喜んで欲しかっただけですのに
お兄さまたちが王都に向かわれた翌日。
ラミアス司教さまがいらっしゃいました。お父さまたちにご用があるとか。少し難しいお顔をなさって。
何か心配事があるのでしょうか?
「従兄弟殿!いきなり訪ねて来てすまないが人払いを頼む‼︎」
「何かあったのか…人払いを。ああ、アルテは残ってくれ。」
「昨夜ジークとキャシーとバートが教会の司教館に来て泊まっていった。レティが怪我をすることの多いバートの為に作ったポーションの鑑定を俺に頼む為に、だ。」
「…まさか。五歳の子どもにポーションを作る知識も技術も無いだろう?」
「ウィル。あの子のスキルをなめるな。きちんとしたポーションだったよ。しかも下位でも中位でもなく、上位でさえなかった。」
「おい!それはもしかして既にポーションではなく」
「当たり。伝説のエリクサーに近いポーションだったよ。さすがに死者を生き返らせることは出来ないが、ある程度の欠損の再生なら出来る。腕や足の一本くらいならな。病気だってすぐに完治する。それをレティはバートに六本も渡していた。バートたちには王都の途中で旅行中の魔術師から譲ってもらったとでも言っておけ、とは言ったが…」
「ジークたちは驚いただろうな。」
「絶句していたよ。多分レティシアは大好きな兄のランバートが無事卒業することを願って作っただけだったろう。ポーションを作るには薬草の知識と調合魔法の適性と薬を生成するに足りる魔力が必要で、それを兼ね備える人間の数が少ないことは常識なんだが。」
「レティはその常識を軽く飛び越える、か。」
「かなり心して守らないとダメだ。あのポーションが知られたらレティは王宮に召し上げられる可能性がある。もしレティを王宮が縛ったら…どんな天罰が下されるか。考えたくもない。」
「レティに悪気はないのよね。そうしてレティには特別との自覚もない。だからあの子を制御するのは難しい…頭が痛いわ。」
「養育係と遊び相手を探してくれという依頼な。かなり難航しそうだ。レティのあの能力に接して欲が生まれない人物はなかなかいないだろう。」
「そう言えばあの無い数字…ゼロと九つの数記号は計算する際には便利だな。計算間違いが殆ど無くなったよ。正式な書類には使えないが。」
「一応俺の名前で王都の教会に届けたけど。近いうちに呼び出しをくらいそうだ。多分、正式に採用されるぞ。あれ。」
「ああいう自由な発想はレティならではなのだろう。数に位をつけて書き記して計算すると、今までの数字で考えるよりずっと早く答が出せるとは。」
「その通り。教会もそれで事務仕事がはかどって大助かりしてる。ギルドでも採用し始めているよ。」
「なんだか変な話をしてると思うのは私だけかしら?良いものを考えついて、良いものを作ったのに問題だなんて。」
「従姉妹殿、間違ってはいないさ。でも、それをしたのがわずか五歳の女の子だということが問題なんだ。」
「だとしたら、一刻も早くあの子に養育係をつけた方が良いのではありませんか?多少はあの子の思いつきをその人の功績としたってかまわないでしょう?」
「従姉妹殿。そんな度量のある神官なんて…違うな。そんなことどうだっていいと思っている神官ならいるか…」
「何だそれ?」
「ロリフ司祭の次男。まだ十六歳なんだが。この前神学校を卒業して戻って来たんだ。ちょっと変わっててね。一度レティに会わせてみようかな。」