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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十三章 青少年期・アウローラ編
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第139話:最終局面へ



 ―――なるほどな、こういうことか…。


 シルヴァディは思う。


 ずっと前から予感があった。

 以前から―――そう、確かアレは、自分の愛弟子、アルトリウスがギャンブランの片割れを倒した時あたりだ。


 まるで、ここに―――今日この日の為に収束していくかのように成長していく弟子と、そしてそんな弟子を相手に、成長している自分。


 弟子はともかく、もう魔導士として完成していると思っていた自分が、どうしてまだ高みに上るのか、シルヴァディはわかりかねていた。

 ぐんぐんと強くなる。でも、その原因がわからない。

 特に訓練の仕方を変えたわけでもない。

 ただ、毎日アルトリウスと剣を合わせているだけだ。


 最初は、きっと弟子に感化されて―――アルトリウスに負けていられないという気持ちが先行した結果なのかと、漠然とそう思った。


 だが、それは違った。


 内戦の最終局面。

 ユリシーズやゾラが参加している事態。


 何かが…来る。

 

 そんな予感が、シルヴァディを襲っていた。


 クザンを退けた後、戦略を曲げてでも、シルヴァディには確かめなければならないことがあった。


 そして―――その感覚を信じた先に、倒れた少女と、それを隠蔽したであろうアルトリウスの魔法の形跡があった。


 少女の案内の元、その先で待ち受けていたソイツを見て、シルヴァディの予感は確信に変わる。


 ―――そうか、俺が強くなったのは、この時の為か…。


 正面に見据えるのは、白髪に、浅黒い肌。

 黄色の目から発せられる眼光と、身に纏う魔力の強大さは、思わずシルヴァディですら足を竦ませる。

 

 『軍神』ジェミニ。


 史上最強の男。

 待ち受けていた運命の終着点。


「…『天剣』シルヴァディだな」


 軍神ジェミニは、低い声でそう言い放つ。

 去っていくアルトリウスや、アニー達への興味はもはや失せたとでもいうようにシルヴァディのみをその両目に見据えている。


「貴様の弟子はなかなかだったぞ。聖錬剣覇(メリクリウス)を思い出した」


「…そうかよ」


 ジェミニは剣を抜いている。

 純白の剣―――シルヴァディが今まで見た剣の中だとダントツの業物だ。


 シルヴァディは自身の持つ剣に目を置く。

 王国最高の名工、ナバスの一品――黄金剣イクリプス

 奴の剣にも、負けはしない。


「―――スゥー…」


 呼吸。

 酸素を目いっぱい吸い込み、見据えるは軍神。

 頭の中には憤怒。


 ―――アルトリウス。


 弟子が何かを背負っていることはわかっていた。

 きっと、アルトリウスも何か予感のようなものを感じていたのだ。

 この戦争で、何かがあると。


 ―――そして、またアイツは無茶をした。

 いや、させてしまった。 


 アルトリウスがいなくても勝てると豪語しながら、結局彼一人に世界最強を背負わせてしまった。

 これが運命だというのなら、アルトリウスはどれほど苦難の星の元に生まれてしまったのか。

 

 あんな少年に―――誰よりも思いやりのある優しい少年に、いったい世界は何を求めているのか。


 ―――もういい。お前はずっとそこで休んでいてくれ。


 強さを求めたアルトリウス。

 大切なものを守るために強くなりたいといった少年。

 シルヴァディはその気持ちに答えたかった。

 だから彼には剣を教えた。


 でも、彼が強くなるたび、苦難に陥るというのなら。


 ―――俺が背負うよ、アルトリウス。お前の守りたいものも、世界も、全部ひっくるめて俺が何とかしてやる。


 世界に対する怒りは、シルヴァディに決意を与えた。


「そうだな…相手が軍神なら、丁度いい」


 天剣シルヴァディは、世界に名だたる魔導士だが…世界の頂点ではない。

 

 速さでは『迅王』に軍配が上がる。

 魔法では『摩天楼』が優れている。

 硬さでは『白騎士』に劣る。

 剣技では『聖錬剣覇』に敵わない。

 

 そして―――『軍神』の方が強い。


 それがシルヴァディにとっての認識であり、世界の常識だった。


 だから…。


 ―――そんな常識は捨てる。


 世界最強?

 常勝不敗?

 

 上等だ。  


 弟子に手を出されて黙っている師はいない。

 それが最強だろうと、伝説だろうと、下げる拳も、退く意思もない。 


 あの時、山脈の道で、まるで何でもないかのように少年が自分を師と認めてくれたあの日から――師としてのシルヴァディに迷いはない。


 目を奪われるほど優雅に、シルヴァディは剣を構える。


「…さぁ、行くぞ軍神―――お前の英雄譚はここまでだ」


 『軍神ジェミニ』対『天剣シルヴァディ』。


 いずれもが、『八傑』に名を連ねる圧倒的強者。


 今―――世界の頂点を決する戦いが、始まった。

 



● ● ● ●



 

 ―――要塞イルムガンツ…指令部。


「…ええい、報告をしろ! いったいどこから抜けられたというのだ!」


「は、それが…退避用に残しておいた要塞直通路より、侵入したようです。数は少数ですが、手練れ揃いのため、狭い要塞通路内ではなかなか手こずっているようで…」


「なんだと…あれほど抜け道は塞いでおけと言ったのに…」


 予想外の事態に、ネグレドは苦悶の表情をしていた。


 要塞内に撤退し、防衛の指示をし―――要塞の中枢にもどってきた途端、「要塞内部に敵軍出現」の報告を受けたのだ。


「いえ…その…隠蔽の魔法はかけてあったはずなのですが」


「蛮族を相手にしているのとはわけが違うぞ! 敵に魔法士がどれだけいるかわかっているのか!」


「は、も、申し訳ありません!」


「ええい、いいから――とにかくさっさと殲滅しろ! 正面門の防衛指揮をしているダルマイヤーを迎撃に回らせてもいい」


「は!」


「…ふう」


 報告に来た伝令兵がの後姿を見ながらネグレドはため息をつく。


 確かに急ぎの撤退戦ではあったが、まさか自軍の抜け道を向こうに利用される失態を犯すとは、彼からすれば予想外のことである。 


 固い要塞であるイルムガンツも、内側は脆い。

 たとえ少数の侵入であっても、小山を繰り抜いて空間を形成した要塞であるイルムガンツは通路が細い横道によって形成されている。

 そんな場所では大軍を使っての殲滅も難しい。

 このまま要塞門が解放されるようなことがあれば…。


「…いや」


 それ以上に不味いのは、その敵軍がこの司令部にたどり着いた場合だ。

 ネグレドの身柄を抑えられてはその時点で敗北は確定的である。


 逃げるという手もあるが、できればネグレドとしてはここを離れたくない。

 ネグレドがここにいることは、兵士たちの士気にも直結している。

 そもそも脱出路の途中で敵兵に出くわさないとも限らない。


 ――ううむ、どうするか…。


 ネグレドがそんなことを迷っていると、


「―――カッカッカ、お困りのようだなぁ」


 司令部に、見知った顔がやってきた。

 その男の到着に、ネグレドの顔は少し緩む。


「クザン! 生きていたか!」


 現れたのは、スキンヘッドの剣客、クザンである。

 この時点でクザンという戦力が戻ってきたことは大きい。


「まあな…この通り、利き腕は持っていかれたが」


 そう言ってクザンは、肘から先が無くなった右腕を振る。

 包帯をまかれ、応急措置はされているが――痛々しい物だ。


 ネグレドは一瞬眉を顰めるも、すぐに必要なことを聞く。


「…シルヴァディは? 倒したのか?」


「まさか。アレは俺には荷が重いね。隙を見て命からがら逃げてきたよ。いやぁ『摩天楼』の秘伝魔法に助けられた」


「ユリシーズ殿の…」


「ああ、『魔断剣』と2人がかりで、あの婆さんが秘伝を使うってことは…その『烈空』ってのは相当ヤバい奴なのかもしれないな」


「…そうか」


 『烈空』は過小評価していたつもりではないが、まさかあの2人を相手にこれほど時間稼ぎができるなどは完全に想定外である。

 あの2人が戻っていれば、侵入者の掃討など、もっと楽にできたのだが…。


 すると、クザンが気づいたように疑問を口にした。


「それで、いったいどうしたんだ? やけに要塞の中が騒がしいが…」


「ああ、敵軍が要塞内に侵入した。少数だが手を焼いているようだ」


「ほう、要塞内に…」


「今さっきダルマイヤーに対処を頼んだところだ」


 ネグレドがそう説明すると、クザンは少し考え込むように無い腕を組む。


「…よし、俺も出よう」


「しかし、その腕では…」


「問題ないってわけじゃあないが…その少数の敵軍は例の隊だろう? そうでないにしろ、シルヴァディの可能性もある。あのヒヨッコだけじゃ手に余るだろう」


「クザン…」


「カッカッカ、まぁ俺の手はむしろ足りないが…しかしダルマイヤーに何かあれば、今度は俺達があの爺さんに殺されちまうからな」


 クザンは冗談交じりに言う。

 

「…すまんな」


「そう、心配するな。問題ないさ。なにせ水燕流は狭い場所でこそ、その真価を発揮する。そうそう若い奴に後れは取らんさ」


 そう言って、隻腕の剣士は司令部を去った。


「…なるほど、若い奴らに後れは取らん、か」


 自身の相方を見送りながら、そしてその勝利を願いながらも、ネグレドは思う。

 既に、その若い奴らに後れを取っているこの現実の迫り様を…。


「―――私も、死に場所を覚悟するときか…」


 腰に差す短剣を握りながら、老人はそう呟いた。



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