これが私のステイタス?
ようやく王都に入りました。何だか随分かかったような気がします。まあそういう旅程ではありましたけれど。
すぐに王都のアキテーヌン家へ行き(アキテーヌン領の館よりずっと立派でびっくりしました)、衛士三人と侍女二人を伴ってお父様と教会へ向かいました。
何でも今まで確かめずにいた私のステイタスを見るのだそうです。
入り口の受付でお父様がメダルのような物を差し出すと受付の人たちが慌しくなり、何だか偉そうな人が出て来て私たちを迎えました。
「アキテーヌン様お久しぶりです。お嬢様は初めまして。私はこの教会の長、大司教のネイラムです。お嬢様のことはご領地の司教ラミアスから伺っております。では皆様こちらへどうぞ。」
そう大司教は仰って私たちを先導してくださいました。
「本日はお嬢様のステイタスを見たいとのこと。お嬢様を除く皆様はこちらの控室にてお待ちください。」
するとそのドアの脇に立っていた神官がドアを開け、
「私はケラフィムと申します。本日は皆様のお世話をこちらでいたします。」
と自己紹介をしながら私以外の皆を部屋へ。
私は大司教様について行き、別の部屋に通されました。
さほど大きくない、円形の床の部屋です。壁のやや高い位置に窓がついていて、床の中央にやはり円柱形の机のようなものが置いてありました。
大司教様はその机?の天板の下の隙間に羊皮紙を入れると私に仰っいました。
「この上に両手をそっと乗せてください。」
大司教様に言われた通り、私は机?の天板にそっと手を触れます。淡い光が天板から出て消えた後、文字が浮かびました。これがステイタス?
レティシア・ルミシル・アキテーヌン
職業 神に愛されたもの
スキル 神の守り 神から許された知識
注意事項
神に愛されているゆえに
彼女の意に反することを無理強いしたり
彼女に害をなそうとすると天罰が下る
その天罰に彼女の意思は関係しない
これって…ステイタスと言えるのでしょうか?
大司教様に伺おうとして顔を上げると、大司教様のお顔が青白くなっていました。
「あの、大司教様…?」
私が声をかけますと大司教様は慌てて天板の下の隙間
から先ほど入れた羊皮紙を取り出しました。そうして新しい羊皮紙を入れ、また取り出すことを数度なさって。結局五、六枚のコピー(でしょう、多分)を持つとお父様たちが待っている部屋へ向かいました。
「お待たせいたしました。」
大司教がお父様にそう仰っると、お父様は
「娘のステイタスは?」
と尋ねました。大司教はそれに応えて羊皮紙を一枚お父様に渡しました。
「これです。…ステイタスと言えるかは微妙ですが。ただ、これは一大事です。写しを五枚取りました。…
いえ、この分の代金は不要です。教会として必要だと判断しましたから。この内二枚は至急王宮に届けます。一枚は王家に保管していただき、もう一枚は宰相に渡して告知するかどうかの判断を仰ぎたく。」
「まだ写しは三枚ありますね。それは?」
「一枚はアキテーヌン領のラミアス司教に。あとの二枚は私どもで保管する所存です。」
「かしこまりました。大司教様のよろしいように。」
お父様の返答を聞くと大司教様は
「では今しばらくお待ちください。」
と仰って退室されました。
改めてお父様と衛士、侍女たちと一緒に羊皮紙を見て。やはり皆、私と同じ疑問を持ったようです。
「不思議なステイタス?です。」
「こんなステイタスを見たことがありません。」
「天罰って何でしょうね?」
「私も知りたいです。」
「レティ、君が良い子で本当に良かったよ。誰も君を厳しくしたりせずに済んだからね。」
「あの、お父様?流石に躾は必要です。わがままを叱って天罰、なんて理不尽は私が嫌ですから!」
「…もしかして。良い子でいるようにしたのは神様なのかもしれませんね。お嬢様はお小さい頃から悪いいたずらも、私たち周りの者を困らせるようなことをなさいませんでした。『神に愛され、守られる』とはそういうことなのかも…。」
「え?どういうことなの?ラーナ?」
侍女のラーナは私が小さい頃からほぼずっと私を見てくれていた侍女です。
「お嬢様がしたいことを私どもは助けこそいたしましたが、止めることはありませんでした。それはお嬢様に逆らうのが嫌だったわけではなく。しても良いこと、した方が良いことだったからです。思うこと、願うことをして道を逸れることがありませんでした。そのことがつまり、『神に愛され、守られていること』なのではないかと。」
「ふむ。興味深いことではある。」
お父様がラーナに応えた時、ドアがノックされて大司教様が入室されました。
「王に謁見してまいりました。明日の午後、謁見の間ではなく、王の執務室にてアキテーヌン様父娘にお会いするそうです。その旨手紙を預かりました。」
大司教様はお父様に手紙をお渡しになり、お父様は手紙の内容を確認しました。
「大司教様ありがとうございます。今日はこれにて失礼いたします。」
「また教会にお越しください。…出来ましたらお嬢様も。」
お父様は会釈で、私はカーテシーで応え、教会を辞しました。




