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天衣無縫なお嬢様  作者: 眠熊猫
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小人閑居して…再び?

私はアキテーヌン領にいる時が一番のんびりしているかもしれません。

エキスも原稿も魔法陣も転送出来ますからアキテーヌン領内で作らなくても大丈夫なので呑気にしていられます。マルブルフ領にいるとついつい料理をしたり、港へ出かけたり、畑を見に行ったりしてしまうので楽しいけれどのんびりとはいきませんので。


今はジーク兄様とサーラ義姉様の子どもたちも皆王都の学校に入学しています。

初等部というのかしら?七歳から貴族の子弟が入学する学校が数年前に新設されたのです。

王都にはお父様お母様(甥や姪にとっては祖父母)の館がありますので甥たちはそこに住まわせてもらってそこから登校しています。


ジーク兄様は月に一度か二度、王都に行く用事があるそうで(私のせいだと笑いながら仰いました。主に本の関係だと思います)、サーラ義姉様も兄様と一緒に王都へ行くこともたまにあります。

「おかげで子どもたちに会えるでしょう?寂しさが随分和らいでいるわ。」

とサーラ義姉様がこの前、お茶の時間に仰いました。


規模の差はあっても薬草畑を持っていない領はありません。不測の事態(天災とか事故とか流行病とか)に備えてポーションの備蓄は欠かせない領主の義務の一つです。

それでマイエルト領でもマルブルフ領でも薬草エキス一瓶のお礼でエキスを作らせてくれます。

ポーションは出来上がってから大体一年で効能がなくなりますが、エキスのままで保存すると二年半くらい保つのです。エキスひと瓶から六十人分ほどのポーションが作れるので便利でお手軽。

元々私のオリジナル魔法なので相性が良いのでしょう、楽に使えます。

一度に使う魔力量はほんの僅か(エキス瓶六本分で大人一人分に必要な清潔魔法に使う量の半分くらい)なので持っている魔力量の多い魔法師にはかえって難しいと言われていますが…


魔法陣を書くのも一度に大量の魔力は要らないせいか、他の人たちより書き続けることが苦になりません。

普通の魔法は発動する時に必要な魔力を一度に放出する感じなのですが、魔法陣は書いている間中ずっと魔力を(ごく僅かずつ)放出する感じです。

私は空中に漂っている魔力を受け取ることが出来るので(といってもそんなに多く存在しているわけではありません)魔力に関してはほぼプラスマイナスゼロでずーっと魔法陣を書いていられます。

例えると自分が万年筆のペン軸になって、その軸の中に絶えず一滴ずつ注がれるインク(魔力)を使ってゆっくり魔法陣に必要な文字を書いている気分です。

書くのに疲れて休むくらいですから魔法陣を書いた後はさすがに原稿を書く気にはなれません。


その他には仕事らしいことなんてしてませんから気楽なものです。

曲を作るのも半分くらいズルですからね。前世で誰かが作った曲の焼き直しですもの。

今はマイエルト領で楽譜を作ることが格段に増えました。リリオフさんが私の鼻歌まで採譜してくれるんです。いちいち楽譜を思い出す手間も省けて助かっています。

作った曲の中で、これは教会に差し上げたいと申し出るとリリオフさんは快く許してくださいますし、教会で演奏するのにふさわしいように編曲もしてくださいます。

…はい。すごく甘えております。

それで作曲の協力者にリリオフさんの名前を付けて、楽譜の売り上げの中の私の取り分から三分の一を受け取っていただくようになりました。

私からの申し出から、アキテーヌン領主であるジーク兄様とマイエルト領主であるワーフェス義兄との話し合いが行われて取り分は決められました。

半々で良いと私は思うのですが、リリオフさんも義兄様もキャシー姉様もそれで充分と仰るので従っています。


その日、私はマイエルト領主の館の庭にある薬草園でいつものようにアキテーヌンへ送る為のエキスを抽出する魔法を使おうと竪琴を持って薬草園へ行きました。

そうしていつものように竪琴を弾こうとして。

ちょっとしたイタズラ心?が起きました。

小さく笑いながら…竪琴に魔法をかけたのです。魔法名は「自動演奏」。

指ではなく、魔力で絃を弾くだけの魔法ですが。あらかじめある曲の楽譜を思い描き、その通りに竪琴を弾くようにした魔法です。

なかなか上手くいったので、竪琴に合わせて歌いながらいつもより順調にエキスを抽出することが出来ました。


エキスの抽出が終わってもまだ竪琴は曲を奏でていたので、休憩を兼ねて私は木の根元に立てかけていた竪琴の側に腰掛けて鼻歌を歌いながら曲が終わるのを待ちました。

通りかかったマイエルトの魔法師、サリエさんが驚いた声を上げるまで。

「レティシア様!これはどんな魔法ですか?実に素晴らしい!」

彼女はひどく驚きながら目を輝かせていました。

…え?そんなに素晴らしい魔法ですか?これ?


考えてみたらこちらにはレコードやCDがありませんし、無論ラジオもテレビもありません。

だから、曲や歌を楽しむには自分で演奏するか、実演を聴くしか無いわけです。

マイエルトにはいくつか劇場がありますし、王都にも二つ劇場があります。また他の領地にも劇場が建ち始めています。

そしてマイエルトの町や王都の酒場やレストランではバンド演奏を売りにしている店が幾つかあります。

けれどやはり限られた人たちの楽しみです。

教会で奏される歌や曲に親しみがある、という人が多いのは教会の祭典や行事は基本無料(喜捨あり)だからです。

あー、でもこれならカラクリを考えた方が良いかもしれません。ディスクオルゴールとか…どうでしょうか?

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