私が初めて書いた手紙
ジークフェルドお兄さま
お元気でいらっしゃいますか。
ジークフェルドお兄さまもキャサリンお姉さまもランバートお兄さまも学校の寮に入ってしまわれて。
お父さまとお母さまと私しか家族のいない館は、なんだかすごく広く感じます。
でも、お兄さまはとても大事なお勉強をなさってらっしゃるのですからわがままを言ってはいけませんね。どうかお身体に気を付けて頑張ってくださいませ。
長いお休みになったらどうぞお戻りくださって、たくさんお話を聞かせてくださいね。
キャサリンお姉さま
お元気でお過ごしでしょうか。
レティシアはお姉さまたちが恋しくて、一生懸命文字を覚えましたの。お姉さまのお戻りになるのはいつになりましょうか。またお歌を歌ってくださると嬉しいです。
私がどうしてもキャサリンお姉さまのように上手に歌えなくて悲しんでいたら、ラミアス司教さまが
「まだお小さいので高い声と低い声が上手に出せないのですよ。」
と慰めてくださいました。
それで今は竪琴を練習しています。お姉さまのお歌に合わせて弾けるようになりたくて。歌の練習は少しだけですけれど。
いつかお姉さまと一緒に歌えるようになりたいです。
ランバートお兄さま
騎士になる学校は、とても鍛錬が厳しいとエイダに聞きました。お身体は大丈夫でしょうか。体調にはどうぞお気をつけくださいませ。
レティシアには兄さまたちがいないこの館が広すぎて少し寂しいです。
お勉強も訓練も大変でしょうけれど、お兄さまのご健康が守られますよう心よりお祈り申し上げます。
長いお休みになりましたら、お家に戻られますよね?
また一緒にお庭をお散歩していただけますか?
…結局、あまり長い手紙は書けませんでした。まだまだ語彙が少ないですし、それ以上に握力とか集中力が足りなくて。もっと基礎体力をつけていかなければ。
とりあえず明日からたくさん歩こうと思います。
私はエイダに兄さまたち宛ての手紙を渡して、兄さまたちに届けるようお願いしました。
「エイダ、この手紙をレティが自分で書いたのか?誰の手助けもなしで。」
「はい。私たちは見守っていただけでございます。お嬢様は私たちに書き終えるまで一度も声をかけませんでした。」
「…字は確かにつたないけれど、間違いは一つもないわね。そうしてレティの寂しさが伝わってくるわ。」
「…誰か家庭教師兼遊び相手を雇うとするか。ラミアスに相談してみよう。」
「そうね。レティと同じ年頃の子を持つ家臣がいないし、年上の子たちはバートについてしまったし。」
「それであの…この手紙はジークフェルドさまたちに届けてよろしいでしょうか?」
「ああ、いいだろう。内容に問題はないし。レティはジークたちに手紙を読んだか尋ねるだろうしな。」
「そうね。これを読んでいなかったら、ジークたちが帰省した時にレティと話が合わなくなってしまうと思います。レティは手紙の良し悪しを絶対尋ねるでしょうからね。」
「ではお届けいたします。」
「レティは晴れていれば庭を散歩して、庭師たちと楽しそうに話をしているし、雨が降れば図書室でエイダたちに本を読んでもらっていたからあまり寂しそうに見えなかったのですけれど…」
「私には領主としての仕事、アルテも私の補佐をしている。やらねばならない仕事も多いし。夕食の後は出来るだけかまってやっているが。」
「せめて今度、館から一番近い村へ視察に行く時、レティも連れて行くことにしましょう。良い気分転換になりますわ。」
「そうしよう。」