ただの手慰みです
折り紙といわれても、私には鶴とか紙飛行機、小箱、風船くらいしか作れませんけれど。
紙は沢山持っていますから(原稿用紙です。執筆が捗らなくて書き損じが十枚ばかり出来たのです)、何枚かを正方形に切って折ってみました。久しぶり。でも意外に覚えているものですね。
上記の他にカエルにアヤメ、角香箱などを作って机の上に並べてみました。
白い紙で作ったので何だか寂しい…書き損じなので字は書いてありますけれども、そちらを裏にしていますから。
でも色をいちいち塗るのも面倒だし他に用途がない、ただの手慰みに贅沢を言っても仕方ないですよね…
そういえば前世には千代紙なんてものがあって。綺麗でしたよね。年賀状に松や梅の形に切り抜いて張ったりしてました。
専門店に行くとビックリするくらい高価な千代紙がありましたっけ。懐かしい。
その店で求めたペン皿、お気に入りでした。
こちらの世界に生まれてから初めて作った折り紙を捨てたりはしたくなくて机の上に置いたまま、エイを連れて庭に散歩に行きました。
庭をエイと魔法の蝶で遊びながらひと巡りして館へ戻ります。
「ただいま戻りました。」
私がそう声をかけて、玄関を入ったところでいつものようにエイに清潔魔法をかけます。
すると、何人かの侍女たちが妙なテンションで私に近づいて来ました。
「レティシア様、あの紙細工はどうやって作ったのですか?あと綺麗な糸玉は刺繍されたのですよね?どちらも教えてはいただけませんでしょうか?」
ええと、紙細工は折り紙よね?糸玉って…刺繍?ああ!手毱のことね!エイのおもちゃにって作ったんだわ。芯の紙(反故にした原稿用紙)と綿と色糸で毱を作って簡単な刺繍をしたもの。床に置いたままでしまい忘れたのかしら…
そんなことを考えていても仕方がないので、サロンに私の原稿用紙(書き損じではなくまっさらのもの)を二十枚ほどとハサミを持って来てもらうことにします。
そうしてジーク兄様とサーラ義姉様にも出来れば同席して欲しい旨を伝えてもらいました。
私は自室へ行って綿を少しと糸玉の入った箱(糸巻きに巻かれている本当の糸玉です。刺繍用に色々な色のものを詰めてあります)を取り出してサロンへ持って行きました。
ジーク兄様たちの前で折り紙(鶴と風船)を作り、手毱の本体を(刺繍は説明はしました)ざっと作って見せました。
この世界のボールは革で作った球形のものに綿か鳥の羽を詰めているので固いし、重たいのです。大きさもハンドボールくらいあって。
大抵は的当てゲームに使用します。
そういえばこの世界のスポーツって剣や槍の試合、競馬はありますけれど、球技って無かったような…あんなに重たいボールしか無いならば当たり前かも。
ジーク兄様もサーラ義姉様も侍女たちも。折り紙を自分で作って楽しんでいました。
そうしてこんなに軽いボールが作れることに驚かれました。でも手毱は水や汚れに弱いので室内向きなんですよね。小さいものは装飾用ですし…
「そういうわけで、どちらも手慰みと言いましょうか。面白いだけであまり役には立たないんです。」
「でも、この手毱は子どものおもちゃになるよ!糸で巻くのではなく布で綿を包んだら少しは丈夫になるし。雨の日なんかは家の中で的当てが出来る。」
「あの、この折り紙、楽しいですわ。紙飛行機とかこのボール(風船のこと。こちらには風船が無いのでボールということにしました。)とかカエルとかはまるで玩具です。そしてお花とか鳥(鶴といってもわからないでしょうから)とかは手紙に添えても素敵ですわ。あとこの箱も!今度子どもたちが帰宅したらオヤツをこれに入れて銘々にあげたらきっと喜びます。」
「失礼いたします。発言をお許しくださいませ。」
そう言いだしたのは侍女の一人でした。確か四年前に結婚して。去年だったかな?お子さんが生まれた筈。
「レティシア様、折り紙と手毱の作り方を本にしていただけませんか?この手毬、一昨年生まれた私の娘がもう少し大きくなったら作ってあげたいです。…その頃には折り紙を娘と一緒に作れるかもしれませんし。」
「確かに。子どもは何かを作ることが好きですもの。」
侍女の発言を受けてサーラ義姉様が応えると、ジーク兄様もうなずきました。
「紙の値段は下がっているから庶民でも手に入れやすいだろう。書き損じの紙、計算に使った後の紙ならばこういう遊びに使っても全然構わないわけだしな。
レティ、折り紙と手毱の作り方の本を書いてくれないか?」
「はい。わかりました。」
…よかった!新しい絵本の原稿が思いつかなくて(というか元ネタの日本の昔話を上手くアレンジ出来なくて)反古紙ばかり作っていたんです。




