ヤルツァ教頭とドール先生(と私)
「ドール先生。レティシアさんと話をしたいのでお借りします。」
ヤルツァ教頭がそうドール先生に声をかけると、ドール先生はこう答えました。
「それなら僕も一緒に。キアン先生、一時限目の授業をお願いします。」
「はい。わかりました。」
職員室から出ようとしたキアン先生と数人の先生方を引き留めてヤルツァ教頭は仰っいました。
「明日の一時限目は講堂に全生徒を集めて、この治癒魔法のことを発表します。明日までに治癒魔法を出来そうだと感じた先生は今日の内に出来るように努力してください。でも勿論、無理は禁物ですよ。では先生方、授業をお願いします。」
「私の執務室よりここの方が良いでしょう。」
ヤルツァ教頭はそう仰ると、一つの机の周りに椅子を三つつけるとその内の一つに腰掛けました。
ドール先生がそれに続いて腰掛け、私は空いた椅子に座りました。
「ドール先生。レティシアさんはこの治癒魔法を貴方と私の名前で発表して欲しいそうです。よろしいですか?」
ヤルツァ教頭はそう仰って、私がどうしてそうしたいのか、また検証や考察が不足していることなどをドール先生に説明しました。
ドール先生はしばらく考えていましたが、頷いてくださいました。
「確かにもう少し掘り下げた考察が必要です。検証は…明日出来ると思いますが。考察はキアン先生にも手伝ってもらっても良いですか?」
「私と貴方とキアン先生の連名で発表しますか。重要性をアピールするには役立ちますね。」
「いや、しかし。レティシアさん、本当にそれで良いのですか?」
「はい。私はまだ子どもです。子どもの言うことと魔法学校の先生が言うこととでは、どちらが信用されますでしょうか?私は溢れた魔力で出来た傷痕を持つ人たちに早く治っていただきたいです。」
「…わかりました。では、レティシアさん。教室に行ってください。後から僕も行きます。」
「はい。では失礼いたします。」
「教頭。」
「はい。何でしょう?」
「彼女…レティシアさんは…」
「実に無欲ですね。」
「それで片付けて良いのですか?」
「実は今朝早く、彼女の叔父が来ましてね。アキテーヌン領の司教でした。彼から忠告を受けたのです。彼女の意向に逆らわない方がいいと。」
「は?」
「実はこの私が彼女自身を鑑定しようとしても出来ないんですよ。」
「えっ?」
「それは彼女の魔法使いとしてのレベルが私より…多分校長よりも上、ということなのかな?とか考えていました。そうだとすれば彼女は間違いなくこの国でトップか二番目の魔法使いです。
そんな時に彼女の叔父が来て言ったんです。数年前に一度だけ彼女を鑑定出来て以来、二度と鑑定が出来ないままだと。」
「魔法の天才、ということですか?」
「いいえ。多分神の加護だということです。彼女の生まれながらの職業は聖女だそうです。」
「…ならば神学校へ進むべきでは?」
「何をしても聖女なので支障はないそうです。それに」
「あの、恐いから聞かなくても…」
「駄目です。彼女の意向…それが正しくない場合に諌めるのは大丈夫だそうですが…に逆らうと天罰が下るそうですよ。まだ誰も受けたことは無いのでどんな罰かは知らない…わからないと聞きました。」
「やっぱり聞くんじゃなかった!何ですかそれ?恐い!」
「だから無理やり王宮魔法師にするとかは考えない方が良いと司教は忠告しに来たんですよ。ちなみにこのことに関して彼女は何も知らないし自覚もないそうです。」
「レティシアさんのフォロー要員ですか、僕とキアン先生は。」
「そうですね。そうなります。
司教と話して、彼女は人の役に立つ魔法を覚えたいという理由でこの学校への入学を希望したことがわかりました。実際はこちらの役に立ちそうですけど。」
「では、様子を見て、半年ほどしたら卒業を認めますか?レティシアさんなら飛び級しても絶対大丈夫です。理解も早いし、オリジナルの魔法も既に二つありますしね。」
「この学校での卒業認定は卒業テストを七十点以上取った上で、教師三人以上から魔力の扱いに危険性が無いと判断されるか、オリジナル魔法を一つ以上認められるか、王宮またはどこかの領主から魔法師として招聘されるか、ですからね。」
「明日にでも卒業テストを受けてもらいたいです!レティシアさんに落ち度はないし、悪気もない。優しくて素直な性格なのもわかります。が。とにかく心臓に悪いです。」
「…気持ちはわからないでもありませんが、せめて半年は待ってくださいよ。校長も彼女に会った方が良い。もうそろそろ学校に戻って来る頃ですしね。」




