王都へ行く途中
この際、せっかくなのでアキテーヌン領内を通っている間はなるべく村々を見て回ることになりました。
前領主のお父様になら(現領主よりは)要望を言い出しやすいのでは、と思ってのことだそうです。
実際、行ってみると井戸の一つが枯れかけているとか、橋が古くなっているので新しく造り直して欲しいとかの要望が色々上がってきました。
それぞれの現場を見て、必要だとお父様が思われたことや気づいたことは補佐官のリナールが書き留めて後ほどお兄様に送ることになりました。
「領主をジークに譲ってからは出来るだけあちこちの村を回って必要なことなどを尋ねていたんだよ。このあたりも数年前に回ったんだが。」
「もしかしたら代官を替える必要があるかもしれませんね。」
とお父様とリナールが話をしていました。
私はといいますと。膝下丈のモスグリーンのキュロットとシンプルな淡いベージュのブラウス、キュロットと揃いの色の短めの上着という、とても動きやすい旅行用の服を着ていますのでつい村の子どもたちと遊んでしまいました。
女の子たちとは手のひらより小さい石を使ってお手玉。王都に着いたら暇つぶしに編み物をしようと思って幾つか持って来た毛糸玉をほぐして適当な輪にしてあやとり。男の子も女の子も皆集まってSケン。鬼ごっこ。
村の子どもたちには新しい遊びだったみたいです。
館の周りの村々では随分前から広まっている遊びですが、大人も子どももあまり他の村に行ったりしませんから…
この国では成人年齢という概念があまりありません。
結婚する年齢もまちまちです。平民は概ね十五歳くらいから結婚しますが、貴族は家の事情でそれより早く結婚することがままあります。当主になる際には既に伴侶がいることを求められるためです。
いわゆる読み書き計算(足し算引き算)を平民が学ぶのは十歳から十二、三歳くらいの間です。
町ならば有識者が塾を開いていますし、村ならば村長が午前か午後の一、二時間を割いて週に三日から五日教えます。
そこでの学びを終えると親の家業を継いだり、どこかに見習いとなって住み込んだり通ったり。
そうして何年か経つと一人前と認められます。それが成人といえば成人でしょうか。
でも貴族の子女は十歳から学校に入学しますが読み書き計算の他に最低限の礼儀とダンスくらいは習得しておく必要があります。そうして飛び級でなければ五年で卒業です。魔法学校の卒業認定は私にとっては早すぎるものでしたがあの制約は他の生徒たちには結構難しいもののようで、普通は卒業に三年から五年はかかるのだそうです。
キャシー姉様のように早く結婚されるのも貴族にはよくあります。これは家事などは使用人に任せられるからだと思います。家政や領主の妻としての仕事(家によって異なります)は姑である義母から学ばなければなりません。その為に早く嫁ぐことを要求されることもあるようです。
私はもうすぐ十四歳。でも歳の割に背が低いせいか、子ども扱いされることが多いです。それに前世の意識もあるせいか意識はまだまだ子ども。
ですから村に行くと大抵子どもたちの遊びの輪に入ってこんな風に遊んでしまいます。
外遊びが意外に体力作りになっていることに気づいたのは、魔法学校に入学する三年ほど前でした。
館の近くにある村の子どもたちと鬼ごっこや縄跳び、Sケンなどでひとしきり遊んだ経験からです。
次の日に筋肉痛になって、でもしばらくすると平気になって。いつの間にか走るのが早くなったことに気づいたりして。
村の子どもたちは普段から動き回っているので、遊びで筋肉痛になんかならないだろうと思っていましたが、意外に足が痛いとかいう子がいたので驚きました。
仲間同士で競うからムキになるし、全力で走るし。
この本気になって運動する、という経験は皆と遊ぶようになるまではあまりなかったみたいです。
私にとって小さいうちからこんな風に遊びながら体力を作るのって大切なことでした。農作業の手伝いが随分楽になりましたもの。
そしてダンスや礼儀作法の授業を受けるようになってからは本当に役立ちました。
えーと。礼儀にかなった正しいお辞儀ってバランス感覚と筋力が必要なんです。ダンスはジョギングと同じくらい体力を使いますし。
そうしてもう一つ。貴族の嗜みとして欠かせないのが乗馬です。魔法学校でお友達になったアリアやシールたちも口を揃えて
「乗馬は苦手。鞍の下の馬の体の動きに合わせるのも難しいし、女性用の横座り鞍も苦手!…まぁ男性用の跨がる形の鞍に乗ったこと無いけど。」
と言ってました。慣れもあるとは思いますが、馬に乗るには馬の動きに合わせる必要があります。女性の横座りではせいぜい並み足か早足くらいの速さでしかなくても意外に全身の筋肉を使うのです。
鞍に乗るためにはある程度身軽さも必要ですし。
魔法学校でも体育の授業(といっても三十分ほどのジョギングだけです)がありました。体力を作り、それを維持するのは案外難しいことかもしれません。
…ダンスのレッスン、再開した方が良いかも…




