王都へ行く旅程
あと一つ村を過ぎるとアキテーヌン領から出ます。
お隣のサザーズ侯爵の領地へ入るのですが、サザーズ領内には幾つか飛び地があって。
その飛び地にはたいてい大きな宿場町が出来ています。その内の一つであるケナーという宿場町に今日は泊まることになりました。
「うーんと、ケナー男爵は何代か前のサザーズ侯爵の甥の家系で。この宿場町を任されたんだ。
この次に泊まる予定の宿場町はユース。そこは先代の次男が治めていて、その際に元からあった町の名前ユースにちなんで姓をユースに変えて子爵になった。」
「なるほど。元からの宿場町を傍系の領地にして、改姓もしたわけですか。」
「そうだね。王都に近いから利益を上げるのも容易だし、公爵や侯爵は過去に下賜された爵位も多いからね。うちは伯爵だけど過去に王からいただいた爵位は男爵が二つと準男爵が三つある。ランバートが結婚した時に男爵位を一つ渡した以外使ってないけど…よかったらレティに一つあげようか?」
「もらうとどうなります?」
「うちの領内の、君の望む所が君の領地になり、独立したことになる。…レティは一代限りの準男爵でも良さそうだな…君は執筆やポーションで自分で利益が上げられるから特別な領地も必要ないし…そうしておく方が良いかもしれない。」
「では王都から戻ったら現当主のジーク兄様と相談します。」
「では忘れないうちにその旨を記した手紙を書いておこう。まだ領内だから鳥便でも届く。」
鳥便というのは伝書鳩のようなものです。前世の日本のカラスのような鳥ですが色は灰青色でクレイと呼ばれています。
賢いので簡単な訓練をすると手紙を持たせることが出来るのです。
少し大きな鳥なので体力もあり、領地の端から館まで半日もかかることなく飛んで行きます。
勿論事故などで届かないという可能性は捨てきれないので重要書類は送れません。
村に一泊して。朝早くにお父様は鳥を放しました。午後になる前には届くそうです。
「王都に手紙の返事が来るかもしれない。…道筋はジークにあらかじめ報告してあるし、貴族は旅を急いではいけないから、もしかすると返事がどこかで追いつくかな?」
「貴族は旅を急いではいけない?」
「そうだよ。商人は旅をするけれど、商品を仕入れて運んで売る、利益を得る為の旅だ。利益をより上げる為に旅を急ぐ。宿代や飼い葉などの節約になるから。でも貴族は自領では視察を兼ねてゆっくりする。また他領では宿代やその他にお金を払うことで領主への挨拶代わりにするし、その土地の特産品や作物の出来不出来、民の必要などに目を配る。それが自領の利益に繋がったりするからね。」
「それでゆっくりの旅程になるのですね。」
「出来るだけね。女性だけでの移動は長いと危険だから早い旅になるし。ゆっくりすればするほどお金がかかるからほどほどにという感じだな。」
ではサザーズ領をどれくらいで横断する予定なのかを尋ねましたら
「真っ直ぐ行けば三日の行程のところを五日か六日かな?飛び地の子爵、男爵領になっている宿場町と、サザーズ侯爵領下の宿場町二つに泊まって。それからブドウ畑とワインの造醸所が有名なナーザという場所にも行こうと思う。ここはサザーズ侯爵の直轄地だ。」
「ワイン…ですか。」
「レティは酒が好きではないからそんな顔になるんだろうな。でもナーザで造られるワインは上質で有名なんだよ?他国にも輸出されているんだ。」
「あら、ではブドウジュースを飲んでみたいです!それからワインビネガーがあると…」
「?何だい?それ?」
「ワインが発酵し過ぎると出来るお酢です。サラダのドレッシングにしたりお肉や魚のソースにしたり野菜を漬けて保存したり出来ます。」
「酸っぱくなったワインのことか!」
「そうです。…もしかして利用してませんか?」
「ワインの失敗作、もしくは傷んだものだ。捨ててしまうものだよ。」
「もったいないです!」
「ええ?」
「お酢の味は何故かワインとは合わないらしいですけど、身体に良いんですよ?疲れを取りますし。白ワインのビネガーは赤よりクセがないので果物とハチミツで飲み物にも出来ます。」
そう私が力説してもお父様の表情は気味が悪そうなままでした。
ナーザに着いたらビネガードリンクとピクルスと鶏肉のビネガー煮込みを作ってお父様に召し上がっていただきましょう!




