押し花とかしおりとかとか
「レティ、これは何かな?新しいものを作ったら先ず僕に見せてって言ったよね?」
「だから、お見せしました。学校でお友達になった方に送りたいので。本当はもうひと工夫したかったんですけど間に合わなくて。」
「押し花…あまり使い道は無さそうではあるけどね。」
「紙を漉く時、乾燥前の紙にこれを入れると模様になるくらいですわね。」
「それ、他の花でも出来る?」
「厚みのない、リンゴや桜などなら簡単です。でも花びらならバラとかでも大丈夫です。あとはミモザの花をバラバラにしても…」
「なるほどね。特別な便箋になりそうだ。…で?あとひと工夫って何?」
「香水?オードトワレ?コロン?を作れないかと思っていたんです。でもアルコールが間に合わなくて。」
「アルコール?って何だい??」
「ひと口で言うと強いお酒です。でもワインではなくてジャガイモとかで作ったお酒の酒精を強化したものが欲しいので…」
「?何故ビールとかワインでは駄目なの?」
「独特の香りが残りそうです。何回か蒸留を繰り返せば飛びそうではありますが、ワインではもったいないでしょう?」
「それをどうするの?」
「それに花や草木の香りのエキスを溶かして。服の内側などに少しつけると良い匂いがある程度の時間楽しめます。いわば香りのアクセサリーのようなものですね。」
「…あのね、レティ。館の工房の人間を二、三人手伝わせるから、その作業をやってみて?うちから予備費を少し回すし。」
「あの…実は村の鍛冶屋さんに用具を昨日発注したんです。ちゃんと出来るかはわかりませんが…全てが出来上がるまで半年くらいかかりそうだと言われたので、どうせならと大きいものを頼みました。一昨年の備蓄のヒエでお酒を作っていて、そちらも出来上がるのに数ヶ月はかかります。私の家の敷地に蒸留する為の作業場を作る予定でしたが、兄さ…領主の館の敷地内に作業場を作ってもよろしいでしょうか?」
「いや、その方がいい。」
「ではそのように。」
「あの、お兄様。全然話が変わる質問がありますが、よろしいですか?」
「…良いよ。何かな?」
「あの…物を送る魔法ってあります?」
「僕は聞いたことがない。」
「この魔法陣なんですけど…こちらは受け取る側が持っている必要がある魔法陣です。これにはお兄様とお義姉様のフルネームが書いてあります。
そうしてこちらが送る側の魔法陣です。ここに送りたい相手の名前と、送り手の名前を書いて、物を置きます。魔法陣を書いた紙に置けるくらいの物を…とりあえずこのハンカチを置きますね。そうして魔力を込めると…」
「これは!受け取る側の魔法陣が光って転送されるのか!」
「一回使うと消えてしまうのはどの魔法陣でも変わりません。
また鉢植えや生き物の転送は出来ません。人もです。でも切り花…花束や種や木の実、果物は大丈夫でした。」
「画期的だね、これ。」
「鳥便は届けられる範囲が決まっていますし、たまに事故があったりして届かない時もあるでしょう?鳥便に使う鳥クレイの訓練は簡単ではありますが、ひと月ほど日数はかかります。何か代用になるものがあればと思って。」
「うーん。でもこれはまだまだ検証が必要だね。」
「魔法学校へ送る事案になりますか?」
「いや、そちらでは遠過ぎる。王宮へ送った方が早い。悪いけどレティ、王都へ行ってくれないか。」
「わかりました。アルコールの件の目処がついたら王都に向かいます。…お兄様を受け取り人にした魔法陣、何枚か要ります?」
「父様たちに渡すのだったら何枚か欲しいな…僕からも送りたいから受け取る方と送る方と両方欲しい。」
「ではとりあえず五枚ずつ、お渡しします。お父様にも同じだけお渡ししますから。受け取る為の魔法陣は執務室のサイドテーブルのようなしっかりした台か、床の上に置いておいてください。そしてくれぐれも魔法陣の上には何も乗せないでくださいね。」
「いつ来るかわからないものね。わかった。そうしておくよ。」
「それから宛名を書くのにフルネームなのは特定しなくてはいけないからです。魔力を魔法陣に流す際にも送る相手の顔や名前を思い浮かべてくださいね。」
「名前だけだと同名の別人に送られる可能性があるわけだね?とすると平民には送れないか…」
「お店とか村長の家とかならばもしかしたら送れるかもしれません。試してみますね。」




