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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十二章 青少年期・内乱開幕編
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第102話:戦後処理の後に

 新章です。


 

 キャスタークを攻略してから4ヶ月ほどが経った。


 この間、俺は相当忙しく過ごした。


 といっても、最初の1ヶ月は暇だった。

 なにせ怪我人だからな。


 俺に治癒をしてくれた治癒魔法士曰く、


「死んでてもおかしくないケガでしたよ」


 とのことで、この状態で剣を振っていたことを信じてもらえなかった。


「本当だとしたら、閣下は人間じゃないですね」


 少し呆れたようにそう言われた。


 自覚はある。

 あのとき、間違いなく俺は人外の域で戦っていた。

 少なくともその日までは人外だと思っていた域で。


 ・・・ともかく、しばらくの間は安静にしていろという事で、ベッドの上で暇な時間を過ごした。


 その間に、色んな人が俺の元にお見舞いに来た。


 シンシアやオスカー、ミランダ。

 フランツや隊の皆。

 入れ替わり立ち代り色々な人がやってきては、様子を見に来る。


 中には果物などを置いていく人もいた。

 カルティア特産の梨だ。


 折角なので食べようと思ったら、都合よくシンシアがいたので食べやすいよう切り分けてくれるように頼んだ。


 ・・・悲惨な状態で帰ってきた。細切れだ。


「その・・・剣と違って包丁は難しいんです!」


 と言い訳された。

 どうやらシンシアの女子力は壊滅的らしい。

 まぁ、うん、もう果物も剣で切ればいいんじゃないかな。


 


 シルヴァディは目覚めたとき以来、お見舞いには来ていない。

 彼はカルティアの残りの都市を攻略する主戦力だ。


 俺の部隊は参加していないので、彼の負担は大きいだろう。


 とはいえ、もはや残りのカルティア軍など、名ばかりの脆弱な兵である上に、各都市を間髪入れずに攻め立てる速攻作戦で次々と都市を手中に入れたらしい。


 聞いたところによると作戦を立案したのはオスカーだとか。


 キャスターク攻略戦は俺の隊がギャンブランによって機能せず、俺も主戦場に行けなかったのでオスカーの安否も心配だったのだが、器用に敵軍の穴を突いて攻勢し続ける事で、大隊としてはなかなかの戦果を挙げたらしい。

 ミランダも奮戦したのだろう。


 その後ラーゼンに、即時占領作戦を提出し、受理をされたとか。


「父に直接作戦案を提出できるのはコネだけど、使わないコネなんて何の意味もないからね」


 とか言っていた。

 この作戦が成功すれば、オスカーも晴れて参謀の仲間入りだろう。


 とはいえ、オスカーの地位が上がったのはそれだけが原因ではない。


 戦後処理のために、「使える文官」が必要だったからだ。


 如何せん、軍人というのは事務処理や、経済管理など、デスクワークが苦手だ。


 そういう意味では、オスカーは、なかなかに優秀な人材だと思う。

 むしろなんで今まで武官としてやってきたのかが謎だ。


「戦場――最前線を体験しておきたかったんだ」


 というのがオスカーの言であるが、こっちは大規模作戦の度にヒヤヒヤしているので困ったものである。


 ともかく、脳筋ばかりのカルティア軍で、統治管理の分野に明るい人間は貴重だ。

 そんな人材を遊ばせておく余裕はない、ということで、オスカーも内政の責任者の1人に当てられている。


「君も復帰したら、戦後処理だよ。バリアシオン君は行政にも経済にも明るいだろう?」


 というオスカーの一言で、俺は怪我が癒えても遊んでいる余裕はなかった。


 彼がラーゼンにそう進言したせいで、退院した瞬間、戦勝パーティーもそこそこに、俺も毎日デスクワークの日々が訪れた。


 キャスタークに置かれた参謀府の一室で、ひたすら回ってくるカルティア中の都市の人口や農産物の取れ高を踏まえて属州税を設定したり、ほかの文官たちとユピテルの法とカルティアの慣習を合わせた落とし所を議論したり、部族ごとの文化の違いをまとめたり、時には自ら視察に赴いて、地形を把握したり・・・。


 とにかく、忙しかった。

 正直、戦争するよりも忙しかった。

 間期とかがないせいで、休みがないのだ。


 まぁ別にそれほど苦ではないから良かった。

 こういった事務処理は、前世で慣れた者なのだ。

 性格的には戦争をするより、こちらの方が向いているんじゃないかな。



 さて、そんなわけで、キャスターク攻略以来、落ち着いてシルヴァディに指導を受けるのは実に4ヶ月ぶりとなった。概ねの戦後処理も終わったころだ。


 基礎トレーニングは一応続けていたが、剣を握るのは久しぶりになる。


 早朝、俺はシルヴァディに呼び出された。


 場所は、キャスタークの参謀府――今はカルティア総督府と呼ばれているが――から程なく歩いた練兵場。

 中学校の校庭くらいの広さの何もない広場には、案の定ひとけはない。


 いるのは、金髪に、いつもの鎧を装備した、風格のある男――シルヴァディだけだ。


「お久しぶりです師匠」


「・・・よう。怪我はもう大丈夫か?」


 仏頂面でシルヴァディが答える。


「はい。少し傷跡は残りましたけど」


 腹の傷は残らなかったが、肩口の傷は跡が残った。


 まぁ細かい傷なら他にいくらでも残っているし、今更気にしない。

 あの激戦で命があるだけ儲けものだ。


「そうか」


 シルヴァディは一言そう頷いた。


 そして、1本の木剣を俺に投げた。


「っと・・・木剣ですか・・・?」


「ああ、今のお前相手に寸止めなんてする余裕があるかわからないからな」


「・・・!」


 これまでシルヴァディとの訓練は、ずっと実剣でやっていた。

 危ないが、意味はある。

 実戦で使うのは結局は実剣だ。

 使い慣れていないと、本番で違和感や躊躇が生まれる。

 それに、彼からすれば、たとえ実剣だったとしても俺の剣がシルヴァディに届くことはないし、シルヴァディは余裕を持って寸止めができたのだろう。


 そんなシルヴァディが、木剣を持っている。


 その意味は・・・。


「とりあえず・・・かかってこいよ。話はそれからだ」


「――はい!」


 いつものように獰猛にシルヴァディが笑い、俺は地面を蹴った。





 結果から言えば、普通に負けた。


 いつものように全ての魔力と体力を使って挑んだが、結局いつものように俺は大の字になって寝転んでいた。


 ―――だが。


 手応えはあった。


 今までとは違い――わかるのだ。

 シルヴァディの動きが。剣が。


 遊ばれているだけだったのが、勝負になっているとでもいうのか。


 強くなっている。

 以前を思い出すと、やはりそう思う。


 なんとなく彼の背中が見えたような、そんな気がした。


「なるほどな・・・」


 シルヴァディは多少、首筋に汗を浮かべている。


「間違いない。アルトリウス、お前は第四段階に入っている」


「――!」


 第四段階。

 シルヴァディ曰く、この世界において強者――達人となるための絶対条件。


「まぁギャンブランはそうでもなきゃ倒せない。わかっていた事だが・・・」


「何か問題でも?」


 強くなるなら悪いことではない気はする。


「いや・・・早すぎるんだ。成長速度がな」


「早すぎる、ですか?」


 シルヴァディだけには言われたくないが。


「そうだ。時間をかけてではなく――急激に、たった1日でこれほどの力を手に入れると・・・どうしても身体に負担がかかるだろう。お前はまだ身体が出来上がってないからな」


 身体の負担。

 出来上がっていないというのは年齢的な話だろう。


「お前の速さに耐えられるほど、お前の身体は丈夫じゃないんだ。本来ならあと2年か3年――身体が成長しきってから入るべきだった」


「・・・」


 あの時は強くならなければ生き残らなかった。

 別に後悔はないが・・・。


「もちろん、強くなれないよりは、なれた方がいい。だが・・・あまり無理はするな。寿命が縮むぞ」


「・・・はい」


 俺は頷いた。

 寿命が縮むのは嫌だが・・・どうしても中身が大人なせいで年齢の割に無理はしがちなのかもしれない。


「・・・お前の強くなりたいという望みは知っている。だが、そんなに焦らなくてもいい。心配しなくても、ちゃんと高みまで連れて行ってやる」


「・・・わかりました」


 しかし・・・もしかしたら師匠なりに育成計画でも立てていたのかもしれない。

 だとしたら一気に計画をぶち壊してしまった感じもあるな。


 まぁとはいえ、シルヴァディは強い。

 おそらく、この領域の人間の中でもかなり強い部類に入るだろう。

 まだまだ学ぶことはいくらでもある。


 神妙にそう考えていると、シルヴァディが少し表情を崩した。


「・・・しかしな。それでも・・・お前には感謝してる。シンシアを守ってくれて・・・ありがとう」


 彼の口から出てきたのは感謝の言葉だった。

 俺は感謝されるようなことをしたのだろうか。

 俺なんてシルヴァディに命を救われたのはこれで2度目だ。

 全然恩を返せていない。


「・・・いえ、その・・・僕も師匠に助けて貰いましたから」


「・・・そうだな」


 そういうと、シルヴァディは苦笑した。


 その日の稽古は終わった。


 

● ● ● ●



 カルティア参謀府――いや、もはや属州総督府と呼ばれる建物に、1人の伝令が到着した。


 彼はカルティア方面軍と首都を何度も行き来したことのある古参の伝令だ。

 カルス大橋が落ちて以来、行き来が困難であった首都とカルティア間においても、何度か往復をしたベテランの伝令だ。


 そんな彼が今回首都の元老院からもたらされたのは、今までの中でも相当重要な書簡だった。




「閣下――元老院より書簡が届きました」


 カルティア総督と呼ばれるラーゼンの元に、そんな伝令のもたらした書簡が届いた。

 伝令より書簡を受け取ってきたのは、1人の黒髪の剣士―――ラーゼンの腹心中の腹心、ゼノンである。


「ふむ・・・」


 書簡の中身を開き、ラーゼンは少し表情を変えた。


「どうしました?」


「いや・・・元老院も痺れを切らしたらしい」


 そういってラーゼンはにやりと笑い、書簡をゼノンに手渡した。


「・・・これは・・・なるほど。思ったよりも早かったですね」


 そこに書いてあったのは、元老院の印をしっかりと押された――『元老院最終勧告』。


 内容は至って単純、

 ラーゼンの軍団指揮権の剥奪と、軍団の即時解散命令だ。


「奴らも相当に焦っているんだろう。しかし元老院最終勧告とは・・・バシャックではないな、やはりガストンか・・・」

 

「インザダーク卿にそれほどの度胸はないでしょうからね」


「ふん、ガストンにしても、少し驚いたよ。奴がこれほど焦るとは・・・ギレオンがこちらの手に落ちていることは感づいているだろうな」


「そうですな・・・しかし、どうするつもりで?」


「決まっているだろう。わざわざ私の選択肢を減らしてきたのだ」


 ゼノンの質問に、ラーゼンは微笑みを崩さない。


 元老院最終勧告。

 従わなければ国家の逆賊とみなされる最高権威の命令。

 

 つまり、従わない場合―――国家の逆賊となる場合―――。


「なりにいくぞ―――救国の英雄に」


 果たして、彼らを待っているのは、救国の英雄か、国家の逆賊か―――。


 もう回避できない選択を、世界は迫られていた。


 読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶持ちは馬鹿なんだよね。自分の命体を蔑ろにして誰かを大切にして守る?無理だね。己すら大切に出来ない者が他者を大切になんかできない
2019/12/11 18:42 退会済み
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