新しい治癒魔法のこと
その日のお昼休みにアリアとシール、エルティリーズに新しい治癒魔法のことは教頭先生とドール先生にお任せしたこと、発表も先生方の名前でされることを話しました。だから私の名前は出さないでね、と頼みました。
そうして明日、治癒魔法を全校生徒を対象に行なうからそれまで黙っていて欲しいことも伝えました。
アリアは
「何てもったいない!」
と小さい声で叫びましたけれど、シールは頷いてくれました。
そうしてエルティリーズ…リズも。
「確かに。十歳になって間もない、子どものレティの名前で発表されるより先生方の連名で発表される方が信頼されるわね。レティの望みは早く皆の傷が治ることであって、人から認められることではないわけだし。」
「そうなの!私は魔術師になりたいわけではないのよ。薬を作って町や村の雑貨屋に卸すのがせいぜいだと思うの。私の魔法って自分の少ない魔力量をやりくりしているだけだしね。」
私がリズに相槌を打つとアリアたちが納得した!という表情になりました。アリアには
「レティは治癒のスキルがあるのかもしれないけど、むしろイメージする力や集中力がすごいのかもしれないね!」
と言われました。シールはアリアの言葉を受けて
「集中するの、大事かも。今まで意識したことなかったけど。これからは私も魔法を使う前によく考えて集中してみる。」
と。リズもしきりに頷いていました。
魔術師は保有する魔力量が相当多くないと務まらないと言われている職業です。
土木工事や大規模建築、また災害などの有事に際して大がかりな魔法を駆使するのですから。私には到底務まりません。
そんなことを考えていましたら、昨夜少しお話したハザムさんが私たちに近づいて来ました。
「やあ、レティシアさん。午前の授業に遅れてきたけれど、どうしたの?昨日の初めての授業で疲れたのかな?」
「…はい。そうかもしれません。私は魔力量があまり多くありませんから….」
「その分を創意と工夫で補っているのか。なるほどね。でもレティシアさんの助言で本当に助かったよ。魔力の循環がすごく楽になった。ありがとう。僕は魔力量が多くてね。魔力が溢れて出来た傷も他の人より大きくて数も多いんだ。君に教わった魔力の放出も昨夜と今朝もしたくらいなんだよ。休んだり食べたりすると魔力が体内でいきなり増えてしまうんだ。」
「楽になってよかったです。…でもあまり楽をするのに慣れてしまうと身体に巡らせる魔力量が少ないままになってしまうので、ほんの少しずつ制御する魔力量を増やす努力は必要かと。」
「なるほどね!無理なく少しずつ制御出来る魔力を増やすことを心がけるよ。僕は王宮か自領の魔術師になりたいんだ。」
「まぁ、それは!」
私が感嘆の声を上げるとアリアが答えました。
「ハザムは土や石を…岩と言った方が良いかな、動かすのが得意だもの。きっと優秀な魔術師になる!」
それはすごいことです。本当に魔力が多い方なのですね。するとリズがつけ加えました。
「ハザム、今レティたちと話していたのですが。魔法を使う前によく考えてイメージを固めてから集中することが大切かもしれないと。ざっと考えただけだと荒削りな結果になってしまうのではないか…」
「ありがとうエルティリーズ!それは僕に欠けているところだ。細部までイメージするなんてしたことがなかった。うん。頑張ってみる。」
そう言ってハザムさんは離れて行きました。
明日行われる新しい治癒魔法でハザムさんの傷も治りますように。
「ねぇ、レティ?明日のこと、ハザムに…」
言いかけたアリアに私は首を振りました。
「ハザムさんの傷がどれほどのものかわかりませんもの。ドール先生たちなら大丈夫だと思いますが、大きな傷痕と聞いた今は私に治せる自信がありません。ぬか喜びにならないよう、黙っている方が良いと思います。」
シールがそれに頷くと言いました。
「うん。聞くだけだと半信半疑になる。でも期待はする。してしまう。ただ落ち着かなくなって眠りにくくなるくらいなら知らない方が良い。」
本当に、明日の新しい治癒魔法がハザムさんの傷痕を治してくれますように!
午後の魔法史の授業を受ける為にアリアたちと一緒に教室に向かいながら、私はそう祈らずにいられませんでした。




