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第11話:修業時代のとある1日①

 修業時代のアルトリウスの周りの環境がどういったものだったかについて。

 

 次回と繋がっています。


 一応時期としては、イリティアが来てから半年くらいのつもり。もうすぐアルトリウスは7歳です。




 修業時代の暮らしは相当充実していた。


 朝は6時に起床、イリティアから課せられている日課の走り込みやトレーニングをする。


「アル坊っちゃま、行ってらっしゃいませ」


 家から出発する際、チータが俺を見送ってくれる。


 ランニングをしていると、たまに同じくランニングをしているカインとすれ違う。


 彼もだいぶ成長した。

 同年代の中では背も高く、青い髪を短髪に揃え、ぱっと見イケメンだ。


「ようアル! 今日もバカみたいに賢そうな顔だな!」

 

 すれ違うと、このように、褒めるのか貶すのかわからない挨拶をしてくる。

 彼としては多分、相手に気を遣いつつ、フランクさを残した言い方なのだろうが、いくら体が成長しても、中身がアホなことは一発でわかる。

 とはいえ、昔のように一方的に絡んできて勝負を仕掛けてくることは減った。

 師匠ができて、落ち着いたのかもしれない。


 流石に読み書きはできるようになったようだし、彼と共に学校に通う日が楽しみである。


 一応、8歳から学校に入学するにあたり、入学試験が存在する。


 カインの家は、代々軍のお偉いさんに所縁のある名門だが、学校は、身分によって子供を差別したりすることはないので、大貴族の息子と言えど、裏口入学はできない。


 そのためカインも、剣術と勉学の両立を強いられており、大変そうである。



 トレーニングを終え、家に帰ってくると朝食が用意されていて、一家団欒の朝食が始まる。


 主食のほとんどはロールパンやクロワッサンで、おかずにミネストローネやシチューなどの汁物が出てくる。


 出てくる料理の食材は、俺の前世と同じように、豚や牛、鶏などの肉に、ニンジンやジャガイモなどの野菜が使われている。流石に味は俺の前世より数段劣るが、十分食べれる範囲であるし、チータの料理はバリエーションもそこそこある。

 前世で俺は料理などからっきしで、食事は基本外食かカップ麺で済ませていたので、寧ろ手料理というのはどこか安心する。

 流石に米が食べたいときもあるけどね。


 今日の朝食は、パン、コーンスープ、ハムと卵の炒め物だった。


 一家全員が家にいることが少ない我が家だが、朝食時は全員が顔を合わせる。


 バリアシオン家では奴隷の身分である使用人たちも席を共にする事が習慣になっているので、朝食時の部屋は満員だ。


 今日は俺が部屋に着く頃には皆食事を開始していた。


 俺も自分の席について食事を開始すると、隣の席に座っていた亜麻色のポニーテールの美少女が話しかけてきた。


「おはよ、アル様」


「ああ、おはようリュデ」


 俺と同時期に生まれた少女―――リュデも、すくすくと成長している。

 やはり俺が睨んだ通り、リュデは順調に美人へと育ってきた。母親のチータも、太い―――ふくよかな体型に目がいきがちだが、顔のバランスは整っている。父親のヌマは細身なので、互いのいい部分を受け継いだという所か。まあ体型なんてものはあんまり遺伝は関係ないかもしれないけど。


「あのね、この間ね、季節についての本を読んだんだよ!」


 最近は修業の事もあり、あまりリュデといる時間がないので、彼女とは朝食の時間によく会話をする。


 大抵は最近読んだ本だったり、俺の修業の話だったりする。


「夏は暑くなったり、冬は寒くなったり、数ヶ月ごとで変遷していくんだ……ですね」


 幼少の頃はまだ身分がわかっていなかったようで、言葉使いは適当でも黙認されたらしいが、最近ではチータによって敬語を使うよう言いつけられているらしい。

 別に俺はどんな言葉使いでも気にしないのだが、貴族家の次期当主と奴隷の娘では身分に差がありすぎるため、当然なのかもしれない。


 朝食は俺とリュデだけずっと話しているため、やけに食べ終えるのが遅い。


 今日も俺達が食べ終えた頃にはリリスが他の人の食器を片付けているところだった。


 ちなみにリリスというのはチータの長女でリュデの姉だ。もう11歳になるので大分家事を覚えてしまっている。優秀なメイド候補、といったところだろうか。リリスは髪の色は目立たない茶色で、一見地味だが、よく見ればそつのない美形な顔立ちをしている。


「ほら、リュデ、アル様は魔法の修業があるのだから、その辺にしておきなさい」


 片付けながら、リリスはリュデにいう。


「はーい、じゃあアル様、失礼します」


 言われてリュデは多少ため息をしつつ、リリスの後片付けを手伝いに行ってしまった。

 最近ではチータやリリスから家事を教えられているようだ。


 とはいっても俺はイリティアとの修業の時間は昼からであり、まだ時間があった。

 

 イリティアは朝に弱いのだ。

 起きてはいるが、暫くはボーっとしてしまうんだとか。


 根詰めるのもよくないし、1人で課題をこなす時間も大切、とのことで修業は決まって昼からだ。

 

 なので、一応課題はあるとはいえ、俺にとっては午前中は自由時間だ。

 

 まあ、とは言っても、することもないので、大抵は前日の復習や、たまに遊びにくるエトナの相手などをしていたのだが――。


「おにいちゃん、あそぼー!」


「アイファずるい、アルにいはぼくがあそぶの!」 


 このように、最近では弟妹の面倒を見る事が多い。


 愛すべき妹弟、アイファもアランももうすぐ3歳となる。ここ最近は歩けるようになって家中を走り回り、アティアの手に負えなくなっていた。

 俺は大人しい子供であったため、3歳の頃などは四六時中読書室にこもっていたものだが、やはり、普通の子供は走り回るのが好きなようだ。


 アティアとアランは、俺のズボンの裾を引っ張り合いながら遊びの催促をしてくる。


「ねえ、おにいちゃん、アイファとかくれんぼしよ!」


「アイファだめ、アルにいはぼくとおにごっこするの!」


 妹アイファは、アティアに似たブロンドの髪を肩にかかるミディアムショートに切りそろえていて、パッと見貴族の家の娘というよりは、下町の商店街の娘という感じがする。

 今は俺の左足の裾を引っ張っている。可愛い。


 弟のアランは、アピウスに似た茶色の髪を男子にしては長めに切りそろえている。そのせいかいいとこのお坊っちゃん感がとても出ていて、一見ナヨナヨしているようにも見える。まあ実際にも泣き虫なのだが。

 今は俺の右足の裾を引っ張っている。可愛い。


 いずれも俺の大事な妹弟だ。

 俺は前世では一人っ子であったため、兄弟を持つというのは新しい感覚だ。


 遊んでやると無邪気に喜び、好奇心旺盛でなんでも聞いてくる。

 いつも、「おにいちゃん」、「アルにい」、と俺の後を追いかけてトコトコとついてくる。


 正直とても可愛い。(真顔)


 まあ精神年齢的には親と子程度に歳が離れているので、俺の抱いている感情は兄弟愛というよりは親心のそれに近い気もするが。


「なんだ、二人とも違う遊びがしたいのか」


 引っ張られ過ぎて俺のズボンが破れそうになったので、あわててしゃがんで二人の手をズボンからはがして握りしめる。

 小さい手だ。


「かくれんぼ!」


「おにごっこ!」


 どうやらアイファはかくれんぼが、アランはおにごっこがしたいらしい。


 うーむ、生前の記憶を思い出す。

 みんなで遊ぶときに何を遊ぶか揉めるときは、大抵じゃんけんで解決していた気がするが・・・。


 幸い、今回に限ってはどちらのニーズにも答える折衷案を思いついた。


「よし、なら二人とも、『かくれおに』をしようか」


『かくれおに』。

 かくれんぼとおにごっこを足して二で割ったような遊び。

 ぶっちゃけほとんどルールは覚えていなかったが、おそらく、初めはかくれんぼと同じようにかくれるが、タッチされるまでは捕まらないとか、そう言う感じだった気がする。


 簡単にルールを説明すると、二人は顔を輝かせて「流石おにいちゃん」とか呟いている。


 俺が考えついた遊びではないのだが・・・まあいいか。


「じゃあ最初は俺が鬼な。10数えるうちにかくれるんだぞ」


「「はーい!!」」


 元気よく返事をすると二人はカウントも待たずに部屋を飛び出した。


「いーーち…にーーい…」


 俺はなるべく大きい声でカウントを始める。


 ちなみにこういう遊びの場合、範囲は家の敷地内ということになっている。


 家の中で鬼ごっこをするのかと思うかもしれないが、なにせこのバリアシオン邸は一応貴族の家なのでやけに広い。

 鬼ごっこどころかやろうと思えば逃○中もできるのではなだろうか。


「きゅーう…じゅーーう…もういいかーい」


 カウントを終えて、大きな声で問いかけると、遠くから「もういいよー」と聞こえてきた。


 俺は部屋を出て、二人を探し始める。


 いくらこの家が広いとはいえ、隠れることができる場所は限られている。


 クローゼットの中や布団の下、カーテンの裏など、部屋ごとにしらみつぶしに調べていく。


 大抵この手の遊びでは総じてアランが最初に捕まる。


 案の定、二つ目の部屋のベッドの下でアランを発見した。


「みーつけた」


 そう言って俺はベッドの下に手を入れたが、


「わーーー!!!」


 と言って、アランはベッドを反対側から抜け出すといっきに走り出した。


「逃がさん!」


 俺はベッドから手を抜いてアランを追いかける。


 俺が部屋の出入り口に近い方にいたのでアランは部屋の奥に逃げざるを得なかった。


 それがアランの運の尽きで、俺に部屋の隅まで追い詰められると、観念したように、その場に座り込んでしまった。


「アランつーかまえた」


 そう言って俺はアランの頭を撫でる。


「うう…またぼくがさいしょか…」


 何故かいつになく落ち込んでいたので理由を尋ねると


「このかくれおにで勝った方が、のこりの時間、アルにいと二人っきりであそべるやくそくをしてたんだ・・・」


 俺の知らないところでアイファと勝負をしていたようで、アランはうなだれながら、とぼとぼとついてきた。


 さて、残るはアイファであるが、アイファはこの手の遊びに滅法強い。


 最初のうちこそアランと同じようにすぐ見つかってしまっていたのだが、回数を重ねるうちに俺の行動パターンを学習して、なかなか手強い相手になりつつあった。

 最近ではかなり本気を出さないと見つけられないこともある。


「うーん今日はどこにいるか」


 そう呟くと、


「今日はとっておきのばしょにかくれるっていってたよ」


 アランが言った。


「とっておきか…」


 正直、子供というのはたまに大人では想像のつかないことを考えつく。


 その子供が考えたとっておきなど、もはや実年齢が40にもなるという俺にわかるはずがないのだが…。


 とりあえず、しらみつぶしにのこりの部屋のクローゼットとベッドの下を調べたが、アイファは見当たらなかった。


「となると庭か・・・」


 庭は意外とひらけているため、隠れるのに不向きであり、今までも庭に二人が隠れていたことはなかった。


 案の定庭はだだっ広い芝生で、チータとリュデが洗濯物を干している以外に特に変わった点はなかった。


 だが俺はその光景に少し違和感を感じる。


 チータとリュデはすでに多くのの衣服を干していて、干し竿はいっぱいである。


 しかし、洗濯物籠にはまだまだたくさんの洗濯物があるように見える。


「ははあ」


 俺はそういうと洗濯物籠に近づき、これを軽く持ち上げた。うん、重い。


「アイファみーつけた!」


 そういうと、洗濯物の衣服のなかからアイファの頭が飛び出してきた。


「今回はいけると思ったんだけどなぁー、さすがおにいちゃん!!」


 アイファはそのまま俺の首に抱きついて来た。

 やはり洗濯物籠の衣服の中に紛れ込んでいたようだ。


 以外と重い。

 まあ俺もまだ7歳児なので、そこまで体格差があるわけではないのだが。


「あのね、今日はアランと勝負したんだー!アランが先に捕まったから、これからおにいちゃんはアイファのひとりじめだよ!」


「うう~」


 アランは半べそをかいていたが、アイファは素知らぬ顔だ。


「さあ、おにいちゃん、アランなんてほっておいてあっちいこっ!」


 というと俺の手を引っ張る。


 するとアランはうるうると目に涙を溜めていき―――。


「うわあああーーん」


 ついに泣き出してしまった。

 いや3歳児とはすぐ泣くものだ。


「もうー、アランはすぐ泣いておにいちゃんの気を引こうとするんだからー」


 アイファは呆れ顔だったが、俺は流石にかわいそうに思ったのでフォローを入れることにした。


「まあまあ、アイファ。かくれんぼはアイファの方が得意なんだし、今日のところはアランも一緒に遊んであげないか?」


「えー、でもアイファ、しょうぶにかったんだよ?」


 確かに、条件を承知で勝負の約束をしてしまったアランも悪いかもしれない。


「うーんそれはそうだけど、もしもアイファが遊びから一人だけハブにされたら悲しいだろう?俺はアイファに人を悲しませて欲しくないんだ」


 どう言ったものか、と、なるべくアイファの気持ちを尊重しながら言葉を選んだ。


「うーん・・・。まあおにいちゃんが言うなら・・・・」


 アイファはしぶしぶ納得してくれた。

 自分の妹ながら聡明な子だと思う。


「そうか、アイファありがとう。今度何か好きなお菓子買ってあげるからな」


「え、おにいちゃん大好き!ありがとう!」


 そういうとまたアイファは俺に抱きついてきた。参ったな、このままでは妹がブラコンになってしまう。

 もちろん望むところだが。


「ほら、アランも、次はアランが鬼だぞ」


「ぐす・・・うん・・・」


 まだ半べそだが、アランも遊びに入れてもらえると知って安心したようだ。

 無事に泣きやんでくれた。


 その後、何度か『かくれおに』を繰り返して遊んだ。


 昼を過ぎると、二人とも疲れたようで、庭のウッドデッキですやすやとお昼寝を始めてしまった。


「あらあら二人ともこんなところで寝ちゃって・・・」


 そういってアティアが部屋からタオルケットを持ってくると、そっと二人にかけた。


「アル、いつも二人の面倒見てくれてありがとね」


「いえ、僕も母上やチータにはよく面倒をみてもらいましたから」


「ふふ、アルは全然面倒なんてかからなかったけどね」


 アティアは笑いながら俺の頭を撫でる。

 この世界では子供を撫でるのはとても重要な愛情表現のようだ。

 俺は大人しく撫でられる。 


「アル、あなたはとても立派な子よ。頭もよく、聡明で、冷静で、謙虚で、責任感もあるわ。そう・・・すごく大人びているわね」


「母上・・・」


「でも、あなたはまだ子供よ。たった6歳の私の息子。もっとわがままを言ってもいいのよ? 私、あなたが魔法を習いたいって言ったとき、すごく嬉しかったんだから」


 アティアは俺をまっすぐみつめている。


 記憶を保持したまま転生してしまった俺は、普通の子供と比べると、大人びていて、手がかからない子供だった。

 だから、もしかしたら、アティアは親として不甲斐なさや―――寂しさを感じているのかもしれない。

 イリティアという、これ以上ないほどの家庭教師をつけてくれたのも、そういう事情があったのかもしれない。


 だけど―――。


「母上、僕は十分よくしてもらってますよ。これ以上望むことなんてありません」


 これは本音だ。俺はこの世界でとても恵まれている。

 そこそこ裕福な家庭に、優れた運動神経、良き友人たち、魔法の才能、尊敬すべき師、最近では可愛い妹弟。

 これ以上何が必要だというのか。

 どれもが、俺が前世で得られなかった―――もしくは失ってしまったものだ。


「そう・・・ふふ、あなたらしいわね」


 アティアは多少寂しい顔をしながらも俺の頭を再び撫でる。


「そろそろ修業の時間でしょう? アランとアイファは私が見てるから、アルは行ってきなさい」


「はい、母上」


 確かに、もうそろそろ昼だ。イリティアのところへ行くにはちょうどいい時間だろう。


「では、失礼いたします」


 俺は立ち上がり、イリティアの部屋に向かった。



 主人公の表現力(作者の表現力)が低いため、今後一生伝わらないかもしれませんが、この作品での美少女ランキングは、リュデがダントツで1位となります。


 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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