友人と再会
マルブルフ領とアキテーヌン領とマイエルト領と行き来するようになって三年ほどが経ちました。
滞在する割合はマルブルフ領には一年のうち八ヶ月、アキテーヌン領には三ヶ月、マイエルト領にひと月くらいです。
この三年でジーク兄様とサーラ義姉様には子どもが二人増えて三人になり、ナニーや侍女も増えました。
次兄のランバート…バート兄様とマリエ義姉様は一男一女。
バート兄様は分家してサディス男爵となりました。そして三年前にアキテーヌンの親衛騎士団長に就任しています。
今は以前私が住んでいた領主館の敷地内にある家に住んでいます。何かあった時に非番でもすぐ駆けつけられるように。
私?領主館内に部屋をいただきました。
「十七歳になってもまだ独身でふらふらしてるなんて!…でもレティだもの…気にしてないんでしょうね、きっと。」
と、つい先日やっと会いに行けたアリアに言われてしまいました。
そう、気にしていません。神様に以前言われましたから。結婚したいと私が本気で思ったら相手は現れると。
私、実は結婚願望が希薄なんです。政略結婚…というか家同士で決めた結婚でも上手くいくケースがあるのも知っています。好きだから、相思相愛だから結婚したのに…ということがあることも。
この世界で離婚をするのは基本的に平民だけです。
貴族社会での結婚は本人だけでなく家と繋がりを持つことでもありますから、余程のことがあっても別居は認められますが離婚は認められません。
ですからその「余程のこと(暴力とか浮気とか)」が起きないように周囲が気を使いますし、そのようなことをしないように貴族たちは自分の子どもを教育するのです。
恋愛から親に申し出て結婚するケースがおよそ半分。あとの半分は恋愛ではないけれどもそれなりに親しい関係から結婚する(シールやアリアのような)ケースと、親同士だけで決めたケースなのだそうです。
もっとも親同士で決めたケースの場合、親が決めた時点(大抵は子どもたちがまだ幼い頃)から双方を頻繁に会わせたりして親しくなるように持って行き、時期を見計らって婚約をけしかけるという手順を踏むことが多いとか。
それでは判別が難しいですよね。シールもアリアも
「親の思惑が最初からあったのかどうかはわからないの。でもありそうでしょ?」
と言ってました。
「まあでもレティは領地が無くても魔方陣や薬作りや出版で小さな男爵領以上の利益があるみたいだから、独身じゃないと困るのかもね?アキテーヌン領主様としたら。」
「お嫁に行けないかしら?私はあまり領地経営とかに向いていないから気が乗らないんだけど。」
「レティらしい。研究者とか作家向きなんだ。」
「シール。レティの場合はどちらかというと自由人なんだと私は思うわ。」
シールもアリアも遠慮がありません。それがすごく嬉しいです。学校でやり取りしたあの頃のまま。
シールは前の年にアールと名付けた息子さんが産まれて、アリアは再来月出産の予定です。
「元気な子が産まれそうなの。すごくお腹を蹴るんだもの。」
と笑うアリアの顔は学校で一緒だった頃の懐かしい少女ではなく、お母さんの顔。
私はアリアが妊娠中なのでアリアの嫁ぎ先であるシールの養実家リデル子爵領主の館に来て、五日ほど滞在しました。
ここからシールの嫁ぎ先でアリアの実家ナッハー子爵の館の敷地内にある補佐官のお宅とは馬車で一時間ほどの距離。
アリアとシールが親しかったわけです。
「ね、レティ。魔女のアドバイスシリーズはまだ続くの?」
「うーんとね(あれ、なんだか小説形式の「家庭の医学」みたいになっていて人気なんです)、今書いている途中ので一冊でしょう。あと他に一冊か二冊くらいで終わりそう。その他にもう一冊、別巻として料理のレシピだけを載せた本を書くつもりではあるけれど。勿論料理の数は増やして載せるから、加筆が大変になるかもしれないわ。」
「あ、それはいいなぁ〜。お菓子のレシピが増えると嬉しい!今は転送魔方陣のおかげで欲しいものが手に入りやすくなったからね。」
「あのね、私も主人もワインビネガーを使った料理が好きなの。…レシピ書いてくれる?」
「ああここはラクル領(ワインの産地)が近いものね。そちらでもビネガーを作ってるんだ?それなら頑張って考えるわ!」
「ありがとう。」
そうして新しい話ならこんなのが読みたいとか、妊娠中はどうしても身体が疲れるとか(フルーツビネガードリンクのレシピをいくつか書いてアリアとシールに渡しました)。
とりとめのない、他愛ない会話を楽しんで。
アリアのご主人のサイフォ様と、シールのご主人のイーブ様にもお会い出来ました。アリアのお兄様であるウーラム・カムル・ナッハー子爵にも帰る間際ではありましたが挨拶出来て嬉しかったです。
アリアとシールの二人に何度も再会を約束して別れました。楽しい滞在でした。またね!




