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天衣無縫なお嬢様  作者: 眠熊猫
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もう いいでしょう

穏やかに月日が流れて。

エイも大きくなりました。

でもいくら大事にしてもこの世界で十歳をいくつか越えた猫となると流石にお年寄り。

大切な私の家族に変わりありませんけれど。


私の仕事もひと段落つきました。

長編は四年前に全八巻で終了しましたし、その後は単発のものを年に一冊か二冊出すだけ。

曲や歌も年に数曲を教会に渡すくらいになって随分経ちます。

 

五、六年前にマイエルト領のピアノ職人たちが独自でアップライトピアノ(に非常に近いもの)を開発したら、裕福な人や子どもを音楽家にしたい人たちがこぞってアップライトピアノを購入するようになりました。

値段がグランドピアノの十分の一くらいですから求めやすいのです。

そのおかげでピアノの名手、また作曲家として高名になり、平民から準男爵になった人も現れました。

劇団付きの音楽家として人気がある曲や歌劇を作ることで有名な方も三、四名います。


劇団の数も増えましたし、村人たちの有志が集まって祭りの舞台で寸劇をしたり歌ったり踊ったりするのも当たり前になりました。


もういいでしょう?いいわよね?神様?

エイと私、この世界から離れても。


「いいよ。エイを三歳くらいに戻して、君はそのまま?」

「私も二十代前半くらいで。」

「こちらの世界で、君とエイが生まれ変わってもいいと思うまで一緒に住んでいて良いよ。別に何かを食べたり飲んだりする必要も無いけれど、望むなら何でも出てくるから大丈夫。」

「至れり尽くせりですわね。ありがたいですけど。」

「君は僕が願う以上によくやってくれたからね。そのお礼。そうだ、たまに人のかたちをとった僕がお茶をしに来てもかまわないだろうか?」

「いつでもどうぞ。」

「ありがとう。」

「あの、ぼく、げんきになってずっとレティといられるの?」

「私はそう願うわ。エイは嫌?」

「うれしい!このごろのぼく、すぐつかれてねちゃうでしょ?さびしかったんだよ。」

「うん。元気にしてあげるよ。そのかわり僕ともたまには遊んでくれるかい?」

「うん。レティのなかよしなら、いっしょにあそぼう!…でも、いじわるはしないでね?」

「神様はあなたに意地悪なんてしないわよ。エイ。ずっと一緒にいましょうね!」

「うん!レティといる!」

私はエイを抱きしめました。


「君はそれでいいの?レティ?」

「だって私の愛する人たちは皆、まだあの世界で生きていて、幸せに過ごしていますもの。それで充分です。あとは…こちらでも何か役に立てれば嬉しいです。」

「僕とお茶をする時に僕のグチを聞いてくれれば嬉しい。」

「はい。喜んで。」

「で。君の死因はどうしようか?」

「今私、眠っていますよね?そのまま…ということで。」

「エイと一緒だね?」

「お願いします。後は皆に任せます。」

「まあそれしかないか。」

「いきなり行方不明になる、なんて出来ませんからね。」


見慣れたこの薄明るくて白い雲の中のような神様の世界に。

そこだけぽっかり穴が空いたように小さな世界が現れました。まるで昔読んだことがある、小さな家の話の絵本のよう。

青空と、芝生と数本の木と、小さい家が建っている空間です。

「君の家と庭だよ。木には君が欲しいと思う実が季節や種類を問わずに実る。一応空は夜になると暗くなるようにした。夜の長さは十時間でずっと変わらないけど。本当は眠る必要もないんだ。でも、エイも君も眠るのが好きだものね。」

「ありがとうございます!」

「君が欲しいと思うものは食べ物や飲み物なら食堂のテーブルに、エイの玩具や君の手慰みなら寝室の床か、サイドテーブルに置かれるから。」

「ありがとうございます!」

「どういたしまして。…ね、君は僕の世界で幸せだったかな?四十年くらいだったけど。」

「はい!今も幸せです。」

「そうか。よかった。…君、結婚するのを諦めたでしょう?だから気になってたんだ。」

「幸せのかたちって色々です。私には恋愛ではないけれど愛する人たちが沢山いて。そしてその人たちも私のことを大切にしてくれて。アキテーヌン領もマイエルト領もマルブルク領も私の家のあるところでした。

いつもエイが側にいてくれたし。…ただ、エイと離れるのだけは嫌だったからわがままを言いました。

そのわがままを聞き届けてくださってありがとうございます。」

「レティシア、君は本当に生まれる前にした僕との約束を忘れてるんだね。僕はあの時の君に『もういいと君が思うまで僕の世界で好きにしていてかまわない。そう思ったら僕を呼んで。僕が君を最初に招いたここに呼んでもう一度生まれ変わるか、ここにとどまるかを選んでいいよ。君が元いたあの世界には返せないけれど。』と約束したんだけど。」

「え?そうでしたの??」

「うん。君が…君の持っている知識が…僕の世界で役に立つことはわかってたからね。ただ僕の世界が君には不便なのもわかっていたからさ。だから本当にこれは君へのお礼。ありがとう。お疲れ様。」


今までお付き合いくださり

まことにありがとうございました。

心より感謝申し上げます。


また別の作品でお目にかかれますように。

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― 新着の感想 ―
[一言] 転生・チートモノではありますが、こう安心してゆったり読めるお話もいいものですね!
[一言] 一気読みしました。幸せだったんでしょうけど、少し切ないね。ありがとうございました。
[一言] お疲れさまでした。 次も楽しみに待ってます。
感想一覧
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