マイエルト領で楽器作り
この世界には小さな子ども用から大人用、また音域や音の高さによって色々な大きさの竪琴があります。
そしてその様々な竪琴と笛、太鼓が主な楽器です。
ギターがあっても良いと思うんですが…ピアノもあると嬉しいです。
多分ですが私は前世の日本で幼い頃からピアノを習っていたと思うんです。もしかしたら子どもに習わせていたのかもしれません。…記憶が定かでない為にはっきり言えないのですけれど。
楽器や音楽のことならば、キャシー姉様が嫁がれたマイエルト領で相談した方が良い筈です。
あまり詳しく聞けませんでしたが、王都の学生だったキャシー姉様とワーフェス義兄様との馴れ初めは楽譜の交換だったそうです。
マイエルトは良い楽器を作る職人が多いことで有名な領地なのです。
代々の領主やそのご家族も楽器の演奏や歌がお好きで。だからマイエルトへ新しい曲を持って行くと殊の外喜ばれます。
新しい楽器を作ってもらいたくて、私にしては珍しくマイエルト領での長逗留となりました。三ヶ月くらいでしたけれど。
でもその後もしばしば長逗留をしました。
ギターやウクレレ(っぽいもの)は簡単と簡単に説明するだけで発注出来ましたし、そこそこの完成度でもありました。竪琴よりずっと弾きやすく音も響くのですぐに人気商品になったみたいです。
ギター用の教本(十曲ほどの楽譜のおまけつき)も好評で第二弾、第三弾もすぐに発売されました。
一方ピアノは難関でした。職人さんたち曰くイメージ出来ない、と。
それで竪琴を寝かせて絃の端を小さなハンマーで叩いて音を出しました。両手に一つずつ持ったハンマーで同時に絃を叩くと和音になります。
「こんな風に絃を叩く仕組みです。一本の指で叩ける鍵盤にして、音を出す楽器を作って欲しいんです。勿論大掛かりになりますし、持ち運べないので据え置いて使う楽器になるでしょう。その代わり音域が広い楽器を作れます。曲の概念も変わるかもしれません。和音も出しやすくなりますから。」
そう言うと職人さんたちの目の色が変わりました。
でも、熱意だけで全てが上手くいく筈もなく。
試作に試作(失敗とも言います)を繰り返しました。
それを見て私は改めてピアノって繊細な楽器なのだと思い知りました。
結局最後には神様にお願いして前世にあったグランドピアノの設計図をいただいて何とか完成しました。
職人さんに依頼してから完成まで二年がかり。出来上がったピアノの重さにまたびっくり。
でも楽器として見栄えもしますし、教会がピアノを欲したことも相まって他領からピアノの作り方を学びたい職人がマイエルト領を訪れ始めました。
ピアノは年に一度か二度は調整する必要がある楽器です。そしてすごく重たいのであまり遠くまで運ぶのも大変。転移魔法陣でも無理でした。小さな部品ならともかく。
ですからマイエルト領でピアノ作りを学んだ職人さんたちは独立する時に七、八人くらいのグループを作ってピアノ工房を立ち上げました。部品も多いし、大きな楽器ですから一人でピアノを作るのには無理があるのです。
初めてのピアノが出来上がった十数年後には国内の殆どの領地内にピアノ工房が一つは設立されました。
ギターとピアノという新しい楽器を相次いで製造、販売を始めたマイエルト領ではその楽器の教則本や楽譜も売り出されることになりました。新たな作曲家も次々と排出して中には王宮や他の領にスカウトされた人もいます。
やがてマイエルト領は音楽領と呼ばれるようになりました。そのことをキャシー姉様とワーフェス義兄様が喜んでくださったことが本当に嬉しかったです。




