第21話:進級と表彰と妹弟
1年生が終わりました。
補足回です。
短め。
なんとかエトナと仲直りを果たし、俺は1年生を乗り切った。
色々とあった一年だったと思う。
エトナはもう俺と話し合った頃には例の先輩と別れていたらしく、翌日から元の関係に戻った。
というより、何故か以前より積極的になった気がする。
「アルくん、帰ろ!」
そう言って、今日も俺のクラスに来るなり俺の腕を取ると自分の胸に手繰り寄せて来る。
いやまあ流石にまだ殆ど厚みはないのだが、女子特有のいい匂いで流石に興奮しそうになる。
危ない危ない。
このように以前よりスキンシップが積極的になった。
なんだ? 色仕掛けをすれば俺がなびくとでも思ったのか?
間違ってはいないが、流石にもう5年はないときつい。小学2年生は俺の精神が持たない。
・・・いや、中学生もたいがいか。
しかし、15歳が成人であるこの世界だと、もしかしたら子供の二次性徴も早いのかもしれないな。
エトナは、態度も少し変わった。
主に、俺の周りにいる女性に関しての態度だ。まあそんなの殆どヒナしかいないのだが。
以前なら俺とヒナが一緒にいると、むくれて不機嫌になったものだが、最近では、
「ちょっと、あんまり近くでいちゃつかないでくれる?」
とヒナが言うと、
「あれ、ミロティックさん、まだいたの?」
と、ケロっとした顔で言う。
「隣の席なんだからしょうがないでしょ!」
このように、真っ向から対決するようになっていた。
全くいいのやら悪いのやら。
まあなんにせよ一時期よりは大分マシなので、暫くは良しとするか。ヒナには悪いが、我慢してもらおう。
ちなみに、2年生に進級しても、クラスのメンバーは1年生の頃と変わらない。
クラス替えはないのだ。
なので今年もヒナと同じクラスだ。
あとは最近の出来事として、1年生の終わり頃、年間成績発表というものがあった。
期末テストが終わった時点で、年間の成績が確定する。
成績評価は科目ごとに
S=秀
A=優
B=良
C=可
F=不可
で振り分けられる。
評価方法は絶対評価だ。
まるで日本の大学のようだな。
Cまでなら進級できるが、1教科でもFがあると進級できない。
1年生では8科目の授業があったのだが、俺は全ての科目で『S=秀』を取ることができた。
もちろんヒナも全て『S=秀』だった。
ちなみにカインはほぼ全教科『C=可』である。
奇跡的に、というか出席日数が足りてない以外ではほとんど取ることはないのだが『F=不可』は無かったようだ。
エトナはそこそこ優秀で、『A=優』が多く、何教科かは『S=秀』も取ったようだ。
そして、この学校では学年の最後の日に『表彰式』というものを行う。
表彰式では、上級生になってから入れるというゼミで、大きな結果を残した者や、なんらかの活動で学校に貢献した者、そして、学年ごとの最優秀生徒が表彰される。
俺は光栄なことに、1年生最優秀生徒として選ばれた。
まあ1年生なんてテストの成績くらいしか比べる対象がないし当然か。
最優秀生徒に選ばれると、成績表に最優秀賞受賞と書かれるため、就職に有利になるようだ。
また、全校生徒の前で、校章の形をかたどった金色の勲章を贈与される。
あまり目立ちたくは無かったのだが、断るわけにもいかない。素直に受け取った。
教室に戻るとヒナが悔しそうな顔で勲章を見つめていたのが記憶に残っている。
そんなこんなで新学期が始まった。
2年生では、教科数が多少増え、今までやっていた教科の内容がより深くなる、というものだ。
内容もなかなか難しくなり、俺も最初の実力テストではついにいくつか満点を逃してしまった。
もちろん俺が満点でないからといって、ヒナが俺に勝っているというわけでもない(大分危なかったが)。
どうやら先生方は去年俺に全て満点を取られてしまったので、今年は対策として、1問か2問、相当難しい問題を取り入れてきたようだ。
微分積分とか、9歳に理解できるとは思わないのだが・・・・。
まあ俺も舐めたままかかっていると痛い目に合うかもしれない。
授業はきちんと聞いておこう。
そして、学校以外でも俺の生活に変化があった。
この頃、俺は弟妹達の家庭教師に抜擢されたのだ。
「アルトリウス、学校から帰ってからでいいから、アランとアイファに師事してやってくれないか?」
アピウスは夕食の席で俺に言った。
なけなしの金で下手な教師を呼ぶより、俺に教えさせた方が合理的だと考えたのだろう。
もちろん俺は快く引き受けた。
イリティアを呼んでくれた恩に報いる時がきたのだ。
学校から帰宅し、夕食までの時間が俺の家庭教師の時間だ。
頼まれた事は学校の予習と、アランの剣術指南だ。
学校の予習はともかく、剣術はまだ俺も駆け出しなので、人に教えられるほどの実力があるとは思えないのだが、まあ任されたからには精いっぱいやろう。
家に帰ると、まず昨日のうちに言いつけておいた宿題の答え合わせをする。
「うーん、アイファは満点、流石だな」
「うん! お兄ちゃんのために頑張ったんだ!」
「うんうん、今後も精進したまえ」
アイファは笑顔でテーブルから身を乗り出す。
彼女は才能豊かな子だった。
今年で6歳になるが、多分俺なんかよりは地頭が相当いい。
要領よく教えたことを吸収して行く。
さらに、最近は一段と可愛らしくなった気がする。・・・・兄バカかな?
「――――アランは、70点、前回よりは良くなっているね」
「うん・・・・」
決してアランは頭が悪いわけではないのだが、いかんせんアイファが天才肌であるため、どうしても比べると劣ってみえてしまう。
そのせいで最近彼は落ち込むことが多くなっていた。
答え合わせを終え、次回の宿題を言いつけると、アランの剣術の指南に移る。
この間、アイファは暇になってしまう。
最初のうちはこちらの練習の様子を興味深そうに見ていたが、最近は暇そうなので、魔法の練習を薦めてみた。
なので、彼女は今詠唱文の暗記で忙しそうだ。
さて、アランについてだが、最近は特に元気が無く、剣術の話も虚ろに聞いている。
うーん、なんとかしなければ。
「アラン」
「・・・はい」
「今日は訓練はやめだ。少し話をしよう」
俺たちは庭のベンチに腰掛けた。
俺は少々、昔話をすることにした。
「俺さ、昔どうしても勝てない奴が居たんだ」
「嘘!? アル兄が?」
アランは目を見開いて、信じられないという顔をしている。
「ああ、いたさ、そいつはなんでも俺よりできる奴だった。勉強でも運動でも全然勝てなかったよ」
もちろん前世の話だ。
アランは黙って聞いている。
「なんで勝てないんだ、なんで追いつけないんだ。そう思ってたよ。あまりにも悔しくて、落ち込んだこともあった」
そいつは職場の同僚だった。
あいつは大学時代、常に俺の一歩上をいっていた。
俺が必死で覚えたことをあいつは涼しい顔で物にした。
「でも、そいつにも勝てない奴はいたんだ」
というより、俺のいた大学はそういう奴がゴロゴロいた。
国内でも最難関クラスと言われる大学だ。文系理系、学部を問わず、上をみればきりがなかった。
特に俺は、地頭がいいわけではなく、必死に努力して勉強して、「点数の取り方」を身に着けて合格した口だ。
もちろん俺のように本気で勉強して入ってきた奴もいたが、元々の地頭にかまけて入ってきた奴もいた。
そして、そんな地頭のいい奴が、必死にならなければできないことを、何もせずに涼しい顔をしてやる奴もいた。
結局、俺には誰が一番頭が良かったのかなんてわからなかった。
世の中そんなものだ。
比べたって結局意味はない。
「それで俺は気づいた。あぁ、上を見ればキリがないなってね」
俺は続ける。
「俺は俺、人は人。もちろんだからと言って上を目指さなくていいかと言われればそうじゃない。自分は自分にできることを頑張ればいいんだ」
「確かに、アイファは優秀だよ。頭もいいし、機転がきくし、おまけに努力家だ。だがきっとアイファより優秀な人間だって、世の中いくらでもいる。そういうものだ」
末恐ろしい我が妹であるが。
「だけど、アイファはアイファだ。そして、アランはアランだ。俺はアランが頑張っていることを知っている。例え今結果が伴っていないにしろ、アランはアイファに負けないくらい頑張っているんだ」
「アル兄・・・・」
「だから、胸を張ってくれ、お前は俺の弟なんだぞ」
そういってアランの頭をわしわしと撫でる。
アランの茶髪は柔らかい。髪質はアティアに似たのだろうか。
「アル兄・・・・ぼく、頑張るよ!」
割と支離滅裂なことを言った気もするが、アランは立ち直ってくれたようである。
その後は一生懸命剣術に勤しんでいた。
まあもっともやる気が出ることと、剣術の才能がある事は別問題であり、特に大幅に腕が上がったりはしなかったのだが、本人は生き生きしてるのでいいとしよう。
ここ数話の見直しがあまりできていません。
とりあえず区切りとしたいところまでは、1度上げきってしまおうかと思っています。
気になった部分は後からちょくちょく改稿しようかなと。
読んでくださり、ありがとうございました。合掌。




