お兄さまとお姉さま
私は末っ子。お兄さまが二人と、お姉さまが一人。
一番上のジークフェルド兄さまは私と九歳も離れていて、今は王都にある学園で寮生活だからあまりお会いする機会がない…八歳違いのキャサリン姉さまも王都にある貴族の女子校の寮に入ってらっしゃる。この間まではよく遊んでくださった、五歳上のランバート兄さまも、この秋に騎士養成学校に入学なさって…
今、この領主邸には父さまと母さまと私しか(家族は)いませんの。がらんとして、少し寂しく思います。
そうしてキャサリン姉さまは卒業したらすぐに婚約者の領地に行って結婚なさるんですって。
それでは、あと何日会えるかしら、くらいしか会えないじゃありませんか。帰省なさる冬と夏の休暇があと三回ずつくらいってことですもの。なんて寂しい!
キャサリン姉さまは母さま譲りの緑の瞳と波うつ栗色の髪が本当に綺麗で、お美しい方なんです。そうしてお声も素敵で。前に帰省なさった折に姉さまの歌を聴いて私も歌いたくなったんですもの。私の憧れです。
お兄さまたちは、学校を卒業したらきっとお家に戻って来てくださいますわね?
ジークフェルド兄さまは次期領主ですし、ランバート兄さまはいずれは領地の騎士隊長になるのでしょう?
…せめてキャサリン姉さまの嫁ぐ領地が近いと良いのですが。まるきり会えなくなるのは寂しいです。
私はまだ小さいので地理がわかりませんの。ですからお姉さまの嫁ぐ、マイエルトという領地がどこにあるのかがさっぱり。…今度ラミアス司教さまに教えていただきましょう。
司教さまから貸していただいた楽譜を見ながら竪琴の練習を今日も頑張ります。始めて二十日ばかり。少しは曲らしく弾けるようになった気がしてきました。
そうしてこの頃は侍女兼私の教育係のエイダにも文字や数字を教えてもらっているんですが…
今日いらした司教さまが竪琴の上達を褒めてくださって、ご本を読んでくださった後。ご本とは関係無いことなのですが司教さまに尋ねました。
「 はい?お嬢様?数字に欠けがある…と?」
「そうなんです。司教さま。無い数を表す数字がありませんの。」
おかげで計算がやりにくくて。
「無い数…ですか?」
「えーと。」
私は用意してあった沢山のボタンをテーブルに載せました。あと小さな箱もいくつか。
私はボタンを十、集めて箱に入れる。
「あのですね。ここにボタンが十あります。」
「はい。」
私は紙に十を表すこの国で使われている数字を書きます。
ローマ数字みたいな記号なので、数字は二桁までは全部一つの記号なんです。三桁、四桁は一桁または二桁の数字と二桁の組み合わせで表します。
だから私は一から九までを表す数字記号をとりあえず作ったことを司教さまにお話しました。
そして二桁になった時。十の位に一の数字を置いて。一桁の位が空っぽになったことを司教さまに見せました。
「ね?司教さま。今、ボタンは十で、この一桁のところには何もありません。でも数は二桁のところにあるでしょう?だから二桁のところには数字を置けますが、一桁のところに置く数字が無いんです。それでゼロ…無い数字記号をこうして作ってそこに置くと…」
「!今使っている数字よりずっとわかりやすい!」
「計算がしやすくなると思うのですが。例えば赤ちゃんが一歳になるまでは生後二ヶ月とか言うでしょう?
でもゼロ歳という数え方があれば。あと、一より下の数字の計算も楽になると思います。こうやって点をつけて、一より下ですよと表したら。そして四桁ごとに今度はこんな点をつけたらもっと読みやすくなると思います。」
私が言い終えると、司教さまは私の頭を撫でてくださってお帰りになられました。とてもお優しい方です。
そして、私が文字をだいぶ覚えたのを見た司教さまから
「お兄さまたちとお姉さまにお手紙を差し上げたらよろこばれますよ。」
と助言されました。
まだ書くのは上手ではありませんが、一生懸命書こうと思います。
手紙を読んで、お兄さまたちも私のことを少しは恋しく思ってくださいますように。