思ったより大事(おおごと)に
テンサイのことを冬の間にアキテーヌン領主であるジーク兄様に報告しましたけれど、春になるまで結果がわかりませんから
「とりあえず春になって、砂糖が出来上がったら改めて相談しよう。」
ということになりました。
手入れは庭師がするというので私はマルブルフ領へ遊びに行き、魚料理を堪能した後マイエルト領へ行って音楽やお芝居を楽しんだりして冬を過ごしました。
そして春。カブを三倍くらい大きくしたようなテンサイの根四個からカップ一杯くらいの砂糖(真っ白ではなく、三温糖みたいな色ですが)が出来ました。
さて改めて兄様に相談です。
「兄様、こちらがテンサイの育て方と注意事項です。そうしてこちらが砂糖の作り方。出来た砂糖はこれです。種を取る為に今回栽培したテンサイの半分はこのまま畑に残しておくつもりです。種を取った後のテンサイの根で砂糖が作れるかはわかりませんから、実験してみますね。
製糖に使わない葉や根の絞りカスは飼料や肥料に使用出来ますから無駄はありません。」
「レティありがとう。ふーん、ハチミツより簡単に作れる甘味料か…」
「ただ甘いだけで栄養素としてはほぼカロリー…身体を動かす時に消費するものにしかなりません。食べ過ぎれば肥満や病気の元にもなります。まぁどんなものも過ぎれば毒ですけれども。
甘いものが好きな人はきっと多いので注意しなければならない調味料ではあります。
でも砂糖は食品の保存料としても使えますから…例えば同じ重さの果物と煮詰めて瓶に詰めるとかすればレモンやオレンジのハチミツ漬けより保存出来るかもしれません。」
「それ、すごく美味しそうだね。」
「またお茶やミルクに加えたり、ハチミツの代わりにクッキーやケーキに加えるとかも。」
「あ、菓子が安く作れる?」
「栽培が広がれば、ですけどね。」
「いや広がるだろう。」
「とりあえず王宮へは?」
「うん。転移魔法陣で砂糖と君が書いたものの写しを父様の家に送ろう。転写魔法で書類を複数…百枚ばかり複製してくれ。栽培を頼む村にも渡さないと。」
「え?そんなに種は出来ないかと…」
「出来た種を全部、春の内に館の畑に蒔いて種を取る。そうすれば秋からいくつかの村で栽培が出来るだろう?王宮には二十粒くらい送れば良い。向こうで増やしてくれるだろうから。」
「わかりました。」
私はテンサイに少し早く種が実るようお願いしました。肥料を充分与えてくれたから大丈夫!と言われて安心したのは内緒です。
程なく実った種は全て(王宮に送る分を除いて)庭師が畑に蒔きました。
秋に試しに蒔いた時より少し肥料と灰を多目に鋤き込んでみましたけれど…良い種が出来ますように。
また、種を取った後のテンサイの根から作る砂糖の量は半分以下になりました。
そしてジーク兄様が王宮で仕事をしているお父様宛てに小さな壺に入れた砂糖とテンサイの栽培方法、砂糖の作り方を書いた書類を送った七日後。
お父様が王様と一緒にいらっしゃいました。
そして挨拶もそこそこに兄様と何やらお話を。
…思ったより大事になりそうな感じです。
少し力がついて、心が和む甘味を村の皆にも楽しんで欲しいだけだったんですけど。
「大事にならないわけがあるか!」
王様に怒られて?いる私です。一時間以上も兄様の執務室でお父様と王様と兄様が話をしていたので私がお茶を持って行きましたら捕まってしまいました。
「安価な甘味調味料だぞ。菓子が平民でも作れる、または買えるものになるんだ。経済効果がどれほどになるか予測も出来ない!」
「あの、では作らない方が良いですか?」
「そんなわけないだろう!」
王様はため息をつくとお父様と兄様に顔を向けました。
「お前たちはこんなことを何回も経てきたのだな。大儀であった。」
は?何だか私がトラブルメーカーみたいですが。
「まあ色々ありましたが。結果的には我が領の利益になることでしたから。今回の砂糖も悪いことにはならないでしょう。食べ過ぎに注意だけすれば。」
「王様。父の言う通りです。ただこれは莫大な利益になりますから我が領で独占したくありません。テンサイは肥料を多く必要とする作物です。葉や茎は飼料にもなりますから牧畜が盛んな領地で栽培を奨励していただければ…砂糖の生産量はある程度王宮でコントロール出来た方がよろしいかと。」
「ふむ。侯爵家と公爵家で牧畜が盛んというとライアックスとブルーサイス、タイソールあたりだな。そこに栽培を依頼してみるか…その割り振りは宰相たちと相談して決める。良いな?」
「「はい。」」
「それから製糖工場をテンサイを栽培する領内に作り、領主の管理下で製糖することにしよう。出来上がった砂糖は王宮が買い上げて保管する。流通に関しては王宮に任せてもらえるか?」
「「はい。」」
「あの、王様?」
「何だ?レティシア、文句か?」
「あの、砂糖は高価なハチミツの代用品でもあります。お菓子作りにはハチミツより向いているところもありますけれど。生産量が少ない間はともかく、最終的には庶民でも買える値段にしてください。」
「ああ、そんなことを言っていたな。約束する。生産量に合わせて値段は変えていく。どこまで安く出来るかはわからないが、平民が買えるくらいの値段になるように努力しよう。」
「ありがとうございます。」
結局砂糖は我がアキテーヌン領とライアックス侯爵領、タイソール公爵領で生産することになりました。
様子を見ながら徐々に生産地を増やすということに。
そうして生産が安定して庶民でも買えるくらいに砂糖の値段が落ち着いたのは生産が始まって七年後。
その頃には砂糖を生産する領地は六つに増えていましたし、他国でもテンサイの栽培と砂糖の生産が始まっていました。




