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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十五章 青少年期・王国旅程編
169/250

第169話:謁見をしよう

 長らくお待たせして申し訳ありません。

 突如のPCの不調と私の体の不調とで、色々と余裕がありませんでした。

 皆さんも猛暑にはお気をつけください。


 真っすぐに伸びる赤い絨毯。

 大理石から削り出したとは思えないほどの美しい円柱。

 天井からは何重にも繰り抜かれた彫刻が、煌びやかな装飾と共にこちらを除く。

 柱の間には、意外と飾り気のない窓が見え、明るい光が差し込んでいる。


 そしてその赤い絨毯に沿うように左右に立ち並ぶのは、これまた豪奢な衣服を着た人々―――おそらく、この国の国政を担うような大臣や、上級貴族の面々だろう。

 赤い絨毯の上を進む俺をやけに奇怪な目でちらちらと見てくるのは、それほどいい気分はしない。

 どうやらあまり歓迎されている感じではないらしい。


 リュデも、流石に緊張しているのだろうか、俺のすぐ後ろに引っ付いて距離を置こうとはしない。

 それでも一応毅然とした姿勢を保つのは、流石の仕事モードといったところだ。


 さて、俺が進むそんな絨毯の先は――3段ほどの段差が置かれている。

 無論それはただの階段ではない。

 その段差の上と下の高低差は、まるで権威の差を象徴するかのように重く立ちはだかる身分の差の現れである。

 

 なにせその段の上にあるのは、黄金にかたどられた大きな椅子――この国でただ1人しか座すことの許されない「玉座」なのだから。


「―――女王陛下がお見えになります」


 俺から見て右手側―――最前に立っていた大柄の貴族が声高にそう宣言した。


 同時にザッという音と共に、絨毯の周りの貴族たちは全員が片膝をつき、臣下の礼を取る。


 ちなみに、俺の左手すぐそばではギルフォードが同じように臣下の礼をとり、玉座に向かって頭を下げている姿が見えた。立ち振る舞いからも分かったが、やはり彼も相当な地位の持ち主だったのだろう。

 ギルフォードのすぐ後ろには、橙色の髪色をしたアホ毛の青年も同様の姿勢をしているのが目に入った。少し大食漢であるが、彼もそれなりの実力者であると感じる。


 もっともそんな事を気にしている場合ではない。俺はすぐさま視線を戻す。

 

 視線の先は正面―――玉座の奥の方から人の気配を感じたのだ。

 入口とは別に、あちらの方にも出入り口があるのだろう。


「―――!」


 先陣を切って現れたのは、少し気の抜けた顔をする、薄紫色の髪の男だ。

 年齢は中年といったところだろうか、執事服のような黒を基調とした服装に、腰に差す銀色の剣。


「……」


 彼は、見るからに男であるし、王ではない。

 女王の護衛か何かだろう。

 だが、そんなことは分かっているのに、どうしても目が離せない。

 不気味に研ぎ澄まされたような存在感が、俺の脳裏をビンビンと刺激するのだ。


 ―――強い。


 ただ一言、そう思った。

 王都に来た際、ギルフォードから感じた圧なんかとは比べ物にならない。

 間違いない、この人が『聖錬剣覇フィエロ』だ。

 頭の中でそう断言する。

 

 フィエロと思われる男は、そんな俺の視線など気にもせず、玉座の傍に立つ。

 

 そして、彼に続くように―――もう1人の人影が現れた。


 先に出てきた彼と比べれば小柄ではあるが、存在感だけで言えば、彼にも引けは取らないだろう。


 長く蓄えられた桃色の美しい髪。

 黄金の散りばめられた白を基調としたドレス。

 きめ細やかな肌に、ドレスの節々から除く、妖艶で豊満な肢体。

 どこかで見たことのある気がする美しい顔のパーツ。


 少女というには大人びていて、かといって女性というにはあどけない。

 そんな雰囲気を出しつつも、しかし彼女を彼女たらしめているのは、その頭上に輝く金の王冠だろう。

 金の地に銀色の装飾、そして鈍く光る宝石を散りばめた冠は、少女の頭からすると大きすぎるが、決して似合わないというわけではないというのが魔訶不思議だ。


 そんな―――場を支配するかのように現れた彼女は、まるで手慣れたように優雅に進み、そして玉座に腰を掛けた。


 当然のように玉座に収まった彼女に呼応するかのように、玉座の隣にいた男―――フィエロが一言声を発する。


「―――ユースティティア王国唯一にして無二の王、『リーゼロッテ・シャロン・ユースティティア』女王陛下です」


 そう、ここはユースティティア王国王都ティアグラードの中心にそびえる王城の最上階。


 ―――『謁見の間』だ。



● ● ● ●



 俺が王城に到着するなり、すぐ女王陛下と謁見することになったのは、それほどおかしい話ではない。


 こんな俺でも、他国―――しかも大国の要人だ。

 向こうとしても、放置はできないし、こちらとしてもさっさと一番偉い人に挨拶はしなければならないだろう。


 俺が王都ティアグラードに入都した時点で、既に伝令が女王の元まで伝わっていたらしく、こちらさえよければ今日中に謁見を、という提案を受けた。


 もちろん、向こうの大臣か何かっぽい偉そうな人と、俺達の間を取り持ってくれたのはギルフォードだ。

 やはり彼も本当に相当上の役職の人間のようで少し驚いた。

 偉い人って1人でお供もつけずに都市間を移動するイメージないからな…。よほど腕っぷしに自信がないと危ないだろう。…いや、ギルフォードはかなりの使い手な気がするし、問題はないのか。

 確かシルヴァディも俺と出会った時は1人で『鷲』を追っていたしな。


 さて、俺としては、何よりもまず、王城にいるという穏健派の面々――もとい家族に会いたいという気持ちもあるが、流石に仕事が優先だ。

 他国の大使が王都に着いたのだから、まず初めにその国の国王に挨拶をするのは当然だろう。

 謁見の話は、二つ返事で了承した。


 一応王との謁見の際の作法などは一通り頭の中に叩き込んでいるが、それほど意識する必要もない。

 何故なら、俺達は別に女王の臣下ではないからだ。

 礼を失うのはダメだが、礼を尽くす必要もないのだ。


 このあたりの話は、概ね出発前にラーゼンとの協議で纏めておいた。

 俺の地位をできるだけ高くしておいたのも、リュデの勝手というわけではなく、なるべく女王と対等に近い立場で交渉できるように、という理由からだ。


 謁見の際に従者として連れていく事にしたのはリュデのみだ。

 これも元々決めていた。

 謁見の時点で交渉を始めるのか、挨拶だけになるかはわからないが、どちらにせよ予想外の話題が振られた際、俺だけでは対処できない可能性もある。基本的にリュデはこの王城では四六時中連れまわすつもりである。

 まぁ、一種の精神安定剤みたいなものだ。正直緊張しすぎて頭が張り裂けそうだし。


 他の面々は血の気が多すぎるのと、いざというとき、抱えて飛んで逃げるなら、なるべく人数が少ない方がいい、というのも理由ではある。



 謁見の間は最上階だ。


 上等な服装に着替え、煌びやかな王城の階段を上がっていく。

 ギルフォードは先にいかなければならないということで、途中からは、知らない一般の使用人のような人に案内された。


 気になったのは、廊下ですれ違う人々が、基本的には奇怪な目…というか、訝しむような視線を浴びせてきた事であろうか。

 俺達の服装はそれほどおかしいとも思わないが、やはり他国からの訪問者などは珍しいのかもしれない。

 

 まあ、そんなわけで、女王との謁見である。

 今更だが、とんでもないことをしている気がする。

 割と表立って目立つのは柄じゃないとか言いながら、一国の代表しているし…いや、まあ本当に今更なんだけどね。


 さて、現れた女王の名は『リーゼロッテ』。

 年齢は俺よりは年上だろうが、確かに若い。


 だが、間違いなく「王」という風格はある気がする少女だ。


 女王の登場に、俺はゴクリと唾を飲んだ。


「―――お初にお目にかかります女王陛下。隣国、ユピテル共和国より……大使として参りました、アルトリウス・ウイン・バリアシオンと申します。この度は謁見の機会を頂きありがとうございます」


 体の動作は、膝をつく臣下の礼ではなく、ユピテルで言う貴族風の礼をした。

 胸に手を当て、頭を下げる。

 そんな作法だ。

 基本的にユピテルでは最も高貴で気品のある礼でもある。

 もっとも、ユピテルには敬礼といえば、軍隊風か貴族風の二択しかないが。


 リュデは礼をすることなく、俺のすぐ後ろで、従者として膝をついている。

 頭を下げているわけではないので臣下の礼とはまた少し違う。


「―――ふむ」


 俺の礼に対して声を発するのは、意外にも女王本人だった。


「―――『烈空』アルトリウスか。噂はよく聞いておるよ。何でも、齢15にして幾度もの戦場を越えた歴戦の魔導士にして、ラーゼンを勝利に導いた英雄、とか」


 気品のある透き通るような声が、謁見の間に響く。


「そして…天剣シルヴァディの弟子―――か」


「―――!」


 試すような視線と共に、そんな言葉が飛んできた。


「―――シルヴァディが死んだというのはどうやら…本当らしいな」


「それは―――はい」


 このことには……何て返せばいいのか少しわからなかった。

 シルヴァディの死については、別に隠してはいない。

 ユピテルならもう誰でも知っていることだし、肯定すること自体は良いのだが…何故か、シルヴァディの名前を呼ぶ際、桃色髪の少女の目が、少し愁いを帯びたような気がしたのだ。


「まあいい。ともかく―――遠路遥々ご苦労だったな大使殿。ユピテル共和国から公式の使者が訪れるのは、実に100年ぶりだ」


 女王は特に気にする事でもないように俺を見据えている。


「貴公からの要件も既に聞いている。貴国の亡命者の返還と―――資金援助だったか」


「その通りです」


「ユピテルの使者よ。それらの件についての返答は後日にさせてもらう。悪いがこちらも忙しくてな」


「…はあ」


 忙しい――ということは、やはり例の宗教やらなんやらの関係だろうか。


「他に――何か用件はあるか?」


「……では、穏健派―――亡命している我が国民と会わせてはいただけませんか?」


「―――!」


 すると、何となく――女王だけでなく、全体の雰囲気が暗くなった気がする。

 いや、俺に対する視線が厳しくなったというか…。


「それはならんな」


「え―――?」


「用件がそれだけならば、もう謁見は終わりだ。大使殿はゆるりと王宮で過ごすと良い」


 そう言うと、女王は立ち上がり、そのまま颯爽と玉座を後にして行ってしまった。


「……」


 フィエロはちらりとこちらを一瞥したが―――そのまま女王に追従して、消えていった。


 ―――なんだ? いったい…。


 謁見は、何とも言えない後味の悪さを残して、ものの数分で終わった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 御託は良いから。前にも言っただろう。  ギルフォード相手に主人公が敬語を使った時点でやっている事が矛盾だ。  いまさら礼を失うのはダメだとか、礼を尽くす必要もないとか、ウザいんとしか思っ…
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