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天衣無縫なお嬢様  作者: 眠熊猫
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ヤルツァ領へ

サザーズ領を出るとヤルツァ公爵領に入ります。

魔法学校の教頭、カイセ・ヤルツァ先生のご実家で、今の領主は教頭の甥なのだとか。ヤルツァ先生は青年と言っても良いくらい若々しいのに、甥が領主を?随分お若い領主なのかしら?

私が思わずそう言うとお父様は

「代替わりしたのは五年前だったかな?当時新領主は二十三、四歳だったからまあ普通だ。若いといってもカイセ教頭は確かもう三十は越えているよ?前領主の長兄と末子の彼とは十二歳だったか…あれ?十四歳だったかな?離れているしね。」

と説明してくださいました。


公爵や侯爵の領地は王都の側か、国にとって重要な地域(港や国境、鉱山など)になるそうです。

ヤルツァ領は王都と港を結ぶ細長い領地で、それほど広くはありませんが貿易と流通で賑わう豊かな領地として知られています。

そうしてヤルツァ領内には割譲出来る町や村が無いので(王都に近い為、防衛上割譲が認められないのだそうです)、ある程度まとまった飛び地を王家から下賜されていて。そこを身内とか功績のあった家臣の領地に当てているのだとお父様に教えていただきました。


「確かヤルツァ公爵は最近…といっても十年くらい前に見つかった銅山だか銀山だかも一つ下賜されている。割譲は許されないけど。鉱山は川に毒が混ざるから管理が大変なんだ。魔力が強い…魔法師は魔力が多いと言うんだったかな?浄化の魔法が得意な魔法師が何人も必要なのだからね。その分利益も大きいが。」

「採掘する為の坑道も身体に悪そうです。鉱夫たちが安全に採掘するにはどうしたら…。」

「何か思いついたらまず私に話してくれるかい?ヤルツァ領主に進言するから。」

「あ!えっとあの…採掘方法ではありませんが…」

「なるほど。そんなやり方がね…」

そんなことをお父様と話しているうちにサザーズ領とヤルツァ領の検問所に着きました。

「ヤルツァ領の隣は王都だから防衛上ヤルツァ領の境は塀で囲んであるんだよ。検問所からでしか出入りが出来ないようにね。」

…塀の高さは二メートル以上あって(三メートル近いかも)。厳めしい印象でした。


身元を証明する書類と積荷の確認に時間がかかったので、今日の宿は検問所に隣接している町に取りました。

この町には旅の守護神として知られる大地の神を祀る立派な神殿があります。私たちの泊まる宿屋からは指呼の距離でしたので衛士二人と侍女一人を伴ってお参りしました。

お父様は検問所の方に領主様あての手紙を渡しに行きました。


ヤルツァ領に入って四日後。領主の館があるヤルツァ町へ入りました。館の敷地に馬車ごと乗り入れたのでびっくり。思わず

「お父様?よろしいのですか??領主様に御用がおありなら私たちは近くに宿を取りましょう。そこでお待ちしていた方が…」


と尋ねました。するとお父様は

「いや。どちらかというとレティに会いたいそうだから。…竪琴を一応用意しておいてくれる?」

「旅行中に新しい歌を二つほど作りましたけれども、それを披露してもよろしいでしょうか?」

「うん。きっと喜ばれる。あと、この間言ってたことの説明は出来る?」

「出来ますけど…メインはそちらですか?でもすごく簡単なことなのに??」

「でも、今まで誰も思いつかなかったからね。」


館の玄関に馬車をつけます。執事やメイドさんたち、スチュワードさんが出迎えてくれる真ん中にいらっしゃるグレイヘアのおじ様と、赤毛の二十歳くらいの青年が前領主様と今の領主様でしょう。青年の隣には金髪の可愛らしい女性(青年と同じ歳くらい)が立っていました。


「ようこそ。アキテーヌン伯爵とレティシア様。私はカークス・ハン・ヤルツァ。四年前に家督を継いで領主となりました。こちらは妻のミューナ。このおじさんが前領主であり父のマイダスです。私の母が病に倒れたらつきっきりになって業務に支障をきたしたので私が領主になりました。…母は半年もしないで亡くなったのですが、その後一年ほど使いものにならなかった困り者です。」

カークス様は笑いながらそんな挨拶をなさいました。

お父様は

「それほどに思い合えるご夫婦とは素晴らしい!私も見習いたいものです。」

と返されました。

中に案内され、サロンへ通されます。

お茶をいただきながら歓談するうちにミューナ様が私の歌を聴きたいとご要望なさったので、新しい曲(冬景色 という日本の歌を翻訳、編曲したもの)と、教会に今までに差し上げた曲を二つ、竪琴を弾きながら歌いました。


その後、鉱山の木の伐採について提案をいたしました。鉱物の精製の為に必要な木を伐採する地域をある程度決めて輪番制にすることと、伐採した後に木の苗を植えることです。

木を刈り尽くしてしまうと表土が雨で流されてしまい岩が露出してもう木が生えなくなることや、水不足を招くこと(山の保水能力が低下する)、地滑りや洪水の危険性が高まることなども話しました。


「これは良いことを話してくれました。木を伐採した後に木の苗を植える…木が成長するには時間がかかりますが、これは山に限らず林や丘にも大切なことですね。山で木を伐採した後、新たに生えて来ないのは斜面なので土が流れるせいでしたか。」

カークス様とマイダス様にしきりに頷かれて、何だか照れくさかったです。


その後ディナーランチをいただいて館を出ました。

王都に近い港があるだけにデザートには他国からの珍しい果物が使われていて美味しかったです。




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