昼休みの教職員会議(ヤルツァ教頭視点)
「…ということが午前の授業でありました。これはこの学校…学校外にも共有した方が良いのではないかと思ったので、皆さんに集まっていただいた次第です。」
この学校の教職員に集まってもらった上で受けたドール先生の報告はレティシア嬢の魔法に関してと魔力制御の方法について。
魔力を風や水の流れに乗せて拡散させて放出するとは。少しずつ、というところがミソだな。
少しずつ魔力を放出することも又魔力制御の向上につながる。
彼女のエキスを集める魔法のチョウの一つ一つはごくわずかの魔力で作らないとエキスを集めることが出来ないと言っていたのを思い出した。あまり人の魔力が多いと植物の魔力が反発すると。
「ただ、あまり少ない魔力を循環し続けても制御出来る魔力量が増えていかないそうです。月に一度か二度くらいの間隔で循環する魔力量を少しずつ増やす必要があると彼女は言っていました。将来魔法を使う職業に就きたいのなら扱える魔力は多い方が良いでしょう、と。」
…ん?何か引っかかるな。
「ドール先生。彼女は魔法師になる気がない?彼女は実家のアキテーヌン家の魔法師になりたいのかと…」
「ヤルツァ教頭。彼女が望むなら王宮魔法師にも推薦出来ると思います。けれど」
「彼女にその気がない?」
「そのようです。領内のどこかで薬師でもなれればと言っていましたから。」
「駄目だ駄目だ!」
思わず叫んでしまった。ドール先生だけでなく教師全員が私を見つめる。
「私は入学試験の際、彼女に魔法で薬草のエキス抽出をしてもらった。そして昨日そのエキスで薬を作ってみた。教職員の中で「鑑定」「看破」をスキルや魔法で使える人はこれを見て欲しい。」
私は机に四本の薬瓶を置く。彼女が抽出したエキスを単独で薄めたものが三つとエキスを全て混合して薄めたものが一つ。
「…これは!」
「何ですか、これ⁉︎」
「教頭、どういうことですか?」
見ての通り。
そこにある薬は本来は病気を治すポーション、傷を治すポーション、魔力を小回復するポーション。そしていわゆる万能薬。
けれどこれらは。
病気を治すポーションは予防薬も兼ねている。
傷を治すポーションは多少の欠損を治す。
魔力を小回復するポーションは大回復(七割くらい回復)するというものになっていた。
そしてこれらのエキスを混合して出来た万能薬は、ほぼエリクサー。
瀕死の病傷人が回復し、腕や足の一本くらいは再生させ、魔力量の約八割を回復する。
レティシア嬢はどこでこんなとんでもない薬を作って売るつもりなんだろうか。
「あの、教頭?彼女はこの薬が標準なのだと思っているのでは?だとすると…」
「レティシアさんの頭の中を見てみたいよ、全く。」
「あの…」
「何ですか、キール先生?」
「今までそのレティシアさんの魔法は薬作りだけに才能を見せているのですか?他の、攻撃や防御魔法などは?」
キール先生は攻撃魔法が専門だったな。
「いや、聞いていない。レティシアさんはその性格からしても攻撃魔法には向いていないかもしれませんね。」
「では、防御魔法はどうでしょう?」
そう訊いてきたのは防御魔法を研究しているライツ先生。全く皆興味津々だな。
「そこはまだ何とも。ただ攻撃魔法よりは可能性があるかも知れません。」
「で、教頭。あなたはこのエキスを抽出する魔法を」
「出来ましたよ。ただ、レティシアさんよりずっとエキスの質が劣りました。正確には真似が出来た、というところです。」
「レティシアさんって…」
「天才というべきか、器用というべきか…まだ判断はつきませんね。」
「まだ入学して半日ですしね…」
「午後からは魔法の座学ですよね?僕が担当したいなぁ。駄目ですか、ドール先生?」
魔法理論の研究家のキアン先生まで食いつくとは!
あ、ドール先生が私を見ている…
「キアン先生は先日生徒がいなくなったところでしたか?」
「はい。先月生徒が二人、実家の魔法師になりまして他に三人が騎士団に入りました。そうして先週、二人の生徒がそれぞれの郷里に。彼らはギルド職員になりましたので…」
「では、ドール先生と二人で実習と座学を担当してくださいませんか?」
「それは嬉しい!目が行き届かなくなりそうで不安だったんです。キアン先生、僕からもお願いします。是非助けてください!」
「では午後からよろしく。」
「これでとりあえず会議を終わります。食事にしましょう。」
私は会議を解散した。
どうせ、午後にも会議があるだろうから。




