校長と教頭とドール先生とキアン先生
「あー…えーと。キアン先生。これは私たち以外の誰かと共同発表した方が良いと思います。
といっても校長は論外です。外の仕事が忙しい方がこんな発表をしたら怪しまれますから。」
「はい教頭。それはわかります。が、私が目立ちませんかね?この前の治癒魔法でも名前が出てるのに…」
「でもあの時は魔法技術、理論の裏付けをするという、いわば監修の立場だったでしょう?これは魔法というより純粋な理論というか、技術というか、魔法が要らない知識というかですから…」
「まだ検証もされていませんからそのための協力者を募るのは難しくないかもしれないわ。ただこれ、魔法ではないのよね?ウチが発表するべきかしら?」
「うーん。校長、でもこれは治癒魔法の前提として捉えることが出来そうな気がします。例えば、こういうことを踏まえてから清潔魔法をかけたり、治癒魔法をかけたりすると効果が段違いになると思うんです。そういった意味からすればこの学校から発表した方が良いかもしれません。」
「ドール先生その通りです。昨夜キアン先生の報告書を読んだ後で清潔魔法をかけた時、それまで以上の効果を感じました。検証はしませんでしたが。」
「教頭、このことについて一緒に考察してくれそうな先生っていますか?私にはちょっと心当たりがないんですよ。」
「キアン先生、騎士とか軍に関係のある先生なら大丈夫だと思います。ワサム先生とかチムシー先生とか…軍や騎士団は兵舎住まいが多く、怪我が悪化したり伝染病が発生したりすると困るところですからね。また騎士や軍には魔法をそれほど使えない文官も多い。このような知識や技術はそういう人たちにきっと喜ばれるでしょう。」
「また領主や代官にもね。領地で流行病で人口が減るのは困ることの筆頭よ。それを少しでもくいとめられるのなら大歓迎だわ。…ねえこれ、ウチの領地経営を任せている部下に一枚噛ませてもらえない?校長の部下がこの学校に泣きついたから、魔法に直接関係無いけど研究したってかたちにしてもらうの。どう?」
「治癒魔法の前段階として、まず病気にかかるのは何故か、それを防ぐことは可能か、ということを考えたということにするのですね。」
「毎年国のどこかで流行病のせいで村の一つや二つは無くなっていますからね。何故感染するのかわからないので教会の神官も恐がって葬儀を行ないたがらないし、治癒魔法師も派遣を拒否します。だから余計にこの知識は役に立つかと。」
「ああそれから、レティシア嬢が」
「まだ何か言ってたんですか?」
「ドール先生、そう言わずに。身体の中に病気の原因となるキンが入っても、必ず病気になるわけではないそうでして…それから、こんな予防方法もあるのだとか…」
「ふう。これだけのことを検証するって。なかなか大変だわ。最低でも一年?二年くらいはかかりそう。」
「でも校長。これはやりがいのある研究です。未病、病気の予防という考え自体が今までありませんでした。このことを世界で初めて発表する栄誉は大変なものだと思います。」
「ヤルツァ教頭、単なる栄誉ではなくてよ。人の命に関わる大切なことだわ。」
「あのですね、それで私は誰と検証、研究をしたら良いのでしょうか?」
「僕も共同研究者になりたいです。話を聞いていてワクワクしますもの。治癒魔法について専門に研究してるのはこの学校では僕ですし。」
「裏付けをするのにも向いていますものね。仕方ない部分はあると思うわ。教頭、どう?」
「では、チムシー先生に協力をお願いしましょう。あの方は人体について研究していますから。」
「訓練法とか、疲労回復法とかの研究でしたよね?」
「病気にならないことにも繋げてもらいます。」
「なるほど!」
「それからやはりワサム先生にも声をかけましょう。彼女は集団生活における病気の感染防止策を研究課題の一つにあてていますから。」




