第1話:死亡ー転生
モスコミュールと申します。
作品タイトルは『異世界転生変奏曲』です。《変奏曲》と書いて《バリアシオン》と読みます。勿論かっこいいから付けただけで、変奏曲要素はありません。
タイトルにルビを振ることってできないんですかね・・・。
とりあえず20話くらいまではノンストップ(願望)。
よろしくお願い致します。
煌々と夜道を月が照らしている。
夜12時を過ぎたところであろうか、多少酔いを感じながら俺は自宅を目指していた。
――流石に飲みすぎたかな。
酒は強い方ではないが、いくら飲んでもあまり潰れたことはない。
しかし今日は上機嫌の上司にからまれ、終始飲まされ続けていた。
学生時代ならまだマシだったのに、自分も歳を取ったものだと感じる。
もう来月で30歳となるこの体は、まだまだ一般的には働き盛りとはいえ、さすがに学生の頃ほど無理はできない。
10年近くデスクワークにばかり費やしたためか、体力も落ちてきたように感じる。
某有名大を卒業し、難関の試験も合格。官僚としてエリートコースを進む俺であったが、最近では上司と部下の間で板挟みにあい、ストレスの溜まる生活を強いられていた。
上からの無理難題を押し付けてくる上司。
ミスも多く、報告書の提出の遅い部下。
当然部下のミスは自分の責任になるので部下の尻拭いもしなければならない。
そして上司のミスは、俺に押し付けられ、結果上司と部下、両方の尻拭いをさせられる毎日だ。
―――思えば苦労ばかりしてきた。
将来楽をするために有名高校、有名大学に進学し、必死に勉強してきた。
就職してもそれは変わらず、良い評価を得ようと躍起になっていた。
つまりはもう20年近く神経をすり減らしてきたのである。
いったいいつになったら自分は楽に生きられるのだろうか。
「おっと」
考え事をしながら歩いていたせいか、小石につまずいてしまう。
倒れはしなかったが、酔っ払いにはダメージが大きかった。側にあった電柱にもたれかかりながら、体勢を整える。
すると一つの違和感に気づいた。
―――街灯が消えている・・・?
いつもなら街灯によって照らされている道が、やけに暗い。
道の脇に立つすべての街灯が消えているのだ。
こんな事態に今まで気付かないなんて、よほど今日は頭が働いていないという事だろうか。
――――しかしどうして街灯が消えているんだ? 局地的な停電かなにかか?
多少不気味さを感じつつも、停電であると自己解釈して、俺は歩き始めた。
酔っ払っている脳内で何を考えても無駄だ。
幸い、月明かりのおかげで完全に前が見えないということもない。別に帰る分には問題は無いだろう。
もう自宅はすぐそこなのだから・・・。
そう思った瞬間。
―――ドス。
鈍い音が聞こえた。
「――――え――?」
いったいなんだろうか。何かを突き刺したような、気味の悪い音だった気がするが――。
そして、自身の背中がやけに湿っていることに気づく。
おかしいな、そんな汗を掻くほど歩いたはずはないが。
そう思いながら右手で自分の背中に手をやると―――。
「・・・?」
右手に触れた感触、それは汗じゃない。もっとヌメっとした、こびりつくような液体――。
「――――――!?」
正面に戻した右手を視認して、俺は言葉を失った。
月明かりが照らす俺の右手は、紅く、染まっていた。
「―――は?―――血?」
慌てて俺は振り向いた。
そこにいたのは1人の男。
全身黒ずくめの服に包まれ、フードで頭をすっぽりと覆っている。
かろうじて顔の輪郭は把握できるが、何よりも驚いたのは――――彼の手に握られていた大ぶりのナイフだった。
そう、そのナイフは血に染められていたのだ。
「――え?―――アンタ―――っ!?」
話しかけようとした瞬間―――激痛が全身を襲った。
「――ァアアアアアアアッ!! ガアアア!!」
まるで思考と一緒に遅れてきたとでも言える痛みは、完全に俺の神経を支配していた。
耐え切れない痛みに絶叫がこぼれ、体は背中を抑えたまま崩れ落ちた。
――――刺された?
―――この男に? 何故?
思考は痛みに阻害される。いや、痛みがなかったとしても、見知らぬフードの男に刺されたなどという事実は分析のしようがない。
痛みを何とかしようと、地面を這いつくばっていると、黒フードの男が俺の襟首を持ち上げた。
フードの中身は全く表情が読めないまるで人形のような顔。
その顔からはなんとも言いようのない悪寒――恐怖を感じる。
「―――おい―――なんで、こんな――」
力を振り絞り、男から逃れようとしたが、鋼鉄のような男の腕は全く緩まず、足をばたつかせても意味がなかった。
そして――――。
―――ドス。
二度目の、鈍い音が響いた。
● ● ● ●
「・・・・フヒュー・・・・フヒュー・・・・」
どれほど経ったのだろうか。
男が二度目に差したのは俺の胸部だった。
心臓だか肺だか知らないが、ともかく正面から勢いよく刺突して俺を放ると、男はどこかへいなくなっていた。
あたりは静寂としており、聞こえるのは自分の大袈裟な呼吸音だけだ。
しかし、その呼吸音も、先ほどからだんだんと聞こえなくなっている。
最初の内は呼吸する度に激痛が走り、それで意識を保っていたものだが、もう痛みも何も感じない。
指を動かすことも、目を開けることも出来ず、ただひたすらに、ひんやりと自分の体が冷たくなっていくことだけがわかる。
―――俺はここで死ぬのだろうか。
まさか法治国家日本で、ナイフで刺されて死ぬとは思わなかった。
―――今まで必死に生きてきて、そのツケがこれかよ・・・。
走馬灯のように今まであった色んな苦労が頭をよぎる。
―――思えば頑張って勉強してきたのは、家族のためだったな。
俺は母子家庭で育った。
両親は俺が12歳の時に離婚し、女手一本で育てられた。
苦労して育ててくれた母に恩返しするため、必死に勉強してたくさん稼ぐつもりだった。
しかし、母は5年前、急性の病気で死んでしまった。
何一つ返すことは出来なかった。
俺が死んでも悲しんでくれる人なんていないだろう。
かつては恋人がいた。しかし母が死んでからと言うもの、保険金目当てに金目の催促が増え、金を出すのを渋っていると俺を捨てて、俺の上司の愛人になっていた。
―――そして最後はわけのわからない通り魔まがいに刺されて死ぬ。
こんなのあんまりだ・・・・。
思考力が落ちていく。
自分の体が、もう限界だということがわかる。
寒い――寒いよ――。
やだ――死にたくない―――。
怖い。
俺という存在がなくなっていく――。
――――もしも―――もしも来世があるのなら、今度はもっと幸せな最期を・・・。
俺は絶命した。
● ● ● ●
―――痛い痛い、引っ張るな引っ張るな!
体全体にとてつもない痛みを感じると同時に、急にまぶしさを感じた。
妙な開放感に包まれるも、非常に気分が悪い。
呼吸がうまく出来ないのだ。
まるで肺に膿が詰まっているかのように呼吸がし辛い。
「おぎゃあー!おぎゃあー!」
おいこんな情けない声を出しているのは誰だ。
「おぎゃあー!おぎゃあーー!」
・・・・俺だった。
何か他の言葉を出そうとしたが、上手く発声できず、こんな情けない声になってしまう。
とにかく全身が痛くて痒くて、呼吸にこそ慣れてきたが、頭痛も酷く、何より吐きそうだ。
「――――――アル――――――」
「――アル―ウス―――――」
あまりにもまぶしいので目はほとんど見えなかったが、耳は多少機能しているようで、周りに何人かの人がいることは理解できた。
しかし喋っている言語は聞きなれないもので、何を言っているかは分からなかった。
酔いが残っているのかなと思っていると、とてつもない睡魔が俺を襲った。
頭も働かないし、一回寝てから考えよう―――。
俺は深い眠りについた。
作品タイトルは(仮)ですが、もし変えるとしても大きくは変えません。特に《変奏曲》は絶対に残します。
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読んでくださり、ありがとうございました。