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天衣無縫なお嬢様  作者: 眠熊猫
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サザーズ領ナーザで

うちの領地を出て隣のサザーズ領内に入りました。

二つの宿場町に泊まり、ナーザ近くの村に泊まってやっと着いたナーザは見渡す限りのブドウ畑と点在するワインの酒造所の町(村?)でした。

「普通の町くらいの広さはあるが人はそんなにいないから村かな?でも収益はそこらの町より多いはずだ。だから単に『ナーザ』と呼ばれているんだよ。」

「特別区のような感じですね。」

「そうだね…今日はこの宿屋に泊まる。ナーザに来るといつも世話になるところでね。『金のワイン亭 』というんだ。」

金のワイン亭は食堂兼宿屋で。少し早い昼食をいただきました。メニューは少し小ぶりのニジマスのようなクセのない川魚のバターソテーと野菜入りのパスタ。白ワインが付いてきましたが私はお酒が苦手です。

「ごめんなさい。ブドウジュースがあればいただきたいのですが…」

私がそう申し出ると女将らしい方が笑いながら

「大丈夫!お酒が弱い人や飲めない人、子どもの為にジュースはいつでも用意してあるよ。」

と赤ワイン色のブドウジュースを私の前に置いてくれました。


美味しい昼食の後、お父様と補佐官のリナールはワインの買い付けの商談へ。騎士たちもそれについて行きました。侍女たちはブドウジュースやブドウで染めた布やブドウの蔓皮で編んだ籠などを買いに行きました。

私は女将に頼んで酸っぱくなった白ワイン(ワインビネガー)を分けてもらいました。ワインの大きな樽から小さいガラス瓶(四百ミリリットル位の内容量のもの)に四本。お値段はガラス瓶代プラス銅貨を十枚ほど。これくらいあれば多分しばらくは大丈夫です。

どこの領地でも皮つきのリンゴジュースを放って置いてリンゴ酒を作ります。けれど酸っぱくならないように軽く火を入れてしまうのでアップルビネガーになりません。ワインも同じ処理をしているそうです。

なので酸っぱくなったワインは製造過程で火を入れる前に酢になってしまったもの。毎年せいぜい数樽がそうなるに過ぎないし、全く酸っぱくならない当たり年(女将はそう言ってました)もあるのだそうです。


その、捨てる寸前(肥料として使えないか実験する為に取って置いた一樽)のワインビネガーをいただいた私は、食堂の厨房をお借りしました。

豚のスペアリブのビネガー煮込みと、野菜とゆで卵のサラダ(ビネガーと卵と油でマヨネーズもどき…エッグドレッシングを作りました)。ワインビネガーとショウガの絞り汁とハチミツと塩を混ぜてお水を加えたスポーツドリンクもどきを作って女将と厨房を差配しているご主人とご主人の手伝いをしている若い方二人に味見してもらいます。

皆さんが食べている間にブドウ畑の畦道でチャービルやディル、ローズマリーを見つけたのでそれらのハーブを使ってキュウリとセロリとカブのピクルスを作りました。これは自家用のつもりです。


食堂に戻ると味見を終えた皆さんが少しボーっとしていたので声をかけましたら、詰め寄られて驚きました。

ワインとお酢はあまり相性が良くないので食事に出す時はパンなどで口直しをしてからワインを飲んでもらうようにした方が良いと思います、とあらかじめ断っておきました。

その上で、ビネガーを火にかけて一度煮立てると酸味が和らぐこと、酢には防腐効果があるので野菜を酢漬け(ピクルス)にすると保存食になること、ビネガードリンクは暑い時に飲むと気分が悪くなるのを防げること、酢は強い調味料なのでガラス瓶に入れておくと良いことなどを説明しているうちにお父様たちがお戻りに。


お腹が空いたと訴えるお父様たちに私の料理を召し上がっていただきました。

スペアリブの煮込みもサラダも気に入ってくださったようです。ちょっと得意になったのは内緒。

騎士や侍女たちにはビネガードリンクがとても好評でした。疲れが取れるって大切ですね。

そういえばナーザに来る前日に泊まった村は陶器作りが盛んで、ナーザのワインを入れる壺やワインを供する際に使う陶製のピッチャーを売っていました。

ワインを小分けしてもらって買う人はもちろん、樽で買う人も食卓やもてなしに供する時には壺やピッチャーは必要です。

どれも白や淡い色の地に綺麗なブドウの絵やお花の絵が描いてあって本当に綺麗でした。私の部屋の飾りにしたくなって壺と蓋つきのピッチャーを一つずつ購入しましたけれど、それにビネガードリンクを入れていつでも飲めるようにしておいたらどうかしら?帰りにもう一度あそこに寄って蓋つきのピッチャーをあといくつか購入しましょう。

ビネガードリンクを常時作るならもう少しワインビネガーを購入した方が良さそうです。

女将にビネガーを追加購入したいと伝えたら、今日作った料理のレシピと引き換えに先ほどと同じだけビネガーをくださいました。そうして火を入れてワインにならないようにしたブドウジュースを樽に一つ分も!

ジュースのお礼に、ビネガーソースに漬け込んだお肉をローストするレシピもお渡しいたしました。


ワインビネガーは後にナーザの隣村にビネガーを作る専門の施設を作り、そこで売られるようになったそうです。

私が渡したレシピだけでなく、沢山の方が新しい料理を考えてそのレシピを広めたのでビネガーの需要も増えています。

エッグドレッシング(マヨネーズ)が好評なのも嬉しいです。別に私が発明したわけではありませんけどね。




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