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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十四章 青少年期・黄金の意志編
157/250

第157話:国葬と出発

 今章はこれで終わりです。

 次回はキャラクター紹介になります。



 1か月が経った。


 これまでと比べれば、少し楽な1か月だった。


 無論、色々とやる事はあったが、多分これまで忙しすぎたのだと思う。


 あれから、ラーゼンにユースティティア王国への大使の役目を引き受ける事を伝えた。


 俺の本音を言えば、家族に会うついでの仕事だが、そもそも誰か大使が行かなければ、穏健派はユピテルに帰ってこれない。

 そんなことなら、もう引き受けてしまえ、ということだ。

 

 無論、また余計な責任を背負い込んでしまった自覚はあったが、まぁそのおかげで『山脈の悪魔』に北方山脈の案内をしてもらえることになった。

 私的に行くとなると、こう簡単にはいかなかっただろう。

 まぁラーゼンはやけに嬉しそうだったが…。


 ともかく、それ以来、『大使』としての様々な職務内容――要するにどんな交渉をして、どこまでの譲歩をしていいか…とかを色々と煮詰めていく作業があった。

 正直頭がパンクしそうになったので、ここぞとばかりにリュデに助けて貰った。


 つまり、正式にリュデを秘書官として任命した。


 元々彼女は俺がカルティアに行っている間、秘書官としての仕事を学んでいたようだ。

 決して紅茶ばかり入れていたわけではない。


 任命する旨を伝えると、リュデは感無量といった感じで飛び上がって喜んだ。

 シュシュをあげたときよりよっぽど喜んでた。

 俺のセンス悪いのかな…。


 秘書官というのは、まあ簡単に言えば、事務的な面での俺の補佐をする仕事だ。

 マネージャーと言ってもいい。

 

 俺のその日の行動スケジュールの管理や、面会面談の連絡、果ては食事の内容から夜のお相手まで―――と、もちろんどこまで秘書官に任せるかはその人間の自由だが、俺は割とリュデに丸投げした。

 というか、丸投げさせられた。


「アル様にこんな些事をさせることはできません!」


 とか言ってラーゼンの秘書官と話し合いに行って帰ってきたと思ったら、何故か俺の肩書が、「執政官全権代理」になった。

 ようするに、ユースティティア王国との交渉において、俺はこの国のトップ―――ラーゼンと同等の権限を持つということだ。


「これでいくらでも交渉のカードが使えますね!」


 なんて言ってた。

 もう彼女が大使でいいと思う。




 さて、それから――行くと決めたからには、色々なところに挨拶まわりをした。



 オスカーは、やっぱりか、といった顔をした。


「君は責任感の塊のような男だからね。なんだかんだ大使を引き受けると思っていたよ」


 案の定、彼は俺が引き受けると思っていたらしい。


「はは、返す言葉もないよ」


「しかし…そうなると、今度こそは暫くのお別れだね」


「ああ」


 オスカーはこの後、アウローラ属州の総督として首都を離れる。

 数年はそのままだろう。


 俺の大使はどれくらい時間がかかるかはわからない。

 まず、王都までの道中だけでも2~3か月はかかると踏んでいる。

 向こうでどれくらい滞在するか次第だが、移動時間を込みすると1年くらいかかる可能性もある。


 なにせこの世界には、自動車や飛行機なんていう便利な移動手段はない。

 主な移動手段は徒歩か馬だ。

 魔法使いは身体能力を強化して早く動けるとはいえ、魔力量に限界はある。

 長距離の移動には適さないだろう。


 昔は自動車や飛行機をこの世界で再現できないかと考えたこともあったが、もちろん詳しい仕組みまで俺が知っているはずもない。

 そしてたとえ知っていたとしても、部品を生産する技術もないし、魔法で再現しようにも、魔鋼には中級以上の魔法は付与できないしで、現代技術の再現は早期に諦めた。


 ちなみに…科学技術がダメならばと、この世界の食生活の改革でも起こしてみようかとも思ったが、よく考えると俺は料理の知識も皆無で、マヨネーズの作り方も知らない。これも早々に諦めた。


「―――まあ、君が帰ってくる頃には、精々立派な東方司令官になってみせるさ」


 別れを惜しみつつも、オスカーは苦笑しながらそう言った。


「そうだな。帰ったら…会いに行くよ」 


 当たり前だが、先の内戦、アウローラでは全く観光できなかった。

 そのうちアウローラがどんな土地なのか見てみるのもいいだろう。

 いや、アウローラだけじゃなくて、この世界全体……それこそ王国や、さらに他の国を見て回るのもいいかもしれない。


 そんなことを思いながら、オスカーとは別れた。



 イリティアとは少し軍の話をした。 

 具体的には、俺の隊の今後について。


 元々は、勝手に引き受けたところもある隊だが、思いのほか慕われてしまったし―――彼らを残してそのまま軍を去ることに、少し抵抗があったのだ。


 そのことを話すと、イリティアは笑顔で答えた。


「ふふ、大丈夫ですよ。彼らはそのまま―――アルの使節の護衛になることになりましたから」


「―――へ、そうなんですか?」


「ええ。なにせ、重要な任務ですから―――護衛も実力者で揃えた方がいいでしょう」


「まあ、それはそうかもしれないですけど…」


 何にせよ、少し驚きだ。

 安心ではあるけど、王国まで共に行けるとは…メンバーの顔触れとしてはあまり変わり映えのしない旅路になりそうだ。

 

「名簿を見て驚きました。誰もが他の隊なら百人隊長級の実力者なのですね。よほどアルの指導が良かったのでしょう」


「…彼らは元から優秀でしたよ」


 イリティアは指導がどうとか褒めてくれたが、俺は――ほんの少し彼らの道しるべになっただけだ。

 俺がいなくても、彼らはきっと結果を残していた。


 それに――127人全員生きて帰すということはできなかった。

 結局アウローラでの内戦の犠牲を含めて、残ったのは100人弱。


 2年半も戦ってきたのだから、人数だけ見れば犠牲者の数は少ないのかもしれない。

 でも、やっぱり――俺の両手は――そんなにたくさんの物を守れるほど大きくない。

 失われた命のことを思うと、如実にそれは実感できるような気がした。


 ともかく――退役か、異動か、俺の護衛かの三択で、残った隊員全員が護衛に志願してくれたらしい。


「アルはとても慕われているようですね」


「はは、本当に―――上官想いの部下達ですよ」


 そんな会話をして、イリティアとは別れた。


 


 ゼノンは特に賛成も反対もしなかった。


 王国の大使を引き受けると伝えると、


「そうか」


 と言っただけだ。


 ただ――


「―――シンシアも連れていくのか?」


 とは聞かれた。

 

 俺とシンシアの関係がばれているのか、シンシアが言ったのか。

 それとも、元からの噂を鵜呑みにしているのか…まあどれも同じか。


「…本人次第です。僕としては―――連れていきたいと思っていますが」


「ふ、そうか、そうだな」


 ゼノンは少し口元に笑みを浮かべる。

 

「シンシアには、お前の自由にしろ、と伝えておけ」


「…はい」


 シンシアはゼノンの弟子だし、何らかの許可は求めた方が良かったのかもしれない。


「…アルトリウス、達者でな」


「はい、ゼノン副司令も、お元気で」


 別に今生の別れでもないだろうに、やけに仰々しく別れた。


 確かに―――第1独立特務部隊としての、ゼノン直属の部下の俺はもう卒業だ。

 お世話になったような、ならなかったような、そんな感じだったな。


 いや、部隊はともかく――剣では俺も充分お世話になったか。

 カルティアではゼノンとも毎日のように打ち合った。

 お手本のような神速流に、最速の剣の振りは、俺も得るものはあった。

 ゼノンを見ていなければ、俺はカルティアでもアウローラでも、最後まで生き残ることはできなかっただろう。


 結局この人からも一本は取っていないけど…まぁ帰ってきたら、もう一度挑んでみるか。




 さて、肝心のシンシアだが、王国へ行く事を伝えると、少し目を丸くして驚いた。


「…大使、ですか」


「ああ、まあ、気持ち的には―――それはついでだけど」


「では何が本命なんですか?」


「…家族に会いたいと思ってね」


「……」


 すると、シンシアは少し顔を伏せる。

 失言だったか。

 たしかに彼女の家族はもう…いや、違うな。


「…君も、俺の家族だ。だから…一緒に行かないか? 君を、紹介したいんだ」


「―――!」


 シンシアの顔が上がった。

 何とも言えない表情だ。


「その…受け入れてくれるでしょうか、隊長のご両親も―――その…他の人たちも」


「ああ。大丈夫さ。父上も母上も、妹も弟も、エトナもヒナもリュデも…大丈夫だよ」


 色々と、難しいことはあるかもしれない。

 全てが上手くいくなんてのは、都合のいい解釈だ。


 でも、だからってそれで諦めるわけにはいかない。

 それが彼女が――彼女たちが信じてくれている俺だから。 


「じゃあ――行きます。ちゃんと―――私にも隊長の家族を紹介してくださいね」 


「ああ」


 そうだな。

 まず―――首都にいるリュデやヒナ、チータも、皆ちゃんと紹介しないとな。


「あ、でもどうしましょう。私も隊長も退役しては、隊を率いる人がいなくなってしまいます」


「大丈夫だよ。皆護衛でついてくるから」


 つい先日イリティアにそう言われた。

 どうやら現在のシンシアは休職扱いで、使節のことも、護衛のことも聞いていなかったようだ。


「そうですか…あ、でも――お師匠様にちゃんと許可をとらなければ…」


「お前の自由にしろ、だってさ」


 すると、シンシアは少し頬を膨らませる。


「…もう、いっつも隊長ばっかりそうやって何でも先にやっちゃうんですから」


「はは、別にそう意図してやったわけじゃないんだがな」


 そんな感じで、シンシアも連れていく事になった。

 護衛ではなく、私人として。


 もちろん、ヒナもリュデもチータも、皆一緒だ。

 一応公務だから、私的な人を連れていくのはどうかとも思うが、ごり押しした。

 また誰か残して、再会に手間取るなんてことは嫌だ。

 まあ仕事だし、のんびり家族旅行ってわけには行かないだろうけど…それでもいいさ。



 さてそんな感じで――――色々と大事なことからどうでもいいことまでをして、1か月を消化した。


 そして若干忙しくも、少し余裕を持って、俺達はその日を迎えた。


 元老院につながる、首都ヤヌスのメインストリート。

 とても長く幅のある石畳の道を、多くの人が歩いている。


 誰もが黒い装束を身を纏い、元老院前の大広場に向かっているのだ。


 大広場では、何層にも組まれた薪がくべられ、天にも昇る勢いで炎を上げている。


 パチパチと音を立てて燃え上がる炎以外、その場はしんと静まり返っている。


 その周りでは、黒い装束の人々が、その炎を眺め――もしくは悲痛な面持ちで声のない声を上げている。

 何人かは、手に、灰色の小包を持っている。

 戦争で亡くなった兵士たちの遺灰が入っているのだ。


 そう、今日は国葬だ。


 燃やしているのは、遺体ではない。

 戦争があったのは、もうずいぶん前だ。そんなに長く死体を放っておくわけにもいかない。

 遺体は既に燃やされ、灰となって遺族の元に渡っている。


 だから、この炎は形式だけの炎だ。


 でも――必要な炎だ。

 葬式は、亡くなった人のためでもあるけれど、それ以上に、残された人たちのためにある。


 東軍も西軍も、この国の未来をしのんで戦った英雄達だ。

 あるいは息子を、はたまた夫を亡くした妻や母たちは、何を恨むこともできない。


 だから、せめて残された皆で肩を寄り添い合って、哀しみを分かち合うために。

 哀しみを立ち上る煙に乗せて、天に昇った英霊たちにお別れを言うために。

 そして、哀しみに一つの区切りをつけるために。

 

 それが、この国葬の意味だ。


「―――」


 隣では、手に灰色の小包―――シルヴァディの遺灰を持ったシンシアが、唇を噛み締めながら燃え上がる炎を見つめている。


 そっと、彼女の肩を寄せる。

   

 泣くことはない。

 涙はあの日、彼女と共に流しつくした。


 だから皆で、炎に想いを乗せる。


 さよならの気持ちと、感謝の気持ち。


 口には出さなくても、想いは届くと信じて。

 彼の想いが、俺に届いたように。

 

 炎は、夜が更けると共に消えていった。

 首都の…いや、きっとユピテル全土の哀しみを、受け止め切ったのだろう。


 国葬は、終わった。

 


 そして、残された者たちにとっての戦争も、これで終わった。




● ● ● ●




「―――シンシア様、忘れ物は大丈夫ですか?」


「へ? えっと…剣と、砥石と、服と―――」


「もう…今更確認しても遅いわよ」


 俺の後ろで、3人の少女が高い声を出している。

 馬車の蹄の音がパカパカと響く中、彼女たちの声はやけに目立つ。


 そんな姿を微笑ましく眺めるのはチータだが、彼女は終始ニコニコとして、口を挟むことはしない。

 

 俺はというと、馬車の御者をしている。

 本当は専属の御者を付けると言われていたのだが、なんとなくアットホームな感じを崩したくなくて、俺自ら引き受ける事にした。

 シンシアも馬の扱いはできるので、一応交代制だ。


 俺の馬車を引くのは、大きめ馬二頭立ての豪勢な馬車だが、こいつのまま北方山脈を越えることはできない。

 なので、『山脈の悪魔』と合流したらそのまま乗り捨てる予定だ。

 向こうでも馬車は使うが、それは『山脈の悪魔』が用意してくれているはずだ。


 そんな俺達の馬車の周りには、護衛として追従する見慣れた面々――俺の隊の隊員たちの騎馬だ。


「はは、隊長自ら御者とは…百戦錬磨の『烈空』も、家庭では尻に敷かれているようですね」


 そんな騎馬のうち一騎から声が聞こえた。

 つい最近まで俺の直属の部下だったフランツだ。


「いいんだよ。御者もやってみたかったし」


 御者の技術は、シルヴァディとの旅の最中に覚えたものだが、使用する機会がなかなか無かった。

 そう言う意味ではいい機会でもある。

 それに、俺が家庭で尻にしかれるかどうかは、まだわからない…はずだ。


「ははは、そうですな」


 そんな会話をしているうちに、一行は、首都ヤヌスの都市門に到着した。

 ここを出たら、旅路が始まる。


「…さあ、仕事の始まりだ」


「―――はい、またご一緒できて、光栄です」


 そう言うフランツの腰には、かつて俺の使っていた剣が見えた。


 ユリシーズとゾラとの戦いで紛失していたと思っていたのだが、隊員が後から捜索し、回収してくれたらしい。

 きちんと研ぎなおし、新品同然の状態で返されたのだが、これはそのままフランツに譲ることにした。


 俺にはシルヴァディの剣があるし―――俺はフランツの剣をジェミニとの戦いで折っている。

 お詫びというわけではないが、それなりに業物であるらしいし、丁度いいだろう。


「――名工イクシアの業物を…本当にいいんですか?」


 なんて言いつつも、嬉しそうに受け取ってくれた。

 元々はカインに貰った剣だが…まあ、アイツもわかってくれるだろう。 

 忘れていたわけではないが、カインも王国にいるし、再会は楽しみだ。


「よし、出発だ」


「はっ!」


 そして、俺達は門をくぐった。


 目指すは北―――ユースティティア王国だ。

 



 多分首都でやり残したことはないはず…一応これで王国編に進みます。間章は挟むつもりですが。

 今章は、大切な人の死と向き合い乗り越える事と、それを通して、今までアルトリウスを支えてくれたヒロイン達と想いを交わす、という事を主軸にした章です。全話難産でした…。

 間章では、出発するまでの1か月間をまとめた日常回と、次章への導入回を数話ずつ挟む予定です。

 

 まだまだ未熟者ですが、完結目指して頑張りますので、これからも読んで下さると嬉しいです。


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