寮の食堂で
寮の夕食も昼食と同様に賑やかでした。
上級生や男子生徒もそれぞれのテーブルで賑やかに食事を…と言うよりも少し騒がしかったかも。食事はブッフェスタイルで美味しいものでした。
食堂は消灯時刻の午後十時の一時間前、つまり午後九時まで使えるそうですが食事を出すのは午後八時まで。
食後は自由に飲めるようカウンターに用意されたポットに入れてあるハーブティーやフルーツジュースを飲みながらテーブルを囲んでおしゃべりしたり、授業の復習をしたりするそうです。
アリアたちと話しているうちに治癒魔法の話題になって、古い傷が治ったことは本当にすごいことなのだと強調されました。
そしてそのことを明日、ドール先生に相談するようにリズに約束させられました。
「ドール先生は治癒魔法も研究しているから。絶対相談するのよ!」
そう言われたら「はい。」以外言えませんでした。
同級の男子生徒さんも話の輪に入って来て。
エキスを作る魔法のことについて尋ねられました。
「エキスを作る為に薬草を摘むのを躊躇ったんです。ごく僅か、チョウやハチがミツを花から吸うより少ないくらいのエキスを貰えれば薬草が枯れずに済むかしらと。実際数時間もすれば回復するみたいですし。」
「毎日エキスが取れるわけか。」
「そうです。」
「では、どんな風にチョウを作れば良い?」
「ごくごく僅かの魔力に植物からエキスをいただけるよう念じて飛ばすだけです。欲張るとどうしても魔力が多くなって枯らしてしまいます。」
「なるほど。魔力の調整が難しそうだ。」
「でもこの魔法に慣れると出来たエキスに水を加えるだけで薬が作れて便利です。」
「もしかすると君は元々は魔力が多くなかったのかも知れないな。魔力を使っていくうちに体内で生産される魔力量が増えるケースがあると聞いたことがある。おそらくそのタイプだろう。」
「そうかもしれませんね。」
「失敬。僕は名をハザムという。よろしく。レティシアさん。」
「レティと呼んでくださいませ。」
ハザムさんは明日の予習をしておきたいと言いました。多分、明日はエキスを採取する魔法の実習があるだろうと。
でもここで魔法を使うわけにはいかないそうです。
基本的に魔法は魔法実習棟内でしか練習出来ないとか(生活魔法は点火以外ならどこで使っても可)。
でも今の私の話を聞いて、ごく微量の魔力を放出することに慣れる必要があると感じたのだそうです。
「自室のバルコニーに出て練習してみよう。では失礼する。良い夜を。」
そう言ってハザムさんは食堂を出て行きました。
すると周りで私たちの話を聞いていた人たちもそれに倣って食堂からいなくなり。
テーブルにはアリアとシール、リズと私が残りました。
「ハザムは魔力量が生まれつき多い人なの。私より数ヶ月早くここに来たんだけど、まだ魔力量の制御に苦労してるみたい。」
そうアリアが私に教えてくださいました。
「それでは…」
「うん。どこかに魔力が溢れた時の傷があるんだと思う。でも、見せない。いつも長袖のシャツや上着を着てて。襟が乱れないようにって襟元にはスカーフをつけてる。さっきもそうだったでしょう?」
シールは心配しているんだよと言わんばかりにそう言いました。
「スカーフや飾り布を首や襟元に結ぶのは男性の正装だから嗜みかもしれないけれど、ハザムは授業中も外出する時もいつもスカーフをしているのよ。」
リズもそうつけ加えました。
すると私たちから離れたテーブルについていた上級生たちの中の一人の女性が席を立ち、私たちのテーブルに近づいて来ました。
「あなたたち。人の魔力傷についてあれこれ言うのはマナー違反よ。好きでつけた傷ではないのだから。いいわね。…私はランティナ。よろしく。」
「ランティナ先輩、ご忠告ありがとうございます。私は今日初めて授業を受けましたレティシアと申します。どうぞレティとお呼びください。」
「ランティナ先輩。私はシール、です。どうぞよろしく。」
「ランティナ先輩。私はアリアといいます。おしゃべりですみません。」
「エルティリーズと申します。ランティナ先輩。申し訳ございませんでした。」
「わかれば良いのよ。頑なに傷を隠す人だっているわ。気になるでしょうけれど、そういう人は大抵身体だけでなく心も傷ついたままだったりするの。他人が引っかき回して良いものではないのよ。」
「はい。ありがとうございました。」
口々にランティナ先輩にお礼を言うと私たちは立ち上がり食堂を辞しました。
「明日、授業の前にドール先生に相談するわ。」
廊下で私が言うとアリアたちは皆頷いてくれました。




