンの瞳には、心なしか怒気が感じられる。

 歳の頃は、15かそれくらい。成人したかしてないか辺りだろう。


 それなのに感じる、ベテランの風格。


 若干消耗した皮鎧に、腰には黄金色の柄の剣。


 そんな――1人の少年だ。


「――――」


 少年はこの屋上を目の当たりにし――ゆっくりと―――リードと、セントライトを交互に視線をやる。


 ――そして…


「なるほど…そういうことか…」


 何かを悟ったかのように、歩みを進めた。


「アル君――!」


「――烈空殿…生きていらしたか…」


 少年の登場により、急に安心したように明るい声を出して少年に駆け寄る少女と、若干顔を緩ませるトトスとピュートン。


「―――エトナ…良かった…無事だったんだな」


「うん…! アル君が来てくれるって…信じていたから…」


 勢いよく抱き着く少女を抱き留めながら――少年は少しだけ、安心した声を出す。


 しかし、


「――エトナ…悪いけど――すぐにトトスとピュートン博士と一緒に逃げてくれ」


 その眼光は少しも緩まない。

 しっかりとこちら―――セントライトとリードを捉えて離さないのだ。


「…烈空殿――」


「トトス、頼んでいいか? 俺の――命よりも大切な人だ」


「しかし…アレは…」


「――わかってる。だから…何も言わずに、頼まれてくれ」


 少年の言葉に、トトスは苦悶の表情を浮かべる。


「――承知した」


「ありがとう」


 頷いたトトスに、少年は少しだけ口元を緩めた。


「アル君?」


「すまないエトナ。多分……君がこんな目に遭ったのは俺のせいだ」


 少女に向き直り、少年は自身に言い聞かせるように語り掛ける。


「だから…君は逃げてくれ。俺が――全部何とかするから」


「アル君も…大丈夫…なんだよね?」


「…もちろんだ。さっさと片付けて…すぐに合流するさ」


「そっか…」


 少女は少しだけ俯き、


「わかった。じゃあ、先に行ってる…待ってるから、ね?」


「ああ」


 少年の言葉に、黒髪の少女はゆっくりと目を閉じて、彼から離れた。 


「烈空殿、ご武運を!」

 

「―――嬢ちゃん、早くするんじゃ!」


「――うん」


 そして、3人は急ぎ足で後ろへ下がっていく。


 下の階段へと降りていく彼らに、少年は振り返りはしない。


 眼光はこちらに光り―――殺気は満ちる。



「…さて、セントライト、分かっていると思うけど――」


「――ああ、すぐに分かった。確かに…奴そっくりだ」


 ――似ている。


 少年を見た瞬間、セントライトは自身の古い記憶――共に戦場を駆けたライバルの事を思い出した。

 出会ったときから何でも知っていて、何でもできた――記憶の中のアイツ。


 顔や姿形はまるで違うのに…その少年は奴に雰囲気が似ている。


「――彼がアルトリウス。この時代の《特異点》。そして―――」


 リードは静かに言った。


「僕らの――敵だ」



歴史の真相や、神族、神聖教について等――謎は少しずつ明らかになっていきます(願望)

どうか暖かい目で見守り下さい

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