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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十三章 青少年期・アウローラ編
132/250

第132話:2人の至伝

 

 ―――属性魔法には詠唱が存在する。


 魔力神経を備えた者は無詠唱で魔法を使うため、使うことはないが、それでも魔道を進む者からすれば、周知の事実だ。


 詠唱がなぜ必要か。

 それは、魔力を他の属性のものに変換する必要があるからだ。

 魔力神経が備わっていない者は、詠唱しなければ火を起こすことも、水を出すこともできない。


 そして――どの属性の魔法の詠唱文でも、最初の一文は決まっている。


 例えば、水属性の魔法を使う場合、


『真実と貞淑の水の精霊よ』


 という文が絶対に最初に置かれている。


 炎の属性を使う場合は、


『憤怒と情熱の炎の精霊よ』


 という文が最初に置かれる。


 そう―――どの属性にも共通するのは『精霊』という文言だ。


 ―――精霊。


 いったいそれは何なのか。


 多くの魔法使いはそれを知らない。

 そして知らぬまま詠唱をしている。


 だが―――()()()()を知っている一部の人間は、精霊という存在を知っている。


 精霊とは、属性を司る―――自然そのものが、意思を持った姿。

 人間にとっては隣人であり、そして、世界そのもの。 


 魔力を炎にするにも水にするにも、それら自然の精霊たちの助けを借りなければ、魔法は発動しない。


 故に、魔法使いは精霊の名を呼び、魔法を詠唱するのだ。




 ● ● ● ●




「―――最初から《至伝》で行きます!」


 ヒナは叫んだ。


 『摩天楼』ユリシーズ。

 相手は師にして《八傑》。

 最強の魔法士。


 アルトリウスが消耗させてくれたとはいえ、油断できる相手ではない。


 堅牢な魔力障壁に、《流体金属》による絶対防御。

 そして多彩な攻撃手段と経験。

 ちまちまとやりあっても意味がない。


 ―――集中よ。


 ヒナは自分に言い聞かせる。

 できるはずだ。


 ユリシーズの魔力総量は知っている。

 概ねその量はヒナと同等。

 そして―――既にユリシーズは秘伝を使い、消耗している。

 

 条件はこちらに有利。 


「イリティア先生…()()します。その間任せてもいいですか?」


「…ええ、命に代えても」


 小声でイリティアに話しかける。


 ―――『詠唱』。


 既に魔力神経を持ち、無詠唱で魔法を行使できるはずのヒナに―――魔法の詠唱は不要である。

 

 そんなヒナが詠唱しなければならない魔法―――それはこの世で()()に限られる。


 今からヒナが使うのは、この世から消えてしまった魔法の1つ。

 強力過ぎるがために禁止されたとも、使える者が少なすぎたから消えていったとも言われる、禁断の魔法。


 そう―――『失伝魔法』。


 すでにこの世ではそう言われた、詠唱を必要とするロストマジック。


 …集中よ―――。


 魔力を高める。

 今日はこれ以上ないくらい集中できている。


 天気がいいから?

 相手が師匠だから?

 アルトリウスに会えたから?


 多分それもある。

 でも一番は、怒りだ。


 憤怒。

 

 ―――ボロボロだった。


 ヒナは思う。

 全身に傷を負い、火傷をして、血を吐いて。

 

 アルトリウスはボロボロの姿だった。

 それなのに、人の心配ばかりして、きっとまた何か大事なものの為に無理をしたんだろう。


 そんなアルトリウスを見たとき、湧いてきたのはふつふつと湧いてきた怒りだった。


 こんな姿にしたユリシーズに? 


 ――違う。


 彼を戦場に駆り立てたオスカーに?


 ―――違う。


 では何に?

 

 ―――簡単だ。


 それは、自分自身にだ。

 

 ヒナは何よりも自分自身に対して怒っていた。


 そう―――戦争だ。

 アルトリウスは戦争をしているのだ。

 

 ――「死」。


 それはヒナの想像していたよりも身近に存在するものだった。


 心のどこかで、きっとヒナは油断していた。

 

 アルトリウスなら大丈夫。

 あんなにすごいアルトリウスなら…戦争もきっと無事に―――。

 内心ヒナはそう思っていた。


 そんなこと誰にもわかるはずはないのに。

 

 どうして、すぐにカルティアに行かなかったのか。

 あの手紙を読んだとき、すぐに飛んで行って、傍にいるべきだった。

 

 ―――だから…せめて…。


「アルトリウス、貴方を勝たせるわ。この…私が!」

 



 ● ● ● ●




「――あの子…こんなところで《至伝》を…!」


 ユリシーズは歯噛みした。


 愛弟子ヒナの放つ尋常でない魔力の収束。

 間違いなく、やる気だ…。


 摩天楼ユリシーズの『至伝』―――。

 

 ユリシーズが、その魔法の師であるウルから教えられた、魔法の概念そのものを揺るがす大魔法にして―――長らく彼女ら以外に使える人間が現れなかった魔法。


 かつては弟子に教えようとしたこともあった。

 だが、誰も―――その魔法を使うことはできなかった。


 もう誰も継ぐことはできないと、そう思っていた。


 そんな中現れた、一筋の光。

 

 ユリシーズの全てを受け継ぐことができるといえる、才能の持ち主。


 ギラりと、ヒナの紅の瞳が光った。


「『君臨せし世界の尊き者達よ、いざ我らの地に降り立たん―――』」


 ―――詠唱文、ならば間違いない!


「お爺! イリティアちゃんを頼みます!」


「おうよ!」


 『失伝魔法』。

 どんな魔法士でも詠唱が必要であると言われている、禁断の魔法。

 その中でもその魔法は―――。


 ―――アレには同じものをぶつけないと勝てないっ!


「―――『君臨せし世界の尊き者達よ、いざ我らの地に降り立たん――』!」


 そう判断し、一瞬遅れてユリシーズも早口に詠唱に入る。


「『理を信じ、夢を叶え、空を裂き、地を砕かん』」


「『理を信じ、夢を叶え、空を裂き、地を砕かん』」


 ヒナの詠唱に続いて、ユリシーズの詠唱が綴られる。

 精神を意識の奥底に没落させているように、集中している。


「『汝、我の求めるところに、意思を示し、その虚空を貫きたまえ』」


「『汝、我の求めるところに、意思を示し、その虚空を貫きたまえ』」


「『――その憤怒は枯れることはなく、その情熱は苛烈に燃え上がる炎の如し』」


「『――その潔白は陰ることはなく、その慈愛は無限に広がる光の如し』」


 そして、2人の目が見開かれる。

 互いの体から湧き出る魔力の奔流は、その場の空気を、大地を―――圧倒していた。


「『…我が祈りの元、遥かなる力を今ここに! 《精霊召喚(スピリットサモン)》――炎の精霊…イフリート』‼」


「『…我が祈りの元、遥かなる力を今ここに! 《精霊召喚(スピリットサモン)》――光の精霊…アマドール』‼」


 2人の詠唱が終わった瞬間―――膨大な魔力の奔流と共に、天をつんざかんとする2色の光が、辺りを喰らった。


 それは、圧倒的な魔力の光だ。

 可視化できるほどの2色の魔力。

 

 かたや、燃え滾るマグマのように真っ赤な紅蓮の光。

 

 かたや、目を覆いたくなるほど眩しい純白の光。


 そして――


『――おいおいヒナ…アマドールの奴も一緒かよ…』


『それはこっちの台詞ですわ。乱暴者のイフリートとセットなんて。いったい何を考えているんですのユリシーズ』


 空気を揺るがすような振動が―――その声のようなものを形成していた。


「我慢しなさいイフリート。敵よ」


「そうです。アマドール、相手はヒナですよ」


 そんな人の声が聞こえてくると同時に、眩い光が止む。


 ヒナの隣―――


『…なるほどなぁ…《光君》ユリシーズか…』


 そう、図太い音を発するのは、まさに―――炎の化身。


 怒髪天のような真っ赤な髪に、紅の髭。

 赤い皮膚に燃えるような炎の衣を身に纏う、紅の化身。

 

 かの名をイフリート。

 この世の炎を統べる、炎の精霊。

 内包する力は、この星に介在する無限に等しい魔力と、自然の怒りそのものの概念だ。 


「…《光君》? 《摩天楼》じゃなくて?」


『ほう…《摩天楼》か…これまた大層な名前を名乗っとるなぁ』


「うるさいですよイフリート」


『《摩天楼》は700年前、初代の八傑の1人が名乗っとった称号だ…スカーレットに憧れるのはいいが、実が伴っていないんじゃなぁ』


「…アマドール、さっさとあの無礼な炎の精霊を滅殺してください」


 ユリシーズは、怒髪天の化身の言葉にわなわなと額に筋を浮かべながら、傍らの純白の光を放つモノに声をかける。


『ユリシーズ、私も前から思っていましたが《摩天楼》は調子に乗り過ぎですのよ。スカーレットは本当にすごいのですから』


 そうユリシーズを嗜めるような音を出すのは、真っ白な―――まるで女神のようなモノだった。


 純白の長髪に、純白の衣、純白の肌に、全てを見通すような、これまた純白の瞳。

 微細に光を放つその姿は、はたまた女神か、はたまた天使か―――。


 この世の光を統べる光の精霊。

 内包する力は、この星に介在する無限に等しい魔力と、自然の恵みそのものの概念だ。


 炎の精霊イフリート。

 光の精霊アマドール。


 この世の魔法の属性を―――自然の摂理を具象化した存在、精霊。


 理を越え、それ呼び出す魔法。

  

 『精霊召喚』。


 この世で3人しか使えない、失われた魔法―――。


「…御託はいいわ。イフリート…燃やし尽くすわよ!」


『おうよ!』


「アマドール、頼みますよ…」


『仕方がありませんね』


 今―――史上初の精霊同士の戦いが…始まる。 



詠唱文考えるの苦手過ぎる・・・。

文の中身には大した意味はないので、もっとかっこいい文を思いついたら差し替えます(笑)

読んで下さりありがとうございました。

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