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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十三章 青少年期・アウローラ編
145/250

第145話:分岐点

 少し切りは悪い感じになってしまいましたが、これにてアウローラ編は終わりです。思ったよりも長引いた章になってしまいました。

 読んでいる方も疲れたかもしれませんが、ご容赦ください。


 ――父さんの…亡骸?


 シンシアがその言葉を理解するのには、やけに時間がかかった。

 もっとも、その点に関しては、その場にいた誰もがきっと同じ思いだっただろう。


 あのシルヴァディが。

 『天剣』シルヴァディが、死んだなどと、いったい誰が信じただろう。

 いったい誰がその意味を理解できただろう。


 だから、その伝令に連れていかれた先にある―――そこにあった光景を、シンシアは数秒、いや数十秒、理解できなかった。


 寝台の上に寝かされた、1人の男。

 全身が血にまみれ、片腕がない―――だがそれ以外は見慣れた男。

 やけに安らかな顔で眠る―――血に濡れた金髪の男だ。


 それが父であると理解するのに、何度瞬きをしただろう。

 そして、父であるなら、こんなことになるはずがないと―――何度自分の目を疑っただろう。


「――父さん? 冗談ですよね?」


 出てきた声に、父は答えない。

 ただ穏やかな顔で天を見上げるのみだ。

 皆が固唾を呑むなか、シンシアはたどたどしい足取りでその父に近づく。


「―――どうしてですか? 返事をしてくださいよ! 嘘ですよね? だって父さんは八傑で、天剣で―――誰にも負けない最強の魔導士なんですから…」


 抱きかかえたその父の体が硬く、冷たいことに―――彼女の信じられなかった現実は、それが夢ではないということを如実に伝える。


「――ずるいですよ、そんなの…まだ全然追い付けていないのに…折角少しだけ差をが縮まったと…そう思ったのに…1人だけ先に、勝ち逃げなんて…」


 負けるはずがない。

 あんな―――クザンなんかにやられる父じゃなかった。 


「ねえ、父さん…」


 もっと話したいことが、いくらでもあった。

 教えて欲しいことも、伝えたいこともたくさんあった。


 ようやく、時間が動き出したのに。

 ずっと―――長い間すれ違っていた親子の時間がようやく重なって、戦争を終わらせて、これから今までの分まで、たくさんの思い出を紡げると――そう思っていたのに。


「…どうして、置いていくんですか…私1人を置いて……」


 母も、父も、勝手にいなくなる。

 シンシアにとって大切なものが、大切になった瞬間奪われていく。


「……うう―――うぁああああぁああぁぁあああぁぁ!」


 動かぬ父の胸の中で慟哭する少女の姿は、目を逸らしたくなるほどいたたまれないものだった。

 だが、彼女にかけれるような言葉を持つ者は、この場にはいない。

 最後の肉親を亡くした娘に、いったいどのような言葉をかければいいのか、わかる者などいるはずがない。


 1人、また1人と去っていくその空間には、ただ最後に残った少女の泣き声だけが響いた。


 ようやく動き出した親子の時間は、今日再び止まり―――そして、もう二度と動き出すことはなかった。




● ● ● ●




 イルムガンツ要塞から程ない場所―――戦争が終わり、やけにひとけのなくなったその場所で、3人の人物が歩いていた。


「いやあ、ダル君も間抜けですねぇ、捕まっちゃうなんて」


「…いえ、ユリシーズ殿、あれは降伏のラッパが聞こえたので進んで捕虜になっただけで、それがなければあと少しで勝ってましたよ」


「またまたぁ、強がっちゃって! 本当は私たちが助けに来るまで不安で不安で仕方がなかったくせに」


「確かに連れ出してくれたことはありがたいですが…」


 そんな会話をするのは、桃色の髪の女性ユリシーズと、現在は剣を持っていない緑色の髪の青年、ダルマイヤーだ。


「でも…良かったんですか? 何も捕虜交換の手続きはしていませんけど」


「問題ないわい。今は奴ら――それどころではないじゃろう」


 青年の言葉に答えるのは、疲れた顔をする中肉中背の老人、ゾラだ。


 ゾラとユリシーズは、シルヴァディの遺体を届けたときに、騒然となる西軍の隙をついて捕縛されていたダルマイヤーを救出してきたのだ。


 一応、実力者の一人として重要な捕虜の1人であったダルマイヤーを解放するには、それなりに苦労するかと思っていたが、「シルヴァディの死」という事実に慌ただしくなる西軍の中、ダルマイヤーを見つけて抜け出してくるなど、ゾラからすればお手の物だ。 


 それほど―――天剣シルヴァディの死というのは、東と西を問わず、衝撃的な事実なのだ。


「…ですね」


 ため息を吐くかのようにユリシーズも頷く。

 もはや細かい捕虜の帳簿などないだろう。

 そもそも―――敵も味方もユピテル人だ。きっとラーゼンは末端の兵士など全員解放する。


 彼にとって問題なのは、首都から逃げ出した門閥派の元老院議員や、指揮官であるネグレドなどの主要な共和主義の権力者たちなのだから。


 さて、ともかく実力者とはいえ、自身たちは「末端の兵士」と考えるゾラとユリシーズからすれば、この戦争はもう終わりだ。

 彼らほどの実力があれば、誰の治世だろうと問題なく生きていける。


「それで、お爺たち、これからどうするつもりですか?」


 言葉のままのユリシーズの問いに、老人ゾラは顔をしかめる。


「…うーむ、特に決め取らんのう。とりあえずは体を休めて―――失った剣を新調するつもりじゃが。ユリシーズ、お前こそどうするつもりじゃ?」


「私は―――館に顔を出してから、王国に行って、久しぶりに師匠に会ってみようと思います。お爺も一緒にどうですか?」


「ふぉっふぉっふぉ、遠慮しとくわい。王国は悪くないが、ワシはウルは苦手での」


「ふふ、子供の時のこと、まだ根に持っているんですね」


「違うわい!」


「…お二人とも、いい加減に―――」


 先ほどまで戦場に身を置いていたとは思えないほどの気楽な会話に、ダルマイヤーがため息を吐く。

 


 そんな、戦争が始まる前と変わらぬ3人の姿は、すぐに要塞からは見えなくなった。

 


 それから数刻も立たずに、都市アウローラから、迅王ゼノン率いる援軍が到着する。

 名実ともに、アウローラが落ちたことが分かり―――ユピテル東西内戦は、西軍―――ラーゼンの勝利を持って終結した。


 不思議と歓声が上がらなかったのは、同胞を倒したことに対する遠慮か、それとも、失った命に対する哀しみの余波か―――。


 いずれにせよ、確かにその様子は、まさに戦前ネグレドの言った「勝者のいない戦争」を体現しているようにも思えた。





● ● ● ●




 西軍の手に落ちた要塞の医務室の一角に、1つだけ騒がしい部屋があった。


「――魔力を切らすな! 治癒をかけ続けろ!」


「駄目です、魔力を流し込んだ途端、制御が…!」


「いいから、続けるんだ!」


 何人かの治癒魔法士が、1人の横たわる少年に対して治癒魔法をかけ続けていた。


 アニーなどのアルトリウス隊の面々もいれば、別の隊の人間もいる。


 誰もが必死な表情だ。


 この少年は、この医務室に運び込まれた時点で、相当危ない状態だった。

 しかも、いくら治癒魔法をかけても、微々たる効果しか現れず、手すきの魔法士総出で治癒魔法をかけているのに、状態は一向によくならない。

 彼の中の魔力が悪いように暴走し、それが他の治癒魔法を寄せ付けないのだ。

 暴走状態を制御できるような腕のある魔法士は、この場にはいない。


 だがそれでも、この少年を死なすわけには行かなかった。

 西軍ならば誰でも知っている顔だ。

 エース部隊を率いる若き英雄。

 彼らは、カルティアで、何度もこの少年に助けられている。


 たとえ効き目が薄くとも、己の魔力が枯れるまで治癒をかけ続けることに躊躇はない。

 

 すでに数時間、代わる代わるそのようにして少年の命をつないでいた。


 そんなとき――


「―――ここね!」 


「―――ちょっと困ります! 部外者の方がこんなところまで!」


 慌ただしい医務室の扉の前で、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。


 まだ若い少女の声と、部屋の警護を任せていた兵との言い争いのようなものだ。 


「部外者じゃないわよ」


「ではいったいどういったご関係で?」


「え? その…恋―――古い知人よ! もう! いいから入るわよ!」


「あ、ちょっと!」


 そんな声と共に、扉が開く。

 半ば強引に、現れたのは、凛とした佇まいの赤毛の少女と、その後ろを少し申し訳なさそうに追従する銀髪の美女だ。


 そんな2人組に、アニーは見覚えがあった。


「――あ、あの時の! 無事だったんですね!」


 アルトリウスに治癒をかけながら、アニーは声を上げる。

 あの時、魔断剣ゾラと、摩天楼ユリシーズの相手を引き受けてくれた2人組だ。

 まさか無事だとは思っていなかった。


「ええ、そうだけど…」


 赤毛の少女はそう答えつつも、視線はアニーではなく、部屋の中央、治療を受ける少年の方へ向いている。


「…どうしてあの時よりひどい状態になっているのかしら?」


 少女の視線は鋭く、可愛らしい見た目からは想像できないほどの圧が出ている。


「…実は――」


「――いえ、いいわ。とりあえず…全員どきなさい」


「…はい?」


「私がやるわ」


「―――‼」


 その赤毛の少女の凄みに、不思議と誰もが道を開けた。


「――ようやく会えたのに、絶対死なせやしないんだから…」


 すれ違い際、歯を食いしばるような声が、少女からは聞こえた。




● ● ● ●




 その日の夜――イルムガンツ要塞からの報せは、アウローラに早馬で届いた。


「……そうか、勝ったか」


 そうため息を吐くのは銀髪の男、ラーゼンだ。


「はい、しかし――」


「…そうだな、惜しい男を失くした」


 報告を受けたのは、勝利と――自らの腹心、シルヴァディの死だ。


 長年、ラーゼンの剣――つまりは力の象徴として長年連れ添った部下の死に、ラーゼンとて感じるものはある。


「ネグレドは?」


「ミロティック総督は、自刃致しました」


「…奴も死んだか。何か言い残したことはあるか?」


「…『勝利をおめでとう、そして、地獄へようこそ』、と」


「――そう、か」


 特に表情を変えずにそう頷いたラーゼンの心境が、喜びであったのか、それとも哀しみであったのか、目の前にいる伝令にはまるで想像はできまい。 


「……」


 伝令の前で、ラーゼンは数秒、考えるように固まった。


 失ってしまった戦友や、まみえずして敗れていった敵将に想いを馳せたようにも見えれば、これから先の遥か大きな道のりを見据えていたようにも思える。

 まるでこれから彼が背負わねばならなくなった戦後の世界の責任というものを噛み締めるような沈黙だっただろう。

  

 そして――沈黙を経て、ラーゼンは口を開いた。


「…お前はそのままヤヌスに報せろ。『ラーゼンが勝利した』とな」

 

「―――はっ!」


 伝令はすぐさま敬礼をして去っていった。




「……勝った、か」


 残されたラーゼンは、窓の外に見える星々を見つめていた。


 おそらく――いや間違いなく歴史の転機であるといえるこの日も、星の煌めきは、普段となんら変わらない。

 彼らにとっては、この地上の出来事など意に介す必要のない些事なのだろう。


 だが、彼はそんな星々とは違い――世界の転機に深く関わってしまった存在である。

 自分で関わると決め、自分で変えると決めたのだ。


「――ようやく終わった…いや、ここからか始まりか」


 戦争は目的ではなく、手段だ。

 そして、これからの道は、戦って勝てば終わりというわけではない。


 これから彼が歩む人生――ネグレドが言ったであろう、修羅の道は、まだ始まったばかりだ。




● ● ● ●



 命を散らした者。


 悲しみに暮れ、涙を流す者。


 戦争の終結に安堵する者。


 次なる場所を求める者。


 傷を負って目覚めぬ者。


 覚悟を決めた者。


 様々な感情の渦を生み出しながら――ユピテル東西内戦は幕を閉じた。


 西軍6万に対し、東軍10万。

 勝敗を分けたのは、指揮官の能力か、兵士の練度か、強者の差か―――それとも時の運か。

 おそらくその多くに味方され、ラーゼンは勝利した。


 内戦は終わったのだ。


 ―――だが……。




「―――ガルマーク卿、覚悟したまえ」


 都市アウローラより北東―――夜も更け、視界もおぼつかない名もなき平原にて、1人の男が首元に剣を突き付けられていた。


 絶体絶命に立たされているのは、ふくよかな肉体を持つ貴族―――ガストン・セルブ・ガルマークだ。

 高貴な身なりなのに、従者も連れず、体は汚れ、全身は汗だくである。


 対面、彼の喉元に剣を突き付けるのは、銀髪の鍛えられた肉体を持つ男、マティアスだ。


「…全く、この短時間にこれほどの距離を逃げるとは…なかなかに世話を焼かせる」


 総司令官ラーゼンより、国庫の金を持ち、逃亡したと思われるガストンの捜索をしていたマティアスだったが、存外彼をここまで追い詰めるには労を要した。


 たった1人の人間を拿捕することがそれほどまで難しいかと思うかもしれないが、これが難しい。

 なにせ、ガストンは本当に1人きりで逃げたのだ。

 国庫の金が積まれた馬車に、たった1人で。


 普通は、それなりの貴族であれば、移動には多くの奴隷や従者を伴うものだ。

 特に都市の外に出る上に、尚且つ高値の物を所持しているならば、野盗の心配もある。

 その場合は目立つため、見つけるのも容易かと思われていた。


 それをこの男は、速さを重視して従者を1人たりとも連れて行かなかった。

 おかげで、彼が都市から既に出ていることを突き止めるまでに多くの時間を使ってしまった。


 そこからは、人海戦術で、多くの兵を使って、アウローラの北東を捜索した。

 なにせ、北東はヤヌスからは逆である。

 逃げるならばそちらの方角に逃げると踏んだのだ。


 範囲を絞ったことが功を奏したのか、日没直前に、それらしき馬車を見たという目撃情報を得た。


 速度を上げて逃げるガストンを、馬を無理させてでも追うマティアス。

 その追いかけっこは、丁度月が昇ったころに終わった。

 多くの兵を持つマティアスが勝つのは当然だろう。

 

 そして程なくガストンの馬車は補足され、現在は多くの兵に囲まれながら、マティアスに剣を突き付けられているということだ。


 ――クソが…あの無能共め…。


 剣の前に、冷や汗を掻きながらガストンは歯噛みしていた。


 実は彼としても、この1人での逃亡劇は予想だにしていないことだった。


 なにせアウローラの陥落が早すぎたのだ。

 

 門閥派の貴族たち率いる東軍が負けることはわかっていた。

 だからこそ、ガストンとしても一世一代の決断をして、国庫の金を盗み出し、貴族共が戦争に夢中になっている間に逃げおおせようとしたのだ。


 だが、ガストンの予想を超えて、東軍の敗走は早かった。

 本来ならそれなりの従者と護衛を連れて都市を出ようとしていたところを、慌てて中断し、金を積んだ馬車に乗り込んだ。


 一応そのおかげで、都市内で補足されることはなく、ここまで逃げおおせたのだが―――流石に大量の兵士に追われてはどうにもならない。旅に慣れない上級貴族単身の逃亡にしては、頑張った方だろう。 


 もはや、ガストンにこの状況を打破する力はない。

 国庫をダシに生き残ろうかとも思ったが、既に馬車は抑えられている。


 打つ手はない。


「…しかし、考えたな…負けることを見越して国庫を持ち出し逃亡するとは…腐っても頭はキレるということか」


 そう言いながらガストンを見据えるのは、銀髪を棚引かせる美男子、マティアスだ。


「だが…残念だったな。ラーゼン閣下は完全勝利をお望みだ。安心しろ、殺しはしない」


 そして、マティアスは近くの兵士に命令をする。


「―――おい、縄かなにかで縛っておけ」


「―――っ!」


 マティアスの言葉に従って、何人かの兵が、ガストンの身柄を抑えにかかった。


「――クソッ! おい、私は上級貴族だぞ、もっと扱いを…」


 兵士相手にもがくガストンだったが、振りほどくことはできない。

 鍛えられていない彼の体では、軍人相手にはなんの意味もないのだ。


「―――放せッ、私はこんなところで…」


「―――ふん、無様だな」


 地面に頭を叩きつけられながら、喘ぎにも似た声を出すガストンに、マティアスは冷ややかな視線を向けている。


「命が惜しくて戦争から逃げ出した臆病者の弱腰野郎が、なにが貴族だ」


「―――な…に……?」


「貴様は貴族…いや、ユピテル人の風上にも置けないような奴だよ。ラーゼン閣下も、貴様だけは許さないだろう」


「―――!!」


 まるで家畜を見るかのような目だ。


「―――連れていけ」


「――うぐッ!」


 マティアスの言葉で、ガストンは猿轡をされ、強引に立たされた。


 それは、上級貴族どころか、敵軍の捕虜の扱いにも劣るものだ。


 ―――死。


 このまま、ラーゼンの元に連れていかれ、そして待っているのは処刑だろう。


 その権利が、ラーゼンにはある。

 

 おそらくギレオンがばらしたであろう不正の数々。

 そして、ラーゼンの家族に危害を加えたという―――侵害行為。

 その対応として、処刑をする権利と手段が、ラーゼンにはあるのだ。


 ―――ここで…こんなところで…。


 かつて感じたことのない恐怖が、ガストンの思考を覆う。


 死―――。

 その恐怖は、ガストンがそれまで持っていたあらゆるプライドも意地も、何もなくなるような恐怖―――。


 ――嫌だ、死にたくない……私は支配者だぞ…この国の執政官で、伝統ある門閥派の指導者だぞ……。


 何とか逃げ出せないか、生き延びれないか――そうガストンが思考をしていたとき。



「―――うん、悪くない状況だね」



 この場にそぐわない、子供の声が聞こえた。


「――!? なんだ!?」


 予期していない声に、マティアスや兵は慌てて松明を向ける。

 ガストンもそこへ視線を向けた。


「―――子供?」


 不気味な子供だった。


 水色の髪に、青いローブを羽織った、印象に残らない無邪気な笑顔―――。


 ――どうしてこんなところにこんな子供が…。


 マティアスもガストンもそんな思考をしたことは間違いないだろう。


 その水色の髪の少年は、興味深そうにガストンとマティアスを交互に見やる。


「―――うーん、ガストン・セルブ・ガルマークと、マティアス・ファリド・プロスペクターか…結構面白い組み合わせだ」


 子供は不気味に笑う。


「…なんだ? 君、どうして私の名前を―――」


 そして、マティアスがそう言ったとき、ガストンは異変に気付いた。


 周りの兵が、止まっているのだ。

 まるで時でも止まっているかのように体を硬直させて、感情すらも抜け落ちたように固まっている。


 動いているのは、マティアスとガストンだけだ。


「!? お前はいったい―――」


 マティアスも気づいたようで、驚いたように目を見張る。


 明らかにおかしい現象。

 この少年と関係がないとは思えない。


「―――僕はラトニー。世界の行く末を決める―――決めることができる唯一の存在、調停者」


「―――いったい何を……!」


 流石に、この少年を危険と判断したマティアスが剣を抜こうとするも、


「――無駄だよ」


「――!?」

 

 その一言でマティアスの体は動かなくなった。


 目は見えるのに、体がマティアスのいうことを効かない。

 まるで、この少年に支配されているように、抜こうとした剣は抜かれない。

 

「――さて、分岐点だ」


 水色の髪の少年、ラトニーは不気味に笑った。




 確かに、この日、ユピテル東西内戦は終わった。


 だが――――混迷の危機は、まだ去っていない。



 一応、この作品を書き始めた時点で細かく構想していた部分は内乱終結までになります。

 なかなかストーリー進行が難しく、思い通りにならなかった部分もありますが、楽しんでいただけたなら幸いです。

 今後についてですが、アウローラ編の後日談を含める次章及びできればその先までのプロットを作成しますので、1~2週間ほど更新をお休みします。

 早く完成の目途が立てばすぐに更新しますが、もしかしたら逆もあるかもしれません。

 経過はTwitter→@Moscowmule17で報告いたしますので、気になる場合はご確認ください。

 

 後書きが長くなりましたが、読んで下さりありがとうございます!

 よろしければ今後ともお付き合いください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 神だの調停者崩れだのが出てくる話は頭のおかしな奴が作るんだろうね
2019/12/11 19:11 退会済み
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