それ本当に天罰ですか?
アキテーヌン領の冬は寒いけれど雪は殆ど降りません。霙やアラレが降ることが数年に一度か二度あるくらいです。雪は私が生まれた年に一度降ったとか。積もることなく溶けたそうです。
でも草が枯れた地面のあちこちに霜柱が立ったり、池や川の淀みの表面に氷が薄く張ったりはします。そして冬の北風は他の季節風より強いです。
だから秋に蒔いた麦の麦踏みは欠かせません。
私も以前は冬になると近くの村の麦畑で麦踏みを手伝ったものです。でも今年は
「準男爵様にそんなことをさせられません!」
と断られてしまいました。しくしく。
「まぁレティも大人になった、ということさ。」
と館のサロンでサーラ義姉様とお茶会をしている時に入って来たジーク兄様から慰められました?けれど。
「あ、それからしばらくサザーズやヤルツァからの客人は来ないから。父様から王に正式に申し出て了承された。こちらから招待しない限り他領の領主やその家族、家臣はうちの館にも君の家にも来てはいけない旨、貴族全員に公布されたから。」
「本当ですか。それは助かります。でも、よろしいのですか?ヤルツァ領主様もサザーズ領主様もうちより位が高いのに…」
「うん。実はこの秋、ヤルツァ領の港は嵐で使えない日が例年よりずっと多くてね。王都の市場にもかなりの影響が出たんだよ。サザーズ領ではひと月ほど前に落雷でブドウ畑が焼かれて結構な被害が出た。でね、それが天罰ではないかと…」
「はあ?私が原因だというのですか??」
「レティ、落ち着いて!だって天罰は君に関係ない。神様が勝手に…というのも不敬だけど…下すものだから。でもそれだけに我々には天罰かそうでないのかの判定が出来ない。我々は我々で想像するしかないんだよ。」
…それは想像ではなく妄想では?…という言葉を飲み込んだ私を誰か褒めてください。
「それにね。誰よりヤルツァ領主とサザーズ領主本人がそう思い込んでいる。それはレティを大切にしていない、自分勝手に押しかけた、という心当たりがあるということだ。まあせいぜい反省していただくとしよう。」
ジークお兄様の笑顔が何だか黒く見えるのは、きっと多分気のせいですよね??
「…まあいいでしょう。いらっしゃる度に緊張してましたから訪問回数が減るのは本音を言うと嬉しいです。」
「そうそう!今日あなたを招いた一番大切なわけを言わなくては!」
サーラ義姉様がいきなり話し始めました。
「え?義姉様のご実家から届いたお魚と果物はもういただきましたよ? お裾分けがあるからって呼んでくださったのでしょう?」
私がそう言うと義姉様はそれは幸せそうに笑って
「あのね、二人目の赤ちゃんがね、この夏頃に生まれるの!」
と。ジーク兄様は照れくさそうに笑いながら優しい眼差しでサーラ義姉様を見つめました。そうして私に向き直った兄様は私にこう仰っいました。
「それでね、レティ。サーラが健康で出産に臨めるようにいくつか食事のメニューを考えて欲しいんだ。あまり匂いが強い野菜は使えないけど、今回は前の時より悪阻が軽くて食欲もあるんだよ。…お願い出来るかな?」
はい喜んで!そういうことでしたら頑張ってメニューを考えますとも!
私はサロンを辞して私の家に戻ると、机に向かって早速メモを書き始めました。
…塩分を控える為にはこの秋に作った干しキノコを出汁に使うと良いかも。昆布や煮干しは塩分があるから念の為気をつけて使うことにしましょう。
干しキノコは数年前から作っています。
うちの近くの林や小さな森でマイタケやシイタケのそっくりさんを見つけたので干してみたのです。
骨から出るゼラチンもコラーゲンですからスープに入れましょう。
それから乳製品!チーズは塩が気になりますけれど、カッテージチーズなら大丈夫かしら… それからそれから…
レシピを思いつくままに書き出します。
夏の出産となりますとさっぱりして口当たりの良い物や冷たいデザートも考えなくては。でもあまり身体を冷やさないように注意しないと…
「ジーク、あなた天罰からレティの意識を逸らしたわね?」
「うん。考えたって仕方ないことは考えない方がいいからね。」
「春になったらレティに王宮に来て欲しいって王から手紙が来てたのはどうするの?」
「父様と母様にレティが会いたがったら、その時考える。強制ではないとくどいくらいに主張していたから、行かなくても大丈夫だよ。」
「王も天罰は恐いのかしら?」
「サーラ、恐くない人はいないと思うよ?」
「でも天災とか気候不順とかはよくあることだわ。」
「受け止める側の問題なんだよ。心当たりがあるかどうかなのさ。結局はね。」




