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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十五章 青少年期・王国旅程編
171/250

第171話:女王の言葉

少し短いです

 

 暗闇に、3人の人影があった。


「―――ふん、まさか本当にユピテルからの訪問者が『烈空』とは…」


「――しかも、100人もの精鋭を連れていると聞きますしねぇ」


「―――しかし、奴は完全に部外者。こちらには影響はないと思いますが…どうされますか?」


 大柄な男に、フードを被った男。そして商人風の男の3人だ。


「……亡命の奴らと同じように地下行きにすればいいだろう」


「しかし―――どうやら()()が動いたそうじゃないですか。一晩は待てとか」


「…ふぅむ、いったいどういうつもりかねぇ…もしも敵対するようなら無視はできない戦力ですよ」


「こんなことならば、『(からす)』の手札は残しておいた方が良かったのではないですかな?」


「…ふん、使ってしまった物はどうにもならん」


「たしかにそうですが…」


「問題ないだろう。障害になるならば――『聖錬剣覇』と共に葬り去るだけだ」


 商人の疑問に、大柄の男は当然とばかりに答えた。


「…なるほど。では?」


「―――ああ、計画に変更はない」


「ですねぇ」


 そして、三人は視線を合わせる。


「…全ては神の御心のままに」


「「―――全ては神の御心のままに」」


 そして、暗闇から人は消えていった。




 ● ● ● ●




「初めまして……いえ、さっきぶりですわね、大使さん」


 そう言ってニコリと笑う女王リーゼロッテは、その()()()――とはまるで違っているように感じた。


 謁見の際に会った彼女は表情も冷徹で、もっと尊大で、王たる威厳溢れるような、そんな妖艶な美女だった。


 だが、今目の前にいる少女は、美しいことのみは変わらないものの、やけに柔らかい表情をする素朴な人に思えた。

 女王というよりは、少し育ちのいい町娘なような、そんな感じだ。


 そんなリーゼロッテを前に、ヒナが声を上げた。


「ちょっと…アルトリウス、この人って…」


「ああ、俺の目がおかしくなければ―――間違いなく謁見の間で会った―――女王リーゼロッテだ」


「――――!」


 俺の言葉に、尋ねたヒナだけでなく、皆の顔に驚きが走る。


 無論、警戒は解いてはいない。

 女王はともかく、一歩後ろで佇む剣士――――――フィエロならば、ここにいる全員を相手どれる可能性すらあるのだ。


 そんな俺たちに気づいたのか、見渡すようにリーゼロッテは口を開く。


「……安心なさって。(わたくし)たちに――あなた方への害意はありませんわ」


 なるほど、確かに、害意―――殺気のようなものは感じないが…。


「…信用できるとでも?」


 少なくとも――夜更けに隠し通路から俺たちの部屋に侵入したことは事実だ。

 そう簡単に信用するわけにもいかない。


「…信用していただくために―――私自ら来たのですわ。あなたと直接話すには、こうするしかありませんもの」


 そして、リーゼロッテは真っすぐと俺を見据える。

 先ほどまでのどこか抜けた表情ではなく、真面目な顔つきだ。

 こう見ると、少女というよりはもう少し年齢は上だろう。


「―――謁見の間。いえ、この王宮全体は――現在、多くが《軍属派》に染まっていますから、皆の前で、あなたと本音で語ることはできませんもの」


「軍属派…?」


 また新しい勢力だ。

 

 人前で俺にコンタクトを取れない理由。

 そして直接会いに来た女王。

 軍属派という新たなワード。


 いくつか導き出されることはあるが…。


「…そうですわね」


 女王は少し憂いを帯びるような表情をする。


「…まずは―――今現在のこの王宮のことについて、お話ししましょうか」


 そして、リーゼロッテはツラツラと話し始めた。




 ● ● ● ●




 

 軍国主義を提唱しているユースティティア王国において、軍部というのはそれなりに強い力を持つ。

  それゆえ、近年の王国の上層部では、《女王派》と、《軍属派》の2つの勢力があった。


 勿論、別段対立していたわけではない。

 軍といっても、最高統帥権自体は、専制君主国家ということで、女王に帰属する。

 

 ただ、外交政策上、軍属派は、外敵侵略を支持しがちなのに対し、女王派は、融和気味に動く、といった程度の違いだった。


 だが、近年、王国を悩ますいくつかの問題が勃発した。


 《人攫い》に始まり、シュペール公国の混乱に、新しい宗教の流行。


 どれも、軍隊による抜本的解決も難しく、打開が長引いてしまった。


 結果的に、軍属派は、これは他国の何かしらの工作ではないか、と主張し始めた。


 不満をためていた人間が多かったのか、軍属派以外からも、そう言った声は上がった。


「…次第に―――気づかないほどゆっくりと、軍属派の勢いが増すようになりましたわ。女王派の顔触れが、1人、また1人と減っていくのです…。ユピテルからの亡命団が到着したのはそのころでしたわ」


 別に女王としては、それ自体は問題ではなかった。

 ユピテルと事を構えるつもりはないし、たかだか2000名程度を迎えるくらいならばわけはないらしい。

 

 だが、軍属派たちは警戒した。

 この時期に他国からまとまった数の人間が来るなんて、怪しい、と、そう主張するのだ。


「その時は、まだ、(わたくし)が何とか言いくるめ、王宮で賄うことを決定することができましたわ。でも……」


 そう、その後事件が起こる。

 《トトスの失踪》である。


 親衛隊の副隊長であり、一流の剣士であるトトスが―――消えてしまったのだ。

 最後に目撃されたのは、ユピテル亡命団の1人という少女と王城の外へ出て行くところだという。


「………」


「それを皮切りに―――軍属派は『この人攫いに始まる一連の混乱はユピテルの手引きだ』と事あるごとに主張するようになりましたの」


 当初は、

 そんな事があるわけがない。

 彼らは単なる亡命者なのだから。


 と、一笑に付していたリーゼロッテだったが、

 その噂は、王宮内で、まるで真実であるかのように広がっていった。


「止めようが…ありませんでした」


 派閥とか、そういう事以前に、王宮内の様子がおかしいのだ。

 明らかに大臣達の様子も異常だ。

 根からの女王派であった人間が、次の日には軍属派に変わっていたり、指示していないような政策が勝手になされていたり。

 大臣を新規の者に変えても、すぐにまた同じような事を言うようになる。


「いつのまにか、王宮の意見は、彼らの物となっていましたの。私でも無視できないような、大きな勢力に」


 結局、彼らに押される形で、ユピテルからの亡命団は、地下に軟禁という指示をせざるを得なかったのだ。


「まるで、軍属派―――派閥なんてことは名ばかりの、不気味な集団。それが、今のこの王城を支配している人たちなのですわ」


 女王の話は、そう締めくくられた。



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