王都に向かう馬車の中(お兄さまたちの会話)
「レティの具合が良くなって何よりだったな。」
「俺にはティムとかギルとか、同年くらいの家臣の子をつけてくれた。そいつらがたまにはレティを構ってくれたし。それが皆相次いで騎士養成学校や官吏養成校、神学校に入って館からいなくなったからなぁ。余計寂しくなったんだろう。」
「寂しくて、たった五歳の子があんな手紙を書くほど熱心に文字を覚えたのだろうね。父様や母様はこのところ仕事が忙しいらしくて昼間はかまってやれないって言っていたよ。なるべく早いうちに養育係と遊び相手をつけるって。」
「あんな手紙を読んではね。私、びっくりしたのよ。今まで私の歌を褒めてくれた人っていなかったの。でもレティはあんなに褒めてくれて。嬉しかったわ。まだ幼くて声が安定しないから竪琴を頑張ってるんですって。なかなか上手いから褒めてあげたら『お姉さまの歌の伴奏が出来るようになりたいんです。そうしたらお側でお歌を聴けますよね!』なんて言われてしまったわ!」
「俺も実は昨日初めて姉さんの歌声はこんなに綺麗なんだと思ったよ。」
「僕もだ。当たり前に聞いていて気がつかなかったのだろうね。レティはよく気がつく子だよ。そしてすごく賢い…小さな子は覚えが早いとは聞くけれど。」
「だってあんな手紙を書けるのですもの。」
「いや、僕がね、『勉強に根を詰め過ぎて眠りにくい時があったり、疲れで目覚めが悪い日もあるよ。』と言ったらレティがさ。『眠りにくい時はこちらの袋を枕の横に置いてください。目覚めが悪い時はこちらの袋の匂いを嗅ぐと少しスッキリしますわ。こちらはベッドサイドに置いて、目覚めた時に手に取れば良いと思います。』と言ってハーブを干したものを詰めた袋をくれたんだ。ほらこれだよ。」
「いいなぁ。それ。」
「私も欲しいわ。兄さんだけずるい。」
「二人の分も預かったよ。はい。匂いはだんだん薄まるから、そうしたらまた作るってさ。」
「レティはうちの庭師たちとよく話していたからそんなことも教わったんだろう。」
「でもよく覚えていると思わないか?これ、父様や母様にあげるつもりで最初は作っていたらしい。でももしかして僕たちにも要るかと思ったから多目に作っておいたのだそうだ。」
「多分、それだけいつも私たちのことを思っていたのよ。毎日毎日。」
「うん。俺にもあいつ、これをくれた。」
「「何?」」
「ポーションだよ。」
「「え?」」
「俺が訓練で怪我をすることもあるって言ったんだ。そうしたらパーっと駆け出してこれを持って来た。レティが自分で作ったものだけど、気休めかもしれないけど、持って行ってって。六本も。」
「…確かポーションを作るのって魔法よね。適性が無いと作れなかったような…」
「うん。傷薬なら誰でも作れるけど、ポーションは割と貴重なんだ。ラミアスおじさんに習ったのかな?」
「いや。ポーションは作るのにそこそこ魔力を必要とする筈だ。五歳のレティにおじさんが教えるかな?」
「まあまずはこれが本当にポーションかどうかということもあるからな。学校に戻ったら先生に見てもらうよ。」
「…待てバート。いきなり学校で判定してもらうのはまずいかもしれないぞ。これからラミアスおじさんに会いに行こう。確かおじさんは鑑定のスキルを持っていた筈だから。五歳のレティが本当にポーションを作れるのなら秘密にしておいた方がいい。」
「お兄さまに賛成だわ。下手をするとレティが狙われてしまうもの。」
「学校に戻るのが一日遅れるけれど、レティの安全の方がずっと大事だからな。兄さんに俺も賛成する。」