第153話:ラーゼンの提示
ヒナと別れ、俺はその足で元老院へと向かった。
アポは無いので会って貰えるかはわからないが、ラーゼンと…オスカーに会うためだ。
元老院は、以前の活気のない状態からは一転、なかなかに人の動きが激しい。
人員が補充され、国政機関としての動きを取り戻したように思える。
ロビーの受付窓口も多くの人が並んでいた。
俺もその最後尾に並ぶ。
窓口は4つほどあったが、どこの受付嬢も知らない人だ。
20分ほどで、俺の番が回ってくる。
「…ようこそ元老院へ。本日はどのような御用でしょうか?」
少し年上の受付嬢さんは、笑顔ではあったがやけに疲れた顔をしていた。
毎日朝からこんなに多くの人が来るのは、きっと激務なのだろう。
「―――ラーゼン総司令と、できればオスカー将軍に面会を頼みたいんだが…」
少しだけ同情しつつ、俺は用件を伝えた。
すると、受付嬢の人は、怪訝な顔をする。
「はあ…アポはお持ちで?」
「ないけど…」
そう言うと、受付嬢はすまし顔で首を振った。
「申し訳ありませんが、アポのない面会は受け付けておりません。またのご利用をお願いします」
「そうか…」
どうやら即日の面会は出来なさそうだ。
カルティア遠征時代は、受付も全員軍人だったおかげで顔パスだったんだが…まあこうして元老院を利用するのは初めてだし、仕方がないか。
今日のところはアポの打診だけしておいて、潔く帰るか。
「じゃあ…面会の予約を―――」
そう、口を開きかけたところで、
「―――アルトリウス!」
少し離れた位置から、そう名前を呼ぶ声が聞こえた。
聞いたことのある声だ。
慌ててそちらに顔を向ける。
「―――ゼノン閣下…」
見間違えるはずがない。
黒い長髪に、細い切れ長の目。
相も変わらず黒のロングコートに、腰に差した剣。
シルヴァディと並ぶ、ラーゼンの片腕―――『迅王』ゼノンだ。
「久しぶりだなアルトリウス。身体はもういいのか?」
そんなことを言いながら、ゼノンは速足で近づいてきた。
手には何やら書類を持っている。執務の最中だろうに、いいのだろうか。
「はい、それなりに動くようになりました」
「そうか…しかし―――受付なんかに並んでどうしたんだ」
「ああ…総司令かオスカーと面会をしようかと思っていたんですが」
「アポがないから回れ右するところ、か」
「まあそんなところです」
そう苦笑すると、ゼノンはため息を吐きながら言った。
「まったく、相変わらず変に真面目なところがあるな……。お前にアポなんているはずがないだろう。閣下の部屋まで案内しよう。ついてこい」
「え、ちょっと…」
ゼノンはそう言って足早に歩きだしてしまった。
慌てゼノンの後ろに続き―――ふと振り返ると、目を丸くしてぽかんとしている受付嬢さんの姿がちらりと見えた。
忙しいだろうに、少し悪いことをしてしまったな。
● ● ● ●
元老院はそれなりに広い。
ドームが何個分かは知らないが、家の屋敷と違って、軽い気持ちでかくれんぼなどやってしまったら、日が暮れてしまうであろう広さだ。
そんな元老院の廊下を、速足で歩くゼノンについて行く。
「…シンシアに会ったのか?」
歩きながら、ゼノンが言った。
「会いましたが…どうしてわかったんですか?」
「―――腰の剣は、シルヴァディのだろう」
「……はい」
俺の腰にはシルヴァディの剣――黄金の剣が差してある。
まあ彼からしたら一目瞭然か。
「確かに―――剣のタイプとしても、弟子としても…シンシアよりはお前が持つのが相応しいだろう。まあ、神撃流を使うお前はあまり剣にはこだわらないかもしれないが」
「…いえ。重要なことだとは思います」
神撃流の剣士はそれほど剣にこだわらないことが多い。
どんな剣でも使えるようにする、というのが、《万能》である神撃流のコンセプトだ。
実際、先日戦ったゾラなんかは、8本の剣を自由自在に扱い、必要があればすぐに捨てることすら厭わなかった。
多分彼は勝つためならどんな名剣でも瞬時に捨てるのだろう。
俺も優先すべきは勝利だとは思っている。
だが…軍神と戦って、少し剣の質の重要さもわかった。
アイツの剣を受けきるには、並みの剣の強度では無理だ。
別に剣のせいにするわけではないが、それでも、世の中の強い剣士が、それなりの業物を使っている理由は、よくわかった。
…折ってしまったフランツの剣はちゃんと弁償しないとな。
そんなことを考えていると、ゼノンがどこか遠い目で語り始めた。
「…アイツは―――やけに穏やかな顔をしていたよ。まるで満足したかのようにな」
アイツ、というのは間違いなくシルヴァディのことだろう。
「弟子を守って世界最強に挑み―――命と引き換えに自軍を勝たせた。ある意味本望だっただろう」
そして、一瞬立ち止まり、くるりと俺の方を向く。
「お前も…戦ったのだったな。どうだった、軍神は?」
「…果てしなく――強かったと、そう思います。きっと強さを追い求めた先にはアレがいるんでしょう。傲慢で、自分が最強だと信じて疑わない、自尊心の塊のような男でした」
そして、事実アイツは最強だった。
正直、今でも軍神ジェミニのことを思い出すと足が震える。
「…そうか」
そう言って、ゼノンは再び歩き出した。
「…どういう形であれ、本気の軍神と戦って生き残るというのは、至難の業だ。気落ちすることはない」
「……」
「だが、まだ上を目指すつもりがあるなら、その敗北は心に刻んで忘れるな。敗北を知ることは、いつかお前の為になる。それが軍神ならばなおさらだ」
「…はい」
なんとなく、彼はシルヴァディの代わりに、そう言ってくれているような気がした。
正式にゼノンの弟子になってはいないが、カルティアでは毎日のように彼とも剣を合わせた。
師匠ではないが、先生ではある。
素直に助言はありがたい。
しかし、そうだな。
軍神だけじゃない。
ゾラもユリシーズもとんでもない奴らだった。
この世の強さの頂点への道のりの遠さを思い知らされるような、そんな戦争だった。
「さて、この部屋だ」
いつの間にか、ラーゼンの執務室に到着したようだ。
「…では、私はもう行く」
「はい、その…わざわざありがとうございました」
「ふ、気にするな」
そして、ゼノンは去ろうとして、ふと振り返り、一言、
「――アルトリウス、よく―――戻ってきてくれた」
そう言って、また速足に去っていった。
● ● ● ●
「やあ、アルトリウス。思っていたより元気そうでなによりだ」
入室するなり、笑顔で出迎えたのは、銀髪眼鏡の男、ラーゼンだ。
他に部屋には誰もおらず、ただ机と、その上に並べられた大量の書類が目に付く。
もはや語るまでもなく、忙しそうだ。
「はっ、長らく顔を出せず、申し訳ありません」
そう敬礼をすると、ラーゼンは朗らかに笑顔を見せる。
「構わないさ。なにせ、君は戦役の功労者だからな。いくら寝ていても誰も文句は言えまい」
「いえ…私は大したことはできていませんので…」
戦役の功労者とはよく言ったものだが、俺は目に見える戦果は大して挙げていない。
魔断剣も摩天楼も時間稼ぎをしただけで倒していないし、軍神も同じだ。
ヒナやイリティア、シルヴァディにおんぶにだっこだった。
「そんなことはない。オスカーの危機に駆け付けてくれたみたいじゃないか。間違いなく君の役割は大きいだろう」
「…そう言っていただけると助かります」
その後、少しだけ雑談のように、戦役の成り行きを聞いた。
イルムガンツ要塞とは違い、アウローラの戦いは快勝したこと。
だが、国庫とガストンを逃がしたこと。
イルムガンツ要塞は激戦の末、シンシア率いる俺の隊が、ネグレドを拿捕し、結果勝利したこと。
「―――シルヴァディのことは、残念だったよ」
おもむろに、ラーゼンは遠い目をする。
「惜しい男を失くした」
「…はい」
「事の顛末は聞いているが、君が責任を感じる必要はない」
ラーゼンは俺の心情を見透かしたかのように続ける。
「…寧ろあえて彼の死に誰の責任を問うかと言われれば、―――『軍神』が出てくることを想定できなかった私の責任だ」
シルヴァディだけでなく、全兵士の死の責任が、自分にある。
きっとラーゼンはそう思っているだろう。
そして、その責任を最後まで背負い通すことができるからこそ、彼は指導者たり得るのかもしれない。
「『軍神』とは、強さの根源。あれは戦争そのものだ。きっとシルヴァディは命を懸けてその戦争に、我々を勝たせた。ならば、我々はその勝利を無駄にせず―――前に進まなければならない」
「…そうです、ね」
俺がウジウジと悩んで達した結論を、ラーゼンはとっくの昔に出していたのだろう。
シルヴァディが忠誠を誓うだけはあって、この人はやはり並々ならぬ人だ。
その後は戦後の話をした。
オスカーとゼノンが、東方を完全に制圧し、内戦は終わったこと。
門閥派の後処理も終え、今は国勢調査や税制改革、人材補充に追われていることなどだ。
「…その――私が寝ている間に、ヒナの身分も保証してくれたということで」
門閥派の話が出たので、ヒナについて触れた。
「ああ、勿論だ。なにせ約束したからな」
「…感謝します」
「ふ、もっとも…彼女は既にカレン一門から除名されていた。東軍と戦ったという報告も受けているし―――約束などなくとも特にどうこうするつもりはなかったがね」
そう言ってラーゼンは苦笑する。
「少し話したが、とんでもなく優秀な娘だったな。『炎姫』だったか…卓越した魔法士である上に、やけに頭もキレる。うちの文官に迎えたいくらいの逸材だ」
「…彼女はそういったものは望んでいないと思いますが」
「ふ、もちろん断られた。もう1人の方は上手くいったんだがね」
本当に勧誘したのか。
いや、しかし…
「もう1人?」
「そうだ。イリティア・インティライミ―――『銀薔薇』と呼ばれる魔法使いだ。今はうちの軍に入ってもらっている。優秀な魔導士だと名前は知っていたが―――聞くと、以前君の家庭教師をしていたそうじゃないか」
「はい、そうですが…」
「今は軍の再編成のために、元老院にいる。後で会いに行くといい」
「…そうします」
イリティア先生が軍に入っているのは少し意外だ。
てっきり教職に戻るのかと思っていた。
彼女にも会わないとな。
ヒナと共に俺を助けてくれたお礼をしないと。
「……さて」
そんなこんなで概ね戦争の話は終わった。
次にしなければならないのは―――。
「それで、アルトリウス、君の今後だが」
そう、今後の話だ。
俺の頭はまだどうするのか煮詰まりきっていないが…。
「私から提示できる選択肢は4つほどだ」
そういって、ラーゼンは指を4本立てる。
4つとは、意外と多い気がする。
「1つ目は、そのまま軍に残ること。内戦は終わったが、国の安全保障ラインを決める―――要するに新たに国境を設定するにあたって、辺境の蛮族と抗争になることなどいくらでもあるだろう。優秀な軍人は大歓迎だ。君の隊は―――退役を志願する人間以外はまだそのまま残してある」
まあ――案の上、といったところか。
国境を一新し、きちんと選定するというのは、国の安全保障の為には、まず第一に必要なことだ。
カルティアこそ制覇したが、辺境に蛮族などはいくらでもいる。
そういう物から国民を守るのは、指導者の責務だろう。
「2つ目は、軍ではなく、政務に携わる事。カルティアでの君の政務の実力はよく知っている。とりあえずはオスカーと共に属州統治を経験してもらい――数年後には元老院議員や、望むなら執政官もやってもらうことになるだろう」
政務に携わる、か。
まぁ俺の性格を考えても、デスクワークは向いているし、嫌いではない。
「オスカーと共に、というのは?」
「ああ、オスカーをアウローラ総督にすることにしたからな」
「―――それは…大抜擢ですね」
アウローラ総督というのは、実質的な東方の総司令官だ。
国のナンバー2と言っても過言ではない。
「私は実力主義だからな」
「…なるほど」
確かにオスカーは兵士としては落第点だが、指導者としてならばかなり満点に近いだろう。
この年齢での属州総督就任は、おそらく前例のないことだが、彼ならば十分にこなせる気がする。
さしずめ俺はその補助役というところか。
元老院議員や執政官なんていうのは柄じゃないが、オスカーが常に矢面に立って、俺はあくまでサポートに回るという役割なら、それほど悪い選択肢ではない気がする。
ラーゼンは次の選択肢を提示する。
「3つ目は、軍も退役し、政務にも携わらない―――つまりは公務の場から去る事。その後は完全な自由だ。もちろん、退役金は充分に出すし、何かやりたい仕事があるならば多少は手助けしてもいい。もっとも、君ならば必要ないかもしれないが…とにかく、好きに生きると良い」
自由、か。
退職金も、本当に大金を出すのだろう。
もしかしたらそれだけで遊んで暮らせたりするのかもしれない。
それはそれで悪くはない。
少し田舎に小さい家を買って、魔道具でも作って小金を稼いで――まぁとりあえずはそれくらいしか思いつかないが、前世の俺は無趣味にも程があった。今回はもう少し趣味とかに生きてもいいかもしれない。
しかし…選択肢としてはそれくらいじゃないか?
軍か、政務か、自由か。
それ以外の選択肢を、ラーゼンが提示するとも思えないが…。
そんな俺に、ラーゼンは口を開く。
「さて、最後だが…これは政務に就くことと似ている。だが――しかし、その内容は通常の政務とは全く違い―――さらには大きな意味を持つものだ。なにせ―――当初はシルヴァディに任せようと思っていたことだからな」
「―――‼」
その言葉に、俺の表情は少し硬くなった。
シルヴァディは優れた魔導士だった。
軍人としての戦力ならば、文句のつけようがないだろう。
だが、文官としては微妙だった。
無論、頭が悪いわけではない。
シルヴァディは駆け引きは得意だったし、物事の本質や、他人の意図を汲むのも上手かった。
ただ、単なる事務処理や書き物のような小難しいことが嫌いだったのだ。
そういった面はカインに似ている。
そんな戦力であるシルヴァディにやらせようと思っていた政務とは…。
ラーゼンがゆっくりと口を開いた。
「そう、私が提示できる4つ目の選択肢、それは…ユースティティア王国への《大使》だ」
「…大使…」
何と反応していいかわからない俺をよそに、ラーゼンが説明を始めた。
「知っての通り―――我々ユピテルの上層階級のうち、穏健派と呼ばれる人間は現在、王国へ亡命している。君の家族もだったか」
「…はい」
「彼らの亡命理由は、内戦に巻き込まれないため、というものだったが、その内戦は終わった。そして、私は穏健派を受け入れる用意がある」
ラーゼンが勝利した場合、内戦が終わった後、穏健派を受け入れる用意がある、という内容は、かつて北方山脈で、シルヴァディと穏健派との間で交わされた話であるらしい。
穏健派も、この提案は受諾した。
彼らとて好きで亡命するわけではないのだ。
「だが、内戦が終わったから帰ってこいといったところで、自然と帰ってきてくれるわけではない。なにせ、亡命先は他国だからな。自国だけでの完結は不可能だ」
「つまり――」
ラーゼンの目が鋭くなる。
「そうだ。我々からも、同胞の亡命を受け入れてくれて感謝するという、誠意を見せなければならないといことだ」
「《大使》が誠意の証、と」
どうやら穏健派が帰ってきていないのは、そういった国体の問題もあったらしい。
「《大使》は誠意の証であり、穏健派の受け取り手だ。それに―――本来ならばしなくてよかったはずの頼み事もするつもりだ。半端な人間は送れなくてね」
「頼み事とは?」
「金の融資だよ」
「――!」
「これも先ほど言ったが、ガストンによって国庫の金が持ち去られ、現在の国の財政はかなりシビアな状態になっている。なにせ、あるはずの金がないのだからね。だが―――かといって増税だけは絶対に避けたい」
「なるほど…」
ラーゼンの気持ちはわかる。
財政が困難になったとき、最も楽な解決策は増税だが、それを払う市民はラーゼンの支持基盤だ。
増税なんてすれば、折角ここまで集めてきた支持も失いかねず、下手をすれば暴動が起きる。
ラーゼンからしたらやりたくない行為だろう。
「そして金を国内で賄えないならば、よそから持ってくるしかない。行きついた結論が、他国から借りるということだ…まあ私としても苦肉の策さ」
そう言ってラーゼンは苦笑いを浮かべた。
「では、大使の役目は――穏健派の受け取りと、金の融資の打診、ということですか?」
「…そうだな。大きな目的はその2つだ」
そしてラーゼンはため息を吐くかのように言う。
「とにかくそういうわけで、《大使》の人材には困っている。信頼に足り、かつ王国にも舐められない人間など、そう簡単に見繕えるものではない。このままではゼノンを出さねばならなくなる」
ゼノンは、ラーゼンの片腕であると同時に、《盾》―――つまりは護衛の役目をしている人間だ。
立場上、暗殺される危険性のあるラーゼンにとって、ゼノンという存在がどれほど大きいかは、計り知れない。
事実これまでも、別行動しなければならない仕事の多くはシルヴァディが務め、ゼノンはラーゼンと共にいることが多かった気がする。
戦略上の都合で離れたこともあったが、それも数えるほどだろう。
―――シルヴァディのやるはずだった仕事、か…。
なんとなく、因果は感じるものではある。
「―――まあ、この中から何を選ぶかは君の意思を尊重する。確かに人材には不足しているが、やる気のない者を登用しても仕方がないしな。変な気を使う必要はない」
かつて、カルティアを発つ前に2人で話した時を思い出す。
軍人か、文官か、自由か、大使か―――。
さて、どうするか―――。
いや…。
「…少し、考える時間を貰ってもいいでしょうか? その…色々な人に相談してみようかと」
そうだ。
別に1人で悩む必要はない。
俺は1人じゃない。
確かに家族とは離れ離れだけど、でも、同じくらい大切でかけがえのない人たちは、今俺の傍にいるんだ。
すると、ラーゼンは当然だとばかりに、大きく頷いた。
「…ああ、もちろんだ。よく考えてくれ。どうせ―――あと1月程はどれも行わない」
「1月後に…凱旋式でも行うんですか?」
ユピテルでは戦争に勝ったあと、その勝利した将軍を称える凱旋式を行う。
首都のメインストリートを軍団がパレードのように練り歩き、市民も貴族もこぞって大騒ぎする――ようするにお祭りだ。
確かに、凱旋式を行うことは、非常に栄誉なことであるし、祭りは経済効果もある。
やらない選択肢はないように思える。
「いや」
しかし、ラーゼンは首を振った。
少し物憂げな表情だ。
「…国葬を行う。多くの命が―――散っていったからな」
「……」
――国葬。
そうか、そうだな。
今回の戦争は、内戦も含む。
敵も、味方も―――ユピテル人――同胞だ。
勝利を祝うわけにも行かないのだろう。
少ししんみりとした中で、俺はラーゼンの部屋を後にした。




