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天衣無縫なお嬢様  作者: 眠熊猫
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引越しました(多分)

王宮魔法師長コルテオ・シファカ・マナム様やその部下であるテトナ様から転送魔法陣を使って再三送られた手紙の文章に

「王宮魔法師にならないか?」

と勧誘がありました。

けれども魔力量に自信の無い私はお断りの返信を転送するばかりです。

一応アキテーヌン領に納める魔法陣のノルマもありますし。執筆の仕事もありますから。


目安としては一年に絵本を一、二冊、児童書を一冊、魔女の助言シリーズを一冊か単発ものを一冊。

これだけでも三ヶ月に一冊分くらいの原稿を書かなければなりません。作家業としてはかなりハードではないかしら?

…ネタ元が前世で読んだあれやこれやそれ、だったとしてもこちらの世界にすり合わせないといけないので改作をします。それが結構大変なのです。

辻褄合わせってパズルみたいで楽しくはありますが。

それに加えて薬草などのエキスを作って。

ひと月に七日か八日は休日を入れるようにしていますが、家にいるとつい何かを書いたり調べものをしたりするので大抵領地のどこかに小旅行。

行った先の村で絵本の読み聞かせをしたり。特産品を探したり。

確かに良い気晴らしにはなっています。


ある日、私はマルブルフ領(サーラ義姉様の実家)を訪ねて、前領主である義姉様のお父様ルーリック様とお茶をいただいていました。


マルブルフの方たちは皆さんお人柄もですが気さくな話し方をなさいます。それが身内扱いをしてくださっているようで(「実際身内だろうが!」とルーリック様に言われました)、居心地が良いのです。

現領主のソーサ様(私にとって義兄にあたります)は

「レティのおかげで結婚出来て、領主になれたんだ。いつ来てくれたって歓迎するし、いつまで滞在したっていいよ!」

と仰るので隣領ということもあり、ついつい訪問してしまいます。

ソーサ様の奥様メリー様も朗らかで優しい方で。何かというと

「あなたはうちの実家にとっては救世主なんだから!あの役立たずだったパーシーを名産品にしてくれてありがとう!」

と仰ってくださいます。お日様のような笑顔が素敵な方です。


私はお魚も果物も大好きですから、港と広大な果樹園があり、牧畜も盛んなマルブルフ領は食べものの面でも居心地が良いのです。アキテーヌン領は内陸ですから。


こちらの世界では魚介類を生食しません。でもどうしてもお刺身が食べたくなった私が新鮮な魚や貝でお刺身を作って、白ワインを煮切って焼き塩を加えたものにつけていただいたり。魚のカルパッチョを作ったり(こちらではサラダ扱いされました)したら意外に好評で。館の料理長が更に洗練して素晴らしい料理に。

やがて港町の秋から冬にかけての季節料理となりました。季節限定で珍しさもあるせいか人気らしいです。


「なあレティ。お前さんうちに来ないか?」

ルーリック様が唐突に仰いました。

「え?…今来てますけど…お嫁?ではありませんよね。皆様ご結婚されてますし…」

「いやいや。うちのこの館にお前さんの部屋を設えるからさ。別宅みたいに使ってくれねーか?ってことなんだ。」

「魅力的なご提案です。ですがそんな風にされるとどちらが別宅になるか…」

「良いじゃねーか。こっちを本宅にしても。」

「え?」

「今は転送魔法陣がある。ここから原稿や魔法陣、作ったエキスなんかは魔法陣であちらへ送れば良いだろう?何もアキテーヌン領からお前さんの権益を奪おうというわけじゃねえよ。

そりゃあ、お前さんが考案する料理や思いつきは魅力的だ。でもな、魚を食べてる時のお前さんってえらく幸せそうなんだよ。館が嫌なら港町に家を買ったって良いと思う。それくらいは今までの礼も含めて俺が出す。どうだ?」

「少し考えさせてください。」

「ん。わかった。」


その後アキテーヌン領に戻った私はジーク兄様やお父様たちと相談して、別宅としてマルブルフの領主館に私の部屋を設えていただくことにしました。

そうしたらキャシー姉様の嫁ぎ先のマイエルト領からも同様の申し出があり、そちらにも館内に私の部屋を設えることが決まりました。


マルブルフ領の港から船に乗れば片道四日ほどで魔法学校に行けます。そのさらに向こうにあるアリアやシールの領地にも行きやすくなりました。といっても片道七日くらいはかかりますからそうそう行けるわけではありません。でも気分が違います。アキテーヌン領から陸路だと魔法学校に行くのに最低でも十二日、アリアたちの領地へはさらに十日はかかることを考えれば雲泥の差です。

ちなみにアキテーヌン領の館からマルブルフ領の館までは山を回らければならない為に結構距離があるのでアキテーヌン領から出発してマルブルフの港を利用しても魔法学校やアリアたちの領地へ行く日数はあまり変わりません。天候が悪いと足止めされますからかえってかかることもあるくらい。


お兄様にもお父様にも苦笑いされましたがふとある日、気がつけばアキテーヌン領にいるよりマルブルフにいることの方が多くなりました。

引っ越しました、といっても差し支えがないほどに。



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